第39話・第七魔眼の【契約者】
「――とういう事なのだぞ。……うむ、そうしてくれると助かる。いや、迷惑をかける…ではな、切るぞ?」
耳元に浮かぶ黄金色の魔法陣が微細な光を散らして消失すると、メルキ=レグルスは、何時の間にか幼い体に張られていた緊張の糸をほぐすように小さく溜息を吐いた。
そうして、学院長室に設けられた子どもの体形には大き過ぎる革製の椅子の背にもたれる。
「いやぁ、大変だねメルキ殿も」
「……ん?何だアレスト、貴様儂を手伝ってくれるのか。確かに今は魔法帝の手も借りたいところではあるが」
「は、ははは、そういえば今日僕用事が――」
「真に受けるな、冗談なのだぞ。一応客人扱いだからな、貴様には何かを頼むつもりなどない……今はな」
「どうしてだろうね、あとで僕、どんな厄介事押し付けられるんだろうか今から不安になって来たよ」
能天気に自分へ話しかけて来た色魔、もといアレスト=クロフォードをメルキは軽くからかった。
しかし、最後の問題発言は聞き逃せない。
「戯け、貴様は魔法帝なのだぞ、これだけの事が起こって【魔術師】達の纏め役が遊んでいられる訳がなかろう」
「……はぁ、という事らしいよ城谷白君。魔眼持ちだからってあまり早く出世し過ぎると、女の子と遊ぶ時間が減ってしまうから気を付けよう」
「安心しろ、俺に遊ぶ時間など必要ない」
「あららぁ、つれないねぇ君は」
対立して置かれたソファーの一つに座るアレストは、その正面に座る城谷白の発言に少し残念そうな表情でそう呟いた。
「まったくあの最弱者君…とんでもない事をしでかしてくれたよ……」
「叡智の魔眼、か」
「その通りだよメルキ殿。どうせさっきの通信魔術を使ってのやり取りだって、それ関連なんだろう?」
「あぁ、あの小僧と【迷宮】攻略に同行した生徒が、【迷宮】とそこに繋がっておった建物を破壊してな。おまけに人除けの結界もじゃ。あそこは緊急時の避難場所であるから、結界を張り直す作業にも追われている。……儂は【迷宮】を攻略して来いと言ったのじゃがな、どうしてこうなったのやら」
そう。昨日、和灘悟が新たなる魔眼を発見し、その力を己が物としたのだ。
七人目の魔眼保有者の誕生。
結界破壊への関与。
そして、
「神殺しを成した、半神ではあったらしいが、あの小僧と共にいた生徒と魔眼の証言が本当であれば。ふざけた話だ。この時代に賢者の上、最上位の英雄称号である第十三位階の神殺しを、最底辺の【魔術師】が得かけたのだぞ?」
「……でも、公には出来ないんだろう?だって、彼等以外誰もその瞬間を見ていないから」
「うむ。魔眼の【適合者】ではなく【契約者】という未知の存在だというのもあって、【魔術師協会】の会議で小僧の位階は第一位階のままで保留という話になったらしいぞ。連中、一時間程前に儂にその決定許可を求めて来よった」
「まぁ、諸々の都合を考えて許可してやったが」と続けたメルキだが、その顔は少し不服そうに歪んでいた。
メルキの様子に、これは少し話題を変えた方が良いかと考えたアレストは彼女に尋ねる。
「で、その最弱者君は?」
「?あぁ、まだ目を覚まさんようだ。まぁ、一応魔眼持ちという事で、今は琴梨にあの小僧の周囲の警備を任せておる。心配はいらん」
「なるほどね、彼女が見ているなら安心……あれ、安心?」
「そこは嘘でも肯定してやるところなのだぞ」
気遣いの出来ないアレストにメルキは呆れたように言い、そして、今日何度目かの溜息を零す。
しかし、それが思考の切り替えの切っ掛けとなったのだろう。メルキは神妙な面持ちとなる。
「さて、話が脱線したな。本題の続きだアレスト」
「はは…そうだね、そういえば途中で通信が入って話が中断されたままだった。新しい魔眼についてだよね」
アレストの言葉に、彼女はテーブルの上で組んだ両手の甲の上に顎を乗せ、幼い顔に似合わぬ鋭い笑みを浮かべ宣言した。
「これより、叡智の魔眼・ノウズを第七魔眼とし、最弱者・和灘悟を第七魔眼の【契約者】と認定する」
文月です、今回で本作の第一章部分が終了となります。四十話と、きりのいい話数での終了です。
お世辞抜きに、本作を読んでくださる皆様、ブックマーク、ポイント評価などのお陰で予定より早く物語を進めることが出来ました。
特に八月は、文月らしからぬ投稿速度でキツかったですが、脳汁ドバドバ状態で本当に楽しかったですよっ。
そして、再度のお知らせとなりますが、以降は活動を暫くの間『カクヨム』で行う事となります。
ですので『小説家になろう』では、本作は一旦完結とします。
続きが気になる方は『カクヨム』へどうぞ。
いつか『小説家になろう』でも投稿する予定ですが、多分今年はしませんので。
ちなみに嘘を付きました、この後もう少しだけ『小説家になろう』で活動します。持病が、たまに猛烈に短編を書きたくなる病が……という事で、最近流行りの異世界恋愛でも書こうかなと。
気になる方はあまり期待せずにお待ちを、戦闘描写は結構書いてきましたが恋愛描写は経験が少ないので。恐らく、暇つぶし程度の作品にはなるかと思います。
すみません。後書きが長くなってしまいましたが、これで終わりです。
《完了》
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