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第七魔眼の契約者  作者: 文月 ヒロ
第一章始まりの契約
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第38話・終わりの終わり

 崩壊の足音が炎々と燃える肉体に近付いて、終わりを耳元で囁く。


 真下にある地面に浮かぶ白銀の魔法陣は、【名無し】の中に存在する神の加護を――絶対の法則を激しく捻じ曲げていた。

 その所為で、固く結ばれ、一つとなっていたはずの悪魔の力と精霊の力が異常な程に反発し合っている。

 炎が崩壊しつつある身を焼き焦がし、激痛のあまり【名無し】が発した絶叫が広大な部屋全体に響き渡るが、無力な半神はそれを止められない。

 体に宿った圧倒的な力の根源がどこかへ消えた。回復するはずの魔力が、体力が、寧ろ急激に損なわれていく。蓄積するダメージも癒される事なく、代わりに与えられるのは更なる痛みと傷。


 何が起きているのかなど分からない。ただ一つだけ分かっているのは、このままでは名だけでなく命すら失ってしまうという事だけ。


 だが、それは終わりの始まりでしかなかった。


「「――今だ」」


 地面をのたうち回り、苦しみのあまり周囲に炎を撒き散らし暴れる【名無し】。

 それを前に、悟とノウズの二人の声が聞こえた気がして、赤眼瞳は閉じていた瞼をスッと持ち上げた。

 目に映るのは凄まじい熱量の塊。半神の姿だ。激しく弱体化しているにも関わらず、近付けばそれだけで大抵の【魔術師】を灰燼に帰す力を未だ持っている。


 その荒れ狂う巨体へ、瞳は鋭い視線と右手を向けた。


 次の瞬間解き放ったのは体内で練り上げた赤黒い魔力。

 膨大な力の奔流が彼女を中心に熾り、それが空気を押し退け突風を巻き起こす。


 全力を出すのは何時ぶりだろうか。

 今はどれだけの火力の焔を生み出せるのか、瞳自身も分からない。

 ただ――これで終わらせる。


「ッ!」


 小さく息を溜め、彼女はその言葉を紡ぐ。

 自分だけの固有魔術。

 竜の力を顕現させる力。

 あるいは、破壊の権化と呼ぶべき焔。


 そう、それは――







「【竜焔(ドラゴン・フレイム)】……ッ!」



 直後、【名無し】の足元に構築された巨大な魔法陣より、漆黒の焔が凄まじい勢いで噴出した。

 燃える、燃える、燃える。魔術の黒焔が、轟々と炎の半神の体を周りの大気ごと激しく燃やし出す。


「――――――――――――ッッッ!!???」


【名無し】の絶叫が一層大きくなる。

 怒り、あるいは怨念の化身のような黒き焔は、大魔術師(アークウィザード)の領域に踏み込みつつあった。

 しかし、この先の行方は時間との勝負にかかっていた。


「まだだよ、悟。まだ踏ん張ってくれ」


 ノウズから与えられた魔眼の右眼が悟の中で強烈な熱を帯びていく。

 それに呼応して、白銀の色を纏った眼がその輝きを強くしていく。

 叡智の魔眼・ノウズの左眼もそれに共鳴するように、同様の現象が起こっていた。


 だが、問題があったのは少年の方。和灘悟は【契約者】であって【適合者】ではない。

 熱湯を注いだ硝子の容器がひび割れるのと同じだ。強大な存在である魔眼の力は、只人の脆い器では受け止めきれず――壊れる。


 このまま【名無し】の中にある神の加護の効果を、魔眼の力で捻じ曲げ続ければ、いずれ悟は死を迎える。それでも悟は力の行使を止めない。ノウズに言われずとも分かっている、ここが、こここそが正念場なのだとッ。


「ぅ、ぐぁ……あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!」


 右眼の燃えるような激痛などなかった事にして、悟は目を見開いて叫び一心不乱に力を行使する。

 威力と燃焼範囲を増していく漆黒の焔はやがて、部屋の天井へと達し、その膨大な熱量が溶かし始める。

【名無し】の肉体が焼失していくにつれ、熱によるその溶解が加速していく。




 徐々に、徐々に、しかし、確実に。



 全てが崩壊へと向かい、ある時()()は起こった。











 そう、この日この瞬間――【名無し】は絶対的な最期を迎え、直後、黒き火柱が【迷宮】の全階層の天井を貫いたのだった。











 ◆◇◆◇◆◇◆


 名もなき【迷宮】。

 そこに空いた一つの大穴から差し込む日の光が、最下層の固い地面を優しく照らしている。


 静寂の中、日差しの暖かさに包まれながら、仰向けになって大の字に寝転がり意識を手放した少年。

 少し離れた場所で魔力欠乏によって気絶し眠る少女の姿を一瞥し、魔眼・ノウズがその少年の元へ舞い降りた。


「この場所に閉じ込められた時、ボクは終わりを悟ったんだけれどね。その終わりが今終わったよ悟、君達の手によって。……と言っても、その様子だと聞こえていないか」


 ノウズの瞳に映る悟は口を半開きにし、全てを出し切ったと言わんばかりに脱力し寝息を立てていた。

 それがどこか清々しい。

 きっと、近くで眠る少女も似たように眠っているのだろう。


「お疲れ様。今はゆっくり休むといい、ボクの【契約者】。そして、その――。……ふふ…いや、これは少し飛躍が過ぎるかな、瞳」


 そうして叡智の魔眼は天を見上げ、穏やかな声で呟いた。


「しかし、眩しいものだね……太陽の光というのも」





 この日、叡智の魔眼・ノウズの復活とその【契約者】の誕生に、世界へ激震が広がった。



文月です。何か、これで終わりだな……みたいな雰囲気で終わりましたが、第一章はあと一話残っています(あと一話で終わってほしい)。


さて、お知らせです。

第二章を続ける事になりましたが、しばらくは「カクヨム」に移行して、そこで投稿しようと思います。

色々と試したい事もありまして、活動をそこで行おうかと。

続きをお読みになりたい、という方はぜひ「カクヨム」で本作を探して頂けると見つかるかと思いますので。


《完了》



それと、この作品を読んで面白かった、良かった等々……思われましたら、


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