第26話・【魔術師】二人の足掻き
「なッ……!?」
悟の目は驚愕に見開かれた。
上り坂を駆け上がった先にあったのは、崖だった。
視線の先、足元に広がる底さえ見えない闇。
無意識に上がる目線。
正面、崖の向こう側にある空洞。丁度後ろの途切れた道のように、その先に道が続いているのが微かに見える。
だが、そこへと続く橋がある訳でも、足場がある訳でもない。
絶壁は円柱形であり、前と後ろで繋がっている。しかし、今の悟では崖の肌を魔術で駆けて行くのは魔力残量的にかなり厳しい。
ましてや、空中へ投げ出され落下しようとしているこの状況では、その段階にすら至れない。
――騙、された?……ヤバい、落ちッ
『いいや、計画通りさ。もっとも、この先、君の命運は彼女次第になってしまうし、賭けの要素が強いが。ふふ、来たよ悟』
「えっ?」
思考を遮って話し掛けて来たノウズ。
頭に響いたその声に、悟は意味が分からず小さく声を漏らす。
だが、その瞬間。
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオンッッ!
「邪、魔ぁぁぁぁぁぁッ!!」
全身に響くような爆発音の直後、聞き覚えのある少女の声が悟の耳に届いた。
「悟!」
崖の一部を引き飛ばし現れた彼女は、紅い長髪を爆風に靡かせながら、やっと見つけたとばかりに悟の名を叫んだ。
そう、少年の目に映っていたのは、赤眼瞳の姿だった。
瞳がここに来たのは、恐らく自分よりも後の事。
だというのに、彼女がタイミング良くこの危機に駆け付けたという事実。
そして、先程のノウズの口ぶりからして……。
――まさかコイツ、俺と話しながら、瞳の奴をここに誘導したってのかよ!
一体、この魔眼はどこまで……。そんな思考を他所に、瞳は赤い焔を紐状にして崖へと飛ばし、先端の尖った部分を突き刺した。
直後、振り子の要領でこちらへと向かって来る。
『瞳、さっきも言ったが、ここは空気中の魔力を分解する。一回で悟を回収するんだ』
「言われ、なくてもッ!」
赤い魔力の軌跡が弧を描く中、瞳の進む速度は重力に従い加速的に上昇する。
そうして、彼女は悟へと掌を勢い良く差し伸べる。
それに呼応するように、悟も瞳の方に指先を突き出す。
直後、
『ふっ…よし……』
赤眼瞳は落下する悟を抱き締めるような形で受け止めた。
「瞳」
「この馬鹿ッ…死にかけてんじゃないわよ……!」
「わりぃ…」
怒った態度を見せながらも、瞳の顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
それに釣られて、悟も微笑んでしまう。
この時、悟は知らなかったが、瞳は事前にノウズから魔力の分解が進む速度を聞いていた為、まだこの焔の紐が消えるまで時間は多少あると分かっていた。
故に、彼女は余裕を持って紐を握る力を強め、眼前に迫りつつある絶壁の岩肌に着地しようとして、
「……ッ!?」
『なッ……!』
その瞬間、握っていた魔術の紐が――一気に分解された。
予期せぬ事態。一瞬にして混乱に染まる思考。
生まれたその僅かな間隙を、逃す事なく重力が襲ったッ。
「ウソッ、何でッ…!?」
断崖へと向かう勢いを残し、同時に始まる落下。
何故だ、ノウズの予想が外れたのか?分からない。
だが、今瞳がすべきは崖との激突の回避。
防御魔法陣の展開は無意味。今欲しいのは衝撃を防ぐ壁ではなく、優しく受け止める緩衝材。
ならば、発動する魔術は爆風を生み出す物。
「【爆裂】!」
だが、
「んなッ!?」
発動に必要な分の魔力が分解され、魔術が発動しなかった。
いや、それよりも、このままではぶつかるッ。
「しまッ…悟!」
咄嗟に障害物である崖に背を向け、瞳は悟を庇――
「……ッッ!」
絶壁の岩肌に瞳が背と後頭部を打ち付け、彼女の意識はそこで途切れた。
一瞬の浮遊。そして、そこから脱力した瞳の体は、真下に広がる底の見えぬ闇へと落ちていく。
「んのッ……っぶねぇ…!」
彼女の腕を掴み、それを阻止したのは和灘悟だった。
やべぇ、いつも以上のペースで書いてんのに執筆が止まんねぇぜ……!
という事で、モチベーションアップによる予定外の投稿・二回目です。
土曜日の投稿?→作者が体調を壊さない限り、当然ある予定ですが(大分調子に乗っています、すみません)。
なお、来週の予定はまだ決まっていません。原則として一回の投稿はありますが、まだ未定ですので、土曜日の投稿時に予定を発表出来ればと……。
《完了》
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