表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第七魔眼の契約者  作者: 文月 ヒロ
第一章始まりの契約
26/71

第25話・赤眼瞳の秘密

 ◆◇◆◇◆◇◆


 四年前の、十二歳で初めて潜った【迷宮】でのあの出来事を、今でもたまに夢で見る。


 赤眼瞳もその時まではまだ、【魔術師】として大成するのだと信じて疑っていなかった。

 ――彼女は、(よわい)五にして第四位階級の魔術を成功させた、天才の中でもなお突出した天才だった。

 赤眼家では四百年前に第五魔眼の【適合者】が一人生まれたきり、それ以降魔眼に魅入られる者は現れなかった家だ。だが反面、魔術の才に関しては秀でた者が生まれやすい家系でもあった。


 しかし、そんな歴史の中で、近年、赤眼家の術師の実力は衰えを見せ始めていた。子どもは皆、魔術の資質がある者同士から生まれていたというのに、だ……。


 落ち目。赤眼が生まれたのは、彼女の家が周りからそう認識されだしてからしばらくの事。

 まるで、この数十年間に生まれた赤眼家の術師が持つはずであった才能を、全て吸収したかのように彼女の力は凄まじく、特に魔力量は異常なまでに高かった。


 そして、そう、十二歳の時だ。当時が人生初の【迷宮】攻略の為の探索だった。

 異空間で人知れず魔物や悪魔達と戦う地味な仕事。おまけに高リスクの割りに儲からない。

 将来なるとするなら【魔術師】を取り締まる裁定官あたりか。


 兎に角、今回の探索は【魔術師】なら誰でも一度は通る道なのだ、同行する大人達より活躍して今後に役立てればいい。


 そう思って探索中、魔物を発見すればすぐさま魔術の炎で焼き尽くし、仲間が敵に囲まれていれば片手間に援護へ回った。

 攻略難易度もそこまで高くない事もあり、瞳は活躍に活躍を重ねた。


 ――だから、陰でその尋常でない才能を妬まれた。


 事態が急変したのは、探索開始から数時間が経過した頃だったか。

 百を超える魔物の大群が瞳達の方へと押し寄せて来たのだ。それも戦闘中に。

 きっと、偶然だった。


 無論、対処が出来ない訳ではなかったはずだ。味方全員で固まって、それから周囲にいる魔物の包囲を一点突破し逃走する。そうして、殿(しんがり)は余力のある者が務める。そう、逃げるだけなら上手くいくはずだったのだ。


 だが、パニックが起こった。


 今までに経験して来なかった危機に、周囲の大人達は統率などお構いなしに我先にと逃げていく。

 周囲を見渡すが、誰もが冷静な思考を失っている事に瞳は気付いた。


『これッ……!』


 不味い、と思った彼女も逃走を選択。こうなっては個人の力で逃げ切る他ない。


 幸い動けない人間はいない。

 ギリギリ無事に生還出来るか。そんな思考が過った時だった、不意に、前方を走る大人の【魔術師】が顔を少し振り向かせ瞳を見た。


 ニタリと、その【魔術師】が醜悪な笑みを浮かべた気がした。


 一瞬にして全身に走る怖気。

 そして、次の瞬間、瞳の足元が急速に大きく隆起した。


『……………………………えっ?』


 ――土、魔術……!?前の人、何で、私に…?


 勢いよく盛り上がった地面に吹き飛ばされ、地面を転がった。

 立たなければ、逃げなければ。そうでなければここで死ぬ事になる。


 故に、地に伏した状態で眼前を見上げて――絶望した。


 目の前に出来た巨大な壁。

 見た目に反してそこまで硬くない壁だ、第四位階級の魔術で壊せば前へ進める。けれど、その間に魔物に追い付かれてしまう。

 地に体を叩き付けられて、上手く動けない。

 どうして、誰も助けてくれない。今のを見ていた者もいたはずだ。


 駄目だ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ駄目駄目ダメ、死――。












 そうして恐らく、三時間後。



『…はぁ……はぁ……はぁ…………着い、た…』


 赤眼瞳はボロボロの状態で【迷宮】から脱出した。

 体のあちこちに傷を負い、方足を引き摺って、血塗れになりながらも生還した。襲って来た魔物の約半数を倒し、死に物狂いで逃げて来た。

 だがこれは、あの魔術を放った【魔術師】と、周りの大人達から謝罪を貰うだけでは済まされない話。裁定官が黙っていないはず。


 だというのに、【迷宮】の中から出て来た彼女に対し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 おまけに、この事件についてどれだけ説明しても、裁定官は動いてくれなかった。


『…………ッ』


 言葉が出なかった。


 死に、かけたのだ。

 怖かった、のだ。

 もう、何度も、助からないと思う程の経験をしたのだ……ッ。

 それを、それを…なかった事にされたのだ。


 ……涙が出た。


『あぁ、そういう…そういう事ね……』


 この時、瞳は悟った。

 出る杭は打たれる。落ち目と言われた家系の【魔術師】が出しゃばった真似をしたが故に消されかけた、これはそういう事。


 ――秘密に、秘密にしよう…この、力を。でないと、でないと、次は殺される……ッ。


 強烈な死の恐怖が心に刻まれた。

 なるべく目立たないように、全力を出して位階など上げてしまわないように。

 潜るのだ、【迷宮】に。誰も信じられないから、独りで、慎ましく。

 それが【魔術師】として生き残っていく方法だ。


 ……けれど、あの言葉が脳裏に蘇る。


『ち、ち違うんです、あんなやり方しか思いつかなかっただけです!ので、うん、仕方ないよなさっきのは。あ、いやッ。け、けどアレだ、今度は――って、んな機会ある気しねぇけど――もっとマシな庇い方するから……な?ほ、ほら、あんま怒んなって。それに、一応俺等パートナーな訳で、助けないってのはちょっと問題があるような気が……ねぇ?てか、普通助けるじゃんよ』


 それが普通だから、なんて理由で命懸けの行動に出られる人間が、この世界にどれ程存在するだろうか。

 きっとあの時、自分の中で一番されたい事を和灘悟にされた。過去にしてもらえなかった事を。

 同時に、そんな悟が眩しく映った。四年前のトラウマに怯えて何も出来なくなった自分とは、まるで違うのだと思ったのだ。

 そして、また悟と共に【迷宮】へ潜るのも悪くないと思い始めていた。


「……て、ない…」


 だというのに、【迷宮】の特例最下層で彼は消えた。

 眼前の別空間への穴はで閉じかけている。


「まだ…って、ないッ……」


 ……ふざ、けるな。


 ――悟を、私のパートナーを返せッ。


 それはまだ、恋心ではない。けれど、和灘悟との間に生まれた確かな絆だ。


 それが叶わないなら、それを阻止するというのなら、


「まだ、終わってないッ!」


 もういい。()()()()()この別空間への穴を抉じ開けるッ。


「――ッ!!」


 赤眼瞳の全身から、膨大な量の赤黒い魔力が迸る。直後、それは漆黒の(ほのお)と化す。

 幻獣魔術・火――【竜焔(ドラゴン・フレイム)】。

 彼女が天才たる所以の固有魔術。

 四年もの間、人前では隠し続けて来た力。


 圧倒的な破壊力を持つ竜の(ほのお)が、瞳が持つ大量の魔力を糧に、今、世界に解き放たれた。


 自重などしない、和灘悟にこの力を見られようとどうでもいい。

 ただ、目の前の理不尽を捻じ曲げたい。

 だから、


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッッ!」


 黒き焔が、収束し消えようとする別空間への入り口を、その力で無理矢理に抉じ開けようとする。

 徐々に、徐々に、入り口が広がっていく。


 ――今ッ……!


 今ならばあの中へと入って行ける。

 転移先への入り口のある転移魔術。一体どこに繋がっているかは分からない。

 だが、瞳はその先へと飛び込んだ――。


 ◆◇◆◇◆◇◆


「ここ、は……」


 気が付けば、見知らぬ場所で倒れていた。

 辺りを見渡す。しかし、悟の姿が見当たらない。

 一体どこにいるのだろうか。


 そう思っていた時だった。


『おや、まさか一日に二人も客人が来るとはね。もしかして、悟の仲間かな?……ふむ、どうやら当たりのようだ』


 ――誰?頭に、声が直接……ッ。


 そんな疑問が瞬時に脳裏を過った。

 だが、


『あまり時間もない。単刀直入に言おう、赤眼瞳、和灘悟の命が危ない。今直ぐ手を貸して欲しい』


 謎の声の唐突な言葉に、瞳の思考は一瞬にして切り替わった。









どうも。今月に入って、週一投稿に変わる、とか言ってた文月です。早速宣言破ろうとしています。

先日、本作に評価ポイントを入れて下さった読者様がいらっしゃいましたが、今回の急な投稿はその影響です。


端的に言いますと→やべぇ、アガって来たぜぇぇぇぇえッ!


となり、執筆速度が加速しました。来週は多分ないです、でも、文月のモチベーションがアップしたら分かんないです(これを予防線といいます)。


それと、お知らせです。


もう投稿してしまいましたが、もう一度、今週の土曜日に投稿する予定です。

今回はあくまで、作者の気まぐれですので、はい。


《完了》


それと、この作品を読んで面白かった、良かった等々……思われましたら、


☆☆☆☆☆


と、なっております所をタップかクリックし評価してやって下さると嬉しく思います。

またまたブックマーク登録、

感想も受け付けております。

いずれも作者のモチベーションとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ