超絶可愛い幼馴染に振られた俺が出会ったのは近所の女子校で天使様と呼ばれる人だった
ざぁざぁとリズミカルに音を奏でるさざ波が聞こえる。俺こと原坂寛は、幼馴染――花崎真白――と並んで自転車で数十分のところにある海岸沿いを歩いている。上を見上げれば、そこには満点の星空が浮かんでおり、星座が苦手な高校一年生の俺でも唯一わかる星座のオリオン座、そしてそれが織りなす冬の大三角が今の季節が冬であることを示している。
「あの……さ……真白」
俺は、意を決して隣にいる真白に声をかける。口からは白い息が漏れる。一世一代の告白だ。絶対に噛むことは許されない。
「好きだ!俺と、付き合ってほしい!! 」
遂に言ったしまった。俺が長年秘めている想いを。幼馴染であることを心地よく感じつつそしてそれを崩したくないという思いからずっと秘めていた彼女への好意を。
「……んー。それって、ホンキ? 」
「も、もちろん! そのために…… その、こうやって普段あんまり来ない海なんかに来たわけだし?それに、こんな夜更けに呼び出したわけだし」
「なるほどね」
そして、少し間をおいて
「ウチとしてもひー君のことは嫌いじゃないし、どちらかと言うとむしろ好き。だけど、、、でもそれは、たぶん幼馴染としての好きなんだよね。恋愛感情的にひー君は見れない、かな?」
だから、ごめん。と最後に少し添えるようにして彼女は蚊の鳴く声で答えた。
「そっ…… か」
ショックのあまりか上手く言葉が出なかった。今まで楽しかったこの散歩も突然の猛吹雪に見舞われたような居心地の悪さを感じた。今にも走り出して、この場から1秒でも早く逃げ去りたい。そんな感じだ。
「まぁ、ゆうて恋人になれなくてもウチらはウチらじゃん? 今まで通りさ、仲良くしよ。別にひー君といっしょにいるのが嫌ってわけじゃないからね。ほら、こうして夜の海にいるのだって、嫌いな人からなら断ってるよ? 」
彼女の言葉を聞いて少しほっとした……気がした。別に嫌われてるわけじゃなく、また幼馴染という鎖という一種の呪いのようなもので一緒にいてくれてるわけでもないと分かって。
「たしかに、そうだな。今まで通り、よろしくな真白」
こうして俺の初恋は幕を閉じたのだった。今の俺の心の中には様々な感情が交差し入り乱れている。後悔、悲しみ、喜び、安泰などなど。他にも今まで感じたことのないよくわからないぐちゃぐちゃした感情もあった。正も負も関係ない。ただどちらかと言うと負の感情の方が勝っている。俺は本気で真白のことが好きだった。否、好きだ。それは今もなお変わらない。だから、本音を言えば今すぐにも泣きたかった。
今まで通りにできるかどうかはわかんないけど、真白が好きだと言った『幼馴染』という関係を続けられるように頑張ろう。
そもそも、こんなに可愛い子と『幼馴染』という関係になれるのだ。これで充分じゃないか。しかも、「『幼馴染』として好き」と言ってくれた。光栄じゃないか。だから、これ以上望んだら……。望んだら、『幼馴染』ですらいられなくなるかもしれない。
(そんなの、絶対に嫌だ!!)
それは俺の真白とは友達以上の関係でいたいという、エゴなのかもしれない。けど、それがなんだ。俺は真白と友達以上の関係でいたんだ。
「もうこんな時間だし、帰るか」
俺はスマホの時計をみて真白に提案した。時刻は11時。あと1時間もすれば日をまたぐ。
そんな時間に高校生、それも一年生がいていいのかについてはもちろんダメなんだが、まぁ、大丈夫だろ。
ちなみに俺はシングルファザーの家系で兄弟はいない。そしてその唯一の父親は今、海外に単身赴任中だ。だから俺は別にこの時間に帰っても何も言われない。実質一人暮らしとなんら変わらない生活を送っている。
そして真白。彼女にはちゃんと両親がいる。しかし、彼女の両親は常に規則正しい生活をする人たちだ。早寝早起き朝ごはんを毎日欠かさずしている。彼女の家へたびたび泊まりに行くのだが決まって夜更かしなどはできない。9時頃には床についている。
きっと今も同じ布団でぐっすりと眠っているに違いない。
「ほんとだ。もう明日になっちゃいそうじゃん。ウチ、こんな時間まで外を出歩くの初めてかも」
そう言って笑った真白は輝いて見えた。相変わらずかわいいなぁ、なんてことを思ってしまった。ほんと、、、ずっと俺のそばにいて欲しい。
その後、自転車に乗り彼女の家の近くであるスーパーマーケット『レニー』まで来ていた。その間はぎこちなくも会話はできた。まぁ、いつもみたいな他愛もない話だ。ただいつもと違うのは会話をするたびにずきりと心が痛むことだ。針でチクチクといやらしくつつかれている感覚だ。
うっとうしく煩わしく、そして痛い。案外、心は強くないんだなぁ。そんなことを思った。
「じゃあ、ウチはここで。また明日」
「ああ、また明日」
真白が自転車をこいで自分の家へと向かっているのを俺は無言で見つめていた。後ろ姿すら絵になるなぁ。なんてことを思った。
やがて、真白の姿が見えなくなる。すると突然の虚無感に襲われた。自転車をこぐのも億劫な気分になる。すべてがどうでもよいと感じる。さっきまで感じていた痛みもぱたりと感じられなくなった。自分が何をしているのかさえ分からない。立っているのか、それともしゃがんでいるのか。
自分を見失うとはこのだろうか?今の俺にはそれすらわからない。
「こんな夜遅くに何をされているのですか? 」
突然の声に思わずその方向を見る。
見て驚いた。街灯の明かりが神秘的な雰囲気を醸し出して照らしている人物は
「あ、天野美月……」
天野美月だった。ぐちゃぐちゃと錯綜している頭でなぜ、彼女のことが分かったのか。
それは、単に彼女が有名だから、あとは昔の幼馴染みだからだ。
才色兼備、清廉潔白、おまけのようにめちゃつよ女剣士とまさにフィクションの中にいるような人物だ。そんな彼女は現在、女子高に通っている。彼女はその女子高で『天使様』と崇められている。そしてその噂は台風にでも乗ったように自分の通う学校にまで広がった。『海星に天使が現れた』と。
ただ彼女のことは噂よりも前に知っていた。
「覚えてくれてたんですね! 原坂君!! 」
なぜなら
「あぁ、小学生ぶりだな」
小学生の時、同じ剣道教室に通っていた友達……と言うよりかは元幼馴染だからだ。彼女は小学校(学区が違う)卒業後、親の都合で他県に転勤した。まぁ、今の成長した姿を知ったのは友達が見せてきた写真なんだけどな。そしてそこでその天使様が天野美月だと分かった。髪を短く切りそろえてボーイッシュな中世的な見た目な小学生の頃から成長して、髪は肩まで伸ばされていたが可愛らしく整った顔は健在、否より磨きがかけられており、すぐに気づいた。それにしても何故、またこっちに戻ってきたのだろうか?疑問に思う。
「それでこんな夜遅くに何をされていたんですか? 」
うっ、、、それは今一番されたくない話だ。さっきはスルー出来たと思ったのに……。
何をしようと俺の勝手だ。そういえばそれで終わりかもしれない。が、このごちゃごちゃな気持ちを誰かに吐き出したくもあった。
少しの間、沈黙が流れる。
「長くなるけどいいか? 」
俺は意を決してぽつりと話始めようとした。
しかし
「あーー、長くなるようでしたら、そのぉ、私の家に行きませんか?外もこんなに冷えてますし、こんな時間なので。それに私の家はすぐそこなので」
「安心してください、私今一人で暮らしているので」
確かに彼女の言うことは一理あるな。時間も遅いし、少し落ち着きをとり戻して――少しだけだがーー感覚も戻ったのかめちゃくちゃ寒い。防寒対策はしたつもりなんだけどなぁ。やっぱり冬はなめちゃいけないな。
「確かにそうだな。なら、お言葉に甘えてお邪魔させてもらう」
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「お邪魔します」
彼女の自宅は、なんと俺の住んでいるマンションだった。
最初ついたときは何の冗談かと思ったが。彼女が開錠する姿を見て黙るしかなかった。
ちなみに俺の家は二階で彼女は四階だった。
部屋に入るとすぐにいい匂いが漂ってくる。どうやらリラックス効果があるようでとても気持ちがよくなった。そして、一つ扉の向こうにあるリビングも自分と同じ作りのはずなのにまるで別の家のようなーー実際に別の家なのだが俺の住んでいるマンションは角や高層階でない限り基本同じ旁をしているーー華やかさがあった。
あたりを見渡す。やはり、同じ構造のはずなのに、全てが目新しく見える。
「どうされました? 」
驚きのあまり固まってしまった俺を見かねてか天野が話しかけてくる。
「いや、実はさ、俺もこのマンションに住んでるんだけど自分の家と見比べたら全然違うなって感銘受けちゃって」
「あんまりジロジロ見られると恥ずかしいですね」
「あっ、ごめん」
「ふふふ。まぁ、原坂くんなら構わないですよ」
「それってどうゆ……「あっ、お茶かコーヒーを淹れますがどっちがいいですか? 」
俺なら構わないとはどう言うことだろうか?と言う質問は、台所へと向かった天野の質問によって遮られた。
「ならお茶で。俺コーヒー飲めないから」
「分かりました。すぐに用意しますね」
しばらくして台所から戻ってきた天野は両手でお盆を抱えていた。お盆の上にはコップが二つ湯気を出しながら置かれている。
「いただきます」
目の前に差し出されたお茶を一口飲む。緑茶だった。心の芯からあったまるような感じがした。
ふぅー。と息を吐き居住まいを正す。
ここまできたんだし、やっぱり話しませんはなしだろう。それに男に二言はあってはいけない。
「天野って真白、花崎真白を覚えてるか? 」
そうしてさっき起きた一連を話した。
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話し終えた俺は涙を流していた。決して話し終えた達成感などからではない。いつからかはわかんないけど俺は泣きながら話していた。そして、話し終えた今も。
振られるってめちゃくちゃ辛いな。彼女との関係がゼロになった訳ではない。だけど、そうだとわかってても辛い。
「そうですか。それは、とても辛いですね」
俺の心でも読んだかのように言った瞬間。ふと、頭に何かが乗る感触があった。それはとても柔らかい。彼女の手だった。
すると、彼女は子供をあやす母親の如く、俺の頭を撫で始めた。
(やばい。気持ち良すぎる!! なにこれっ!! 心が、心が浄化されていく。あぁ、幸せだぁ)
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ」
あまりの気持ち良さに気が緩み過ぎたのかお腹が鳴ってしまった。
は、はずかしぃぃぃぃぃぃ!!!
「もし、よろしければ私の家で食べていってください。腕によりをかけますよ」
ふんすと言う幻聴が聞こえた。これは逆に断ったら失礼な気がする。それに家に帰ってから何か食べようと思っても作る気力も湧かないだろう。
ここは、彼女の言葉に甘えよう。
「じゃ、じゃあよろしく……お願いします」
カチャカチャカチャ。コンコンコン。ジュージュージュー。と台所から料理をしている音が聞こえる。いつもコンビニ弁当やカップ麺で済ませている俺にとってはとても新鮮な音だった。
「お待たせしました〜」
今度は、先ほどよりも少し大きめのお盆を持ってきた。お盆の上には、なにも乗ってない空の大きな皿とチキンライスと思われるものが茶碗によそわれていた。
「その茶碗をその大きい皿にひっくり返してください。プッチンプリンと同じような感じですかね」
俺は言われた通りに茶碗の中を大皿に移す。
んー。なかなか中のチキンライスが落ちない……。おっ、行けた!!
大皿に落ちたチキンライスは見事なドーム型を作っていた。
おおぉー。なんかお店みたいだ。と感動していると、再び台所から彼女がやってきた。手にはフライパンを持っている。
彼女はそのフライパンを大皿に近づけてーー自然と俺との距離も近まり、彼女の華やかな匂いがする。その匂いに思わずドキリとしてしまうーー慣れた手つきでフライパンの上にある黄色いアーモンド型の卵をドーム型のチキンライスへと乗せる。そして、その中心を割ると布団のように広がりながらチキンライスを覆って行く。
えっ!? なにこれっ!? 初めて見たんだけど。思わず彼女と出来上がったオムライスを交互に視線を交わす。
「ん? どうかなさいました? 」
俺の視線が気になったのか尋ねてきた。そのことから彼女にとってはこの程度何ともないのだろう。
「いや、こんなの生で見るの初めてだから驚いてる。天野って普段から料理とかやってるの? 」
「ええ。まぁ、それがこちらで暮らす条件の一つだからです。それと私、料理は嫌いじゃなくむしろ好きな方なので普通に普段から自炊してますよ」
もう見ているだけでよだれが出そうだ。今すぐにもがっつきたい。何故なら、オムライスは俺の大好物だからだ。
「あっ、ソースをかけるので待ってください」
そう言ってまた台所へと向かう天野。
すごいなぁ。自分と同じ年齢とは信じられない。俺も一人暮らしといえば一人暮らしだが自炊なんてもちろんしない。家事と言っても最低限の洗濯と掃除くらいしかしない。だから部屋はところどころ汚く、また立ち入れない場所もあるくらいだ。
その点この家は隅々まで掃除が行き届いている。さらにはインテリアも拘られていたり、カーテンなんかも可愛らしい。やっぱり自分の家と同じ造りであることが信じがたい。
「お待たせしました」
「おおお!!! 」
思わず声が上がる。まろやかなソースの香りが鼻腔をくすぐる。黄色い布団の上にデミグラスのソースがかかる。
彼女は手に持っていたスプーンを俺に差し出し、
「さぁ、どうぞ召し上がってください」
「いただきます!! 」
もう深夜だと言うのに俺のお腹はこれを求めている。
スプーンでオムライスをめいいっぱい掬い、、、
パクリ。と。口へ運ぶ。
その瞬間。俺の胃袋は支配された。今まで味わったことのない美味しさだ。宅配やレストランなど様々な場所でオムライスを食べて来たが、これほど美味しいと感じたのは初めてだ。自然とスプーンが動いて次から次へとオムライスが口へ運ばれていく。
「うまい!! うますぎる!! こんなに美味しいオムライスは初めてだ。毎日でも食べたい!! 」
「そんなにですか。喜んでいただけたようで嬉しいです。毎日……なら、私と結婚すれば一生食べていけますよ? 私、オムライス以外の料理も得意なんです!」
「おう、そうだな。なら、結婚しよう!! ………? 」
ん? 俺今なんて言った? 結婚!?!?
「ええ!! もちろん!!」
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「これが私たちの馴れ初め、かな? ねっ、お父さん」
今年で8歳になる娘の美琴を膝に乗せた美月が俺に尋ねる。
「ああ、そうだったな」
「ねぇ、パパァ? それって最初のくだりいるの?」
「真白お姉さんのくだり? もちろんいるだろ。彼女に振られなければ美月に会うことはなかったんだからな。なんならそのあとのママとの交際にもちょくちょくかかわってくるし。それに真白は俺の大切な幼馴染だからな」
「でもわざわざ娘に言わなくてもよかったんじゃない?」
「ハハッ、確かにそうだな」
ワッハハハハ。と声をあげる。
最近じじ臭いといわれることが多いがこういうところだろうか。そうして、ついついあごひげを撫でてしまう。
「ねぇ、パパッ! ママッ! もっとパパとママの惚気話とか学生生活のこととか教えて!!」
「もう、しょうがないなぁ」
お読みくださりありがとうございます!!
『面白い!!』『天使様ぁぁぁ!!!』『深夜のオムライス最高!!』『海で告白して失敗するなんてかわいそうだ』『幼馴染に振られるなんてドンマイっ!』と思った方!!
二人の娘、美琴のように『もっと二人の青春ラブコメを読みたい!!』『惚気話が読みたい!!』と思った方!!
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