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薄壁

作者: 桜 子

ゆっくりと読んでください。

焦っては、面白みがなくなってしまうと思います。

 築23年東向きの安アパートの一室、他より窓が1つ多い201号室。それが私の城である。

 リストラの憂き目に遭い、妻子に逃げられたときは流石に自殺も考えた。

 今でも夢に見る、高校生の娘の蔑んだ瞳の色。私はあの後、しばらくの間就活さえできずに部屋に引きこもっていた。

 飯もろくに喉を通らず、日に日に体は衰えていく。髭もずいぶんと伸びた。あれほど伸ばしたのはいつだったか、大学時代に友人と一月の間山小屋に籠ったとき以来か。

 私がようやく立ち直り、部屋から出て来たのは7日後のこと。すっかりみすぼらしくなった私は、生まれ変わった気持ちで再就職を探そうと決意していた。

 そうだ、リストラがなんだ。今の世の中、リストラにあっても這い上がり、社長となった人だっている。億万長者になるのではない、ただ、家長の威厳を取り戻すのだ。

 涙にかすむ朝日にむかって、私は誓ったのだ。

 見ているんだ、正子、すみれ。父さんは、お前達を必ず守ってみせる。

 

 その日の朝、妻と娘に連絡が取れなくなった。




 まあ、モノは考えようだった。私の父が建てた一軒家は、古いがローンもほとんど残っていなかった。車や大型テレビ、一人暮らしにはもったいない冷蔵庫などを売れば、大分身軽になった。そして、妻との長い戦いであったヘソクリは、なんと13万円も残っていたのだ。

 僅かながらの貯金もできた、煩わしい家族もいなくなった、自由になった。自由だ!

 私は再就職の道をそうそうに諦め、飲食店のアルバイトをあたった。学生の頃はかるた倶楽部の名コックと呼ばれていたのだ、今でも腕は落ちていない。そうだ、デスクワークなんかよりも厨房の方が向いている!

 こうして私は新しい生活と自由を手にした。まるで、学生に戻った気分であった。




 いま私が住んでいるアパートは、大学生がけっこう住んでいる。割合でいえば

 大学生:社会人:怪しい連中=7:2:1   だろうか。もちろん私は社会人だ。怪しい連中ではない。

 駅には歩いて20分ほどかかるが、そのような距離も自転車ではさして苦にならない。私も先日、ようやく9800円のシティサイクルを買うことができた。今まで車で通って来た道が、色も音も違ってくる。これは若返ったどころではない、生まれ変わりである。

 住民の大学生も気のいい連中だ。例えば私の部屋の隣に住む男子のことだ。話し込むような仲ではないが、せまい共用通路ですれ違えば年長の私に道を譲ってくれる。飲み会の後で酔いつぶれた彼を介抱し、後日あつく礼を言われたこともあった。あのときはむずがゆくて仕方なく、年上の威厳を保つのがやっとだった。

 もちろん若者皆が彼のようである訳ではない。ある高校生は私の目の前で空き缶を捨て、それを拾ってゴミ箱に捨て直した私に何も言わずに通り過ぎてしまった。

 いや、何も言わなかったのではなく、言えなかったのかもしれない。ばつが悪く感じるのは仕方ないが、それはいかがなものだろうか。まったく、近頃の若い奴は。



 

 今、私は自分の部屋にいる。むき出しのフローリングに僅かな家具、男の哀愁を感じさせずにはいられない。

 手狭な部屋も住めば都、バイトの無い日はこうして体をゆっくり休める。

 いずれバイトを増やすことになるかもしれないが、つかの間の戦士の休息だ。

 だが、この部屋にも一つ、どうしても気になる点がある。

 壁が薄いのだ。

 不動産屋の紹介では厚さ112ミリメートルはあるのだったが、隣から漏れる音はバイトから帰ったばかりの私を不快にさせてくれる。

 もっとも隣人付き合いに我慢は必要だし、私は越して来てようやく二月の新参者だ。あまり声を荒げたくはない。それに大学生に騒ぐなというのも酷な話、自らの大学生活を思い出せばそんなことすぐに分かる。

 だからこの日もとなりの音は無視して、のんびり過ごすつもりだった。


『ねえマーくん、早速やりましょうよ』

『えー、ダメよ。マーくんはまず私とやるの』

『ははっ、リカもユキも落ち着きなよ。三人でやるんだろ?』


 私は隣から聞こえる音が気になり、体を起こした。


『ほら、見て見てユキ。出て来たわよ』

『わあっ、大きい。それに、赤くて……』

『そんなに緊張するなよ、僕がいっしょだから』


 まったく急に身長を測りたくなり、私は壁に背を向けてへばりついてみた。

 身長は167センチメートルだったはずだ。


『でも本当に大きいわ、2000はあるかも……』

『そんなことはないよ、そこまで大きくないさ』


 小銭が落ちている気がしたので、私は中古の小型冷蔵庫と壁の隙間を探った。確かに昨日、十円玉を落としたはずだ。2000とはなんだ、けしからん……


『ほら、ユキ。あなたも近づいてみなさいよ』

『ええっ、でも私、初めてで上手くできないわ』

『大丈夫だよ、僕が優しく教えてあげるから』

『そうよユキ。アタシだって手伝ってあげるわ。友達でしょ?』

『ああ、リカ、マーくん……』


 なーんだ、ただの勉強会か。それもそうだ、あの真面目そうな大学生が女の子二人を家に呼ぶなんて、他に無いではないか。


『ダメ、とっても熱そうだもの。怖いわ!』

『大丈夫よ、ユキ。こうするの……』


『ああん、堅いわ……』

『本当だわ。それに近くで見たらずっと大きい』


 ……勉強会だよな?


『ほら、二人ともよく見てごらん。これが…………』

『ああっ、すごい……』

『触っても大丈夫かしら……?』

『ああ、どんどんやってくれたらいいよ』


 なにを、なにをやるというのだ!?


『ああああ、すごく熱いのが出てきた! 迸っている!』

『ユキ、大丈夫よ。しっかりと受け止めてあげるの!』

『そうだユキ、顔をそらしちゃダメだ』

『ああ、でも……!』

『僕を信じて、ユキ!』

『ああ、ダメ、ダメ……!』


 勉強にも熱が入り過ぎだ、丸聞こえではないか。けしからん、けしからん!


『あふぅん、大丈夫だったの……?』

『そうだよ、ユキ。ほら、もう少し頑張れるかい?』

『ええ、平気よ、マーくん。今ので私、少し勇気がわいてきたわ』

『ふふ、ユキも少しは大人になれたわね』

『も、もう。リカの意地悪ー』

『はは、今度はリカが頑張る番だね』


 リカもか! 二人いただくのか! けしからん! まったく、近頃の若い奴は……!


『ほら、もうマーくんのは回復してるわよ』

『そうだね、僕も二人に負けないように頑張らないとね』

『ふふっ、なんだかマーくんがたくましく見えるわ』


 まーくんめ、もう回復しただと……?


『それじゃあもう少し頑張ろうか』

『そうね、ちょっとだけ自信もついたし』


 わ、若い奴らめ……


『頑張ってテオ・○スカトルを倒しましょう!』



 マーくん Mark  武器・夜○連刃【黒翼】

 リカ  Lika  武器・アメ○リハンマー

 ユキ  Yuki  フレ○ランス改

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― 新着の感想 ―
[一言] 始めまして、イルフレームと言います。読ませて貰いましたが、ちょっと面白いですけど。正直ちょっと馬鹿馬鹿し内容でした。スイマセン失礼な事言って……これからの貴方様の活躍に期待させてもらいます!…
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