導入・2
ソラ家の絵本
〜千切られた絵の無いページ〜
騎士になる事を確信していた俺は毎日稽古を続けた。
父も母もそんな俺を可愛がってくれていたと思う。
だけど俺は父と母の期待している様な人間ではないと、自分だけが気付いていた。
「立派な騎士になれる、お前なら絶対に立派な騎士になれる」
父も母も口をそろえて俺にそう言った。
紡がれた言葉は清廉潔白であれ、気高く高貴であれと、俺の将来だけでなく性格にまで理想を抱いているのだと伝わって、胸の中にある自分を汚くどす黒い物だと強調させていく。
新しい技を覚え、どんどん強くなっていく実感を感じていく中で、父や母を力で超えていると確信していく。
俺の目的は強くなる事だった。
そのためには自分を訓練に集中させてくれる土台としてこの家は必要だと、まだ父と母には協力させる必要があると、偽りの自分を披露し、父と母を満足させていた。
騎士を目指しているこの心に騎士道精神など宿らず、あるのは無骨なゴロツキや盗賊の様な、法に縛られずやりたい放題していく生き方を推奨する精神ばかりであった。
ある日、騎士としての力を認められた俺は異例の若さで王国騎士団団長となる。
「自慢の子だ、あれはうちの子なんだ」
団長となったその日、任命式で両親は大はしゃぎだった。
両親は任命式の夜、死んだ。
理想を見ていて現実を受け止めきれない、しかし恐怖だけはしっかりとその眼に宿している、恐怖と困惑に満ちた眼。身体の至る所から流れている血。胸のすく思いだった。
王城に泊まる事を許されている日だったので、その姿を眼に焼き付けてから俺は王城で眠った。
翌日目を覚ますと、両親の死は異例の若さで騎士団長となった俺を羨んだどこかの誰かのせいだろうと言うことになっていた。
必要なくなったから、気持ち悪い眼を向けてくるから死んだ両親だったが、俺を国の上層部にその力故に愛する両親を失った悲劇の主人公と言う印象を与えてくれた。
お陰で国の連中はよくしてくれたし、仕事として力を存分にふるえる環境は悪くなかった。
そうして俺は、国で地位と名声を手に入れた。