目付役
「なんだ。僕、一大事かと思って焦っちゃいましたよ」
カランコエがラスリの肩に手を置いた。
「いや、国王からの連絡だ、急いで伝えることは間違ってない、ご苦労様」
「ああそうだな、仕事自体は団長である俺がする事になるが、村の定期連絡を聞きに行くのは騎士団にとって大きな仕事だしな、ラスリ、連絡おつかれさん」
「はい、ありがとうございます!」
「よしっ、じゃあ試合を再開ーー」
「ーー国王からの招集が先です」
ラスリの話も終わったし野球を続けようとバットを構えた俺の両肩を掴み、カランコエが俺の身体を押してくる。
「さっ、国王の待つお城に急ぎますよソラ団長」
「そうですよ! 見回りの時間に何やってるんですか団長」
「いや、これはだなぁ。緊迫した空気に疲れて少し遊んでバランスをとろうというーー」
俺の話は聞き入れてもらえず、カランコエとラスリは俺の背中を押し続ける。
くそう、どうしてもやらせてくれないつもりだな。
ラスリが幼い新人とは言え、鍛えている俺でもカランコエまで加わって現役騎士二人の力で押されては抵抗できない。
王様からの連絡なんて、毎年の事なんだから少しくらい待たせても良さそうなものなのに、新人のラスリともかく長年この平和な騎士団に入っていても真面目さがしっかりと残っているのがカランコエの特徴だ。
普段はいいところだって思ってるんだけどたまに融通効かないよなぁ。
もう空き地からは出されているがバットは離さない俺に二人の手は緩まない。
「わかった、王様のところ行くよ」
ラスリは素直だ。走って汗をかきながら報告してくれたり、俺の言葉に力が緩んだり。しかし、甘いぞっ!
俺はラスリの力が緩んだ隙を突いて身を翻した。このまま空き地まで一直線だと思ったのだが、カランコエに腕を掴まれていた。
「ソラ団長、何年一緒にいると思ってるんですか。ラスリは欺けても俺は欺けません。団長の思ってることなんてお見通しです」
「……やっぱり止められたか」
カランコエがいるから簡単じゃないと思ってたが、やっぱり野球を続けるのは無理そうだ。
「さ、バットを離してください、いいかラスリ、ソラ団長は未練があるときには絶対にその関連アイテムは手放さないんだ」
「バットを持ってる間は油断しちゃいけなかったんですね! 流石です、団長のお目付役と言われるだけはありますねカランコエさん!」
お目付役ってなんだよ。ラスリはどうやら団長の俺よりもカランコエを尊敬している様だ。
「目付役だなんて、そんなことはないんだけどね、まぁ、何にせよ。ソラ団長、そのバットを離してください」
半分以上諦めてたんだけど、そんなに言われちゃ仕方がない。
「わかったよ」
何だよ二人してこっちを仕方がないやつを見る目して、あの超人的な身体能力のピッチャーとまた戦いたかったけど……確かにちょっと逃げ出そうとはしたけど……でもちゃんと王様の招集には行こうとしてたし、決して無視しようなんて考えていたわけじゃないのに。
俺はバットを手放した。
「これで安心ですね、カランコエさん」
「そうだね、ラスリ」
二人はもう俺を押してはいない。
自分の足で進み、ビオラに跨ってお城へと向かう準備を整えた。
二人は俺の後ろで何か話していた。仲が良さそう……俺一人除け者にされてる感が強かった。
「何であの人が団長なんですか?」
「ラスリ、ソラ団長はやる時はやるすげえ頼りになる人なんだ。安心しろ、あの人が上に立ってるのは何の間違いでもない」