重大報告
「さあ、見廻りを再開しますよ」
カランコエが優しく語りかける。無精髭たっぷりな顔だがこいつは穏やかな表情を浮かべるとギャップでめちゃくちゃいい人オーラが出る。
だが、その頼みは聞けないな。もう一度バッターボックスに立ちたい衝動から俺はその申し出を断ろうとした、そのときだ。
「団長! だんちょーう!」
我が騎士団員で騎士団最年少の新人ラスリが切迫した空気を纏い走ってきた。
ラスリは一生懸命に走っている様だが身に纏った鎧が重いのか、その速度は全く速くない。
なんだか騎士になる事に憧れて、重りをつけて走り込みをしていた自分の昔を思い出す様で微笑ましい。
「いや、野球て!? こちとら大変な用事を伝えに来たのにバット片手に笑顔で出迎えって!?」
ラスリは荒い息遣いで汗も拭わず続けた。
「今、見回りの時間ですよね……えぇ……」
何か用事があって走っていたはずのラスリに呆れられた。そこにカランコエが近づいて来た。
「ラスリ、何か用事があるんじゃないのか」
そう言ってカランコエはポケットからハンカチを取り出してラスリへと渡す。凄い紳士だよ。かっこいいじゃんカランコエ、俺もやればよかった。
「あ、カランコエさん、ありがとうございます」
カランコエから渡されたハンカチで汗を拭ったラスリは息を整えて落ち着いた。
「そうです、大変なんですよ団長聞いてください」
初めから聞く準備は出来ていたのだが、何故かラスリの声からはこちらを責める空気を感じる。
「国王から団長が招集をかけられました、内容はまだ伺っていませんが、国王から直々の命令ですよ!」
少し落ち着いたばかりなのに、ラスリはその幼い表情をまた固くしている。ちっちゃくて愛らしいのに気性が激しい、猫みたいだな。
王様からの招集か、そう言えばそんな季節だ。
それよりも、大変な用事と言うのは何だろうか。早く話して欲しい。
そんな事を考えていると、ラスリは一仕事終えたかのような口調で言った。
「どうですか! 大変な用事だったでしょう」
そうか、ラスリは新人だったな。
「それ、毎年恒例の各村の定時連絡についての話だと思うぞ?」
ラスリは俺が慌てるとでも思っていたのだろうか、冷静に反応した俺に対して眼を大きく見開いてこちらを見ている。
「えっと……大変な用事じゃないんでしょうか?」
「うん」
呆けているラスリにカランコエが説明をしてくれる。
「あのな、この国って平和だろ? でも一応この国の各村から毎年一回定期連絡ってのをして貰ってるんだ。この制度が出来た頃は村駐在の騎士が城まで来てたんだけどな、年が経ちどんどん年齢層が高くなってくるにつれて殆どの村から城まで連絡に来れる人が減って来たんだよ」
「そうそう、それでこの季節になると王様から団長の俺に、連絡の無かった村へ定期連絡を聞きに行って欲しいって話するために招集がかかるんだよな」
俺はカランコエの説明を引き継いでラスリに話した。