朝礼
「みんなおはよう、今日は清々しい朝だな、元気に騎士の仕事をこなしてくれよ、以上、解散」
俺が朝礼を終えると、騎士団のみんなは馬小屋へ向かい、各々の仕事をこなす為それぞれの持ち場へと動き始めた。
俺たちの仕える王国の王城は、朝礼台の真後ろにどっしりと建っている。
雲ひとつない空のお陰で、城は今日も国王の高潔で誠実な心をあらわす様に真っ白だ。
視線を落とせば心地良い風に吹かれる草たちが力強く色鮮やかに目に映る。
王だけでない、それを支える国民も俺は大好きだ。
「ソラ団長、俺たちも仕事に行きますよ」
「そうだな、他の団員に遅れては団長として示しが付かんからな」
同期のカランコエが俺に声をかける。
カランコエはよく手入れされたピカピカな鎧に身を纏ってはいるが、その顔は無精髭とボサボサの髪の目立つ、あまり覇気の感じられない男だ。
今だって静かに俺をたしなめた。
城壁の側に備えられた騎士団専用の馬小屋の中に入ると、もう小屋の中には俺の愛馬ビオラとカランコエの相棒の二頭しかいない。
小屋の中に馬が居なくても独特の獣臭さはしっかりと残っており、俺は人以外の生活を感じられるこの匂いも好きだ。
「さあ、騎士の仕事の始まりだ」
ビオラを小屋から出し、その身体にまたがる。
俺はやる気十分だ。カランコエと共に城から離れ、城下町へと駆け出した。
騎士の仕事に危険は付き物、それは騎士達をひと目見ればわかるだろう。
城下町を歩く人と比べれば一目瞭然と言える。
全身を白く輝く鎧で覆い、腰に皮で出来た鞘を携えている。
中にはもちろん真剣が収まっていて、布の服に武器も持たない人たちとは少し生きる世界が違うとも言えるかもしれない。
しかし、俺たちの生活はこの国のどの民にも深く密接しているとも言える。
王城内では溶け込むこの衣装だが、城下町では大変に目立つ。
どこに他国の眼があるかわからないのだから、目立つ存在であると言うことは、良くも悪くも国の象徴として捉えられるのだ。
護るべきこの国の王や民が他国の者に、お前の国の騎士は下品で弱そうだな、等とバカにされるのは我慢ならない。
俺は城下町にいる間は特に姿勢をただし、精一杯凛々しく乗馬を心掛けている。
「ソラ団長はカッコいいなぁ」
隣にいるカランコエは、俺の凛々しい乗馬に感嘆の声をあげていた。
とても嬉しい。
「ドロボーよー!!」
その声は、遙か遠くから建物を越えて聴こえてきた。
良い気分になりながらも、仕事である城下町の見回りをしっかりとこなす。
「カランコエ、声の方向へ向かうぞ」
「かなり遠くから聴こえてきましたよ、現場はどこでしょう」
「あれは3つ向こうの通り、町の外へと抜ける小道に隣接している宿屋さんの声だ、行くぞ!」
俺は、カランコエに現場を告げて、一目散に現場へと向かった。
後方を見ると、カランコエは走り出した俺に少し遅れてから動き出そうとしている。
「すげぇ、ソラ団長はやっぱりカッコいいなぁ」
慌てて馬を走らせたカランコエの姿から、そんな声が聴こえてきたような気がした。