導入
ソラ家の絵本1
幼い頃から自分は騎士になると確信して育った。
それは本当になったし、自分の人生は英雄と言って良い程の冒険や波乱に満ちていた。
魔獣を倒し、他国の魔法使いから国を守り、数々の超常現象と対峙した。
俺は騎士である。
プロローグ
将来は立派な騎士になる。
俺はこの言葉を胸に少年時代を生きた。
代々騎士の家系に産まれた事で、俺は少年時代に騎士という物を勉強しまくった。それはもうのめり込んだもので、家にある自分が読める騎士関連の本を全て読み漁り、我が家に伝わる口伝を耳にタコが出来るまで聴いた。
何故あんなに熱中したのか。
その理由は簡単だ。幼い頃読めた家の本は騎士が主人公の絵本であり、その冒険や活躍にはワクワクしたし憧れた。騎士家系である家に伝わる口伝なんて、我が家の先祖(もちろん騎士)を主人公にした英雄譚だ。寝る前に良くせがんだものだ。
そんなこんなで騎士になる事は大変名誉であり、どんな困難にも負けない心技体が必要だと認識していた俺は、憧れの英雄達に負けぬよう鍛錬を積み重ねた。
絵本の中や口伝の中には毎日の指針になる物が多くあった。
ある騎士が毎日の素振りが大切だと言ったと書いてあれば、素振りを生活に取り入れた。
ある騎士が大切なのは馬との信頼関係だと言ったと聴けば、家にある馬小屋で毎日馬に話しかけた。
もちろん父も騎士であり、尊敬できる存在だった。
「父さんは国の平和を守る仕事をしているんだよ」
武勇伝をせがむと困った顔をする父だったが、騎士としての仕事を聴かせて欲しいと俺が言うと、こう返してくれたのをよく覚えている。
家族は本当に暖かく俺を見守ってくれていたと思う。
俺は、ろくに城下町の外には出なかった為、はっきり言ってしまえば世間知らず、物語を現実として捉えていた。
我が国の騎士は、親が子にその地位を譲ると言えば簡単な儀式を王の前で行う事であっさりとなる事が出来る。
俺が騎士として恥ずかしくない様にと行ってきた鍛錬を見ていた父は、この儀式を俺が10の頃にやると言い出した。
因みにこれはとても早い。
父はまだ現役を退く歳では無いのに、子の支援に回ろうと言ったのだ。
異例のスピード!史上最年少!?天才現る!!なんて俺は喜びに喜んだ。
俺は、若くして憧れの騎士となったのだ。
このままじゃ確実に現実とのギャップに心を傷付けられ、反抗期だなんだと騎士を辞めてしまいそうな流れだが……俺は今なんだかんだで騎士団長をやっている。
現実はどうあれ、理想とのギャップはどうあれ、騎士を嫌いになることなんてなかった。
だって、間違い無く騎士は国の平和を守る仕事をしていたからだ。