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鬼神様は花嫁を溺愛している  作者: 相模 仄華
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籠の中の花嫁は考えた。

 外に出てみると、私が身支度を整えている間に色々と準備をしていたみたいだ。四季折々の花々や、金銀に飾られた豪華な駕籠(かご)が、引き戸を開けた状態で待っていた。

 私が乗るのに少し戸惑っていると、女中の一人が柔らかな笑みを浮かべて「さぁ、お乗りください」と、早くするように促す。言われるがまま駕籠の中に乗れば、二人のガタイが良い男性が軽々とそれを担いだ。担がれた際にガタンッと揺れが生じ、私は天井に頭を打ち付けそうになる。



「これより、花嫁を送り出す。」


「鬼神様の花嫁が今宵、御社(おやしろ)に参る。呉々も、道中何事も無い事を願い御見送りをせよ」



 駕籠の乗り心地は微妙。大人一人がやっと入る広さで、歩き出したら中はユラユラと揺れた。見送りをする人々の声が聞こえ、私はその声に耳を傾けてみた。

 年老いた老婆は、「あぁ、花嫁様……」と、まるで花嫁を神か何かのように崇め、若い青年は「可哀想になぁ、花嫁になるなんて」と、哀れんだ。聞こえた声は大体こんな感じの事ばかり、花嫁になる事を華々しく考えている人と、それとは逆に花嫁になる事を哀れに思う人の二つのパターンに分けられた。


 駕籠はゆっくり、ゆっくりと進んでいる。私がこれから向かう場所は鬼神が待つ社、僅かな緊張、じわじわと身体を蝕む恐怖で心臓がドクドクと早鐘を打ち始める。駕籠が進む分、目的地が近づいている事を表していた……あぁ、帰りたい。

 そもそもこの儀式は何の為に?いつから行われるようになったの?花嫁というよりは生贄みたいな感じだし、考えれば考える程疑問は増えていった。



「……ってゆーか、鬼神は私を花嫁にして大丈夫なわけ?一応、今の私って子供じゃん」



 ロリコンって訳じゃないんだろうけど、決めたのは妖怪や人間のお偉いさんの方々なんだろうけど、前世の私がいた世界じゃ軽く犯罪だよね。

 鬼神余裕で警察に御厄介になるよ。そんな事を呟いた時だった、私の頭に電流が流れたような衝撃が走った。自分の姿を改めて、巾着袋に入れていた手鏡で確認する。


 ちょっとふっくらした、小さな子供の特徴であるプニプニした頰、華奢だけど健康的な身体。何処からどう見ても、今の私は子供な事に間違いは無い。だからそれを利用する作戦を思いついた。

 子供という存在は自由奔放で、尚且つこれくらいの歳頃だと自我だってとっくに芽生えている。我儘を言って、親や周りの大人を困らせたりした(前世の私の子供時代がそうだったってだけで、実際は分からないけど)。私の考えた作戦、名付けて『鬼神に嫌われよう!ワガママ大作戦☆』だ。


 ネーミングセンスがないのは仕方ない。子供の姿を利用して、我儘を言ったりして困らせれば良いという単純な内容。そもそも子供を花嫁に迎えるなんて鬼神も嫌だろうから、作戦はきっと成功する……はず。



「よしっ!頑張らなきゃ」




 ***




 駕籠に乗ってから約二時間近く経っただろうか。特に何もする事なく、ただ只管(ひたすら)にぼんやりと時間が流れていった。ここで一つ、私の身に緊急事態が発生する。

 足が痺れた。ずっと正座で座りっぱなしだった所為で、両足ともビリビリと電流が流れたみたいに痺れている。ちょっと体勢を崩そうと思っても、着物を着ているから身動きが取りにくくなっていて、自分の思うように動けない。最悪な状態だ。



「……ヤバい、これは辛いわ」



 これ降りる時ヤバい気がする。いや、まず降りれる?私は大丈夫?頭の中がぐるぐるし始めた。鬼神の花嫁になる事よりも、自分の足を心配するのは可笑しいと思うけど、今の私の頭の中は『足やばい』の言葉だけが占めていた。


 すると、突然駕籠がピタリと止まる。



「鬼神の花嫁様、たった今御社に御到着しました」


「ここから先、我等案内人は御一緒には参れません。大変、申し訳ございませんが、御降り下さいませ……」



 まず最初に低く抑揚のない声の人が、到着した事を私に伝えた。続いて、凛とした声の人が駕籠から降りるように言うも、その声は少し涙声な上に震えていて、台詞の最後はか細く聞き取り辛い。


 目的地に着いてしまったか。こんな最悪な状態で、ある意味なんて絶妙なタイミングなんだろう。閉じていた引き戸が音一つ無く開き、外には赤い鼻緒の下駄が一足置かれていた。

 両足の痺れはまだ続いている、普通に降りるのは無理だ。私は赤ちゃんみたいに手だけを使い、身体をヨジヨジ動かす、所謂(いわゆる)這い這いで、引き戸からニョキっと頭を出した。駕籠を担いでいた二人の案内人達は、私が変な格好で這い出て来たのに驚いたらしく、ギョッと目を見開いている。



「は、花嫁様……?」


「大丈夫ですか?」


「……あ、足が痺れてます。助けて下さい」



 生まれたての子鹿みたいにプルプル震えながらも、何とか駕籠から降りて下駄を履いた。下駄を履く時、涙声の人が手を貸してくれて凄く助かったよ。抑揚のない声の人は駕籠から降ろしてくれたし、結構親切だった。


 約二時間、駕籠に乗っていただけなのに外に出たら、空気が澄んでいるように感じた。空を見上げてみると、すっかり夜になっていて月が昇っている。深く濃い紅色(あかいろ)に染まった月は、とても奇麗だった。それはそれは不気味な程に。



「今夜は満月かぁ……」



 目の前にあるのは、長い長い石階段と何千基もの赤い鳥居。遠くに見える豆粒ほどの大きさの御社までの道のりは、果てし無く険しく、長くなりそうだ。カラコロと下駄を鳴らし、私は階段を上り始めた。

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