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鬼神様は花嫁を溺愛している  作者: 相模 仄華
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突然ですが、花嫁となります。

 生まれ変わっても、私の人生は報われないのだろうか。



 私––––小野寺 花奏は前世の記憶を持っている。当時の私はもうじきアラサーを迎える会社員、仕事一筋で毎日毎日残業三昧の社畜状態だった。

 上司からのいびりに耐え、満員電車の人混みに耐え、兎に角働いて昇進をしてと繰り返す内に、最終的には過労で倒れ、私の人生は幕を下ろした。


 それが第一の人生、呆気ないものだった。

 前世の記憶は、七歳になった時に出した高熱がキッカケで思い出した。中々熱が下がらなく、意識が朦朧として『もう駄目なのか』と、思った時に突然記憶を取り戻した。


 今の私が住んでいる(くに)は、妖怪と人間が共存している異世界。人間みたいな外見の奴もいれば、まさに「妖怪です」と、アピールしている様な恐ろしい姿の奴もいる。

 魔法とは少し違うが、不思議な力を使える人間も少人数ながら存在していた。大抵は一般人で、私も極普通の一般人に転生をしたのだけど。其処は絵に描いたような和風ファンタジーの世界だった。


 そして、この國には昔から伝わる古い言い伝えがある。



 ––––鬼神様に生贄として“花嫁”を捧げよ––––



 百年経つ度に、その花嫁を捧げる儀式は行われているらしい。國を管理している妖怪や人間のトップが、時期が近づいてくると一ヶ所に集まって話し合い、花嫁を決める。


 丁度今年が其の百年目、今年の花嫁が決まる日だった。噂でしか知らないけど、花嫁に選ばれるには数多の条件があるらしい。それら全てに該当する人物が、百年ごとに鬼神の花嫁になりにいく。まるで人身御供だ。


 けれどそんな事、自分には関係ない。そう思っていた……なのに。



「花奏、まさか貴女が……どうして!! あぁ、酷すぎるわっ」


「娘はまだ八歳になったばかりだ!……それなのに、何故こんな……」



 因みに、転生しても私の名前は花奏のまま固定されていた。自分で言うのは少し恥ずかしいけど、この名前は気に入っているから変わっていなくて良かったと思う。年齢はこの前八歳になったばかり、若々しく健康的な身体は魅力的だが、幼い身体は身軽な分不都合な面もある。(高い所に手が届かない、親の目が中々離れない、遠くまで行けない等。)

 状況を簡単に説明すると、私の隣で膝を落とし泣き崩れている女性は今の私の母親。私を抱きしめ、目の前にいる大型で人語を話す蛙妖怪を睨んでいる男性は父親だ。私自身は渡された一枚の和紙に目を落とし、内容を確認する。



 “花奏殿 貴殿は鬼神様の花嫁に選ばれた。”



 丁度良い炭の濃さで書かれた達筆な文字、一行だけの短い内容。普通の子供なら、何が何だか分からない内容だろうが私は中身がアラサー前だった元大人。見た目は子供だけど、漢字は読めるし内容も理解出来る。


 どうやら私は、八歳という幼すぎる年齢でありながら鬼神と云う得体の知れない存在の“花嫁(いけにえ)”になってしまったようだ。


 あぁ、神様。もしいるなら教えて下さい、どうしてこんな目に遭わないといけないんですか?




 ***




「お願いします! どうか、どうか……花奏を連れて行かないで下さい」


「この子は私達二人の宝だ。鬼神様の花嫁にしないでくれ!」



 泣き叫ぶ母親と父親は、私を花嫁にさせまいと必死に蛙妖怪に縋り付き、抵抗をした。けれど蛙妖怪が「鬼神様に祟られたいのか」と脅し、二人の腕を振り払うと、半ば強引にを連れ去った。



「……もう私、帰れないんですか?」



 前世の記憶があるとはいえ、私は今の両親が好きだ。大切に育ててくれて、大人になったら沢山恩返しをしようと思っていた。抵抗する為に、最初は暴れていたのだが子供の力では大人(しかも妖怪)には全く敵わない。


 私の言葉に蛙妖怪は何も答えてくれない。黙って俯くと小さな声で「すまないな、嬢ちゃん」と、溢すように呟いた。それだけで答えは十分だ。

 暫くして、私が連れて来させられた場所は大正時代を連想させる擬洋風建築の建物だった。教会の様な外観をしていて、ステンドグラスの窓には天使と悪魔が対峙した場面が創られている。高い門が開いた状態になっていて、門をくぐると石畳の道が続いていた。



「花嫁を連れてきた。速やかに支度をせよ」


「畏まりました」


「花嫁様、さぁ 此方へ」



 蛙妖怪は私を数人の女中に任せると、その場から姿を消した。広々とした廊下を歩いていると、通り過ぎる女中や男性使用人が私の姿を見てヒソヒソと話している。



「あんなに小さな子が、今回の花嫁……?」


「可哀想になぁ、きっと何も知らないまま連れて来させられたんだろうに……」


「辛いだろうねェ、可哀想だ」



 可哀想だと思うなら、いっそのこと代わってくれよ。後聞こえてるから、聞こえない様に言っているつもりでもバッチリ聞こえてるし、何も知らなくないし全部分かってるからね。


 内心そんな事を考えながら、私は女中達に案内された部屋に入る。目に入ったのは白い着物だった、花を模した簪が化粧台に置かれていて、紅や白粉といった化粧の為の道具もある。



「此方、花嫁様がお召しになるお着物に御座います。」


「花嫁様、早速お着替えを」



 女中達に言われるがまま、私は自分が着ていた服を脱いだ。直ぐそばにある桶の中には温かな湯が入っていて、用意されたタオルに浸すと身体を拭く。清める為にしなければならないらしい。


 抵抗しないのは、無駄だと分かっているからだ。幾ら幼い子供が泣き喚いた所で、花嫁になる事は変わらない。元々中身が大人だから理解できたのもあるけど、もし私が前世の記憶を思い出さないまま、この場所に連れて来られたとしたら……薄々だけど理解してしまうだろう。

 もう、帰れないのだということに。


 華奢な私の身体を包むのは白い花嫁衣装。顔には似合わない白粉を薄く塗り、唇には紅を差した。サイズの合わない着物は裾を引きずってしまう、着飾られた自分の姿を鏡で見た感想は何とも言い難い。衣装に『着せられている』ような、違和感満載な格好だった。



「お支度が整いました」


「それでは花嫁様、参りましょう」



 準備は整った。この部屋から出てしまったら、きっと両親がいる場所に戻る事は出来ない。私は、私の事を子供だからと何も言わない妖怪や人々を一瞥したら、一歩前に進み出た。鬼神の花嫁とは名ばかりの、生贄になる為に。

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