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アラート

 一通りの訓練を終えた私たちは管制と連携した領空侵犯対処を行うアラート待機に就いた。

小隊毎に持ち回りで待機任務に就くのだが、当初は飛行隊がわずか一つという事もあって、常に訓練か待機という状態が長らく続くことになった。


 海峡を挟んでルーシと向かい合う北部は毎日のように接近してくるルーシ側の機体があるのだが、内海に面したここ、中部ではルーシの航空機もほとんど飛んでは来ない。あくまで活動が低調というだけで、その気になれば爆撃機や偵察機ならば容易に我が国まで到達することは容易い。

 しかし、ルーシから中部方面はいまでこそタービン戦闘機の行動圏内となるが、当時のレシプロ戦闘機では容易な距離とは言い難かったため、戦術的にも飛来する意味が見いだせてはいなかったように思う。

 そのかわり、時折ソロゴス半島から飛来することがあったが、ソロゴスの南部はキタイの属国、北部はルーシの衛星国という分断国家となっており、飛来した機体の確認と対応には神経を使うと言われていた。

 なにせ、キタイとルーシは競合関係にあり、我が国は敵の敵は味方の論理で、キタイに対しては融和的な政策をとっていた。そのキタイの属国から飛来した機体に対しては、政治的な思惑もあって対応が緩くするとされていた。


 その日、私はいつものように待機任務に就くこととなった。待機は2機一組の二組が行う。まず、すぐに飛び立てる状態を維持した組が常に待機室で待機を行い、もう一組は1時間以内に準備が整う状態で基地内で待機することになる。

 待機室での待機は試行錯誤の段階で、当時は4時間ごとにくみが入れ替わっていたように思う。現在の8時間ごとの交代はずいぶん後だったように思う。待機の入れ替え時間が定まったのはタービン機の配備が行われてからだったかもしれない。


 そのようにして、二組が待機を行うのだが、あまり不明機が飛来しない中部においては、待機中に空へ上がれるのはどちらかと言えばご褒美みたいなものだった。

 その日は最初の4時間は何も起きることなく時間が過ぎていった。その後の4時間もいつも通り何も起きることなく、ただ、ランニングをして終わることになった。

 そして、その日2度目の待機室入りとなったのだが、私はいつも通り本を取り出して読むことにした。なにせ、4時間も部屋から出ることが出来ないのだから、他にする事も無い。


 本も随分読み進んだ時だった。突然ベルが鳴りだしたのである。このベルは待機室と待機格納庫に設置されている緊急発進を知らせるもので、自分が待機中になるのは初めてだった。


 私と長機に乗る先任はすぐさま格納庫内の機体に乗り込み、エプロンへと滑り出していった。

 緊急発進がある場合、滑走路の優先権はアラート機が持つので、訓練のために滑走路やエプロンに居る機体はすぐさま道を譲る。そこを我々2機が進んで行き、離陸するのだった。


 離陸と共にレーダーを起動させる。そして、機関砲を操作して、弾の装填と試射を行う。そして、異常が無いことを管制に伝え、周波数を基地の管制官からレーダー管制へと変更し、進むべき方向と高度の指示を仰ぐ。そして、その方角へとすすんで行くのである。


 たいていの場合、このまま接近して相手を目視圏に捕らえると、国際周波数で呼びかけを行う。そして、機種や国籍、機体番号が読み取れるところまで近づき、二番機に搭載されたカメラで不明機を撮影したのち、進路変更を見届けて帰投する。

 訓練で何度もやったそれらの手順を思い浮かべて接触を待つこととなった。


 そして、とうとう機上レーダーにもそれらしき機影を捉え、長機が管制へと発見を伝える。

 シルエットがはっきりするとそれが4発機であることが分かった。更に近づくと特徴的なナセル形状からT

u8爆撃機だと分かった。

 尾翼に大きく描かれた赤青白の三重円、ルーシの国籍マークだった。

 機体を観察してみると偵察仕様ではなく、爆撃機であるらしい。機体の周囲に機銃が付きだしているのが見えていた。

 

 長機が無線で退去を呼びかけるが応答はない。手信号で呼びかけるためにさらに機体へと近づいていく。

 私はカメラを構えて機体の全体像、国籍マークのある尾翼、武装の具合、機体番号などを撮影していく。

 そして、ふと気づくと、機体上部の銃塔や機尾の旋回銃がこちらへ向くのが見えていた。私は回避行動をとりながら機体から距離を取り、先任へと通信を入れたのだが、すでに危険を察知して回避行動に移っていた。

 敵対行動について警告を行っているが全く応答はなく、先任が警告のために射撃を行うと、それを待っていたかのように爆撃機から私たちへと火線が伸びてきたのだった。


 あまりの事に驚いてしまったが、すでに距離を取っているため見た目ほどの危険はなかった。しかも、その射撃は統制がとれたものとは到底思えない有様で、本当に訓練されたルーシ兵によるものかどうか、私には判断が付きかねるものだった。


 


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