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機種転換

 当時、賛華に搭載されていたレーダーはほんの数kmの視程しかなく、管制に誘導してもらったとしても、夜間しか有効に利用できなかった。

 昼間は肉眼の方が優秀で、夜間であっても条件次第では目標の排気煙を発見する方が早かった。そのため、機上レーダーは本当に訓練用としか思っていなかった。


 これには理由があった。確かに、当時の技術的な問題もさることながら、賛華にはレーダー装備が前提とした設計がなされておらず、戦後10年になろうという時期においてすらマトモな機上レーダーの装備が難しかった。

 本来ならば、レーダー装備のために設計を改めるべきなのだろうが、元々が空気抵抗低減を求めて設計されているため、機首の大型化は速度低下を招くものとなっていた。そして、先尾翼構造のため、水平翼とレーダーの位置というのも問題だった。

 大型機関砲を装備したうえでレーダーを積むとなれば、当時の真空管式の機器を振動から守るためにある程度離す必要があるが、機首に機関砲とレーダー機器を集中させるしかない構造上、大型のレーダーは載せられなかった。


 したがって、この当時、野戦型制空機では、レーダーピケットとして胴体に大型レーダを装備した機体があり、夜戦能力はそちらが上であった。もちろん、賛華も胴体下に同一レーダーを装備出来はするが、それは数10kmの速度低下を招き、編隊追従が難しかった。そのため、旧式化したレーダーであっても、それに甘んじるしかないのが現状だった。そうした意味からも、吹華の早期実用化が望まれていたのだが、異常加熱問題こそ克服していたものの、大馬力を発生させる四重複列エンジンの調整や大型機とは異なる低回転型減速機の量産化、二重反転機構や大面積プロペラ等々、賛華にはない様々な困難がそこには立ちはだかっていた。


 すでに吹華開発における逸話は数多くの書籍で知られている通り、その様な多くの困難を経て実現していた。

 現場で配備を心待ちにしていた私は、耳の早い者、口さがない者の話に一喜一憂する日々を送っていたのをよく覚えている。

 有名なきりもみ墜落の時には、私の耳にも開発中止のうわさが飛び込んでくるほどだった。きりもみ墜落は二重反転機構の異常で大トルクの制御だ出来ず、機体がトルクにに負けて空中分解したあの有名な事故の事だ。


 そのような事故や技術的な問題から量産化には非常に時間がかかった。

 当時、吹華の製造費は制空機2機分とも3機分ともいわれていた。もちろん、それは当然の話で、空力的にも機械的にも成熟した時速800㎞程度の機体とプロペラ機の限界ともいえる900㎞の機体では、必要な精度や技術に違いが出るのは当然だった。


 そして、吹華にとって一番の逆風は、制式化以前に西方でタービンエンジンの耐久性を飛躍的に向上させる技術開発に成功した事だろう。

まだ研究レベルの話ではあったが、10年か15年もあれば実用機が登場してくるのは確実で、吹華の必要性は一部で疑問視される状況だった。

 ただ、多くの技術者にとって、推進型の吹華はタービン機への転換が容易で、一般的な牽引機ならともかく、量産したとしてもマイナスにはならないと認識されていた。

 そうした技術者サイドの後押しがあって、吹華の開発は何とか進捗していた。



 吹華の特徴は視程30㎞のレーダーと大型機関砲という、後のタービン戦闘機と同じ装備を備えていた。

 制式化の後にまず配備されるのは北部であろうと誰もが予想していた。しかし、実際に配備されたのは私の部隊であった。


 というのも、吹華は全く新しい概念を持つ機体であり、実戦正面である北部にいきなり配備できるようなものではなかった。しかも、我が国で吹華を運用するために必要となる管制誘導の確立を行っていたのも、我々の部隊しかなかった。

 当時はようやく全土にレーダー警戒網が完成した段階であり、警戒レーダーで捕捉した所属不明機にとりあえず迎撃機を向かわせるという手探りの運用が始まったばかりだった。今のように確立された警戒管制、管制誘導は吹華によって初めて確立されたと言って良かった。

 その任を私は受け持つこととなったのだから、当時は意気軒高、その任に当たるべく吹華を受領したのだった。

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