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航空祭 2

 吹華が暖機を終えてフルスロットルにして煤を飛ばした。整備員は点検を終えて今日飛行するパイロットへと機体が渡された。


「それでは皆さん、吹華が飛行準備を終えました。いよいよ飛行です」


 司会がそうアナウンスし、パイロットが整備員だけでなく、訪れた観衆たちにも分かるように大振りに手を振って風防を閉じると機体をゆっくりタキシングさせ始めた。


 吹華は迎撃機である。迎撃機とは主に爆撃機や攻撃機を攻撃することを目的に作られている。

 航空機の発展はリリエンタールの動力飛行の後、西方大戦によって大きく発展したが、エンジンの技術的な壁によって大戦後、双発機優位の時代がしばらく続いた。エンジン技術が発展すると次第に単発機が再び優位となっていく、ただ、プロペラ推進にはおのずから限界があり、プロペラの速度が音速を超えるわけにはいかなかった。そのため、機体自体も音速付近が出せる速度の限界となってしまった。

 効率を考えれば、時速八百km程度に抑える事が理想で、それ以上の速度は非常に効率が悪くなり実用的ではなかったことから、制空戦闘機は時速八百kmを上限に、旋回性能や上昇性能の向上に磨きをかける方向へと各国とも足並みをそろえていくこととなった。


 我が国においても戦時の主力機だったはやてに次いで開発された大鷹も同様の考え方を採用し、颯以前の主力機、隼の時代に戻ったと一部では言われていた。もちろん、旋回速度や加速度は格段に大きくなっているが、求められた要求としては同じ方向を向いている点でそういう意見が出るのも頷けるものだった。


 しかし、爆撃機や攻撃機を迎撃するためにはそのような機体では限界があった。効率が時速八百km程度であることは単発も多発も同様で、四発重爆や双発高速機も時速八百kmを目指して開発されていた。

 そうなると、迎撃機は極限まで効率を求め、時速八百五十km程度を必要としていた。


 吹華の前代である賛華は戦時中に時速七百五十kmを目標に開発され、戦時中は時速七百km程度に甘んじていたものの、戦後の技術革新や海外からの技術導入もあり、最終的には時速七百七十kmを出すまでに至っている。

 私が配属されて初めて搭乗したのも賛華だった。


 少し話は変わるが、元々迎撃戦闘機の名称は電を用いるものだったことは広く知られているだろう。

 最初の迎撃戦闘機は雷電であり、次に作られたのが紫電であった。その慣行に従えば、賛華にも電を用いるはずだった。もちろん、当初は震電が予定されていたことは広く知られており、今での試作機の事を震電と呼ぶこともある。

 そして、元々華を用いる兵器は危険な任務を行う艦上偵察機や進攻偵察機、中には自爆を目的とした機体なども存在していた。なぜ、迎撃戦闘機にその様な名前が用いられたのかは賛華の開発にあった。


 賛華は当初は順調に開発が行われ、初飛行を果たしたが、当時のわが国にはエンジンを機体後方に置く推進型で空冷エンジンを用いた場合の冷却がうまく働いていなかった。そのため、エンジン加熱の問題が常に付きまとった。

 そして、雷電や紫電による大型機迎撃には敵重爆の重武装という危険が付いて回った。そのため、時速七百kmに達する賛華では、エンジンの過熱、敵の砲火、さらにはエンテ翼型による鋭敏な操縦性という三十の危険が圧し掛かり、初飛行以後の開発は非常に難航し、試験時の事故も多発していた、そのため、制式採用にあたって、危険な任務を行う機体という事で華の字が使われることになった経緯がある。

 私が搭乗した戦後の型では、エンジン加熱や操縦の鋭敏さというのは鳴りを潜め、比較的安定した操縦性、信頼性を得るまでに改良が施されていた。


 完成された賛華にはさらなる改良の余地はなく、ほぼ性能は限界に達していた。そのころには多くの国でタービンエンジンの試作が始まっており、実用化も近いものと思われていた。もちろん、我が国でも。

 ただ、タービンエンジンには大きな問題があった。当時の技術ではエンジンの作動時間は数時間でしかなく、最低でも五百時間程度は保証されるレシプロエンジンとの開きは大きかった。


 そんな中でルーシが時速八百kmを超える重爆撃機の開発を行っているという情報がもたらされ、タービンエンジンの開発完了まで賛華を使用するという構想は破棄されることとなった。

 そして、賛華の設計を更に洗練させたエンテ翼型とし、時速九百kmを超えることを目指したのが吹華の開発計画だった。


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