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異能者



「存在が……消え、る?」


「ええ……言っておくけれど、"存在が消える"というのは"死ぬ"という事と同じではないわよ。だってそれは、その人が存在したという事実がこの世界から消えてしまうということ。つまり、その人とどんなに親しかったとしても、その人に関する事は全て、人の記憶、世界の記録から消されてしまうのよ」


「そんな、バカな事……」


そう笑い飛ばそうとして、失敗した。顔が引きつっていくのが自分でも分かる。


そんな最中、成瀬さんの言葉を理解しようと僕の脳は躍起になるが、理解は出来なかった。いや、したく無かった。成瀬さんの言っていることは、多分本当の事だ。それでも、その人が存在していた事すら無かった事になってしまうなど、到底認められるものではなかった。


それが本当なら、鐘月の、春介の記憶から僕に関する事が全て消えてしまうという事じゃないか。それだけじゃない。僕が通っている学校からも僕の名前が消える。生きてきた証が全て消えるのだ。


ーーーそれは、普通に死ぬよりも辛いことではないか。



そう考えると、今頃になって震えが戻って来た。今すぐにでも、へたり込みたい気分だ。しかし、流石に成瀬さんが見ている前で同じ醜態を晒す訳にはいかない。少なくとも、そう思えるだけの気概はまだあった。


「本当に……良かった」


だけど、無意識に口から出た安堵の言葉はどうにも止められなかった。


「ええ、そうね。でも、貴方はどの道『あれ』に喰われる事は無かったけれど。言ったでしょう?"見ていた"って」


「あっ……そうだ、結局それってどういうーーー」


「……話の続きをするわ」


詰め寄る僕に対して成瀬さんはそう言うと、僕に背中を向けて再び歩き始めた。多分最後まで聞けば分かるということなのだろう。




「つまりは、喰われた人間の存在自体が無かったことにされてしまうから、パニックになんてならなかったの。でもね、それを憶えていられる人もいた。それが"異能者"と呼ばれる特殊な力を持った人達よ」



うん、もう何を言われても驚かない。だけど頭の中はもうパンク寸前だ。


「えーと。それで、その"異能者"っていうのは?」


「貴方、身体から炎をだしたり、未来を予知したりとかしてる人達を映画や漫画で観たことないかしら?」


「観た事あるけど?」


まぁ、そういうのは映画なんかだと割と多い。漫画もしかり。


「それよ」


「……嘘」


「本当よ。異能がどういったものなのかというのは、また後で説明するわ。だから、今はそういうものだと納得しておいてくれる?」


「まぁ、分かったよーーーというか話の流れからすると、成瀬さんも異能者ってことだよね?」



「……ええ、そうよ」


「へぇ、何の能力を持ってるの?刀を軽々と振っていたし、凄い筋力があるとか?」


「異能者として覚醒した人は、例外なく身体能力が高くなるから能力とは別よ。………まぁ、貴方になら話しても構わないわね」


貴方になら、か。


冷静になった頭で考える。もしかすると、僕はどう足掻いても引き返せないところまで来ているんじゃなかろうか、と。


「何をそんな不安気な顔をしているの?大丈夫よ、そんなに怖いものではないわ」


「え?あ……そ、そう?それなら良かったよ」



僕の不安げな様子を見て、そう怖い能力ではないと、安心させる為にそう言ってくれたのかも知れない。能力について不安に思っていた訳ではないが、そうだとしたなら、その気持ちは素直に嬉しいことだ。



「それで私の能力だけど、それは"予知"よ」


「"予知"?それじゃあ未来が分かるっていうこと?」


「そうね。大まかにはその認識で間違ってはいないわ。ただ、数秒先の事までしか分からないから、あいつらと戦う以外で使う事なんて殆んどないわ」



にわかには信じ難い話ではあるけど、それが本当なら素人にだって戦いでは絶対的に有利だと分かる。


「……凄い能力だね」


「そんなに良いものではないわ。能力の使用は疲れるし、何よりこの能力では人の出来る事しか出来ないわ。だから、飽くまでも便利な危機察知能力と言った所かしらね」


「うーん、一般人の僕からして見れば喉から手が出る程欲しい能力だけどなぁ。というか、能力を使うと疲れるんだ?」



「ええ。だから際限なく使えるというわけではないのよ。これは人によりけりなのだけれど、個人の基礎体力の差で使用限界は変化するし、能力によってもその消費量は変化するのよ。というか貴方、意外と鈍いのね」



「……え?どういうこと?」



「さっき言った事よ。"一般人"の僕からすればーーーという所。貴方が一般人なら、私はこんなこと話したりはしないわ。貴方は"こちら側"よ」



ああ、やっぱり。僕もそうなのか。心の何処かで納得している自分がいる。分かっていたのだ。そんなこと。だけどーーー


ーーー"未だ"。まだ、認める訳にはいかない。僕にはそんなものは無い。何故なら僕は"平凡なただの学生"なのだから。


だけど何故?……何故此処までお膳立てされて、未だ認めることが出来ないんだ?


そう……僕はきっと、成瀬さんと同じ異能しーー




ーーーそんな疑問と答えはゆっくりと、自分でも気づかず内に闇へと溶けた。



「うーん……よく分からないけど、僕はやっぱり"一般人"で"普通の人"で現状なんてさっぱりと"理解出来ていないただの人間"だよ」


滑りの良い口だと、自分自身そう思った。


成瀬さんはそんな僕をジッと見つめると、「そう」と息を漏らすように返事をする。そうして、今まで来た道を引き返しはじめる。



「え?な、成瀬さん?どうしたの?」


「今日はやっぱり帰りましょう。それと、申し訳ないけどこの話は後でするわ」


「ど、どうして?」


「貴方にとって、"あの出来事"は自身の命に関わる様な出来事ではなかったからよ。良かったわね、貴方は"まだ"一般人よ。それじゃあまた学校で」


「へ?ちょっと待って!?それってどういうーーー」


ことなんだ?……と繋げようとした言葉の先に、成瀬さんはもういなくなっていた。


「何なんだよ。一体……」



取り残された僕は、頭の中で疑問が渦巻くまま途方にくれるしかなかった。










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