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予感


ふと我に帰った。先程まで遠く感じていたざわめきが帰ってくる。


何だろう、この感覚…。どうやら少し惚けていたみたいだけど、見惚れてしまっていたのだろうか。だとしたならかなり恥ずかしい。


そう思いながら前を向くと…転校生と目が合った。


綺麗な眼の筈なのだが、何故か背筋がぞわ立つ。おおよそその眼には何も映っていないように感じた。


それも一瞬…彼女が僕から視線を外す。僕は何とも言えない感情に包まれていると、転校生は(おもむろ)に黒板に何かを書き出す。とても綺麗な字でそれを書き終えると、髪を一瞬靡(なび)かせ前を向く。


成瀬(なるせ) 美夜(みや)といいます。よろしくお願いします」


「………」


「………」


「………え?終わり?」


誰かがそう呟く。その声が聞こえていたのか、


「ええ、私からは以上です」


どうやら彼女ーーー成瀬さんの挨拶は終わったらしい。何とも素っ気ない…まるで事後報告でもしているみたいだ。


「……ふむ、まぁいい。取り敢えず何か聞きたい事がある奴は後にしておけ。そして成瀬、お前の席だが……」





その瞬間、一斉に男連中の意識が先生に向く。だけどそれは男としては当然の事であるかも知れない。なんていっても美少女転校生である!皆んな自分の隣に座って欲しいに決まっているのだ!


もしかしたらそこから始まるストーリーがあるかも知れない…


……だから期待してしまう、否!期待せずにはいられない。


それに、皆んな本当だったら声高く自分の隣へ!と、叫びたい筈だ……。だが!それは出来ない、何故なら


「………」


鬼の顔している先生によるとてつもない無言の圧力が男連中を襲っているからだ。これには流石の戦士達も黙るしかない!



そんな緊迫した空気の中、先生は答えを出したようで一度頷く。


「成瀬、待たせたな。お前はあいつの隣に座ってくれ」


そう言いながら指を指した先には…


「……あ?俺の隣ですか?」


廊下側の一番端に座っていた。僕を除いては唯一争奪戦に参加していなかった、我が友の春介だった。


成る程、人選としてはある意味悪くない。春介は体格がかなり良いせいか、結構怖がられているのが現状だ。つまり、この席の決定によって暴動(文句)が起こらないとも限らないから、文句を言いにくい所に置いておこうという作戦か………うん、絶対違う。まぁ、ああ見えて春介は優しい奴だから、色々と世話を焼いてくれる筈だ。人選としては間違ってない。



「どうした間中、何か不都合でもあるのか?」


「……いや、不都合というか本当に俺の隣で良いんすか?」


「ああ、問題ない。成瀬、お前もあいつの隣で問題は無いだろう?」


「はい、問題ありません」


そう言うと、少し困惑している春介をよそに、成瀬さんはスタスタと春介の元へ歩いていく。


「……よろしくお願いします」


「あ、ああ…よろしく」


「よし!成瀬の席が決まった所で連絡事項を簡潔に言っていくぞ!」




それから、先生は10分位で連絡事項を言い終えると「お前ら!気を付けて帰れ!」と言い残して出ていった。そして始まる成瀬さんへの質問タイム。あまり話をする様なタイプには見えない人だから大変かも知れない。けどまぁ、これも転校生のサガというやつだろう。諦めてもらうしかない。


どうやらいつの間にか春介は帰ったみたいだし、それじゃあ僕も帰るかな。



*******


「お腹空いたし、何か食べたいな。でも夕飯作るのもなんか面倒だー」


現在の時刻は、もう少しで夜の7時を指そうとしている。夕飯を食べるにはそろそろ良い時間だろう。


仕方ない、今日は何処かに食べにでも行こうか。そう考えている時だった。


唐突に軽快な音楽が部屋に響き渡る。これは僕が携帯の着信音にしている曲だ。恐らく春介だろう。


テーブルの上に置いてあったスマホを手に取り確認すると、案の定春介からだ。そもそも僕に電話を掛けてくる人なんて春介と騒がしい奴と迷惑電話位なものだ。


……………。


『あぁ、もしもし。照夜お前さーーー』


「なぁ、春介…」


『飯…でも、ってどうした?』


「僕は何でこんなにも友達が少ないんだろうか」


『……は?』





電話を終えた春介と僕は、知り合いのラーメン屋さんに集まっていた。


「はい!お待たせ!」


元気な声を上げた"おじさん"が僕の頼んだ醤油ラーメンと春介のチャーシュー麺を置いていく。久し振りだけど、やっぱり美味しそうだ。


「で?電話のあれはなんだよ」


春介が呆れたような顔で、そう切り出してくる。


「あれって何さ」


うん、やっぱりここの醤油は美味いしいな。丁度こちらの方を向いていたおじさんに、親指を立てる。それに気付いたおじさんは、鼻を擦ってどこか自慢げだ。


「おい照夜、お前が電話で友達がどうのって言ってたんだぞ?ぶん殴っていいか?」


「ふざけてゴメンなさい」


例え親友の口癖がぶん殴っていいか?であるとしても、本当にぶん殴られては叶わない。


「はぁ…で、なんだ?『友達が少なくて相談してきた照夜君!』」


「ちょっと、春介!声が大きいよ!?」


そう言いながら周りを確認すると、大抵の人には夕飯時の喧騒にの所為で聞こえてはいなかったみたいだが、近くにいる人には聞こえたらしく此方を見てクスクス笑っている人も中にはいた。ここには"あいつもいる"っていうのに、とんだ大恥だ。まさか聞こえてはいないだろうな。



「おいおい、少しは落ち着いて食えよ。大丈夫だ、この騒がしさだぞ?店には出てねぇみてぇだからな。あいつには聞こえてないだろ」


「いやいや、それもあるけど!それ以前に僕はーー」

「あ!声が聞こえたと思ったら、やっぱり来てたんだね!」


その声に僕らが振り返ると、そこには明るい茶色の髪をポニーテールにしている快活な雰囲気の少女がいた。加えて言うなら、彼女は僕らの友人兼お目付役とも言うべき存在でもある。何故お目付役かと言うなら、本人がそう言っているのだから仕方ない。



しかし、この騒がしさの中で良く聞こえたものだ。これがいわゆる地獄耳という奴なのだろうーー


ーーいやいや、そんな事よりも。この状況はマズイ!このままだと絶対にーー


「よう、鐘月(かねつき)。実は照夜から友達が少ないって相談を受けた所なんだ。ちょうど良いからお前もどうだ?」


「やっぱり言ったよ!春介の馬鹿!」


「へぇ!照夜やっと私達の他に友達作りたいと思うようになったの!?」


「い、いや!別にそういうことじゃなくて!」


「よし、分かったよ照夜!この鐘月(かねつき) 晴華(はるか)に任せてちょうだい!」


「少しは僕の話を聴いてくれないか!?」


「それじゃあ照夜、隣座るわよ?」


僕の悲痛な叫びは鐘月には届かなかったようだ。




*******



「……ただいま」



鐘月の実家であるラーメン屋で、強制的に僕の友人増加計画の話し合いがあった後、僕はかなり疲労を抱えていた。


「あー、疲れた。あの2人、絶対楽しんでるよなぁ」


あの後は、盛り上がるだけ盛り上がって最終的には鐘月の「取り敢えず任せて!」という原点回帰を目の当たりにしてお開きとなった。


……僕が電話であんな事を言ったばかりに。


今となっては後の祭りだが、後悔するばかりである。


まぁ、ああ見えてなかなか良い奴らだから、本当に真面目に考えてくれていたのかも知れない。だとしても僕としては冗談半分で言っただけあって少し…いやかなり恥ずかしいのだけど。


そんな事を考えながら、風呂などの寝る為の準備を整える。壁に掛かる時計を見ると、時計の針は22時05分を指していた。


「少し早いけど、今日は何か疲れたし早めに横になろう」


そうして、明日は何事もなければいいなと思いながらベッドへと入ると、やはり疲れていたのか、すぐに意識は深い底に沈んでいった。













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