番外編 珊瑚の新しいお兄ちゃん【2】
日曜日、晴れ。
珊瑚の気持ちも晴れ。
だって、今日は翔太兄ちゃんとデートだから。
「珊瑚ちゃんはどこに行きたい?」
「珊瑚ちゃん、じゃなくて珊瑚だよ! 行くところはお兄ちゃんが決めるんだよ!」
「遊園地とか?」
「入場料高いよ? 予算は千円くらいだよ!」
「大丈夫、お金ならあるから」
「だめっ! 千円!」
昨日そう命令して全部お兄ちゃんに任せた。
さて、どこに連れて行ってくれるかな。
朝ご飯を食べて今日のお勉強を済ませるとお兄ちゃんの部屋をノックした。
「用意できたよ、お兄ちゃんは?」
「勿論準備OK。さあ行こう」
いつもお出かけは黒い車に乗ってだけど、今日はお兄ちゃんと歩いてお出かけ。
「歩いて行くよ、予算千円だから」
「うん、オッケー!」
お家を出るとお庭をどんどん歩いて行って、門を抜けて、翔太兄ちゃんと手を繋いで、ぶんぶん振って、お歌を歌って歩いた。そして着いたのは電車の駅。
「珊瑚ちゃん疲れてない?」
「ぜ~んぜん! だってデート始まったばかりだもん」
電車に乗ってガタンゴトン。
着いたのは大きな噴水がある公園でした。
「まだ水遊びには早いか。あっちに行ったら遊具もあるから」
「遊具って?」
「恐竜の形をした滑り台とか登れるロケットとか」
「珊瑚は4年生だよ。もう立派な大人だよ」
「ははは、そうだね、ごめんごめん」
ちょっとムカってした。珊瑚はもう子供じゃないのに。そりゃ瑠璃ねえやアヤねえに比べたら背も低いし胸だってちっちゃいし。でも大事なのはそこじゃないよね。珊瑚だって女の子なんだよ。学校で一番可愛いって言われてるんだから―― 見ると噴水の向こうのベンチにカップルが座ってる。手を繋いで仲よさそう。
「ねえお兄ちゃん、あっち行こう!」
お兄ちゃんの手を引っ張って噴水の横を通り抜けた。ベンチでは髪の長い女の人が男の人に何か食べさせてあげている。飴玉かな? 男の人はニコニコしながら何か喋ってる。きっと「美味しいよ、でも君の方がもっと美味しいよ」な~んてことを言ってるんだ。ああ暑い。暑苦しい。見ているだけで真夏の毛布だよ。いちゃいちゃしすぎだよ。でもあたしは、そのデレデレなカップルから少し離れたベンチに向かった。
「一緒に座ろうよ」
「あ、うん」
翔太兄ちゃんもカップルに気がついたみたい。目が点になって固まってる。でもね、あたしたちもデートしてるんだよ。ね、手を繋いで――
「手はおひざっ!」
「さっ、珊瑚ちゃんっ!」
「ああっ、もう、どうして手を離すの?」
「だって……」
「デートだよデート、翔太兄ちゃんはあたしとデートしてるんだよ!」
「あ、そうだね。そうだったね……」
翔太兄ちゃんは笑ってくれるけど、ぜ~ったい珊瑚を子供扱いしているって思った。愛さえあれば年の差なんて関係ないのに。でも、でも……
「もしかして翔太兄ちゃん、好きな人いる?」
「さあ、どうかな?」
はぐらかす気だな。もしかして、翔太兄ちゃんはアヤねえが好きなのかなって思った。翔太兄ちゃんはアヤねえのお友達で仲良しだったもん。女の勘を舐めて貰っちゃ困るな。だけどアヤねえは違う人と結婚するって言ってたけど……
「もしかして、アヤねえが好き?」
「あ、あはは…… 当たり」
「ええ~っ! アヤねえ大学生の人と結婚するんでしょ?」
「あ、うん。そうだね。だから片想い」
「お兄ちゃん、それでいいの?」
翔太兄ちゃんはこくりと首を縦に振って笑った。好きなのにそれでいいって珊瑚には分からない。両想いになれないのに好きって珊瑚には分からない。
「そんなのやめちゃいなよ。ねえ、珊瑚にしようよ。珊瑚はいい子だよ、優しいよ、あと少ししたら背も伸びてバインバインってなるよ、保証するよ」
「はははっ、そうだね、珊瑚ちゃんはきっとすっごく綺麗になるだろうね」
なんだか絶対、子供扱いされてる。
「次行こうよ、次!」
もっと大人の場所に行きたい。
珊瑚は翔太兄ちゃんの手を引っ張って駅に歩いて行きました。




