番外編 珊瑚の新しいお兄ちゃん【1】
番外編、大変遅くなりました。
実はまだ書き上げてませんけど、数話程度で完結になる予定です。
是非是非お楽しみください。
番外編
珊瑚の新しいお兄ちゃん
お兄ちゃんが、本当にお兄ちゃんになった。
「今日からお世話になります。よろしくね、珊瑚ちゃん」
だって。
ビックリしたも~。
だってそのお兄ちゃんは珊瑚の家庭教師の先生で、違うお家に住んでいて、珊瑚にとっても優しくて、珊瑚がとっても大好きな翔太兄ちゃんだったから。
ひとり暮らしをしていた翔太兄ちゃん。
時々寂しかった翔太兄ちゃん。
時々困っていた翔太兄ちゃん。
珊瑚が「妹になってあげる」って言ったから本当にお兄ちゃんになってくれたんだ!
だから珊瑚はお兄ちゃんに抱きついた。
「本当にお兄ちゃんになってくれたんだ! ありがとう、翔太兄ちゃん!」
今思うと珊瑚は、ちょっとだけ勘違いしてたけど、でもでも、凄く嬉しかったんだ。
翔太兄ちゃんは珊瑚が思っていた通りに優しくって面白くって、でも楽しくなさそうだった。
だから珊瑚は考えたんだ、翔太兄ちゃんを大大大歓迎しようって。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翔太兄ちゃんのお部屋は2階で一番奥にある「音楽のお部屋」だ。
パパが時々ひとりで音楽を聴いていたお部屋がお兄ちゃんのお部屋になったんだ。
「お兄ちゃん、入っていい?」
「どうぞ」
お兄ちゃんは奥の机に座ってお勉強していた。
お部屋にはお兄ちゃんが持ってきたベッドと本棚と小さなお仏壇。あとはパパが使っていた黒いソファーとおっきなスピーカー。
「お兄ちゃんっていつもひとりでお勉強してるね」
「受験だからね。仕方ないよ」
「寂しい?」
「ははっ、寂しくないよ。だって珊瑚ちゃんが遊んでくれるから」
珊瑚だってバカじゃない、だからホントは翔太兄ちゃんが寂しいって知ってる。ゲームないし、お友達と遊んでないし、瑠璃ねえには敬語使ってるし、翡翠ねえなんかお兄ちゃんを無視する。
「珊瑚ちゃん、じゃないよ、珊瑚だよ! 瑠璃ねえも翡翠ねえも「さんご」って呼ぶよ!」
頭をかいて謝るお兄ちゃん。ごめんって。
「ごめんも禁止!」
「すまんすまん」
「すまんすまんも禁止!」
「……」
黙っちゃった。
珊瑚はお兄ちゃんのところに歩いていって教科書を見た。難しそうな英語が並んだ算数の教科書だった。すっごく疲れそう。
「お兄ちゃんは、何が好き?」
「好きな教科は、理科かな」
「違う違う、お勉強のことじゃなくって」
「えっと…… 焼き肉?」
「食べ物じゃなくって、ゲームとか遊園地とかコンサートとか?」
翔太兄ちゃんは、少し考えた。
「う~ん、難しいなあ。本を読むこと、かな」
「それお勉強じゃん!」
いつもはとっても面白い翔太兄ちゃんだけど、きっと楽しい遊びとか遊園地とか知らないんだ。
「じゃあ旅行は? 豪華列車に乗ったでしょ? どうだった? 凄かった?」
「あ、ああ、あれね。あれ、実は乗ってないんだ」
「乗って、ない?」
「うん、知り合いにあげちゃったんだ、チケット。ごめんね」
「ええ~っ!」
珊瑚がビンゴでゲットした豪華列車のチケット、せっかく翔太兄ちゃんにあげたのに。
ひどいったらひどい。でもお兄ちゃんが必死に謝るから、優しい珊瑚は許してあげることにした。
その代わり。
珊瑚は翔太兄ちゃんと約束したんだ。
「明日、珊瑚とデートしよう!」




