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◆ 4話 ◆
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
買っちゃった、訪問着。
一条家の家紋も入れるんだって。
暫くは形だけ、って話ではあるけれど、いよいよ綾名は嫁ぐんだ、と言う現実を目の前に突きつけられた気分。明日は一条家へご訪問。弘庸さまは婚約指輪を買いに行こうって言っていた。
婚約指輪。
左手の薬指をじっと見る。
ここに誓いの輪っかが填まるんだ。
綾名は彼と永遠を誓うんだ。
母の婚約指輪は小ぶりなダイヤのゴールド、お兄さまのお家で見た指輪はシンプルなプラチナ、色々思い描いてみるけれど、欲しい指輪なんて思い浮かばない。だけど、そんなことじゃダメなんだ。がんばれ綾名! いつでも笑顔でいよう、そう思ってきたじゃない。弘庸さまだっていい人じゃないの。わたしはとっても幸せ者なんだ。だから笑顔でいなくっちゃ。だから笑っていなくっちゃ。涙なんか、泣いたりなんか……
ねえ、どうして頬が濡れるのよ。




