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◆ 2話 ◆

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「久しぶりねアヤ」


 前触れもなく、瑠璃が我が家に押しかけてきたのは一条さんと会う日の午前だった。

 堂々たる上から目線で見下ろし言い放つ金髪の少女。


「ホント、久しぶり! でも、どうしたのよ突然」

「抜き打ちの家庭訪問よ」

「家庭訪問?」

「アヤ、最近元気ないでしょ?」


 えっ?

 確かに最近みんながそう言う。

 努めて明るく振る舞っているはずなのに、瑠璃にまでバレていたなんてちょっとショック。確かにこのところ夜はなかなか寝付けないし、授業中も悪いことばっかり妄想して先生の言葉も入ってこないし、大好きなチョコレートケーキも砂のように味気ない。どうせ何を食べても美味しくないんだったら無理して食べなくてもいいんじゃないかと、ひとり密かに「落ち込みダイエット」を実施中なのだが、それが裏目に出たのか? 今朝も鏡を見てほっぺたがスッキリしてきた、と喜んでみたんだけれど……


「ちょっとダイエットしてるから、そう見えるんでしょ?」

「それは、やつれてるとか、衰弱してるとか、死にかけてるって言うんだわ」

「いきなり殺さないで!」


 でも、しっかりバレてる。ゴージャスの君、侮りがたし。

 しかし、そんなことを考えるわたしに瑠璃はこっちが本題、とばかりに思いがけない事を喋り始めた。


「青柳さん、もしかしたら珊瑚のカテキョ、やりたくないんじゃない?」

「えっ??」


 どうして?

 絶対いい話だってお兄さまも喜んでくれたのに!


「なんだか突然乗り気じゃなくなったみたいね。契約もまだだし土曜日も珊瑚が来てと言っていたのに来なかったし」

「そんなことある訳な……」

「あるのよそれが。まあわたしはどっちでもいいんだけど」

「よくないっ!」


 大声を上げてしまった。

 テーブルに手をつき立ち上がったわたしをニヤリ口角をあげて見上げる金髪の姫君。幸い、熱い紅茶が入ったティーカップもクッキーの入ったお皿もカタンと揺れただけですんだけど、どうやら私の反応は織り込み済みだったみたい。


「わたしお兄さまに電話する。今すぐに瑠璃のお屋敷に行くように言うから!」


 客間の棚から充電中のスマホを取ってくる。お兄さまへ通話すべく操作を始めると瑠璃は落ち着き払った低い声で。


「ちょっと待って。私の家の都合はお構いなしなの?」


 そりゃそうだ。ちょっと慌てちゃった。てへっ。

 ごめんね、と詫びる綾名に、瑠璃花は盛大なため息をついた。


「今日は日曜日、4時以降なら珊瑚も家にいるし私も戻ってるから大丈夫よ」


 ぶっきらぼう且つ上から目線で曰うゴージャスな金髪。綾名は早速お兄さまをコールした。


 1回、2回……

 電話のコールを聞きながら、あの日、お兄さまと別れた時の記憶が蘇る。あれ以降お兄さまとはお話しもしていない。学校でぺこりと会釈したことはあるけれど。綾名は嫁いでいく身。意識的に距離を取った。だからコールを聞きながら「こんなことしていいの?」と戒める自分がいる。


 4回、5回……

 でもやめられない止まらない。


 7回、8回……

「あ、わっ、はい青柳です」


 お兄さまったら何をしていたんだろう? いかにも慌てて電話を取りました、って感じ。


「綾名です。今いいですか?」

「あ、うん勿論」

「瑠璃に聞いたんですけど、珊瑚ちゃんの家庭教師の件で……」


 いま聞いた話をして問い詰めると、お兄さまは妙なことを言い出した。


「契約はさ、気持ちの整理がついてからにしようと思うんだ」


 えっ、何その気持ちの整理って? 綾名には分かりません。でもやらない訳じゃない、とも言うし。今すぐ、って急かす私が悪いのかもしれないけど、でも絶対いい話だから約束よ。今日の4時なら瑠璃と珊瑚ちゃんが家にいるから、って言って通話を切った。お兄さま、何か心配事があるのかしら……


「ああもう、なんか煮え切らないわね!」


 話を聞いていた瑠璃はプンプンして自分のスマホを取り出した。


「あ、青柳さんね。さっきアヤから電話あったでしょ? ………… アヤは心配してるのよ! ………… だから貴方の都合なんてどうでもいいの! 4時に待ってるわ ………… 貴方に選択権はないの! 僕の自由? そんなのポチが食べました! じゃあ分かったわねっ!」


 なんだか強引に押し切った、と言うか寄り切った、と言うか、押し倒したみたいだけど。


「今日うちへ来るって。だからアヤは心配しないで。それから、ご飯はちゃんと食べなきゃダメよ。痩せすぎは私の敵よ! もっと太りなさい!」


 命令口調で言い残した瑠璃は、ゴージャスに金髪を揺らしながら嵐のように去って行った。



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