◆ 4話 ◆
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃。
松友のお屋敷から帰った翔太はA4大の封筒を開けた。
中からは何枚かの書類、家庭教師の条件と契約書だ。
条件は驚くほどよかった。友達に知れたらどんなに羨ましがられるか。だから学校では絶対に黙っていようと思う、それくらい凄い条件。そして何より驚いたのは契約期間。高校卒業までの分と大学合格時に取り交わす4年契約。途中クビにはならないらしい。ちょっとあり得ない。学者先生、もとい松友グループ会長・松友弥太郎は凄く好意的に接してくれた。面接を終えて話をしたゴージャスの君ですらこの条件には驚いていた。
「今来ている先生よりいいわよ。あ、金額じゃなくってその4年契約とかの条件。父は結構厳しいから結果が出なければあっさり交代させるのよ」
それもこれも綾名が珊瑚ちゃんを味方に引き込んでくれたお陰みたいだ。
本当は大学に入ってからと言う話が高校在学中からになったのは、珊瑚ちゃんの強い希望らしい。松友の会長も可愛い末娘には敵わないと言うことか。
と、携帯が着信を知らせる。
トゥルルルルル
「あ、お兄さま! 綾名です。おめでとうございます! 凄いですね、一挙複数年契約ゲットとか!」
一気にまくし立てた綾名、翔太の面接結果をゴージャスの君経由で聞いたらしい。
「これで来年は晴れて大学生ですね」
「いやまだ合格してないし、ってか受けてもないし」
彼女は自分のことのように大喜びしてくれた。
そうして次の日曜日に翔太の採用祝いをしようと言い出した。
場所は翔太の狭いアパートで。
翔太は彼女へのお礼の気持ちも込めて美味しいケーキを食べに行こうと誘ったけど、彼女は昼まで用事があるとかで、2時頃にうちに来るという。翔太はケーキを買って待つことにした。
次の日曜日と言えば。
綾名は知っているのだろうか、その日が宝くじの抽選日だってこと。
机の前に貼り付けてある2枚の宝くじ、初めてのデートの日、ふたりで一枚ずつ買った宝くじ。このくじに当たれば翔太は大学に進める、そんなことを言って綾名はくじをここに貼り付けた。でも翔太にはもう宝くじがなくても大丈夫、それもこれも全部綾名のお陰だ。
そしてこの宝くじが当たったら。
綾名は僕の恋人になってくれる、そんなことを言った。そしてこのくじは必ずや当たるのだとも。でも翔太はその真意をいまだ推し量りかねている。彼女はくじが本当に当たると信じているのか、それともそう言うことで自分の、そして翔太の心を平和にしようとしているのか。だけど翔太にはこのくじが本当に当たる気がしていた。だって綾名がそう言うのだから……
そんなこともあって、その時の翔太は考えることをしなかった。
この宝くじが万が一にも外れたときのことなど。




