◆ 5話 ◆
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翔太の返事にはにかんで頭を傾げた。
「ありがとうございます。宜しくお願いしますね」
綾名はポテトサラダを一口食べると今日の出来事を話し始めた。駅前のスーパーMは春日家近くのKスーパーよりパンとか牛乳は安いけどお菓子やアイスは高めなこと、レンタルビデオ屋で中古のコミックスが安く大量に出ていて、お兄さまが好きだって言ってた本もあったこと、キャベツと男爵いもとタマネギを八百屋さんで買って値切ったら半額にしてくれたこと。そんな取るに足らない話ばかりだけどお兄さまは驚いたり笑ったり感心したり、楽しそうに聞いてくれて、もしかしたらこう言うことが恋なのかも。綾名はそんなことを考えながら。やがて楽しい食事が終わると、綾名は瑠璃花に連絡を取った。
今日は瑠璃の家に泊まるってことにして!
口裏合わせ宜しくね。
(スマホで送信、っと。これでよし!)
心の中で呟いて。綾名は翔太の横に立ち一緒に皿洗い始める。
「日曜日の話、聞きました?」
「ああ、ゴージャスの君が日曜日は空けとけって。さもなくば「くりいむぱん」が爆発するって」
「くりいむぱんが爆発炎上?」
「いや、炎上はまではしてない」
綾名はふふふっと笑いながら日曜日の話を始めた。
「日曜日は是非ともお兄さまにも来て欲しいんです」
日曜日は瑠璃花の家でホームパーティをする。
パーティーは瑠璃花の友達を呼んで彼女の高校入学を祝うという名目だけど、ホントは綾名にお金持ちの御曹司を紹介しようという魂胆のパーティーだ。昼前からランチもかねて。3時には解散する予定。「気に入った人がいたら夕方からデートをしてらっしゃい」などと瑠璃花は言ったけど、そこは敢えて翔太には教えなかった。
「で、どうして僕が呼ばれるの?」
「だってお兄さまは綾名のお兄さまでしょ?」
「いや待て、その関係はそんな場じゃ通用しない」
「うふふっ、大丈夫です! お兄さまは瑠璃と仲良しのお友達って設定にしますから」
「何その設定って?」
「だって、そうじゃなきゃお兄さまも居心地悪いでしょ?」
綾名の結婚相手を探すパーティー、参加資格は1億円の結納を支払えること。残念ながらお兄さまにはその資格はない。だけどお見合いの席を見届けて欲しくって綾名は必死に粘った。翔太の参加に難色を示す瑠璃花を強引に説き伏せて参加を認めさせた。だって一緒にいて欲しいから。お兄さまがこの人なら、って言う人じゃなきゃイヤだから。
「どうしてそこまでして僕に?」
「お兄さまだからですっ!」
少しふくれた綾名はしかし、皿洗いを終えるとすぐに神妙に頭を下げた。
「無理ばっかり言ってごめんなさい」
「あ、いや、いいよ。だって兄妹だもんな」
「はいっ!」
「しかしさ……」
翔太が何か言うのを着信音が妨げた。
ちょうど皿洗いを終えた綾名は慌ててスマホを取り出す。
「ああアヤ、今どこにいるの?」
「ふふふっ、それは秘密です」
「青柳さんのお宅ね」
「……どうしてわかるの?」
「バカじゃないから!」
あっさり通話は切られた。
お茶の準備をする翔太は綾名と目が合うと。
「どうしたの? 誰からだったの?」
「瑠璃からです。あの、ですね、お兄さま」
「ん?」
「今日はその、ここに泊めて貰えませんか?」
「あ、うんわかっ…… って、えええええ~っ?」




