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◆ 3話 ◆

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 やっぱり! と綾名は思った。

 お兄さまは小説家になって進学の夢を叶えようとしている。綾名がそう推理した根拠はいくつかあったが一番の理由は翔太の小説が某出版社のネット小説賞にノミネートしていたこと。もし自分がお兄さまの立場だったら…… そう考えた綾名はピンと来た。


「そこまで考えるなんて、尊敬します」

「たははは…… でも実際はご覧の通りさ。人気は全然ないしブックマークもさっぱりだし、とほほほほな状態さ」


 翔太は文章も上手くないしストーリーもありきたりだしギャグだって冴えないし、小説家になるなんて夢のまた夢だと言う。もし奇跡的に今すぐ人気が出たとしても書籍になってお金が入る頃にはとっくに高校を卒業していて時間的にも手遅れ、と半ば自嘲気味に笑う。


「でも、わたしは素晴らしいことだと思いますよ。綾名は応援します!」


 現実は確かに厳しいのかも知れない。だけど頑張っていれば誰かが声を掛けてくれるかも知れないし凄くいい条件に出会えるかも知れない。だから頑張ってと綾名は願う。勿論純粋に「大好きなお兄さまが書いたお話が読みたい」って気持ちも大きく働いているのだが……


 綾名はキャベツを剥き終えると手を洗い居間に置いたボストンバッグを開けた。そしてたくさんの文庫本を取り出す。


「そうそう、これデートの時にお話しした小説です。他にもいくつか持ってきちゃいました」


 綾名は約束した『マリアさまに恋してる』全30巻を翔太の勉強机に積み上げる。どれも少女マンガ風の表紙が可愛い過ぎて、男の人には少し抵抗があるかも知れないけど気にしない。その横にはその他の小説を積んでいく。こちらの半分は淑女小説とでも言うべきもの。『御曹司は意地悪がお好き』とか『結婚から始まるラブストーリー』とか、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけエッチなヤツ。


 翔太は手前の一番上に積まれた「結婚から始まる……」を手に取った。


「あ、それ、展開がとっても面白いんですよ、最初からクライマックス! みたいな。淑女向けですけどそんなにエッチじゃありませんし」


 先手を打って言い訳する綾名。それは綾名が一番最近読んだ本。本屋さんで冒頭のとても短いプロローグを読んで物語の世界に引き込まれ、思わず衝動買いしまった。ただし「花嫁衣装が大胆にはだけた女性を後ろから抱きしめるイケメン」が描かれた表紙は見るだけで赤面もので綾名は買うのに少し躊躇したけど。


「ありがとう、こんなにたくさん。重かっただろ?」

「いいえ、全然。テニスで鍛えてますから!」


 本当はすっごく重かった。一冊100gでも50冊あれば5kg。勿論その他のものも入っているしカバン自体の重さもある。綾名はそのカバンを持って買い物をしたり商店街にお兄さまの姿を探したり、1日中歩き回ったのだ。


「ありがとう、これ勉強になりそうだよ。遠慮なく借りるよ」

「よかった。じゃああとでお兄さまの新作も見せてくださいね!」


 綾名はにこりと笑顔を見せるとまた厨房へと戻っていった。




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