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◆ 2話 ◆

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 気の合う仲間とのカラオケはガンガンのアゲアゲに盛り上がった。


 翔太たちが店を出たのはフリータイムが終了する夜7時前。仲間と別れてママチャリに乗って家路についた翔太は鼻歌交じりでペダルをこぐ。なにしろ晩ご飯に思い悩むことがなくなったのだ。こんなにラクチンで気分がいいことはない。炊飯ジャーのセッティングは済ませてあるから、あとは家に帰って好きなレトルト食品を温めるだけ。今日友達に聞いた話では、松友食品の本格レトルトシリーズは本当に本格的らしく、味も量も、そしてお値段も本格的なのだという。それが1年分と称して山ほど家にあるのだ。鼻歌も出ようというものだ。

 明日の朝食も綾名が作ってくれたカスタードクリームが残っているし、牛乳だけ買って帰れば完璧! ノンアルコールでも気分よく翔太が駅前のスーパーMに寄ろうと思ったその瞬間、上着に入れていた携帯が鳴った。


「……綾名?」


 着信画面を見て慌てて通話を開始する。


「お兄さまですか! ああ、よかった! 今どこに?」

「帰る途中だけど」

「じゃあもうすぐ戻るのですね。お待ちしてます」


 通話を切って携帯の着信履歴を見た翔太はびっくり仰天! 昼過ぎから何度も何度も綾名からの着信が入っているではないか。そう、何度も何度も何度も何度も、その上メールも何通も。




 今日お伺いしていいですか?


 今どちらですか?


 何時くらいに帰りますか?




 そんなメールが何通も!

 カラオケで盛り上がっていて全然気がつかなかった。


「綾名!」


 翔太はスーパーMに寄るのを取りやめ面舵いっぱい全力全開でペダルをこぐ!

 家まで2分を全力失踪…… じゃなくって全力疾走!


「はあはあ…… ご、こめん綾名!」


 日も暮れたアパート前の街灯の下、春らしいベージュのブラウスに身を包む綾名は安心したように胸をなで下ろすポーズをした。


「こんばんは、お兄さま! 返事があまりにないので何か悪いことが起きたんじゃないかって心配しましたよ」


 軽く笑いながらそう言う綾名の足下には大きな茶色のボストンバッグ。


「いつから待ってた?」

「全然待ってませんよ。さっきまで公園にいましたから」

「公園って、やっぱり待ってたんじゃないか!」

「かもです」


 綾名のお屋敷はここから歩いても15分。家で待ってから来ればいいものを、彼女の手の大きなボストンバッグがそうはできない理由を匂わせていた。翔太は急いで玄関を開けると綾名を迎え入れる。


「今日はロールキャベツをと思って用意したんですけど、今からだとちょっと時間が」

「そんなの悪いよ。ほらこんなに本格高級レトルトシリーズもあるし……」


 言いかけて翔太は言葉を止める。残念そうに翔太を覗き見る綾名の手元には白いスーパーの袋にキャベツやら挽肉やらが入っている。


「えっと、やっぱりお願いしていい? 時間は気にしないからさ」

「はいっ! 台所お借りしますねっ!」

「僕も手伝うよ」

「それよりもお兄さまは小説の続きを書いてください。わたし、早く読みたいです」


 翔太が現在連載中の小説は既に書き終わっていた。あとはネットにあげるだけ。現在は新作の書き始めで「あーでもないこーでもない」と悩んでいるところだ。翔太は隠さず綾名に話をすると、だったら新作を書いてくれと言う。そうして、キャベツを綺麗に剥きながら驚くことを言い出した。


「瑠璃に聞いたんですけど、お兄さまは進学を諦めてないって、ちゃんと考えがあるって」

「あ、うん。まあうまくいけば、なんだけど」

「それってもしかして、その小説じゃありません? 賞を取ったり人気が出て書籍化されたりとかして、小説家になってお金を稼ごうって考えてませんか?」


「あ…… 図星」




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