◆ 1話 ◆
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
指定の場所に辿り着いたのは約束の7時ちょうどだった。
「遅い!」
明らかにお怒りの声。
待っていたのはゴージャスな金髪に目鼻立ちハッキリな、今にも「オーホッホッホッホ」と高笑いを始めそうなな超美形のお嬢さま。彼女は翔太を一切無視して綾名の前に仁王立ちした。
「遅いアヤ!」
「ごめん瑠璃、でも時間通りでしょ?」
「でしょ、じゃないわ! アヤは私に隠してたわよね! ちゃんと説明してちょうだい!」
「あ、あはは、隠してたって、学校のこと?」
「そうよっ! この私に無断で学校辞めるなんて許されるとお思いっ?」
腰に手を当て上から目線で綾名に噛みつく金髪の少女。
彼女は綾名がみんなに黙って学校を辞めたことを責め立て始めた。心配掛けたくなかったからと綾名は弁明するけれど彼女の怒りは収まらない。ひとこと有ってもいいんじゃないか? 誰より「わたくし」に言わなかったのは道義的にも気分的にも形而上的にも許されない行為だと断罪する。形而上的って何、と言う質問さえも許されず防戦一方の綾名は完全にサンドバッグ状態。翔太もその烈火のごとき連続口撃に口も挟めず唯々オロオロするばかり。
「だいたいね、向日葵様がいなくなったらみんな泣くわよ! みんな悲しむわよ! 学校がお通夜よ! そうそう、嶺花会役員はどうするのっ! お姉さま方もみんな向日葵様が来るのを楽しみに待ってるのよ!」
「ゴージャスの君さえいれば大丈夫でしょう?」
「ゴージャ…… って、その二つ名は言わない約束だわ!」
「瑠璃だって約束破ったじゃない、向日葵…… とか」
赤面する綾名を見ながら翔太は思う。ソレイユ、フランス語で向日葵を指す言葉。いや、向日葵と言うより「太陽」と言うニュアンスが近いか、ともかく綾名にぴったりだ。いつも笑顔で明るくて、傍にいると楽しくて。
「だって、向日葵様、は褒め言葉だわ」
「ゴージャスの君だって少しは褒めてる、かもよ?」
「ふざけてますのっ!」
翔太は目を白黒させるしかなかない。話について行けない。
「だってその髪、どう見てもゴージャスだもん……」
「この金髪は地毛なの! 巻き髪だって癖毛だからだし!」
このままじゃ埒があかない。
「胸だってボンボボンッってゴージャスじゃない?」
「だからどうしてゴージャスって形容詞なわけ?」
「だってゴージャスだから……」
翔太は思い切って声を掛けた。
「まあまあまあ…… あの、さ。ともかく店に入らない?」
「付き人は引っ込んでらっしゃい!」
「付き人……」
「瑠璃、失礼よ! この方はわたしのお兄さまよ!」
「はへえっ? お兄さま?」
「そうよ、お兄さまよ!」
こうして。
やっと嵐の叱責が止まった。
ゴージャスの君は大きなボストンバッグを抱える翔太を綾名の付き人だと勘違いしていたらしい。彼女は自分の非をわびるとクールダウンする。そうして、やっとのことで3人はファミレスへと入っていった。




