◆ 4話 ◆
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時間は容赦なく進んだ。
アニメショップを出たふたりはゲームセンターに入りクレーンゲームの景品をあれやこれやと見て回った。巨大な箱のお菓子や大きく丸々としたぬいぐるみ、そうして人気アニメの美少女フィギュア、ふたりは競走馬のぬいぐるみの前で長考したけど、他の人がプレイするのを見ると取るのは簡単ではなさそうで、結局一度もプレイしなかった。ゲーセンを出ると次は「大人の歓楽街」をアテもなく歩いた。ちょっと一杯の飲み屋では真っ昼間からおじさんたちが大声を上げている。寿司屋、焼き肉屋、イタリアンレストラン、串カツ、ラーメン、洋風なパブ、そして時間幾らのホテル。ふたりがホテルの料金案内板の前で赤面し、そそくさと去っていったのは言うまでもない。ごみごみとした歓楽街を後にすると大きな河を渡り近代的な高層ビルへと着いた。上層階に上ると眼下に広がる都会の街並み。あれがわたしの中学校、こっちは僕がよく遊んだ公園、向こうに見えるが新しく出来た高級ホテル、あれやこれやと花が咲いた。お金はなくても贅沢な時間、ふたりの顔は満ち足りていたが、時計を見るたびに哀愁の色を帯びてくる。
「そろそろ帰ろうか。今晩はお泊まり会なんだろ」
「どうして時間は進むのでしょうね、止まればいいのに!」
少しの間を置いて小さく頷いた綾名、小さな手が翔太の手に触れる。
どちらともなくぎゅっと握りしめ、それからゆっくりと歩き出す。
駅へと続く帰り道、ふと見ると派手な看板の小さなお店。
宝くじ
一等前後賞合わせて7億円
もしこれが当たったら……
翔太はちらりと綾名を見る、彼女も彼を見上げていた。
「買ってみようか」
「当たったら、綾名を一億円で買ってくれますか?」
「えっ?」
雑踏から音が消え去り、周りの景色が止まった気がした。
首を傾げじっと微笑む少女に「うん」と肯きかけた翔太は思い直す。
おかしい。
そう、そもそもその前提がおかしいんだ。
綾名を買う?
1億? 7億? 1000億?
違うに決まっている……
「違うだろ、当たったら半分こ。だって僕と綾名は兄妹なんだろ? だったら半分こ」
「お兄さまっ!」
綾名は繋いだその手を引っ張って、そして腕を絡めてきた。
「じゃあ、綾名が当たっても半分こ、ですね」
「そうだね」
ふたりは1枚300円のくじを1枚ずつ買った。
宝くじって連番の10枚単位で買うケースが多いのだが、そうはしなかった。
奮発して買おうとした翔太を綾名が止めたのだ。
「当たるときは1枚でも当たります。外れるときは何十枚何百枚買っても外れます。だったら1枚にしましょうよ。もしここにマリア様がおられてわたしたちに微笑んでくださるのであれば、1枚だって微笑んでくださるはずですから」
本当のところは「どうせ外れるんだから」と思ったのかもしれない。それとも本当にマリア様のご加護があると信じているのだろうか。綾名の心は分からない。でも、何となくだが翔太には後者のように思えた。
「これで綾名は救われるのですねっ!」
冗談めかして笑う彼女に翔太は小さく肯いた。
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作者謹白




