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みー6 頭に入らない説明

 むかし、むかし。関白様が日本全国の地図を作って持ってくるよう、大名様たちに指示しました。陸はともかく、海は艪の続くまでというので海沿いの大名はずいぶん困ったそうです。

 その時たまたまかなり南のほうに人の住む島が発見されました。海流の関係で日本からのみ、必死で狙うか奇跡の偶然が山ほど重なるかしないとたどり着かないような島です。

 住人は日本から流れ着いた漁師たちともともと住み着いていたものたちとの混合で、本土とほとんど同じ文化を持っていました。それがこの島です。

 島には王様も武士もその他諸々偉い人がいませんでしたが平和でした。大名はこの島の地図も作って、二重ヶ島と名前も付けて関白様に持っていきました。

 本当なら本土との行き来が始まり島のことが知れ渡るところですが、そうはなりませんでした。

 どうもこの時居合わせた人に「その島は隔離したままにして、国も何もない状態の人間がどうなるのか観察したほうがいい」と言われたらしいです。社会実験ですね。

 その後関ヶ原の戦いに勝利したのちの将軍が天下を取ります。彼もこの島を知りますが、誰かに進言されたのかどうなのか、島は放っておくことにしました。

 独特の文化が育まれたりしそうですが、漁師が流れ着いて居残ったり噂を聞いた農民が逃げ込んだりすることが多かったためほぼほぼ日本のままです。

 さらにそのあと、幕府がなくなって明治新政府ができます。今度は西欧の政治思想を試してみたかったらしく、お触れを出して島はほとんど放置することにしました。列強に取られないように意図的に日本人を送り込んだようです。

 戦争が起きた時もやはり放置でした。というか、忘れられていたのかもしれません。

 島がもう一度注目されるのは敗戦後です。今度はGHQが発見しました。うっかりアメリカになるところでしたが、そこそこ先進的な文明があるにもかかわらず政府のようなものを持たない島というのが面白かったのかやっぱり放っておくことになりました。

 政府がなかった理由ですがたぶんいらなかったのではないでしょうか。この島は常夏でいつでも26度以上あり、海産物も豊富でヤシの木もあるので年中食うに困りません。

 台風もたまにしか来ないし、災害もなかったんですね。日本から伝わらなければ服飾などの技術もなかったのではと思われます。

 とはいってもあるものはあります。最近の気候変動で海流が変わったらしくてそこまで必死に狙わなくてもつくようになりました。人工衛星の技術が向上して島が上から見えました。

 で、少なくともアメリカと日本は知っていますが、つまりほかの国は知らないというわけで、世界から納得のいく説明と新たな市場の開放を求められました。

 領有権をどこぞの国に主張されたりしたけども、この島は今日本に含まれています。人権団体とかが騒いだけども、相変わらず社会実験は継続され、法律の適用されない一部地域になっています。

 タックスヘブンならぬロウヘブンということであちこちのマフィアがこの島の住人『やくざ』として住み着いています。こうなってくるとさすがに治安が悪くなってくるので自警団と警察屋が設置されました。

 やばかった時代もあったようですが今は美しい共生関係が作り上げられ、この通り南の島なので観光地としても人気を集めています。


 本当に長かった。寝ずに聞いたみーは偉いとわれながら思う。でも頭の中に残った情報は「ほったらかされていた」「最近出てきた」「無法地帯」の三つだけだ。

 トシの心は動きを止め、9も何か関係のないことを考えていた。オタク。オタクかあ。今後警戒しよう。

「だらしないなあ」ひじりがふんっと鼻で笑う。「僕はさわりのところしか話していないのに」

「さわりだけで十分デス……」

 本当にとんでもないところに来てしまった。テレビ見ながらご飯食べたりのんびり通学路を歩いていたりしたあの頃が懐かしい。だってあれでしょ、通学路のんびり歩いてたら銃撃されたりするんでしょ。テレビで見た。

 ヨーロッパか中国のどこかの国だ。

「テレビなんかないよ。この島の報道機関は新聞とラジオしかない。それも磁場の関係で島外からのはノイズばっかりだ。

「娯楽が少ないから事件が起こると野次馬がいっぱい来る。規制線を越えちゃって威嚇射撃からの銃撃戦なんて笑えない結果もあるぜ。それを追い返すのも探偵団、というより9の仕事だ。9が言えば散る」

「9ちゃん偉い人なの?」

 振り向いた先の9はどこか子供らしくない笑みを浮かべていた。彼女が何かを言う前に、ひじりが口を開く。

「いいや。この島に偉い『人』はいない。9は人じゃない」

「え?それって……」

 聞き返そうとしたその時、自警団の人が来た。鑑識作業が終わったからもう入っていいらしい。三人はすぐ隣で話を聞いているが、みーは全然聞いていなかった。でも頭の中はおじさんでいっぱいである。

 おじさんの死体はもうどこかに持ち出された後で、シートに血の跡と白い線とあと何か気配のようなものが残っている。

 ここで死んだ。この隣に座っていた。みーが寝ている間におじさんは死んだ。別に思い入れはないし、何かができたとも思えないが、何もできなかったとも思えない。

 特にみーは超能力があるのだから。

 念動力でモノを動かすことはできない。だけどせめて起きていれば、その瞬間おじさんの心に急を知らせ起こすことができたかもしれない。起きていればおじさんは抵抗できたかもしれない。そうしたら死なずに済んだのかもしれない。

 あのおじさんには子供はいなかったみたいだけど、お父さんやお母さんはいたはずだ。その人たちは悲しまずに済んだのかもしれない。そう思うと今更悲しかった。目を閉じて、白い線の人型に、おじさんがいた辺りにそっと手を合わせる。

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