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みー2 魚市場にて

 まったりー。

 みーはいい子だから目覚ましがなくても毎朝大体決まった時間に起きる。

 七時くらいである。いつも通り早起きしたら隣のスーツのおじさんは首にナイフを生やして死んでいた。テレパ子でも寝ている間のことはさすがにわかりようがない。びっくりしてキャーッと叫んでしまった。

 どう見ても他殺だ。死んだおじさんというのはみーを立原のおばあちゃん家に送るためついてきた裁判所の人である。正しくは弁護士さんの部下だったかもしれないが、どっちも裁判所にいるんだから同じだろう。

 とにかく、これでまた被告人に逆戻って、証言台にさかのぼることになるなあ。また行かなきゃいけないかなあ法廷。続くのかなあ公判。

 しかしおそらくおじさんはみーのせいで死んだと思われるわけで、にもかかわらずその事実に対してそれほど良心が痛まない。いい子だったらそこは痛んでおくべきところだろう。どうも憂鬱な気分だ。

 それから一時間、もう島のほうが近かったためみーは島についていた。

 船は港に繋がれて、乗っていた人はみんな近くの魚市場に集められている。灰色のコンクリートの大きな建物だ。

 魚はもう売れてしまったのだろうか、血の跡や発泡スチロールの欠片が濡れた床に転がっているばかりだ。七月じゃ、氷はもうとっくに融けてしまっている。

 朝ごはんは抜きになっているが、みー含めて食欲のある人はいないからだれも何も言わない。

(それにしても暑いなあ。シャワー浴びたい)

 良心が痛まないのはみーだけではないようだが、だからって安心できるものでもないだろう。みんなは殺されたおじさんと関係がなかったし、たまたまみー以外悪い人ばっかりってこともある。

(やった!死んだ!死んだぞ!あいつが死んだ!ざまあみろ!)

 ほら、この人みたいに。

 心が読めなかった時を考えても(みーは自分が普通じゃないことを知ってからは『普通』の感覚を理解すべくいろいろと考えている)、乗員乗客しめて37名のうちひとりが殺人犯なのは間違いない。

 ほかにもちょっとやそっとくらい悪い人がいるはずだ。どの人も頑張って覗けば、心の奥に隠しているイメージのようなものが現れる。

 ただ……若干小学生のみーにはわからないイメージもいくらかあった。いいことか悪いことかのジャッジはやめておこう。思い込むことはステレオタイプといってよくないことなのだ。

 警察の人はみーたち容疑者候補を魚市場に閉じ込めて、さらにプレハブみたいなところへ連れ込んで、一人ずつ話を聞いていた。呼ぶ順番はどうやら名簿の上からである。

 それ以外の人が市場を離れようとすると無言で銃を向けられる。大人でも子供でも関係ない、容赦は無しだ。

 この銃がドラマで警察の人が持っているような拳銃ではない。アフリカや中東のニュースで見るような大きな銃だ。

 そもそも、警察官らしい恰好をしていない。枯草色の上下に、ポケットのたくさんついた、でこぼこしたベスト。迷彩柄のヘルメット。警察の人というより軍隊の人って感じだ。

 彼らはこの状況にうんざりしている風だった。もちろん、人が死んだらうんざりするだろう。でも彼らのうんざりは種類が違う。何だか、殺人事件なんてなれっこみたいな。もうこんなのには飽き飽きしたみたいな。

(ああめんどくせえ。どいつもこいつも何考えてんだよ……迷惑なんだよ。本土で殺せや)

 転職しようかな、なんて気持ちが透けてみえる。この島に殺人事件は多いらしい。物騒なところだ。また別の人の心に視線というかなんというか、感覚を移す。

(犯人探さなきゃいけないかなあ。嫌だなあ。この後バイトがあるのに)

 バイトをしている警察、あまりなじみのない生き物だ。公務員は副業をしてはいけないはずである。それにしても「犯人探さなきゃいけないかなあ」とは。それが警察の仕事なんじゃないのか。

(ていうかさ、全員ぶっ殺しちゃおうぜ。どうせろくな奴いないだろ)

 それは困る。まだ死にたくはない。この人には近寄らないようにしよう。そう思って体の向きを変えようとした瞬間、背後から謎のイメージが追いかけてきた。

 多数の人間による名状しがたいざわざわとしたノイズを簡単に取捨選択して、ひとつの言葉に集約する。

 幸いにして小学生でもわかる単語だ。しかし、何だそれはという感想を避けられない。思い切ってその方向へ足を運ぶ。

(少年探偵団)

 裏付けるように遠目に子供たちの影が見えた。

 同時に近くにいる警察らしい人の視界を共有して確認する。彼の認識によれば男の子ふたり女の子ひとりだ。しかし彼はスカートかズボンかで見分けているようである。

 一人は半ズボンだが、たぶんショートヘアの女の子じゃないか?

 髪の長いほうの少女がこちらを見た。

 いや、もともと三人とも警察の人のほうを見ている。でもその子一人だけは違った。みーを見ている。借りた視界を通り抜けてまっすぐに目が合う。

 驚いて共有を解いた。何だ。何だ今のは。あっちからは見えないはずなのに、何で目が合うの。

 強烈な印象だったように思うが、しかしその顔や表情といった要素が指の間をすり抜ける砂のように零れ落ちて消えていく。

 ひょっとしてあの子もみーと同じテレパスなのか?でも今まで同じ力を持つ子に出会ったことはない。だから何だ。だったらまんがの主人公みたいに嬉しいのか?

 みーにはわからなかった。ただ胸騒ぎがずっとこだましている。

 わからないことならほかにもある。少年探偵団だって?まんがやドラマや小説でしか見たことないぞそんなの。

 大体この島はおかしい。さっき港に着いたところでこんなことを言うのは変だけどやっぱりおかしい。離島だからって警察の人の恰好が違うとか、大きな銃を持っているとか、そんなことがあるもんか。おかしいに決まっている。

 とんでもないところに来てしまったのかもしれない。帰りたくなった。

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