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第2話「冒険者なんてやめちまえ」

エアリス教会大司祭ユウマはため息を吐いた。


教会の礼拝堂に置かれた自分用の机に座りながらこれまでのことを思い返す。


なぜこんなことになったのだろうか。

ユウマが異世界に転移させれてから1年。

およそ様々な人がユウマに対して好意的に接っするようになったのは嬉しい誤算だ。


ただただ、いつも思う疑問だ。

いつも思う疑問を口にする。


「なんでこの世界のスキルはカードゲームっぽいんだ?」


今までたくさんの人にスキルについて相談された。


この世界においてのスキルとはアイデンティティであり唯一無二の存在だ。おおよそ生まれてから変化することなんてないし、上位互換はあれど、完全に同じものはない。


この世界の種族ごとにスキルも違う。


例えば、オルメティ。


種族は、ウィッチと言って、この世界で昔起きた亜空戦争という大戦を勝ち残ったという種族だ。


女性はウィッチ、男性はウィズという。


特徴は種族全員遺伝で白髪頭ということ。

それ以外は対して人間と大差がない。


種族が違えばスキルも違う。

オルメティなどのウィッチの場合、スキルの共通点が全て「何かを代償にして、強力なスキルを行使する」というのが共通している。


オルメティの「喧嘩両成敗」の場合は。

・1・共に戦場にいる仲間が戦闘する。

・2・どちらが攻撃されようが能力発動。

・3・両成敗効果により、両者死亡。


こうなる。

現実にこの能力を使われればかなりやりづらいし、モンスター相手だと割りに合わない。

何より能力者個人が戦闘しようが能力は発動しない。対象は味方に限られる。

使えねえとは常に思っていた。



それに比べて俺の能力はかなり強力だ。


俺の種族はヒュムと呼ばれている。


どうやら人間のことを指すようだ。


亜空戦争に負けた影響で個体数が少なく、身体能力などの基本的なところはほぼ平均的。


そのぶん、ヒュムはかなり強力なスキルを有するというのがヒュムという種族の特徴だ。



俺の能力は「死者蘇生」



動物であろうと人であろうと、寿命でない限り、死んだ生物を生き返らせることができる。


行使すれば少し疲れることと、再発動に3分ほどのクールタイムが必要なくらいの代償しかない。


だが俺本体に戦闘能力が全くの皆無なので、前線やダンジョンで戦えない。


なのでこうやって教会の礼拝堂を借りて、冒険者の蘇生事業をしている次第だ。


実際、死者蘇生スキルを持っているのは俺だけなので、教会での地位もなかなか上がった。最近では自分を御神体にして結婚式を行うまでになった。


間違っても戦場に出て無双して俺ツエエはできない。というか自分が死ねば当然自分を蘇生することはできないので死ねない。


素敵に無敵な異世界ライフを考えていた俺にとっては悲しい誤算だった。


「大司祭様、よろしいですかな?」


「んっ?」


考え事の途中で、声をかけられて思考が中断する。どうやら次の患者が来たようだ。

気がつくと、目の前に筋骨隆々のゴーレムのような体躯をしたおっさんがいた。


大きな体、高い身長、そしてフサフサに蓄えたヒゲを持つドワフという種族だ。


背中には何やら人が入りそうな袋をぶら下げていた。というか絶対に死体が入っている、血の匂いがすごい。


「あぁ、どうしましたか。迷える子羊よ。その者の蘇生でしょうか?」


「ん、まぁそんなとこですなぁ。セフィロトでこの嬢ちゃんとパーティ組んでたらこの嬢ちゃんの上半身がいきなり爆発してなぁ……」


「そ、そうですか……では、身をここへ」


その説明に驚きはしたものの、流石に慣れてしまったのか、マニュアルをこなす。

ドワフのおっさんはその両手のひらに死体を乗せて台座に移す。


布を取り払うと、死体は酷い有様だった。

上半身が丸ごと吹っ飛んでおり、その身は血糊でベトベト、そして所々まだ活動を続けている部位があるようで体がビクビクと痙攣していた。


相変わらずメンタルにズドンとのしかかるショッキングな光景だ。吐き気をなんとか飲み込んで、スキルを使える体調を整える。


死体の下半身から、どうやら女性ということが読み取れる。かなり肌の露出が激しい服を着ている。


大気から上質なマナを取り込んで健康維持をすることから、男女ともに露出の激しい服を好むエルフという種族なのだろう。


とりあえずフェチなヘソをガン見しながらスキルを行使するべく両手をかざす。


スキルが発動した時のほの柔らかな光が、女性の死体を包み、隠し、そして修復した。


光が霧散すると、そこには未だに眠る上半身裸の巨乳のエルフのお姉さんがいた。


「あれ、この人……」


そこで俺は気づいた。

この人結構な頻度で来てる人だ。


名前は確か……アルティミスさんだったか。


程なくしてアルティミスが反応を見せて目を開く。


「あっ……教会だ」


もう見慣れているだろう大聖堂の景色を見て、こちらに視線を向けてくる。


「だ、大司祭様……」


「迷える子羊よ。死の淵よりよくぞ……」


「す、すみません!また私大司祭様に借金を作ってしまいました!返済はまだ先になります申し訳ありません!」


とりあえず口上を述べておこうとした瞬間、アルティミスは土台の上で土下座した。

ジャパニーズDOGEZA?

この世界の謝罪……というかエルフは何かと日本被りするような和風な装いがあるため、土下座も存在するらしい。


慌てて俺は口上を取りやめてアルティミスを宥めにかかる。


「いや、別に気にせずとも良いのですよ。お代ならあなたの気持ちだけで十分ですので」


「大司祭様。残念だがそうはいかないんじゃないですかい?決まりごとは決まりごとなんだからよぉ……」


あ、こらおっさん。空気を読まずに突っ込んでくるんじゃないの。確かにそうだし正論なんだけどね。


「では貴方が払っていただけるのでしょうか?」


「いや、今日の稼ぎが姉ちゃんの爆死でおじゃんだからそいつは無理だ」


「……では俺が立て替えておきますので」


「本当にすみません!本当に!」


激しく腰を折り曲げるアルティミス。

大きな胸が激しく上下するのでかなり目に毒だが、一方の彼女はかなり青ざめた顔をしている。


「アルティミス……もう冒険者をやめたらどうなんだ?」


俺はため息を一つ吐いて、素の話し方で喋りかける。もともと大司祭様の演技は好きではない。


ドワフのおっさんは面を食らったようだが、一方のアルティミスは未だに低頭姿勢のまま答える。


「亜空戦争で真っ先に負けて、社会的弱者の私たちエルフは普通の就職先が見つかりません……ましてや私なんて価値のない女……例え娼館であっても……」


「ごめん!わかった!悪かったから!」


この世界においてエルフという種族は、基本的な社会的立場がとても弱い。


言うて他の種族と比べて、知能は高いが魔法適正が低く、腕力も無い、器用ではあり、目もいいが弓の扱い以外はからっきし。


種族特徴のスキルにおいても「何かを倍加する」以外のスキルを持つことはない。


ハッキリ言うと見目麗しい容姿以外は他の種族より格段に劣るのだ。


そのせいでエルフという種族は基本的にみんな気が弱いとか、腰が低い人とかが多く、決して相手を挑発するようなことは絶対にしない。


中でもアルティミスはその中でも特に気が弱く、腰が低く、従順だ。


「とりあえず、今後弓矢を使う時にはもっと気をつけるように、いいな?」


「は、はぃぃ……」


アルティミスのスキルは「威力の倍加」だ。


要約はこうだ

・1・相手に弓矢で攻撃する。

・2・自分の弓矢の攻撃力を倍加する。

・3・倍数は2、5、10、20、50倍からランダム


これを実際に置き換えてみる。


恐らくは、放った瞬間、威力を倍加するスキルが発動。


それがたまたま運悪くとても高い倍率を引いたせいで、衝撃波が発生、アルティミスの上半身を吹っ飛ばした。


というところだろう。


とんでもないロシアンルーレットだ。


正直5倍であってもデザートイーグル並みの威力とパワーが得られるのを確認しているため、今回はおおよそ20倍ぐらいだろうか。


10倍でも腕が吹っ飛ぶため、あたりはおよそ2/5ほど。攻撃時に死ぬ確率はおおよそ75パーセント。


正直冒険者をやめたらどうだろう。


いくら俺が居ると言っても、いちいち死んでいたらやっていられないと思う。


「しかし嬢ちゃんに妙に親しげだなぁ。大司祭様は」


「うーん……毎週必ずくるからねぇ…」


「なるほどな……大変だなぁ司祭様も」


「本当だよ……」


これを1年も続けてこれたのは、どうしてだったか。頭痛でうまく思い出せそうもない。


取り敢えず生き返ったアルティミスに、借金の件は気にしないでいいと伝えると、絶対に返すと言われ、それでいいと言っておいた。


あとはドワフのおっさん……グレーというらしいおっさんとはコンビを解消して、また新しいPTを探すそうだ。


「疲れたぁ…」


俺のつぶやきは、だだっ広い大聖堂の中に響いて、消えていったのだった。




その2日後、またおっさんの手によってアルティミスの死体が運ばれてきたのだった。


もうイイ加減に冒険者をやめてくれぇ!

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