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第1話「どうも、大司祭です」

ここは王立エアリス教会寺院。


この世界「ユーゴスアウエナ」に置いて最大の規模を誇るこの教会は、設立されてから2000年という長い月日を経てなお美しい外観を残している。


剣と魔法が世界の技術を席巻し、140年と長い亜空戦争も乗り越えた人類。


束の間の平穏に教会ありと言われるほどの信仰と信頼を得た教会では、昨今ある事業を行っている。


それは蘇生。


セフィロトと呼ばれる生きたダンジョンを踏破しようとする冒険者たちを生き返らせることを事業として大成させた一大ビジネス。


それはある神に愛された青年に宿った奇跡であり、瞬く間に教会はその青年を訪ねる訪問者で溢れかえる。


そして、今日も死んだ人間の救済を始める。






「……ねえユウマ聞いてる!?」


などと現実逃避も束の間、目の前のマントをまとっている白髪の少女が俺の机を叩いた。


「あぁハイハイ。聞いてますよ。蘇生すればいいんでしょう? お代を頂戴しましょうか」


「ない!だからツケでお願い!」


白髪の少女は広幅のとんがり帽子を被り、魔法使いのような赤いローブを羽織っていた。


生来からの遺伝なのだろう黄金の瞳をギンギラに輝かせた気の強そうな雰囲気を纏う彼女は、俺の目と鼻の先で懇願するというには程遠い命令口調で吠えた。


その横では大きな棺桶に入れられたそれはそれは美人な女性の寝姿が鎮座していた。

ちなみにその目に生気は感じられず、俺の見立てから既に死亡していることが伺える。


俺は女性の死体をちらりと見やりながらコメカミに指を立てた。


「……お前が巻き込んだんじゃねえか。なんで俺が尻拭いしてやらねえといけねえんだ」


「ふーん。そんなこと言っちゃうんだ?」


「……何が言いたい」


すると目の前の少女はローブの胸元に手を突っ込むと、ポケットから一枚の念写真を取り出した。


「いやね、この前注目の神官アイドル「ターニャ様」のブロマイドを闇取引をしてあげたのにそんなこと言うんだ?」


「くっ……!?」


「それなりに移動したんだよねぇー……大変だったなぁあの旅」


「……ちっ。今回だけだぞ」


折れた。

俺の所属して居る教会とは違う分社で大人気のアイドル神官の御姿を拝ませてくれたのは他でもないこの白髪の彼女だ。


「っと言って何度もしてくれてるじゃない」


「やかましい。今度という今度は絶対に無銭ではやらないからな」


棺桶を見やり、俺はその棺桶を二人掛かりで持ち上げて台座へ移動する。


「さて……」


蘇生。

その行為は死を冒涜するものではあるが、多くの冒険者の希望だ。

だがスキルとして与えられたからにはそれを導きと信じて使うしかない。


だから俺は救いの手を差し出して、言うのだ。


「ていっ」


「蘇生なのにあっさりしすぎ…」


「やかましい。黙って見てろ」


言いながら少女が棺桶で引きずってきた女性の死体にスキルを施していく。


するとみるみるうちにしたいの目は光を取り戻し、やがて跳ね上がるように起き上がった。


「こ、ここは?」


「ここはエアリス教会寺院です。哀れな子羊よ、死をよくぞ乗り越えました」


「だ、だだだ、大司祭ユウマさま!?」


「ぷっ…!」


俺が大司祭と呼ばれて、後ろにいる白髪のガニ股ウィッチが吹き出して笑うのに軽い怒りを覚えながら、先ほどまで息を引き取っていた女性に声をかける。


「貴女の名前は?」


「ラクラです……」


ラクラと名乗った白髪の女性は、俺の差し出した手を取って、棺桶を跨いで台座から降りる。

こう見るとかなりの美人だ。

立ち姿の優雅さから性格が良さそうにも見える。

後ろにいるガニ股ウィッチとえらい違いだ。


「良き名前ですね。…さて、ラクラ何故貴女は死んでしまったのか。その原因を振り返り、対策を講じることです」


「えっ……いや、アイツ……仲間のスキルに巻き込まれて多分…」


「と申しておりますが、何か言い逃れは?」


「いや、ちょ!?」


仕返しにと話を振られて白髪の女が慌てる。

ラクラは鬼のような表情で、そっちに顔を向ける。


「いやごめんなさい!でもちゃんとボスは倒したし、依頼は達成したし、なんだかんだ生き返れたんだし、いいことづくめで……」


「何がいいわけ!? アンタのスキルの詳細聞かされずにいきなり殺されたんじゃ命がいくつあっても足りないわよ!もう報酬なんてどうでもいい!オルメティ!あんたとなんて二度とゴメンよ!」


っと言ってラクラは俺に向かって深く頭を下げ、その場を怒り足で踏み荒らしながら去って行った。


沈黙が礼拝堂内を支配する中、オルメティと呼ばれた少女がいきなり吠えた。


「ほらまたアンタのせいでアタシボッチじゃない!」


「いや俺のせいじゃねえだろ」


「もう嫌こんなスキルーーーー!」


オルメティが床に転がって地団駄を踏み始め、子供のような動作で泣きわめく。


「だいたいメティの能力はパーティ向けじゃねえんだからさぁ……諦めろよ」


オルメティのスキルは生まれ持った「喧嘩両成敗」という「味方一人を死亡させて敵一人を死亡させる」という結構なとんでもスキルだ。


これが任意で発動できるならそれこそなんてことはないが、こいつの場合「味方が戦闘を始めた時点で強制発動」なのだ。


正直こいつのそばで戦うことになったらたとえ神だろうとも命がない。というかまともに戦わないまま死んで、いつの間にか蘇生されるのだ……正直に言って、嫌である。


犬猫調教して生贄にすればいいとかなんとか提案もしてみたが「かわいそうじゃない」と一蹴された。


これが生まれつきのものだから恐ろしい。


「そんなことよりも」


「何よ!?」


「次の死者の検診と蘇生もしなきゃいけないから、さっさと帰ってくれ」


「アンタに復讐するまで私は帰らない」


「いやいや、メティが駄々を捏ねるから他の患者の人を幾つも飛ばして優先したんだぞ?これ以上居られてたら困るわ」


今日はあと288人の蘇生をしないと。

大司祭は大変だ。


「復讐って何すんだよ」


「それは……うん殺す」


「やめろよ!?俺を殺したら世界に蘇生術を使える奴が居なくなるからな!?」


「うるさい!いざ覚悟!」


優雅早いが、オルメティは何処からともなく刀を取り出した。


オルメティは見た目こそウィッチそのものだが、その実、魔法がからっきしの白兵戦専門家タイプだ。近接戦闘で俺に勝ち目はない。


だが、しかし。


この世界において俺は絶対的で無敵なチート技を覚えている。暴漢なんて楽勝さ。


それは。


「誰か助けてー!!!!」

「ちょ!卑怯よ!」


バン!!


という音とともに大量の僧兵がなだれ込んで、俺を守るためにオルメティを取り囲む。

オルメティのスキルであっても他対一ではオルメティに勝ち目はない。


ハッハー!どうだ!

権力を盾に我が身を守る!


俺とお前の今の差だ!ハッハッハー!


「クッソー!覚えてなさいよねー!」


程なくしてオルメティは取り押さえられた。

俺が口利きをして、一応死刑とか、牢獄送りとか、そういった重い罰にはならないようにしておいた。


この世界に転移してきて一番にお世話になった人だからね。




そして俺は邪魔者も去った大聖堂で、大扉を開ける子羊に笑顔を向けて言うのだった。


「仲間を生き返らせますか?」


とね。

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