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今日の天気  作者: RANPO
第三章 ~RED&BLUEハリケーン~
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RED&BLUEハリケーン その2

第三章 その1の続きです。

「……ホントに大丈夫なのか……?」

私は隣を歩くルーマニアに問いかける。月曜の朝、制服に着替えて家を出るとルーマニアがいたのだ。

「あぁ……とりあえず今はお前にしか見えないようになってる。……だからあんまオレ様に話しかけると変な人に見られるぞ……?」

先日のムームームちゃんの提案が何とルーマニアの言う「上の連中」に認められたのだとか。

「第三段階があっち側に行ってしまうのは非常にまずい……アザゼルだけでは心配だ。数は多い方がいい。……だとよ。ったく、アザゼルだけでは心配って一体何様なんだ?あいつら……」

「……ルーマニア。お前の昔話も聞けたことだから前々から気になっていたことを聞いていいか?」

私は前を見ながら小声で話しかける。

「気になってたこと?」

「その「上の連中」っていうのはなんなんだ?神様のことか?」

「神様はもっと上の方にいる。んで基本的に何もしねー。オレ様が言っている上の連中っていうのは……そうだな、オレ様が悪魔側につく前にいた地位に、今現在ついている奴ら……とでも言えばわかるか?」

「なるほど……」

「能力……つーか、あれだ。天使としての力?そういうものはオレ様やアザゼルに比べるとカスも同然なんだがな。オレ様達は今罰を受けてる身だからな……まったくむかつく。」

しばらくルーマニアの愚痴を聞きながら歩く。こいつ……授業中とかどこにいるつもりなんだろうか。教室のうしろに立ってたりするのだろうか?気になってしょうがないな。……あれ?そういえば今日は体育があったな。ルーマニアの奴、その気になれば着替えを覗けてしまうぞ……!これは大変だ。

「そもそもな、現場に一回も出たことのないような素人が上に立つってどーゆーこったって話だ。あいつらは……」

「おい、ルーマニア。」

「あぁ?」

「お前は人間の女性には興味あるのか?」

突然の話題転換に動揺しつつ顔が赤くなっていくルーマニア。

「な……なんだよ突然……」

「いや実はな……」

「おはよー晴香。」

私の言葉をさえぎって翼が世にも不機嫌な顔で挨拶してきた。気付けばもう校門だった。

「おはよう……どうしたんだ?」

「こいつよこいつ。」

翼が自分の後ろを指差す。そこにいるのは見慣れない男子だ。

「……ストーカーか?それともまた新しい彼氏か?」

「冗談やめてよ……いくら晴香でも怒るわよ……なんであたしがこんなやつと……」

……?変だな。少し会話がかみ合ってない。後ろの男子は翼から五メートルくらい離れている。だからこの場合「あんなやつ」と言わないか?「こんなやつ」じゃまるですぐ後ろにいるかのような…………ああ、そうか。

「ごめん翼。たぶんそこにいる人は私には見えてない。」

「?…………えっ、あっ、そうなの?」

一瞬の間の後、翼の後ろにカキクケコさんが現れた。

「わるいわるい。つばさにしか見えない状態だったんだ。ってことは……おい、ルーマニア。」

「あんだよ。」

「わ、ルーマニアだ。いたのね。」

やっぱり翼にはルーマニアが見えてなかったようだ。ややこしいな……始めからちゃんと準備をしてから私たちの護衛についてもらいたいものだ。

「うぅん?おい、ルーマニア。おめー、もう一人担当してただろ?《金属》のやつはどうしたんだ?」

「さすがのオレ様も分身はできねーんでな……通学の間はアザゼルの奴に頼んだ。学校に来てしまえばオレ様だけで十分だが。」

校門前で立ち止まるのはかなり邪魔なのでとりあえず私たちは教室へと向かう。後ろでルーマニアとカキクケコが何やらしゃべっているので私は先ほど思ったことを翼に話す。

「天使が人間の女に興味あるかって?あるわよ。だからあたしは困ってるんじゃない。」

そう言いながらカキクケコをちらりと見る。

「じゃあ……やっぱり着替えの時は注意しないと。ムームームちゃんに見張っててもらうか。」

「着替え?」

「今日、体育があるだろう?ルーマニアもカキクケコさんも姿を消せるから簡単に覗けてしまう。」

「!そういやそうね!よし、あたしの力でうんと感情を捻じ曲げておくわ!」


教室に入るとクラスメートがなんだかざわついている。

「あ、おはよう晴香、花飾。」

「おはようなのだよ、雨上ちゃん、翼ちゃん。」

しぃちゃんとアザゼルさんが挨拶してくる。そういえばアザゼルさんは話題の転校生だった。たぶんしぃちゃんと仲良く話しているのが目立ったのだろう。

「……あんた達……あたしらの呼び方統一しなさいよ……」

「そ……そんなこと言ってもなぁ……晴香は晴香がそう呼べと言ったわけで……花飾はまだ少し照れくさいというか違和感があるというか……名前で呼ぶにはまだなんか……な。」

「俺私拙者僕は二人のことを聞いた時の呼ばれ方で呼んでるだけなのだよ。ルーマニアくんが雨上と呼ぶから雨上ちゃん。カキクケコが翼と呼ぶから翼ちゃん。ちゃんをつけるのは男として女の子を呼ぶ時には当然!……と何かのゲームで言ってたのだよ。」

「アザゼルさん……一応海外からの留学生?という設定なんですから……「俺私拙者僕」ってまずくないですか?」

なんとなく気になったので言ってみる。するとアザゼルさんは少しあごに手を当てて考え、何かをひらめいた。

「俺私拙者僕は日本に来てびっくり!だって自分を表す言葉がいっぱいあるのだもの!一人称でイメージとかも大きく変わる……これは迷っちゃうな……どれを使おうかな?これもいいなぁ……あれもいいなぁ……ええい、面倒だ!全部つなげてしまえ!…………こうしてアザゼルくんは自分のことを俺私拙者僕と呼ぶようになったのでした。めでたしめでたし。」

「……しぃちゃんの護衛はアザゼルさんがしたんですね。」

「そうなのだよ。いやいやドキドキだったのだよ。なんたってサムライガールだからね!こんなにゲームっぽい人もそうはいないのだよ。これはもしやゲーム通りのお約束展開があるのではないかとワクワクだったのだよ!ちょっと庭を覗けばお庭で「朝の稽古で汗だくになって服が透けている」鎧ちゃんに遭遇か!?と思って覗いてみたら……これがびっくり!鎧ちゃんと鎧ちゃんの弟くんがくんずほぐれつの……」

「くんずほぐれつ!?あによあによそれ!姉と弟の禁断の関係!?」

「くんずほぐれつの大喧嘩だったのだよ。」

翼が盛大にずっこける。

「というか鎧ちゃんが一方的に弟くんをボコボコにしてたのだよ。」

「しぃちゃん……」

「まてまて!誤解だぞ晴香!ただの《雨傘流》の朝稽古だ!一方的なのは剣のやつが弱すぎるからだ!」

剣……ああ、しぃちゃんの弟さんの名前だ。おじいさんの名前は……なんだったかな?確か宮本武蔵というか佐々木小次郎というかそんな感じの名前だったような?

「……あれ?ルーマニアとカキクケコさんは……?」

「あの二人はね……今頃ムーちゃんのとこなのだよ。」


 「さて。俺たちは何をしてっかね。」

「教室にいるわけにはいかねーからな。とりあえず屋上に来たが……これならいてもいなくても同じなんじゃねーかとオレ様思うんだが……」

「すぐに行動を起こせるっていうのが大事なんだよ、ルーマニア♪」

オレ様とカキクケコとムームームはこの前アザゼルが話をした屋上にいる。

「ま、あーたーしとしては二人がぴちぴちの女子高生の着替えとかスカートの中とかを覗かないように見張る役割があるんだけどね♪」

「しねーよ……つかやるならとっくにやってるだろ。」

「えっ……ルーマニアよ、お前はなんて失礼なやつなんだ。この世の女性全てに謝れ!」

「なんで謝んだよ……」

「女性の着替えとかを覗けるのに覗かないなんてその女性に魅力を感じないと遠まわしに言っているようなものだぞ!」

「カキクケコは翼ちゃんの何かを覗いたりしたの?」

うお!ムームームが軽く殺気を出してやがる!


 そもそも。オレ様とアザゼルの関係は高位の天使同士ということでわかる。ではなぜムームームと仲良くなったのか?みたいなことをマキナに聞かれたことがある。

 ムームームは別に高位の天使ではない。しかしその戦闘技術がハンパないのだ。

当時、位の低い天使は参加することを禁止される程の強敵が出現した時、オレ様とアザゼルは主力として参戦は当たり前だったが、そのあまりに高い戦闘技術のためにムームームも一緒に戦ったのだ。実際、オレ様はムームームと戦って勝てるとはあんまり思わない。


 「いや……つばさの奴はマジで俺のことを嫌っていてな……常に俺に対して能力を発動させているというか……そういう行為をしようとすると途端にものすごい違和感をぶぁああ!?」

カキクケコがムームームに蹴り飛ばされた。しかしそれだけで終わるムームームではない。ものすごい速度で飛んでいったカキクケコに超速で追い付き、カキクケコの腹にその小さい手をめりこませて上空に飛ばす。随分時間が経ってからカキクケコが落下してくる。そして屋上に落ちるタイミングに合わせて目にも止まらぬかかと落としをカキクケコの顔面にたたきこんだ。結果、カキクケコは頭が屋上の床に埋まる形となった。

「……死んだ?」

「まさか。この程度じゃ死なないよ♪」

「……オレ様はたぶん死ねるからやめてくれよ?」

「やんないよ。こころの中も見たけどホントにやってないみたいだし。」

「疑ってたのか……悲しいぜ?オレ様は……」

「アザゼルは疑ってないよ?」

「いや……あいつは何というか……口ではああ言ってるが……そもそも次元が違うというかなんというか。」

「おおぅ、ルーマニアはうまいこと言うね♪確かに次元が違うね♪」

はて、なんか言ったのか?オレ様は。



 五限が終わった。つまり今日の授業は全部終わった。結局、あのいろんな部の部長たちは私たちの前に現れなかった。敵が近くにいるというのはなかなか落ち着かないが、ここは学校。仕方がない。

この後は音切さんに会いに行く。ついさっきメールが来て《エクスカリバー》で待ち合わせることとなった。私としぃちゃんとルーマニア、翼と何故か顔面に包帯をぐるぐる巻いているカキクケコさんが会いに行くメンバー。力石さんとムームームちゃんはなんだか特訓があるとか。見かけによらずムームームちゃんは結構厳しいらしい。

「というか逆らっちゃいけない奴ナンバーワンじゃねーのかな。」

「マキナちゃんといい勝負なのだよ。」

そう言ってアザゼルさんは帰っていった。こっちはなんだかクロワッサン(クロアさん)に呼ばれたらしい。……だめだな……私の中ではあの人はもうクロワッサンだ。

「クロワッ……アザゼルさんの協力者ってどんな《常識》を操るんだ?」

歩きながらルーマニアに尋ねるがルーマニアは首を振る。

「んあぁ……それがな、何か知らんがその協力者の方が自分の情報をこっちに教えるなとアザゼルに言ったらしくてな……オレ様も知らねーんだ。」

「……それはめずらしいことなのか?」

「めずらしいことだな。天使に何を知られようとこっち……下界にはまったく影響が出ないし。」

「ねぇねぇ晴香。」

「ん?」

「音切勇也とはさ……こ、個人的に会ったりしてんの……?」

横目で翼が聞いてくる。

「そういうのはこの前……音切さんがゴッドヘルパーであることを教えてくれた時が初めてだな。基本はパソコンのメールでやり取りしてる。それがどうかしたのか?」

「どうかしたのかって……あんたね……あたしは今、ものすごくドキドキしてんのよ?あの音切勇也と会うんだから!」

「この前の集まりで会っただろう……」

「それでもよ!てかフツーそういうもんよ!晴香はねぇ、自分が如何にすごいことをしているかを知るべきよ。ファンの中には生で見ただけで気絶する人だっているんだから……」

「へぇ……」

「なるほど、その気持ちもわからんでもないな。わたしも小さい頃に遊園地で十五代目の戦隊、《電磁戦隊 デジレンジャー》のレッドと握手した時は一週間くらい手を洗わなかったし。」

「なんか違う気がするけど……まぁいいわ。」

「あ、そういえばルーマニア。音切さんのパートナーになる天使は見つかったのか?」

「一応上には話を通した。《音》だからな、強力な力だっつって喜んでいたが……実際問題、音切が有名人だというのがネックになってな……なかなかそれでもいいっていう奴が出てこない。言い方が悪いが……正直有名人を協力者にするのは面倒だからな。」

「そうか……」

そんな話をしていたら《エクスカリバー》が視界に入る。さて、音切さんはどこにいるんだろうか。この前みたいにお姉さんが出てくるのかな……?

プップー

しばしまわりをキョロキョロ見ていると突然車のクラクションが響いた。同時にケータイに電話が入る。音切さんだ。

「もしもし。」

『今クラクションを鳴らしたのが俺だ。車まで来てくれ。』

はて、どっちから聞こえたっけな?と思考するのに応えるように、再度クラクションが鳴る。どうも《エクスカリバー》の前に止まっているバンから鳴っているようだ。人数を考慮して大きな車で来てくれたらしい。


 「《情報屋》……鎌倉と会う時の注意がいくつかある。」

コンパクトに見えたバンだったが中はなかなか広い。シートが三列あったので一番後ろにルーマニアとカキクケコさん、その前に翼としぃちゃん、助手席に私という形で座った。

「あれ?この前は安藤じゃありませんでした?」

「昨日アポを取ったら「今の私は鎌倉ですぜ!」って言ってたんだ。」

「ホントに毎回変わるんですね……」

「ま、俺はいい加減慣れたけど。さて話を戻すよ。鎌倉は初対面の相手にはなかなか酷いことをしてくる。」

「ひ……ひどいことってなによ……なんなんですか?」

翼が音切さんを見て語尾を変える。確かに、だいぶ緊張している。

「記憶を……頭の中を覗いてくる。」

「覗いてくる?」

「あいつなりの挨拶なのか……こっちが覚えてもいないことをペラペラと言ってくる。ちなみに俺はこの前小学生の時に初恋の人に書いたラブレターの内容を言われた。」

「うわぁ……すごい嫌ですね。……音切さんは《情報屋》との付き合いは長いんですか?」

「いや?つい最近だよ……ホントに偶然あいつの仕事場を見つけて……そろそろだな。」

音切さんの運転する車は大通りから一本奥に入った所に建っている古いビルの前に停車した。いろいろな会社が入っているビルで案内板にはたくさんの会社の名前が並んでいる。その中になんとも堂々と「情報屋……何でも知っています」とか書いてあった。

「うさんくさいわねぇ……」

翼がもっともなことを言う。しかしこの「何でも知っています」というのはきっと事実なのだろう。まさに知る人ぞ知る《情報屋》。

「こっちだ。」

エレベーターに乗って情報屋の階に行く。エレベーターの扉が開くと「情報屋」という看板が目に入ってきた。なんの飾りもない質素な看板、その隣のドアを開けて中に入る。

「……あれ?」

音切さんが首をかしげる。ここに来たことのない私も首をかしげる。見るからに人がいない。というか……本当にここで「仕事」という行為が行われていたのだろうか?使われなくなってからだいぶ経っている……そんな感じだ。

「おーい、鎌倉ぁ。おかしいな……いつもはここにいるんだけど……」

『こっちだぜ。』

奥の方から声がした。見ると部屋がある。音切さんが部屋に近づいてドアを開ける。そして中を見て目を丸くした。

「……!これは一体どういうことなんだ?」

音切さんが私たちを手招きする。ぞろぞろと部屋の中に入る。部屋の中には人数分のパイプいすとテレビがあった。画面の中には一人の人物が映っている。

『まぁ……座ってくれ。』

私たちは秩序なく置いてあるパイプいすを思い思いの場所に移動させて座る。画面の中の人物はビシッとしたスーツを着て、紙袋を頭にかぶって椅子に座っている。紙袋には穴があいていてそこからこちらを覗いているようだ。怪しいことこの上ない。テレビの上にカメラが付いているので恐らくそこからの映像を見ているのだろう。

「鎌倉。これは一体どういうことなんだ?」

音切さんが画面の中の人物……《情報屋》鎌倉に話しかける。

『最初の頃に話しておけばよかったな。私は天使側と今回の事件の犯人側に見つからないようにしているんだ。』

「なんでだ?」

『私は《記憶》のゴッドヘルパー……その情報量は圧倒的だからね、ついた側をすさまじく有利にする。だから……どちらかにつくともう片方が私を片付けに来るだろう?天使側につけば犯人側が、犯人側につけば天使側が。無論、私がつけばついた側は私を全力で守ろうとはするだろうが……それも完全ではない。だから私はどちらにもつかないようにしているんだ。とは言っても?どちらも私の存在は知っているからその情報を得ようと私を探すから……結果、こうして逃げ回っているわけだ。』

「俺が天使を連れてきたから……こういう状態になっているのか。」

『そう。いつもなら何も言わずにいなくなるんだが……お前は最近のお得意さんだったからな、これぐらいの礼儀はつくさないとと思ってな。天使とつながりを持ったお前にはもう情報をやることはない。これが最後だ。』

「……だそうだ。」

つまり……聞きたいことはここで聞いておかないとチャンスはないわけだ。えぇっと……そもそも何で私たちは《情報屋》の情報を求めたんだったかな?

『下着泥棒のことを聞きに来たんだ。』

「……えっ……?」

あれ?私は今、口に出してしゃべってたかな……?

『雨上くん、君をプラモデルの道に引き込んだおじいさんは今きゅうりを食べているぜ。』

「!?」

なんだ……?確かに私がプラモデルに興味を持つキッカケをくれたのはおじいちゃんだ。おじいちゃんの作る大きな船のプラモデルに感動して……って……なんでそのことを……しかもきゅうりって……?

『なんでって……私は《記憶》のゴッドヘルパーだぜ?』

「……私の頭を覗いたんですね……カメラごしでも出来るんですか……」

『私がそこに脳みそがあると判断すれば覗ける。今、私の目の前には君らが映ってる画面があるんだが……その平面の世界の存在となっている君達にも脳みそはある。当たり前だろう?テレビに映る芸能人を見て「ああ、映像だから今この人たちの頭の中には脳みそはないんだな。」なんて思う奴がいるか?その場に存在していなくても存在しているなら覗ける。』

なんてややこしい……

『おや?君のおじいさんは君があまりに静かな性格だから将来お婿さんが出来るのか心配らしい。いやはや、私も心配になってきたぞ。君の初恋は小学二年の時の隣のクラスの中山くん……その子が引っ越してから君には好きな異性が出来てないな。』

「……・!!」

「ちょっとちょっと!」

私が顔を赤くしていると翼が鎌倉さんを指差す。

「あんたホントに《記憶》?晴香の初恋の話は記憶でしょうけど……晴香のおじいさんがきゅうり食べてるとか、おじいさんが晴香をどう思ってるとかはあんたの能力の外じゃないの!「記憶」がなんで「今」を覗けるのよ!それにおじいさんの頭の中をどうやって覗いたのよ!おじいさんの写真でも持ってるの、あんた?」

言われてみれば……翼の言う通りだ。なんで私が「今」考えたことを覗けたんだ?

『雨上くんを初めて見た時「なんて不思議な雰囲気の人なんだろう……それに綺麗……」と思った花飾くんの質問は以前音切くんがして、既に答えた。音切くんから聞いてくれ。メンドクサイ。』

「ちょっ……!!」

翼が顔を真っ赤にする。私と目が合うとさらに真っ赤になってうつむいた。……なんか私も恥ずかしいな……

「えぇっと……」

音切さんが説明をする。

「簡単に言えば……鎌倉は対象の姿を見ることが出来れば頭の中を覗けるんだ。写真でも映像でも……正確なら絵でもできるとか。雨上くんの記憶の中にはおじいさんがいて、その姿も記憶されているから……そこから覗くんだ。俺たちは毎日会っている人の顔も正確に思い出せないけど、頭の中には確かに映像として残っているんだってさ。」

ということは……私の頭を覗くだけで翼やしぃちゃん、両親、おじいちゃんおばあちゃんなんかを覗くことができ、そこからまた広げていけば……全世界の人の頭を覗ける……!

「んで……今、考えたことなんかを覗くのは……正確には今とは過去のことだから。記憶には二種類あって、長期と短期があるんだ。長期は……たぶん俺たちが主に記憶と呼ぶもの。短期はホントに数秒しか記憶されないようなもの。例えば俺が「リンゴ」という単語を思い浮かべる。するとそれは「思い浮かべたもの」として短期記憶となる。覚えようとしなくてもね。数秒しか記憶されなくても記憶は記憶。鎌倉はそれを覗くことができる。だから正しく言うと、考えたことを読まれているわけではなく、一瞬前に考え、短期記憶となった内容を読まれているんだ。」

平たく言えば……全部記憶されてしまうから結局は全部お見通しと……

『説明ありがとう、音切くん。そういえば君のお姉さんはまた胸が大きくなったよ。いいねぇ。』

「!人の姉を何勝手に覗いてるんだ!」

音切さんが顔を赤くする。そういえばお姉さんは結構スタイルよかったな……

「プライバシーもなにもあったものではないな……」

しぃちゃんが呟く。確かに、この人の前ではあらゆる隠し事ができない。隠すということは記憶すると言うことだ……

『そうでもないぞ、鎧くん。何でも知っているとは言っているが実はわからないこともある。君がブレイブレンジャー、変身ブレスレットを当てるために五十六通ものはがきを出したことはわかるよ?君の弟くんが最近思春期のせいか鎧くんの胸元なんかに視線を送るようになっていることも、君のおじいさんが今度はフランス料理に挑戦しようとしていることもわかる。』

弟さんのくだりで顔を赤らめ、おじいさんのくだりで「そうなのか!」と、嬉しそうになったしぃちゃんだったが……

『だがしかし、君の最愛のご両親が君をどう思っていたかはわからない。さすがにこの世にいない存在の記憶までは読めないのでね。』

瞬間、しぃちゃんの顔が暗くなった。しぃちゃんの家にお邪魔した時に思ったことだが……やはりそうだったのか……

「恥ずかしい記憶はともかく……つらい記憶を読むのはどうなんだ?《情報屋》。」

ルーマニアが鎌倉さんに厳しい視線を送る。

『はっはっは。悪いねルシフェルくん。今の私にはそういう感性はない。いくらでも言えるよ?君が元同僚だった天使を如何に残虐な方法で殺したか詳しく言おうか?君が神に吐いた暴言の全てを言おうか?』

ルーマニアの表情が険しくなる。怒りを抑えているような……いや、恐れ?

「いい加減にしろよお前。」

今度はカキクケコさんが声を荒らげる。

『何度も花飾くんの入浴シーンを覗こうとしているカルバリオキクケゴールくん。いい加減もなにもないのだよ……これが。』

翼の人を殺せる視線をガンガン浴びるカキクケコさん。

『人には知られたくない辛い過去?恥ずかしい記憶?それがどうしたんだ?私はね、自分がゴッドヘルパーであると自覚した瞬間から何千、何万もの記憶に触れたんだ。最初はうまくコントロールできなくてね、際限なく他人の記憶が入ってきたよ。君たちは泣ける映画を観たことがあるかい?感動的な小説を読んだことがあるかい?何故人はそれで涙を流す?それはね、滅多に起きないことだからさ。だから感動できる。それがどうだい、いざ他人の記憶を覗いてみたら。現実は小説よりも奇なり、悲しいなり、不条理なり。よっぽど泣けるストーリーがごろごろ。こんだけ大量に触れればそりゃあ慣れるさ。残酷な話も、辛い話も何もかもに慣れたよ。だから口にするのもためらわない。』

なんだろう……少し感情が交じった言葉だな。こうは言っているけど鎌倉さんはいろんな経験をしているんだよなぁ……

『おっと。雨上くんが私のことを理解しようとし始めたよ。いかんいかん。本題に入ろうか。』

画面の中の怪しい男は脚を組み直して問う。

『さぁ……何を知りたい?』

「その前に。」

先生に質問する生徒みたいにビシッとまっすぐに手を挙げて音切さんが言う。

「いつもは直接会うから良かったが……今回はどうするんだ?情報料は。」

『この状況だからね。お金は受け取ろうにも受け取れない。だから今回はタダってことになるかな。』

「いいのか?」

『君からの電話をもらった時よりも前の時点で私が、君が天使とつながっていることを調べなかったのが悪い。だからいい。』

意外とちゃんとした商売人だな……

『そうだ……質問を聞く前に言っておこう。私に質問できるチャンスは一度きりだ。』

「……一つしか尋ねられないってことですか?」

『私の言った言葉を良く反芻しなさいな雨上くん。チャンスが一度なんだ。』

「?」

『私はね、何かの質問に答えてあげた後にその私の答えを受けての質問をされるのが嫌いなんだ。例えば人探しでね、「Aさんの居場所を教えて!」と言われて教えてあげた後に「その場所へはどうやって行けばいいんでしょうか?」とか聞かれるのが大嫌いなんだ。質問は一回でまとめてしてほしい。質問の数はいくらでも結構だがね。』

私は他の五人を見る。(正確には三人と二柱)

「えぇっと……何を聞けばいいんだ?」

「最初の目的は下着泥棒についてだったが……今はリッド・アークか?」

ルーマニアの問いかけに翼が答える。

「でも後々に結局必要となるんだから聞いておいても損はないわよ。」

翼がメモ帳を出して必要なことをまとめる。

「とりあえずリッド・アークの管理する《常識》、下着泥棒の……《常識》ぐらいかしら?」

それを聞いてしぃちゃんが難しそうな顔で呟く。

「居場所はいいのだろうか……?」

「リッドはジェットがついてんのよねぇ……あっちこっち飛び回ってたりするかもしれないわね。たぶんあっちから近いうちに接触してくるだろうし。リッドはいいでしょうね。逆にややこしくなるかもだし。下着泥棒は……聞いておいてもいいかも。犯行はあたしたちの街近くで起きてるからあの辺りに住んでるんじゃないかしら?」

「さっすがつばさ、頭いい!」

「……」

「つ……つばさぁ?」

カキクケコさんを無視する翼。無視されたことにショックを受けながらもカキクケコさんも意見を言う。

「その辺のこともいいが……もっとこの先大切になってくることを聞かなくていいのか?敵の本拠地とかよ。」

「そうだな……そういうことも聞いておくといいかもしれねーな。」

「敵のボスとかいいかもしれないわね。」

翼の呟きにルーマニアが答える。

「それは……この前わかった……」

「えぇ!?そうなの!?誰よ。」

「話すと長いから……それに関してはオレ様が質問する。」


  こうして。

「じゃあ……鎌倉さん。質問します。」

『ああ。』

「まず……下着泥棒の管理する《常識》と居場所を教えてください。」

『ふぅん……名前とかは聞かないんだな。』

「あ。」

私を含めた全員が呟いた。そういえばそうだ!

『残念。それを聞くのは二回目になってしまうから私は答えない。』

鎌倉さんがくすくす笑う。紙袋かぶったままなのでだいぶ怖い。

『下着泥棒の管理する《常識》というか……正確には下着泥棒とつながっているシステムの管理する《常識》だが……まぁ大目に見よう。下着泥棒……こいつは《速さ》のゴッドヘルパーだ。』

「《速さ》……」

風と共に下着を奪っていく。なるほど、《速さ》か。

『こいつの居場所だが……家を教えるとこいつだけでなく……家族にも迷惑がかかる。商売人としてはそれはいただけないので……こいつの学校を教えよう。こいつは君らの通う高校に一番近い中学に通っている。』

中学生だったのか……情報は翼がメモっている。

「次は……リッド・アークの……リッド・アークにつながっているシステムが管理する《常識》を教えてください。」

『ふっふっふ……これだけ知っても奴の能力の全てを知ったことにはならないがな……いいだろう。リッド・アークは……《反応》のゴッドヘルパーだ。』

……?《反応》?それで腕の大砲とかが説明できる……のか?

『この情報はかえって君らを混乱させるな、ふっふっふ。』

確かに……大混乱だ。いや……考えるのは後にしよう。

「えっと……次に……敵の本拠地はどこですか!」

『本拠地と呼べるものはない。特定の場所に集まって活動しているわけではない。』

あ……そうか。そういう答えもあるのか。

「敵の……数……ゴッドヘルパーの数は!」

『不明。』

……え?

『あちら側に属しているゴッドヘルパー全員が自分の属している組織の構成メンバーを熟知しているわけではない。そして……唯一熟知しているボスの頭の中は……その能力故に私では覗けない。』

「覗けない……」

『不甲斐ないが……私でもわからないことはある。』

「つーことは……」

ルーマニアが入ってくる。

「そいつの管理する《常識》も……誰から奪ったのかもわからないのか……!」

私たちにはわからない質問内容。ルーマニアが鎌倉さんを睨む。

『すまないが……不明だ。鴉間あたりなら知っているかもと思ったが……どうやらボスと直接会ったの一回だけで……何の力も見せていないようだし。実質、組織内で知っているものはいない。交戦したことのある奴らもいるが……能力不明のまま敗走しているな……』

「……っ!」

ルーマニアが苦い顔をする。

『他は?』

「勝又、石部、大石を操っている奴は何者ですか。何の《常識》を……?」

『操っているのは……加藤。加藤 優作という男だ。リッド・アークの仲間。《優しさ》のゴッドヘルパーだ。』

やっぱり……あの三人は操られているのか。ルーマニアの推測に従って聞いてみて正解だった。しかし……《優しさ》か。それでどう操るんだろうか……?

『……これで全部か?』

聞くべきことはきっとたくさんあるんだろうけど今思いついて有用な情報は全部聞いた……あ、そうだ。

「チェインさんの組織にはどんなゴッドヘルパーがいるんですか。」

「……?誰だい、晴香。そのカッコイイ名前の人は。」

しぃちゃんと翼が首をかしげている。そういえばこの二人には話したことなかったかもしれないな。

『なるほど。今後こういった厄介な敵が出てくる可能性はある。メリーの組織とパイプを持つことは大事だな。そしてどんな奴がいるかを知っておけば……いや、ちがうな。これは君の個人的な興味だね、雨上くん。』

鎌倉さんはパンパンと手を叩く。

『いいねぇ……純粋な興味。なんの利点も有利な事柄も絡まない単純な疑問。君らにはわからないだろうが、私としては何かの目的を頭に思い浮かべながら質問されるよりも突発的に浮かんだ疑問に答える方が好きなんだ。《記憶》の力を使ってその答えを見つけてあげたいと思ってしまうんだな。』

人には理解できない感性。そういうものを持つということはゴッドヘルパーであることの証だ。

『実は私もあちらに誘われた時があったんだがねぇ……やっぱりどこかの組織についてしまうと仕事はできないと思って断ったんだ。おっと、悪い悪い。質問に答えたいと思う。』

以前エクスカリバーでチェインさんと話をしたとき、チェインさんは自分の連絡先を教えてくれた。今回の敵はうちの高校の生徒まで巻き込んできた。とても厄介。できれば力を借りたい。

『チェイン……《食物連鎖》のゴッドヘルパー。雨上くんは……チェインがもっとも脅威となる場所を海や川と言い、チェインもそれを正解と言ったが……残念。チェインは嘘をついているぞ?まぁ、それはいいか。今現在、あの組織……《すごいぞ強いぞ頼りになるぞスーパーハイパーアルティメットジャスティスな私たちはみんなの笑顔を守るため悪い奴らをバッタバッタとなぎ倒し平和で愉快な世界を作ろうとがんばる絶対無敵の救世主だぜいぇい》にはチェインを含めて五人のゴッドヘルパーがいる。ホっちゃん、ジュテェム、リバじい、メリー。どんなと聞かれたから私の個人的な感想を述べよう。ホっちゃんは歩く爆弾だな。《天候》に次ぐ、人類では抗えないものを操る……まぁ私たちも強制的にそれを操ることはできるがね。ジュテェムは《天候》以上に抗えない。ジュテェムが望めば地上のありとあらゆる物体を一掃できる。あいつは……掃除によく使っているしな。リバじいは……まっすぐな紳士だ。うむ……言い得て妙だ。メリーは……そうだな……見た目に騙されるなとだけ言っておこう。はっはっはっうわ!?』

鎌倉さんが笑っていると突然画面がひっくり返った。鎌倉さんの姿をこちらに送っているカメラが倒れたようだが……どうしたんだ?ひっくり返ったせいで鎌倉さんは画面から消えた。

『お前たち……なんでここに……あ、こら!私のカメラ!こわすなあああああ!?』

画面が真っ暗になった。届いているのは鎌倉さんの声のみ。

『よくも私のカメラを!このクソババア!あっ!ちょっ!ごめんなさい!口がすべっ……あんぎゃああぁああぁぁぁぁあああ!!』

ブツン。

音声も途切れた。一瞬にして静寂になる室内。

「……鎌倉の奴……大丈夫か……?」

音切さんが恐る恐る呟く。

「悲鳴から察するに、そこまで大変な状況じゃないと思うわよ……ギャグっぽい悲鳴だったから。」

翼が深々とため息をついた。……さて、気持ちを切り替えて……情報の整理をしなくては。



 「この事件の犯人について話そう。」

情報屋から得た情報。その中のひとつ、「リッド・アークは《反応》のゴッドヘルパーである」についてしばらく考えてみたがやっぱりわからない。そもそも私は戦ってはいないから考えるための材料がないわけで。ここはやはり何度も戦っているアザゼルさんとクロワッサン……もとい、クロアさんに尋ねるべきだろう。《反応》と聞いてなにか気付くことがあるかもしれない。そう思ってルーマニアに情報屋から得た情報をアザゼルさんに教えたらどうかと言った。そしたらルーマニアが「まとめて話した方が早いな……」とか呟き、土曜日に私、翼、しぃちゃん、力石さん、カキクケコさん、ムームームちゃん、そしてクロアさんとアザゼルさんが集まった。場所はしぃちゃんの家。

「なんかことあるごとにここを集合場所にして悪いな、鎧。」

ルーマニアがしぃちゃんに申し訳なさそうに言う。

「いやいや、わたしとしては作戦会議がうちというのは嬉しいんだ。なんだかうちが正義の基地みたいじゃないか。」

「そ……そうか……」

「それで?こんな古臭いところにこのアタシを呼ぶってことは価値のある話をするってことでいいんですわよねぇ?」

今みんながいるのは無駄に広い畳の部屋なのだが、クロアさんは「地べたに座れと言うの!?このアタシに!?」とかわめいてしぃちゃんが持ってきた椅子に座っている。「畳に跡が付いてしまうな。」としぃちゃんが椅子の下に座布団をかませたのでとてもおかしな光景である。

「もちろんだ……」

ルーマニアが暗い顔でため息をつく。この前、自分の過去を話した時の顔だ。

「……オレ様が悪魔側についた時……オレ様と同じように堕天した天使は結構いた。その中でオレ様は悪魔のトップになり、あと二人の天使がオレ様の補佐役……ようは幹部として高い地位についた。一人は……アザゼル。」

「そんな話は聞きましたわ!本人から!そんなことを聞かせるためにこのアタシを」

「最後まで聞くのだよ、クロアちゃん。」

見るとアザゼルさんもいつものおちゃらけた感じでなくなっている。

「もう一人の天使。こいつはオレ様とアザゼルが神の側に戻った時……自分の居場所はそっちにはないと言って……悪魔の側に残った。そもそもオレ様が神に反発した時に実は自分も神にはいい感情を抱いていないと最初に打ち明けたのもこいつでな、神に対する怒り、恨みは群を抜いていた。その理由は……未だに不明だがな。」

「俺私拙者僕とルーマニアくんが戻ったあと……彼は悪魔のトップとなったのだよ。」

ルーマニアの暗い過去。それを分け合って痛みを小さくしようとしているかのように、アザゼルさんも説明に加わる。

「この前聞いた通り、その時にはもう《信仰》の力はなかったのだよ。だから神様も彼がまとめることで悪魔が鎮まるなら……と言ってそれを認めたのだよ。」

「そして……長い間静かにしていたそいつは……今、再び神に挑もうとしている。」

「つまり……その天使が今回の事件の首謀者なのか……」

私の呟きにルーマニアがうなずく。

「名を……サマエルという。」

サマエル……それが倒すべき相手……になるのか。

「《信仰》の力が無くなったこの時代、神に挑む力はサマエルにはない……そう思われていた。」

「そこでそのサマエルが目をつけたのがゴッドヘルパーってわけね?」

翼が言うとルーマニアは首を振った。

「いや……そもそも最初に目を付けたのはオレ様だ。」

……?どういうことだ……?

「昔、神への攻撃方法を考えていたとある日。オレ様はアザゼルとサマエルに一つのアイデアを話した。ゴッドヘルパーとつながっているシステムは神が作ったもの……簡単に言えば神の力に等しい力なわけだ。だからオレ様はそれを利用する案を二人に提案した。」

「だけどもその案は使われなかったのだよ。なぜなら……システムがゴッドヘルパーから離れるのはその生き物が死んだ時であり、また次にどの生き物につながるかはランダム。なにより……天使や悪魔にはつながらないからなのだよ。」

「そう……だが……オレ様達が戻った後……サマエルは気付いたんだろう。今アザゼルが言ったシステムの性質は……つまりシステムの《常識》であると。」

《常識》……ゴッドヘルパー……!!

「《システム》と言うよりは《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパー。そいつに《常識》を変革させれば天使や悪魔もゴッドヘルパーとなることが出来る。」

《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパー……私たちがおこなっている《常識》の上書き、変革そのものを管理する存在。

「この前オレ様の前に現れた悪魔の言ったこと。そして情報屋が「記憶を覗けない」と言ったことから確信した。サマエルは……この時代の《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーを見つけ、何らかの方法を持ってして《常識》を変革させ……その《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーからシステムを奪い……自分が《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーとなったんだ。」

「えっ……つまり……」

力石さんが情報を整理しながらまとめる。

「その……神の力に等しいゴッドヘルパーの力を管理する存在が……敵のボスってことですか?」

鎌倉さんが記憶を覗けなかったのも……前にチェインさんが話していた「力が効かない」というのも全ては《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーであるが故……というわけか。

「変な話……というかそのサマエルとかいうのはアホなのかしら?」

クロアさんの呟きに私は頭を傾げる。

「《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパー……確かにゴッドヘルパーに対しては無敵かもしれませんわね。でも……それでは神に対抗できませんわよ?」

言われてみればそうだ。サマエルはなんで《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーになったんだ?

「それは……やつの目的を達成するのに一番都合がいい力だったからだ。」

「目的ですって?」

「サマエルが今していることは……ゴッドヘルパーであることを多くのゴッドヘルパーに自覚させることだ。そのせいで起きる騒ぎを解決するためにオレ様達は動いているわけだが……オレ様達が動く理由は実はもう一つあるんだ。」

「もう一つの理由?あによそれ。」

「ゴッドヘルパーの存在理由は……時代に合わせて《常識》を変えてより良い世界にすること。だがな、あまりに急激に多くの常識が変革することは多くの混乱を招くだろう?」

確かに。ちょっとずつ何かが変わるのなら慣れる時間も十分だが……急激に変わると混乱する。

「それを防ぐためにな、自覚したゴッドヘルパー……第二段階がある一定数を超えると発動するシステムがあるんだ。」

「それを俺私拙者僕たちは……《常識》のゴッドヘルパーと呼んでいるのだよ。」

「《常識》のゴッドヘルパーですって……?」

そういえばクロアさんの管理する《常識》を聞いていなかったが……今はそれどころじゃない。

《常識》のゴッドヘルパーだって!?

「正確にはシステムだけだがな。《常識》という常識を管理するシステム。これにゴッドヘルパーはいないんだが……オレ様達は便宜上そう呼んでいる。多くの常識を一度に変えられると困るから……これが発動すると強制的に全てのシステムがその時のゴッドヘルパーから離れ、別の生き物につながる。平たく言えばゴッドヘルパーの総リセットだな。」

「私の《天候》や翼の《変》とかが別の生き物に移るってことか。」

「そうだ。そして……このシステムは……難しい話なんだが……簡単に言うと世界の性質のひとつとして存在しているから……普段は如何なる手段を持ってしてもそのシステムに触れることはできない。」

「わかったぞ!」

突然しぃちゃんが立ちあがった。

「つまり、その悪の親玉サマエルは第二段階のゴッドヘルパーを増やし、《常識》を管理するシステムを発動させようとしているのだ!そして……発動した瞬間、つまり触れることが出来るようになった瞬間に《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーとしての力でそのシステムを手に入れようとしているのだな!」

「……恐らくな……」

ルーマニアが目をまんまるにしている。私もびっくりだ。

「ふっふっふ……こんなシナリオ、戦隊ものでは良くある話さ!例えば二代目の……」

「それで?そのサマエルが《常識》のゴッドヘルパーとなると何が起きるんですの?」

しぃちゃんの話はスルーされた。

「まさか……全ての《常識》を支配するとか……?」

力石さんがおそるおそる聞く。

「いや……そもそもの話をすると、《天候》も《変》も《金属》も《エネルギー》も、全ては元々《常識》の一部だったんだ。それが分離して今の形になっているわけだから……《常識》のゴッドヘルパーになったとしても全てを支配するわけではない。」

「じゃあなんの利点があるんだ?結局手に入るのはリセットする能力だけなのか?」

「……《常識》と呼ばれるものはな……別に下界だけに存在するのではない。天使や悪魔に関する《常識》もあるんだ。」

「ルーマニアたちの常識ってことか?」

「ああ。ゴッドヘルパーという制度は下界をよくするためのもの。だから天界や……地獄とかにはゴッドヘルパーの制度はない。よくするもなにも……そうであると神が決めてしまった世界だからな。変革の必要が無いんだ。だからオレ様たちに通ずる《常識》は……未だに《常識》を管理するシステムの中にある。」

「《常識》のゴッドヘルパーになるっていうことはね、天使、悪魔……しいては神様にすら影響のある《常識》を支配するってことなのだよ。」

神に影響する?それは……何か矛盾している気がするが……

「さっきも言ったが……システムは神に等しい力だ。神が作ったものであることには変わりないが……神に影響を及ぼす程の力を秘めているのも事実。神や天使が使用する魔法の《常識》を変革するだけでも十分な脅威となる。サマエルはな……《常識》のゴッドヘルパーとなって神を倒そうとしているんだ。」

それが……敵の目的……

「神が倒されても一度作られたこの世界が消えるなんてことはない。そのままサマエルが神になることも可能なんだよ……」

「せ……世界征服……!」

しぃちゃんがフルフルとふるえている。少し楽しそうなのは置いておこう。

「世界征服……確かにな。世界は世界でも全宇宙も含んだ……完全完璧な世界征服だがな。はっ、こんだけでかい野望だ……サマエルに付いていこうと思う人間がいてもおかしくない。」

「それが鴉間さんやクリス、リッド・アークなんかのゴッドヘルパーなんだな……」

「あっはっは!なんだなんだ!わたしがしてきたことは間違いではなく!これからしようとすることも変わらないのだな!世界を手に入れようとする悪党を倒す!うん!うん!!」

しぃちゃんの興奮がマックスに達したらしい。突然部屋から飛び出し、庭で「うおおおぉぉおお!」と叫び出した。

「ま……それなりに価値のある話でしたわね……」

クロアさんはフンッと腕を組む。すると翼が手を挙げて言った。

「あのさ、敵の目的とかわかってとても良かったわ。だけどあたしがそれ以上に気になるのはそのお嬢様?アザゼルの協力者のことなんだけど。」

……そういえばきちんとした自己紹介もせずに話を始めてしまっていた。私はクロアさんを見る。

「そう……このアタシのことを知りたいのですわね?あなたたちみたいな平々凡々な平民なんかをはるかに超える力を持つこのアタシを!!」

クロアさんは座っていた椅子の上に立つ。

「このアタシの名前はクロア・レギュエリスト・セッテ・ロウ!感謝しなさい!このアタシと会話できるだけでも幸運なんですのよ!」

「クロア……レギュエリスト……セッテ・ロウ!?」

翼が異様に驚いている。

「知ってるのか?」

「ロウ家っていえば……世界でも五本の指に入る大富豪よ!?」

「そうなのだよ。頑張ってお嬢様を探していたらちょうどゴッドヘルパーであるクロアちゃんを見つけたのだよ。」

「頑張ったな……んで、なんの《常識》を操るんだ?」

「ふふん。そもそもこのアタシは――」

「ちょっと待ったクロアちゃん。」

アザゼルさんが間に入る。

「えぇっと……ほら、クロアちゃんがわざわざ説明することはないのだよ。俺私拙者僕にお任せをば。」

「あらアザゼル、あなたもようやくこのアタシとの接し方がわかってきたようね?」

「ほら……えっと……こんな古い家にいたから……少しお庭に出て新鮮な空気を吸うのだよ。」

「ええ、そうさせてもらうわ。」

クロアさんがしぃちゃんが叫んでいる庭へと移動する。私たちはアザゼルさんを見る。

「ごめんなのだよ。ちょっとね……」

アザゼルさんは軽くため息をつき、クロアさんが庭に出たのを確認すると、とてもめんどくさそうに話し始めた。

「えぇっと……うん、順を追って説明するのがいいのだよ。まず、クロアちゃんの……クロアちゃんにつながっているシステムが管理する《常識》は……《ルール》なのだよ。」

「《ルール》?……それは何ができる能力なんだ?」

ルーマニアが腕を組む。ルーマニアは……聞けばそのゴッドヘルパーができることをある程度は教えてくれるのだが……ルーマニアも知らない《常識》ってことなのか?何か特殊なのだろうか?

「うーん……言い方が悪かったのだよ……《ルール》というか、《規則》というか、《当たり前》というか……そんな感じのもののゴッドヘルパーなのだよ。」

「はぁん……」

「えっとね……いや……先にクロアちゃんのことを話すべきだったのだよ。さっき翼ちゃんが言った通り、クロアちゃんは大富豪の娘なのだよ。そして……そうであるが故の強みであり弱みのために……本人の前では話せないのだよ。」

「どういうことですか……?」

「クロアちゃんは……生まれた時から今まで、何不自由なく育ったのだよ。どんな問題もロウ家が持つお金と権力で解決。ふつうならみんなが守るような《ルール》も……ロウ家の力で何度か無視して……随分とわがままというか……自由奔放というか……そんな感じで育ったのだよ。だから、クロアちゃんにとっては……《ルール》は守るものではなく、破るものなのだよ。この思想はクロアちゃんの根底の思想……今さら変えることもできないクロアちゃんの絶対的な性質なのだよ。」

《ルール》は破るものか。漫画みたいな考えだなぁ。

「そして俺私拙者僕が自覚させ……《ルール》のゴッドヘルパーとして目覚めたクロアちゃんは何ができるようになったかというと……やっぱり《ルール》を破ることなのだよ。あぁ……いや、破るというよりは否定なのだよ。まぁあんな性格だから……」

「《ルール》を否定する。それは具体的にどういう現象なんだ?」

「ルーマニアくんのパートナー、雨上ちゃんを例に取ってみるのだよ。例えば雨上ちゃんが雲をもこもこ発生させて雷を落とすとするのだよ。「《天候》のゴッドヘルパーは天候を操ることができる」……この《当たり前》をクロアちゃんは否定できるのだよ。すなわち……雨上ちゃんの「雲を発生させる」という行為が無効化されるのだよ。」

「なんだそりゃ。まるで《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーじゃねーか。」

「それだけじゃないのだよ。雨上ちゃんの雷をクロアちゃんがくらっても……無傷でいられるのだよ。」

「なに!?雲までは《天候》の力によるものだが……発生した雷はただの自然現象だぞ!?それじゃ……無敵じゃねーか。」

「雷の直撃をくらったら人間は死ぬ。そういうイメージがあるのだよ……いや、実際死ぬと思うのだよ。クロアちゃんは「雷の直撃をくらったら死ぬ」という《当たり前》を「そんなこと、誰が決めたのかしら?あはは!」みたいなノリで否定できるのだよ。」

「……最強じゃないですか。じゃあクロアさんにはあらゆる攻撃が効かないってことに……」

「うん……これだけなら確かにそうなのだよ。」

「あぁん?どういうことだよ?」

「さっきも言ったけど……《ルール》は破るものという思想はクロアちゃんの絶対的な性質なのだよ。だから……どんな時でも《ルール》の否定をしてしまうのだよ。」

どんなときでも否定する。……別に問題ないように思うのだが……何か問題があるのだろうか?

「例えば……敵が……クロアちゃんにデコピンをするとするのだよ。もちろんデコピンなんかじゃ人間は死なないのだよ。でも……クロアちゃんはそれを否定して……デコピンで死ぬことが出来るのだよ。」

つまり……えぇっと……「デコピンをくらっても人間は死なない」という《ルール》というか《当たり前》を「そんなこと、誰が決めたのかしら?あはは!」みたいなノリで否定して……「デコピンをくらうと人間は死ぬ」というものに変えてしまうということか……!

「ちょっちょっ!あによそれ!デコピンで人間の生死を考える奴なんかいないわよ!せいぜい痛いか痛くないかの違いでしょ!?」

「今のはあくまで例なのだよ。でも戦闘となると……どのような攻撃であれ、頭はその攻撃をくらった時のダメージとかに思考が行ってしまうのだよ。「この攻撃をくらうとやばい。」「この攻撃はくらっても大丈夫だから無視する。」とか。」

「ま……まぁそうだけど……」

「幸い、今のところ……敵に何のゴッドヘルパーであるかがばれたことはないのだよ。だから敵はとりあえずこちらにダメージをあたえようと攻撃をしてくる。それを見たクロアちゃんも「あれをくらうとヤバイ。」というイメージをしてくれているから……能力が良い方に働いているのだよ。でももし、敵がこちらの能力に気付き……「この攻撃をくらっても何のダメージもない。死なない。」なぁんて言いながら石ころを投げてきたら?クロアちゃんはそれを否定して……大きなダメージを受けることになるのだよ。」

「そうか。それで本人の前では話せないわけか。」

ルーマニアが苦い顔をする。

「本人にこのことを話してしまうと……余計に意識してしまい……例えば敵の攻撃で壊れた何かの破片なんかでもダメージを受けかねないから……こうしてこっそり話してるわけか。」

「クロアちゃんには……何も言っていないのだよ。本人が本人で思っているのはたぶん「このアタシは無敵!」ってことなのだよ。」

「なるほどな。……つーか……この能力だけじゃ……攻撃が出来ねーな?どうしてんだ?」

「ルーマニアくんには前に言ったのだよ……二丁拳銃を使うのだよ。」

「そういや……言ってたな。」

拳銃て……こんな単語が普通に出てくるとは……

「もちろん……その拳銃……というか銃弾もクロアちゃんの力を受けて……百発百中なのだよ。」

きっと……「銃弾は重力を受けて放物線の軌道を行く」という《当たり前》を否定して……自分の狙ったとこに行くようにしているんだろう。

「それでも……単なる銃であることには変わりないのだよ。リッドはくらってもピンピンしているのだよ。そしてリッドも……クロアちゃんの能力がわからないから……とりあえず攻撃をしてくるために……クロアちゃんには効かないのだよ。だから決着がなかなかつかないのだよ。」

「あ……でも、リッドの能力が《反応》ってわかったんですから……それを否定すれば……」

「それがねぇ……俺私拙者僕たちも《反応》って言われてもピンと来ないのだよ。何をどうやったらあんな漫画の中の人みたいになるのやら……結局のところ、何を否定すればいいのかさっぱりなのだよ。」

「情報屋は……《反応》がリッドの能力の全てではないとは言ってたが……」

「あによ……それじゃぁ……そのサマエルの《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーの力で……二つ以上の《常識》を操れるようになってるとか……?」

「できないこともねーが……それって逆に弱くなるぜ?」

「どゆこと?」

「ゴッドヘルパーの力は……別に超能力じゃねーんだ。《常識》の上書き、変革によって不思議な現象を起こしてるんだ。システムとゴッドヘルパーをつなぐ……まぁケーブルみたいなものはな、ゴッドヘルパーから情報を得るためのものだから……基本的にいつも開いている。だから……えぇっと……つまりな……」

「ルーマニアは説明下手だね♪あーたーしがやるよ。」

ムームームちゃんがニコニコしながら話す。

「例えば……《天候》と《金属》、それぞれを管理するシステムと同時につながっているとするね。今、雨を降らそうとして雲の発生という現象を願う。するとその願いはケーブルを通って《天候》のシステムに行くけど……同時に《金属》にもいっちゃうんだよ。ルーマニアの言った通り、ケーブルは常に開いているからね。どちらのシステムもゴッドヘルパーからの情報を得ようとするから……ゴッドヘルパーの願いは両方に行くわけ。さてさて、《天候》はもちろん雲を発生させようとするよね?《天候》だから造作もないこと。でも、《金属》にはそんなことはできない。だから……システムからゴッドヘルパーに帰ってくる返事は「了解」と「無理」の二つ。結果、出来る出来ないの現象が絡みついて……何も出来なくなるんだよ。」

「……両方のシステムに出来る事しか出来なくなるってことですか。」

「そうだね♪」

「じゃぁ……リッドの他の能力ってなんなのかしらね。」

考えてもわからないだろうな。アザゼルさんたちがわからないなら私たちでわかる道理もない。

「いよっし!」

突然カキクケコさんが声を張り上げた。……というかいたのか。

「結局わからんことだらけってことだろう?それじゃあよ、今後どうするかを話そうぜ。」

「カキクケコにしちゃあいい事言うな。まぁ確かにそうだな。どうする?」

私は情報を軽くまとめる。

「リッド・アークの居場所は不明……というか特定の場所にいるとは思えないし。あっちから手を出してくるのを待つしかない。すると今できるのは……下着泥棒ってことになるなぁ……」

「そうねぇ……とりあえず当初の目的だった下着泥棒を捕まえるとしますか。」

「とりあえず……近くの中学校に行くとするか……」

「放課後とかに校門あたりで待ち伏せてさ、ルーマニアとかにゴッドヘルパーかどうかを確認してもらえばいいから……簡単だわ。」

「そう簡単に行くかな。だって……ゴッドヘルパーってたぶん私たちが考えるより数は多いだろう?見分けがつくのか?ルーマニア。」

「まぁ……な。説明し難いんだが……自覚してるゴッドヘルパーはそうでないゴッドヘルパーとは気配が違うんだよ。こう……自覚していない時よりもはっきりするというか。確かにゴッドヘルパーの絶対数はかなりのもんだが自覚してる……第二段階となると数は一気に減る。」

「それなら大丈夫ね。あ、でも中学の授業が終わるのってあたしらより早いわね……ルーマニアに見張っててもらう?」

「そうだな……もし私たちが合流するよりも早く帰っちゃったら……尾行して家をつきとめておいてくれれば……なんとでもなるし。」

「情報屋は変なとこで商売人だったからな……ま、しょうがねーか。オレ様にまかしとけ。」

「よし、月曜になったら早速行動開始だ。」


「あれ?つばさぁ?俺は……」


「話はまとまったのだよ。クロアちゃん、帰るのだよ。」

庭に出たしぃちゃんとクロアさんはなにをしているんだろう?そう思って見るとなかなか面白い光景が飛び込んできた。

「知りませんでしたわ……この控えめな甘さ。そして緑茶との相性……」

「もったいない。和菓子のおいしさを知らずに育ったとは。まぁ、話を聞いているとだいぶお金持ちの家庭に生まれたみたいだからな……そういう家はだいたい伝統を重んじるから……海外のお菓子とかには関心が行かなかったのかもなぁ。」

しぃちゃんとクロアさんは縁側に座ってお茶をすすりながらようかんを食べていた。

「あれま。クロアちゃんが普通に会話しているのだよ……いつも高飛車なのに……びっくりなのだよ。」

「あれかしらね。良家の生まれ同士。」

翼が興味深そうに眺めている。確かに……しぃちゃんは……というか鎧家はこの家を見ればわかるが、なかなかの歴史を持つ家だ。しぃちゃんもそれなりの礼儀、作法というのを習ってきているのだろう。共に大きな歴史を持つ名前を受け継ぐものとして……何か通じるものがあるのかもしれない。


「あのぅ……」


「ごちそうさまですわ。またお話をしましょう、鉄心。」

「うん。またな、クロア。」

名前を呼び捨て合っている……正直クロアさんとの接し方がわからなかったからこの先が思いやられてたんだが……しぃちゃんとクロアさんがああなったから少し不安はなくなった。

「行きますわよ!アザゼル!」

「俺私拙者僕にもああいう風に接して欲しいのだよ……」

アザゼルさんとクロアさんが鎧家から去っていった。

「それじゃ……あたしたちも帰ろうか、晴香。」

「そうだな。ルーマニア、月曜はよろしくな。」

「ああ。またな。」

ルーマニアの姿がその場で消えた。私と翼は家に向かって歩き出す。


「あれ……?目から汗が……」

「あはは♪完全に忘れられてるね、カキクケコ♪」

「ムームーム、オレ達も帰ろうぜ。」

「十太、君はあーたーしにちょっかい出しちゃ駄目だよ?カキクケコみたいになっちゃうからね♪」

「ちょっかいて……オレはロリコンじゃねーからムームームには興味な痛っ!」

「レディーに向かって失礼だよ。」

「レディーて……オレからすれば妹ができたみたいなノリ痛っ!」

「それくらいにしようか?お兄ちゃん……?」

「ひぃ!ごめんなさい!てかムームームにそう呼ばれるとなんかオレがイタイ人みたいだ!やめてくれぇ!」


「目から……汗が……止まらない……きっとこれは雨なんだな……うん……」



 日曜日。私は机に向かっていた。プラモデルを作っているのではなく、宿題をやっているのだ。教科は国語。内容は古文。

「これほんとに日本語なのかなぁ……」

古文は……だいたいは今と同じ意味で同じ言葉が使われるが、時折まったく違う意味で登場するから困る。

「古文学者の訳し間違いなんじゃ……どうしてこんなに意味が変わるんだよ……」

だいたいこんなん将来使わない!なんで習う必要があるだ。古文だけに限らず、全ての教科で言えるぞ!スーパーとかで「√二割引き」とかないだろうに。いつ使うんだよ√……

「ああ……だめだ。やる気がでないや。息抜きしよう。」

そう思ってプラモデルに手を伸ばそうとした瞬間、

ポーン

「!」

パソコンにメールが来た。音切さんかな。

「えぇっと……うん?知らないアドレスだな……sugoizotuyoizotayorininaruzo……ってあれ?……《すごいぞ強いぞ頼りになるぞスーパーハイパーアルティメットジャスティスな私たちはみんなの笑顔を守るため悪い奴らをバッタバッタとなぎ倒し平和で愉快な世界を作ろうとがんばる絶対無敵の救世主だぜいぇい》……か……長いアドレスだな。」

まぁ……どう考えてもチェインさんのとこからだ。どこで知ったんだ?私のアドレス。

「えぇっとなになに?……」


『こんにちは。プラモデルに手を伸ばしたところ悪いのだけれど、今からこのメールに添付した地図の場所に来てくれないかしら?』


……どうして私の行動を知っているんだ?隠しカメラでも……

ピッピロリ♪

電話だ……

「……もしもし。」

『もしもし、ハーシェル?電話の方が早いから説明はこっちにしたわ。』

「……チェインさん?」

『そうよ。お久しぶりね。』

「何なんですかこのメール……何で私の行動が……」

『それはね、今やあたくし達にわからないことなんてサマエルの頭の中だけになったからよ。』

チェインさんからサマエルの名前が出るとは。あ、いや……チェインさんは敵のボスをすでに知ってるんだった。戦ったこともあるみたいだし……

「それで……何ですか?」

『大事な話。送った地図の場所に来てくれればわかる。』

「電話じゃダメなんですか……?」

『うちの組織のメンバーに会わせたいのよ。できればルシフェル……ルーマニアも連れてきて欲しいんだけど。』

ルーマニアを連れて来いということは……ホントに大事な話のようだ。私は添付されている地図を画面に表示する。そんなに遠くない。自転車で行ける距離だ。

「……わかりました。今から行きますね……」

『待っているわ。』

電話が切れた。

「さて……」

春とはいえ、まだ少し肌寒い。地図を印刷した後、薄い上着を羽織って私は下に降りる。リビングではお母さんがテレビを見ていた。

「あら?晴香、どっか行くの?」

「うん、ちょっと出かけてくる。」

「ふぅん……あなた……ちょっと変わったわね。春休みあたりから。」

その言葉に内心ドキッとしつつ私はお母さんの方を見る。

「そ……そう?」

「休みの日に出掛けるなんて……友達が誘いに来なきゃほとんどしなかったでしょう?それが最近はしょっちゅう出かけて……何か楽しいことでも見つけたの?」

そうか。言われてみればそうだ。ゴッドヘルパーのことに関わってから外に出る機会が多くなったからなぁ。さて……何て言ったものかな。

「あ。まさか恋人でも出来た?紹介しなさいよ?」

お母さんがうふふと笑う。

「いや……そうだね……ある人の言葉を借りれば……私の欲望に従っているだけ……かな。」

「なにそれ?」

「ふふ、行ってきまぁす。」

扉を開けて外に出る。玄関前に置いてある自転車に乗り、私は走り出した。



 走りながらルーマニアを呼び出し、私は地図が示す場所を目指す。ルーマニアは私の上を飛んでいる。もちろん他の人には見えない。

「調べてみたんだがな。」

「何をだ?」

「その……すごいぞ強いぞ云々っつう名前の組織についてだよ。」

声を出してしゃべるとだいぶ変な人に見られるので今は例の腕輪で会話をしている。

「何度か天使側とも接触があるんだ。時には力を貸してくれたりもしたそうだが……この組織の目的はゴッドヘルパーの存在を世に認めさせてより良く生活しようってもんだから……オレ様たちの考えとは基本的には反する。だから多少の小競り合いもあったらしい。」

「その目的さ……《常識》のゴッドヘルパーが発動して結局ダメになるんじゃないか?そのことは知ってるのかな。」

「知ってる。だから……発動しないぎりぎりのラインで達成しようとしてるんだ。だがそんなことをすればホントに限られた人間にのみ与えられた力と認識されてしまい……世の中に混乱を生む。あいつらはゴッドヘルパー専用の警察とかを作ればいいとかなんとか言ってるがな。」

「組織自体はいつできたんだ?」

「それなんだが……オレ様もびっくりだ。なんと百年以上前から存在してるんだ。」

「百年!?どういうことだよ……」

「どうもこうも……百年前にできた組織が今もあるってことだよ……だが驚くのはまだ早い……この組織のトップはな、昔から変わっていないんだ。」

「つまり……トップの人間は百歳ってことか!?」

「そうなる。」

「トップ……つまり……メリーさんって呼ばれるゴッドヘルパーか。すごいおじいさんかおばあさんってことになるなぁ……」

「ああ。オレ様もちょっとどきどきしてる。生まれた瞬間に自覚するもんでもないからな。そのメリーさんって奴は軽く百歳を超えてるってわけだ。何もんなんだろうな……」

「何の《常識》を操るんだ?」

「それが謎なんだよ。もちろん直接会ったことのある天使とかもいたんだがな、そいつの記録によると……ゴッドヘルパーの気配がしないんだそうだ。意味わかんねーだろ?」

「……じゃあゴッドヘルパーではない……ってことはないか。気配を消す手段があるのかな。」

「たぶんな。だが、そうまでしてオレ様達に何のゴッドヘルパーかを隠してきたのに今回オレ様を呼んだんだろう?ものすごく緊急事態なのかもしれねーな。」

「そうかもな……着いたぞ。ここだ。」


地図が示していた場所。そこには紫色のマンションが建っていた。七……八階建てだ。ふとエントランスの方を見るとチェインさんが手を振っていた。

「うん……時間通り。よく来てくれたわね。」

「こんにちは。えぇっと……こいつがルーマニアです。」

ルーマニアが姿を現す。

「わっ。驚いた。ま、とりあえず来て。」

チェインさんがマンションに入っていく。私たちはその後に続く。中に入ってエレベーターに乗って八階まで上がり、隅の部屋の前で止まる。表札には竹下とある。

「さて……ようこそ、あたくし達の……仮アジトへ。」

中に入るとなかなか喧しいことになっていた。

「それはミーのトマトサンドだぁ!よこせ!このハゲ!」

「誰がハゲじゃ!良く見んかい!ふさふさじゃろうが!」

「ジュテェム、そこのクリームパン取ってくれ。」

「だぁめぇ!それはあちゃしのにゃのぉ!」

「メリーさん、クリームパンばっかり食べすぎですよ。たまにはこういうものも食べないと栄養が偏りますよ?」

リビングに大きなテーブルが置いてあり、それを五人の人がソファーで囲んでテーブルの上のパンとかおにぎりとかを取り合っている。

「なんだこいつら……」

ルーマニアが呆気にとられている。私もだが。

「みんな、ハーシェルとルーマニアが来たわ。」

「はーしぇるぅ?ヘイヘイ、チェイン。そいつのネームは雨上晴香だゼ?」

「折角のコードネームにゃんだからちゅかわにゃきゃ。」

……あれ?今私の名前を言った人……どっかで見た。というか確実に見た。なぜならその人はビシッとしたスーツを着ていて頭に紙袋をかぶっているからだ。

「……鎌倉さん?」

「ノンノン。今のミーはジョン・ジョナサンだゼ!」

《情報屋》鎌倉……もとい、ジョン・ジョナサンがいた。誰かに襲われたようだったが……

「また会うことになるとはね。ミーも驚いているよ。あぁ!どさくさにまぎれてミーのカツサンドを!」

……音切さんの言っていた「会うたびに別人」というのはこういうことか。

「それじゃあ……とりあえず二人とも座って。最初にあたくしたちの紹介をするから。」

私とルーマニアはキッチンの前に置いてあるテーブル(たぶんご飯を食べる用のテーブル)の椅子に座った。

「まず、あたくしはチェイン。ご存じ《食物連鎖》のゴッドヘルパー。」

そういえば鎌倉さん……ジョン・ジョナサンさんが言ってたが……チェインさんの能力が最も猛威をふるうのは川とかではないらしい。《食物連鎖》にはもっと強力な要素があるのだろうか。

「こっちから順番にいくわね。この普通の人がジュテェム。」

「よ……よろしくお願いします!ハ……ハーシェル?雨上さん?えぇっと……どっちがいいんでしょうか……?」

何故か顔を赤くしてあたふたしているジュテェムと呼ばれた人はチェインさんの紹介通り、普通の人だ。服装も普通。顔も普通。体格も平均的。これと言った特徴のない人だ。だがジュテェムさんを一言で表すのなら「普通」ではなく「好青年」とかになるだろう。さわやかでいい人そうな印象を受ける。……アザゼルさんじゃないけど……女の子ばっかり出てくるゲームとかの主人公みたいだ。血のつながらない妹とかいそうだなぁ……

「わ……わたくしは《重力》のゴッドヘルパーです……はい。」

そんな普通の人からとんでもない単語が出てきた。《重力》のゴッドヘルパーだって!?

「〇Gはもちろん、一〇G、一〇〇Gと重力を操れます。大きさだけではなく、方向も自在です。」

照れながら話しているがそんなほんわかな能力でもないと思うのだが。この人の手にかかればどんな重たいものでもあっという間に宇宙の彼方へ飛ばせるわけだ。逆にペッシャンコにも出来る。戦いとなればこれほどすごい能力もないのではないか?

「それで、そのジュテェムの隣のわるそーな奴がホっちゃん。」

「おう、よろしくな。……つかわるそーってなんだよ……」

鎌……ジョン・ジョナサンさんが「歩く爆弾」と称した人。これまたチェインさんの紹介通り……わるそーな人だ。髪の毛が少し金色の交じった茶髪で光っているし、目つきも悪い。皮のジャンパーを着て穴のあいたジーパンをはいている。街なんかで見かけたら目をあわせないようにしてしまうな……

「おりゃは……《温度》のゴッドヘルパーだ。」

お……おりゃ?意外と田舎の方の人なのか?いやいや、その前に……《温度》?それと爆弾は何がつながるんだ?

「ヘイヘイ、ホットアイス、雨上くんが不思議がってるぜ!《温度》の何がすごいのか教えてやれよ!」

ジョン・ジョナサンさんが笑いながらたまごサンドを食べている。どうやってたべているかというと紙袋の口を少し広げて下から口元へ押し込んでいる。紙袋とればいいのに……

「あー……こいつらはホっちゃんって呼ぶが、おりゃの名前はホットアイスだからな。「ホっちゃん」って名前じゃねーからな。」

こんな悪者みたいな姿で「ちゃん」づけってすごい違和感だ。

「《温度》……おりゃはその辺とかあの辺とか、一定の空間、物の温度を操れる。温度の変化速度は一瞬。だから爆発を起こせるんだ。」

……・?ちんぷんかんぷんだ。

「見るからにわからないって顔だな。いいかぁ?爆弾が爆発すっとすごい衝撃がくんだろ?爆風とも言うが……爆弾の一番の脅威はその爆風だ。それでまわりのものを破壊する。んでその爆風が発生する理由って知ってっか?爆風ってのはすなわち火薬によって急激に熱せられた空気の瞬間的な膨張なんだよ。つまりだ、おりゃの力でどっかその辺の温度を急激にうん千度とかに上昇させっと……ボンってわけだ。」

ああ……そうか。なんだ、よく考えたら《温度》ってすごくないか?ジョン・ジョナサンさんが言った(言った時点では鎌倉さんだが)「《天候》に次ぐ、人類では抗えないものを操る……まぁ私たちも強制的にそれを操ることはできるがね。」という意味がこれでわかった。確かに私たちはクーラーとかストーブとか……もっと簡単に言えば服などで自分が感じる《温度》をコントロールできているが……根本的な温度は変わっていない。夏場、クーラーをガンガンにかけても、その部屋から一歩出れば熱はそこにあり、冬、どれだけ厚着をしようともそれを奪われれば凍えてしまう。目にも見えず、触れることもできない《温度》という存在は、確かに人類では抗えない。それに《天候》も《温度》に左右される。寒くないと雪は降らない。おぉう、考えれば考えるほどすごいものだな。

「その隣のおじいさんがリバじい。」

「うむ。」

リバじいと呼ばれた人は平たく言えば執事だ。スーツというよりはタキシード?に近い服を着こなし、モノクルを左目につけている。鼻の下の立派なひげが目立つ、私の脳内の執事そのままである。

「わしの名前はリバース。みなからはリバじいと呼ばれておるがの。」

リバース……それだけで能力がわかりそうだ……

「わしにつながるシステムが管理しておるのは……《抵抗》じゃ。」

《抵抗》……空気抵抗とかだろうか。

「《抵抗》とは……何か力が加わった時にそれと逆方向に働く力のことじゃ。摩擦による抵抗、空気による抵抗……それに加え作用反作用の反作用も抵抗に入るのぅ。」

……《硬さ》とか《エネルギー》とか……物理的な《常識》を操る人はやっぱり強い。私たちの動きを支配する法則だから当然なのだが……《抵抗》はどうやって戦うのだろうか。

「ヘイ!雨上くんがどうやって戦うのか疑問に思ってるぜ!」

またジョン・ジョナサンさんに記憶を読まれた……

「わしは……主に高速の連続攻撃かのう。」

……《抵抗》で……?

「ある程度の速度で運動する物体が壁に当たると跳ね返るじゃろう?それは反作用に他ならないのじゃが……それを利用するのじゃ。まずは地面と足の裏の摩擦をゼロにし、スケートのように滑る。無論空気抵抗もゼロにするので速度が落ちることはない。滑りながら敵に近づき、攻撃をしながら敵の横を通り過ぎる。その後、空気の抵抗を極限まであげて壁のようにしてそれにぶつかる。反作用をコントロールしてわし自身にダメージが行かないようにしつつ、速度を落とすことなくはね返る。そうしてまた攻撃。これを繰り返すわけじゃな!」

なるほど。それは確かに強力だ。……リバースさん、なんでこんなに楽しそうに話すんだろう?もしかして戦いとかが結構好きなのかな?

「でもリバじいの本領はやっぱバリヤーだよな。」

ホットアイスさんがひっひっひと笑いながら言う。バリヤー?

「まぁ……簡単に言うと……ものすごい《抵抗》を持つ空間を作るんじゃ。敵の攻撃を何でもはね返す……みたいな感じじゃ。」

それはもっとすごいな……防ぐだけでなくはね返すとは。

「んで……リバじいの隣の奴が……情報屋。こいつは知ってるわね。」

「知ってますけど……何でここにいるんですか?」

「あちゃしがちゅれてきちゃの。必要になりゅかりゃね。」

ジョン・ジョナサンさんの隣で可愛らしくおにぎりをほおばっている女の子が呟く。

「……その小さい女の子が……あたくし達のリーダー。メリーさん。」

……あれ?メリーさんって……百歳を超える……

「こんにちは。あちゃしがメリー。みんにゃメリーさんって呼ぶの。」

百歳……には見えないなぁ……

「しょうね……まじゅあちゃしの能力かりゃ。あちゃしが操るのは《時間》だよ。」

……!?

「《時間》!?」

「《時間》だぁ!?」

私とルーマニアが同時に叫ぶ。そりゃ叫ばずにはいられない。だって……《時間》……普通に考えて最強の《常識》だ。

「できりゅことは……漫画とかアニメの世界のそれと同じだね。あちゃし以外の時間を止める、進める、戻す。プリャス、時間の進んだ世界、戻った世界を見れりゅのよ。」

時間の進んだ世界を見る……そうか。チェインさんと会った時、「あたくしたちの組織は……資金を賭けごとで稼いでいるの。」というのはこういうことか。結果を知っているのなら賭けごとは余裕だ。

「うーん……どこから説明すりぇばいいのかにゃあ、チェインお姉ちゃん。」

ほっぺにご飯粒をつけながら首をかしげるメリーさんはだいぶ可愛い。見た目はムームームちゃんと同じ感じだが……ムームームちゃんよりも小さいかな。動きやすそうな服装、適当に切りそろえられた短い髪。まだおしゃれに興味を持っていな小学校低学年の女の子……みたいな感じだ。

「そうですね……とりあえずここに連れてこられた理由が気になる所でしょうから……そこから話そうかしらね。」

チェインさんが私の方を見る。

「……今現在この国に来ているサマエル側のゴッドヘルパー……リッド・アーク。彼が問題だからこうしてあなたたちを呼んだの。」

当然のようにサマエルの名前が出てきた。つい最近まで知らなかった私としては変な感じだ。

「前回のクリス・アルガードは慎重な奴だったし鴉間がいたから……あいつらとあなたたちの戦いは日常の裏で行われたけれど、リッドはそんなことお構いなし。下手すれば真昼間の街中で戦いかねない……というか確実にそうなるわ。メリーさんが見たから。」

時間の進んだ世界……未来か。

「でも……この組織の目的はゴッドヘルパーの存在を知らせることですよね……?」

「そうよ。でもあたくしたちはゴッドヘルパーとそうでない人の平和な共存を望むの。リッドとの戦いがきっかけになってしまったらゴッドヘルパーの第一印象は最悪よ。それはあたくしたちの望むところではないわ。」

「ああ……そうですね。」

「そこでこういうことを計画したの。あなたたちはリッドと戦う。街中での戦闘……建物が壊れるかもしれないし……巻き込まれた人が死ぬかもしれない。でも……構わない。」

「構わないって……」

「戻すわ。壊れた建物も……死んだ人も……時間を戻して元に戻す。それで解決よ。」

「それは……そうですけど……でも……」

「そうだぜ。つかそもそもよぉ、《時間》、《抵抗》、《温度》、《重力》、《食物連鎖》……こんだけのゴッドヘルパーがそろってんだからてめーらで倒せばいいだろうがよ。別に事が治まるなら倒すのは誰でもいいんだぜ?」

ルーマニアの言う通りだ。なぜ私たちが倒す必要があるのだろう?

「いくらメリーさんでも一度に戻せる時間には限りがあるわ。全世界の時間を戻す必要があるからね……」

「全世界!?」

「今は情報化社会よ、ハーシェル。戦っているところをビデオとかカメラで記録された場合、一瞬で全世界に広がるでしょう?インターネットで。」

「あ……なるほど。でも……倒してから戻せばいいじゃないですか。戦闘は一時間も続きはしないでしょう……」

「戦うと力を使うことになるでしょう。仮にメリーさんが一度に戻せる時間が一時間としても……それは全力の状態での話。戦って消耗した状態ではすぐには時間は戻せないの。回復するのに時間がかかる……もし回復するのに時間を使ってしまって一時間を過ぎてしまったら?放たれた情報は放たれたままになり……最悪の形でゴッドヘルパーの存在が公のものとなるわ。」

「そうか……《時間》ですもんね。ちょっと使うだけでだいぶ疲れそうですし……」

私も《天候》の力を使うとだいぶ疲れるし……ん?

「……なんですか……?」

何故かみんなが私を興味深そうに見ている。なんだ?変なこといったかな。

「……さすが第三段階じゃの。」

「そうですね。そういう感覚が身についているんですよ。」

えっ?えっ?なんのことだ?私が困惑しているとルーマニアが呟いた。

「普通……ゴッドヘルパーは《常識》を改変しても疲れないんだよ。」

「……は?」

「まさか……お前、オレ様が自覚させた時……つまり……《光》との戦いの時から疲れを覚えていたのか!?」

「え……まぁ……普通じゃないの……か?」

「すごいわねハーシェル。その時点ですでにその段階までいっていたなんて。どれだけ空のことを想っていたのかしらね。」

「えっ……はい?」

「雨上。前にも言ったが、ゴッドヘルパーは超能力者じゃないんだ。あくまで《常識》の改変、上書きをするのはシステムだ。ゴッドヘルパーがすることはイメージすること、考える事、信じること。《常識》の改変でゴッドヘルパー自身が疲労を覚えることは……ない。」

「え……じゃあ……私は……?」

「第三段階みたいな状態……システムとのつながりがめちゃくちゃ強い状態になるとな、もはやゴッドヘルパー=システムになるんだ。《常識》を改変する時にシステムが受ける負荷をゴッドヘルパーも受けることになるわけだ。」

「へ……へぇ……」

「ま……疲労を感じるようになることと引き換えに強大な力を得るわけだが。そういう段階のゴッドヘルパーはそんじょそこらのそれとは格が違うからな。」

「最強である第三段階の唯一の弱点ってわけなのよ、疲労は。」

チェインさんがにっこりと笑う。そうか……みんな疲れないのか……いいなぁ。……んん!?ということはメリーさんは……

「あちゃしは第二段階よ。それなりにいろいろできるけど……そこまでは至ってないにょ。」

「……?」

「別に第三段階でなくてもシステムとのつながりが強ければ疲労は覚える。第三段階が一番疲労を覚えるってだけだ。」

ルーマニアが補足する。そしてメリーさんを見る。

「つまりお前は時間を戻すだけの力を温存しとく必要があり……その間無防備になるこいつを守るために他のメンバーが動くから……戦う係がいるってわけで……オレ様たちがそれってわけか。」

「そにょとおり。」

「あたくしたちも出来る限り力をかすけども……主に戦うのはそっちになるわね。敵がリッドだけとは限らないから。」

「あぁ?未来を見れるんだろう?」

「そこまで見えるわけではにゃいにょ。確かなことはリッドが街中で戦いをふっかけてくるってことだけ。」

「……ジョン・ジョナサンさんはわからないんですか?」

「ミーは聖人君子ではないぜ?商売をする人間さ。リッドの力の全ても、何人でしかけようとしているのかも、どこでやろうとしているかも、いつやろうとしているのかも全て知っている。だーけーどー!やすやすと情報は提供しないさ!欲しければ同等の代価を払ってもらわないとね!」

「折角ここまで連れて来たけど……ずっとこの調子なのよ……こいつ。」

ああ……チェインさんたちもそういうことが知りたくてジョン・ジョナサンさんを連れてきたのか。

「いくら脅してもねぇ……結局あたくしたちが手を出せないことを理解してるから……ダンマリなのよ。」

「そうさ!しかもミーは逆に君らを脅せるんだ!雨上くん、君はここに集まっている奴らが見た目通りの年齢だとは思わないことだよ。みんな《時間》の力で老いが止まっているからどぅわっ!」

ジョン・ジョナサンさんがホットアイスさんのパンチを食らった。

「おしゃべりはいけねーなぁ……情報屋。」

「別にいいじゃないですか、実年齢くらい。」

ジュテェムさんがなだめる。そして私の方を見る。

「わ……わたくし、あなたには嘘をつきたくないので言います!」

顔を真っ赤にするジュテェムさん。なぜだろう?

「わたくし……外見は……そうですね、大学生くらいに見えるでしょうか?しかし実の所、四十間近の中年です!」

……そう言われても実際大学生くらいにしかみえないから困る。

「まったく……あたくしはそうねぇ……外見より二歳ほど年をくっているわ。」

「二歳って……それだけですか……」

「みんなメリーさんに会った時の年齢で止まっているの。あたくしがメリーさんとであったのは二年前ってこと。」

「おりゃがメリーさんと会ったのは……ざっと十年前か。」

「わしは五十年前じゃな。」

「それで……あちゃしが時間を止めたのはだいたい百年前。止めている時間はあちゃしが一番だけど……実際、一番の年上はリバじいだね。一番若いのがチェインお姉ちゃん。」

「なんで時間を……」

「全てはあちゃしの……あちゃしたちの理想のため。」

理想のため……か。この人たちが同じ考えに行きつき、時間を止めてまで成そうとするというのは……きっと同じような経験をしたからこそなのだろう。変えなくてはならない、変えたい。想像の域を出ないが……ここにいる五人はゴッドヘルパーのことで何か辛い経験をしたのではないだろうか。だからこそ……ここまで出来るのではないか……

「……うん?ちょっと待て。」

ルーマニアがメリーさんをじーっと見る。

「その姿が時間を止めた時の姿っていうことは……メリー、お前はそんな幼い時にゴッドヘルパーであることを自覚したのか?」

「しょうよ。」

「十歳いくかいかないかって年で自覚するとはな……《時間》のシステムはすんげー影響力を持ってんだな。」

「あはは。あんにゃにいらいらさせられたら誰でも自覚するにょよ。」

「イライラ?」

「あちゃしの視界に入る時計という時計が、人間が《時間》というものを刻みだした時に設定した時間とどれだけずれているかがわかりゅのよ?あの時計は何分何秒何々遅れている。こっちの時計はコンマ何秒早いとかね。」

ああ……それは確かにイライラするかもしれない。

「しょんにゃ中にいたから……ある日願ってしまったにょよ。「ちょっとそこの時計さん?あなたは少し早いからもうちょっと遅くなってくださいな。」ってね。そしたら……まわりの《時間》がゆっくりににゃった。そりぇが始まり。」

「……何で自分の時を……つか老いを止めたんだ?」

「子ども心に……思ったかりゃよ。大人ににゃったらにゃんだか忙しそう。遊ぶ時間はにゃいの?にゃんでも自分でやらなくちゃいけにゃいの?おかしは買ってもらえにゃいの?だったりゃ……あちゃしは大人ににゃりたくにゃいってね。」

それ……すっごくわかる。私もそんな感じだった。子どもには二通りあって、早く大人になりたい子と子どものままでいたい子に分かれる。この分類はどんな違いから生まれるんだろうか?はてさて。しっかし……メリーさんのこの舌っ足らずなしゃべり方は何からきてるんだろう……


 その後、メリーさんの百年の思い出を聞いたりして私たちは親睦を深めた。いや、しかし……この人たちが味方につくなら怖いものはないんじゃないか?《時間》て……



 「お久しぶり、加藤ちゃん。」

暗い男、加藤は目の前に座る女のその発言に世にも不機嫌な顔をした。

「あ~らら?そ~んな顔しないでよぅ、加藤ちゃん。」

「帰る。」

「ああん、いけずぅ。数少ない同郷のメンバーなんだからん、優しくしてよん。優しくするのは加藤ちゃんの得意技でしょん?」

大通りから少し離れたところにあるファミレス。その一席に黒くて暗い男と長い黒髪を後ろで一つに束ね、青いTシャツに青いロングスカートを着た青い女が向かい合って座っている。

「……いつからこっちにいたんだ?」

「マイダーリンと一緒に来たのよん。きゃっ。」

「……どこにいたんだ?」

「地下よん。ほら、あのクソ長ったらしぃ名前の組織。あそこをマイダーリンと襲撃したのよん。足元からビームをぶち込んでやったの。」

「ということは……あれは今この国にあるわけか。最適化のツールもそこで作ってたわけか。」

「そうよん。あれからどう?あのツールは。正常に動いているかしらん?」

「完璧だ。お前自身はともかくお前の作るものには絶対の信頼を置ける。」

「んもぅ、ひどいわねん。」

加藤の嫌味にも慣れているのか、特に反論もせずに紅茶に口をつける。が、加藤の後ろに最愛の人物の姿を確認し、乱暴にカップを置いて目を輝かせる。

「マイダーリーン!」

「マイスウィートエンジェル!」

バカみたいなやり取りを大声でやるものだから店中の視線がこちらに向いた。

「待たせたな、キリリッ

「いいのよん、リッド(エヘッ)」

「……」

青い女が乱暴にカップを置いた時に顔にはねた紅茶をふきつつ加藤は二人を睨む。

「……静かにしろ、こっぱずかしい奴らだな。」

「お、ついでに待たせたな、加藤。」

リッドは青い女の隣に座る。無論、今はウイングもキャノン砲もつけていない。

「んで?俺と結を集めたってことは……許可が下りたのか?」

「……確かに話題はそれだが……話を進めるのは私じゃない。そろそろ来るんじゃないか……?」

ピーンポーン。

店に客が来た時に鳴る音。リッドと青い女が入り口の方に目をやり……その表情を驚愕のそれにした。

「おひさっす。」

《空間》のゴッドヘルパー、鴉間 空がそこにいた。

「鴉間さん!?」

「どうしてここにん!?」

鴉間は加藤の横に座ると自分を囲む三人のゴッドヘルパーを眺める。

「そうそうたる顔ぶれっすねぇ……心強いっす。」

「……今回の戦い……リッドの提案の「街中で騒ぐ」というもの……それを話したら鴉間さんが直に話すと言ってな……」

「先に言いなさいよん!あ~びっくりした……」

「それで……どうなんですか。鴉間さん。」

「うん……」

チョコパフェを頼んだ後、鴉間は三人を見る。

「あの方からの命令を下すっす。我らが同胞、加藤 優作、リッド・アーク、青葉 結。三人に《天候》とそれの仲間の殲滅を命じるっす。」

「殲滅ですか……」

「リッドからの報告から《天候》はこちら側に落ちる可能性はゼロと判断し……」

「ちょっ……私の力でどうとでも……」

「確かに、《天候》一人なら加藤の力でこちら側に引き込めるっす。でも……《天候》の中には独立したもう一つの人格があるっす。その名も「空」……あの方によると空の在り方に変化が起きているみたいで……あっしらにはまだわからないっすけど「空」が人格を持ち始めているそうっす。その「空」という人格が感情操作を妨害するっすから……《優しさ》はおろか、全ての感情系の力が効かないそうっす。」

「空……ってことはあれですか。個人的な《常識》ではなく……世界の《常識》が今《天候》の影響で変わろうとしてるってことですか……」

リッドの顔色が変わる。それが如何にとんでもないことかわかっているのだ。

「それが第三段階ってわけねん……なるほどん。早めに潰すのが吉ねん。」

「そして。今後、こういう存在……つまり第三段階のような障害が出現する可能性を考慮し、計画を少し早めるっす。具体的に言えば……世界にゴッドヘルパーを認知させるっす。」

「第二フェーズってわけか。しかし……私は納得がいきません。第三段階が出現する可能性なんて最初からあったでしょうに。」

「天使側についているってことが問題なんす。今まで第三段階は完全に謎の存在だったっす。でも今回、天使の協力者の中でそれが出現したっす。もちろん天使側は第三段階の詳しいことを調べているはずっす……可能性として、故意に第三段階を作りだす方法が見つかってしまっていたら……」

「なるほど、天使の奴らが俺らに対抗するために第三段階を量産するかもしれないってことか。」

「無きにしも非ず……ってとこねん。……第二フェーズに進むってことは、今回の戦いは……」

「うん……街中でド派手にやってもらうっす。」

「おっしゃ!心おきなく建物とか吹っ飛ばしていいんですね!」

「いや~……この前のロンドンみたいに後始末する必要がないっすね。」

「うっ……あれは……すんません……やりすぎました。」

「結局街とかはすぐに直ったっすし……第一段階のゴッドヘルパーのいい刺激になったっすから結果オーライっす。それよりも戦力は十分すか?相手は第三段階の《天候》……それに集めた情報をプラスすると……他にも《金属》、《変》、《ルール》、《エネルギー》、《山》、《明るさ》、《数》、《視力》、《音》……単体では弱くてもこれだけのゴッドヘルパーがいるっすから……どんなことができるやら……」

「大丈夫ですよ。俺と結だけでも余裕なのに加藤までいて、さらに三人のゴッドヘルパーがいるんですから。というかイギリスはどうなんですか?あのお嬢様がこっちにいましたけど。」

「おかげで仕事はしやすい……と言えればよかったんすけどね。ちゃんと天使側も代わりを派遣してきて……でもまぁそれほど問題でもないっす。心配ないっすよ。……いやいやそうじゃなくって、ホントに心配なんすよ。三人が。」

言いながら鴉間は自分と加藤の間の空間に手を突っ込む。するとその場に亀裂が入り鴉間の腕は途中から消える。その空間の穴から出てきたのは紙の束。

「リッド。あっしのこれ読んだっすか?」

「……こっち来る前に「例の組織についてっす。」つってくれたやつですよね。報告書みたいな。ええ、読みましたよ。」

「メリーさんと呼ばれていたゴッドヘルパーの所を覚えているっすか?」

「確か……《模倣》のゴッドヘルパーじゃないかって書いてありましたね。」

「そこなんすが……もっととんでもない力の可能性が出てきたんす。このことをあの方にも教えたんすが……《模倣》ではないって……」



「……というわけなんすが。」


ほう……こんなとこにいたとはな。驚きだな。


「?知ってるんすか?メリーさん。」


知らん。だが探していたことは確かだな。鴉間、そいつは《模倣》ではないぞ。


「え……でもあっしの空間をことごとく……」


《模倣》のゴッドヘルパーであれば、確かにあらゆることをマネできるだろうが……ゴッドヘルパーの力は例外だ。例えばだ……プロ野球選手のバッティングをマネするとする。バッティングと一言でいってもその中にはいろいろな法則が飛び交う。ボールを捕らえる視力、タイミングを測るリズム、つま先から指の先まで流れるように連動する筋肉、その動きを伝える電気信号とさまざまだ。《模倣》はその全てを「バッティング」としてマネをするのであって個々の動作を一つ一つマネしているわけではない。要は動作、反応のつながりをマネしているんだ。仮に個々の動作をマネするものがいるのなら、それはそれのゴッドヘルパーでしかありえない。いくら《模倣》でも他のシステムの管理下である《常識》はマネできんよ。


「それじゃぁ……このメリーさんってゴッドヘルパーは一体何なんすか?」


はっはっは。《空間》に対抗できる絶対的な力なんて昔から決まっているだろう?



「《時間》のゴッドヘルパー。あの方はそう言ったっす。」

「じ……やばいですね……それ。」

「……?どうしてそれで鴉間さんの力が効かなくなるのよん。根本的に違う力なんだからそんなことありえないわよん?」

「お……おう。俺もそう思います。だって《時間》じゃあ鴉間さんの瞬間移動についていけないはずですよ。でもその報告書にはついてきたって……」

「あっしの瞬間移動は……厳密に言うと自分のいる所と行きたい所をつなぐトンネルを作ってくぐるという行為っす。だから……あっしがくぐる瞬間に時間をゆっくりにでもすればあっしがくぐろうとしているトンネルをくぐってあっしが移動しようとしている所に移動できるんす。回避不可能の攻撃でも……自分に攻撃が届く前という過去から自分の立っていた位置を攻撃が既に通り過ぎた未来へ移動すれば……外見上はすり抜けた感じになるっす。」

「どう対処すれば……そのメリーさんとかいう奴も今回の戦いに?私たちではどうにもならなくないか?」

「リッドが街中で戦おうとしていることを知っているなら……こちらに攻撃してくることはほぼ確実っすよ。あちらさんの目的はゴッドヘルパーと普通の人間の共存っす。リッドが暴れることが普通の人間とゴッドヘルパーのファーストコンタクトなんて印象最悪っすからね。」

「ど……どうすんのよん!さすがに《時間》には苦戦必至よん!?」

「いや……あっしと戦ってる時、そのメリーさんはだいぶ疲れているみたいだったっす。第三段階に近いってことっすけど……なにしろ扱うのが《時間》っすから、並な疲れではないはずっす。だから攻撃はしてこないと思うっす。」

「なんでよん。」

「リッドの攻撃は派手っすからね。建物の一つや二つ崩壊するっす。あちらさんにとっては……そういう「ゴッドヘルパーが暴れた痕跡」を一つでも残すことは目的達成が不可能になるってことっす。だから、リッドを倒した後に建物や人の記憶の時間を巻き戻して無かったことにしなくてはならないっす。しかし《時間》の力は体力を消耗する……ということは戦いそのものに参加してしまっては時間を巻き戻す体力がなくなってしまうわけなんすよ。」

「……鴉間さんって頭いいですよね。といことは……問題はそのメリーさんの取り巻きですか。」

「何度か私たちをじゃましてきた《抵抗》、《温度》、《重力》、《食物連鎖》か。めんどくさいなぁ。」

「まぁ……大丈夫でしょん。」

「……そうっすか。」

鴉間は何ともおいしそうにチョコパフェを食べる。他の三人はふうっとため息をつく。

「そういえば鴉間さん。他のメンバーの仕事の具合はどうなんですか。」

「順調っすよ~。《常識》のゴッドヘルパーの発動も近いっすね。ロシアの辺りではミスター・マスカレードが頑張っているっすね。アフリカでは執筆者、編集者ペアが天使側のゴッドヘルパーと暴れているっす。相変わらず楽しそうっすよ。アメリカの方じゃバベルがコソコソと動いてるっす。」

「そうですか……」

「ふふっ……最悪の感情系とレッド&ブルー……ここも楽しくなるっすね。」

その時の鴉間の笑みに三人は寒気を覚える。なつかしき騒乱、狂乱を思い出した鴉間という名の化け物の笑みはサマエルと出会う前にいくつもの集落や人を消し飛ばして笑っていたとある殺戮者のそれだった。



 市立丸伐中学校。この中学を私の高校で知らない人はいない。卒業生のほとんどが今現在私が通っている高校に進学するからだ。漫画なんかに登場する高校生が歩いて行ける距離の高校に進学する理由は「近いから」だが、私の高校の場合は違う。平均よりふた回りほど偏差値が高いという理由で多くの中学生がここを目指すのだ。そんなハイレベルの高校に一つの中学の卒業生のほとんどが行くとなると驚く人は多い。実際は丸伐で私の高校を受験するための対策をそこらの塾なんかとは比べ物にならないほどにするからなのだが……はてさて、何故に一つの中学が一つの高校限定で対策をとるのか。それは丸伐の中学と私のとこの校長が親友だということに起因する。だから……そう、世に言うなんたら高校付属中学みたいな感じになっているのだ。……なにが言いたいかというと……私も丸伐からこっちにきた人間だから……この校舎を見ると少し思い出がよみがえるわけだ。

「なつかしいなぁ。」

月曜日。授業が終わった後、私と翼は下着泥棒……《速度》のゴッドヘルパーがいるという中学……丸伐中学に来ていた。しぃちゃんは部活、力石さんはムームームちゃんの特訓に行っている。まぁ……大人数で待ち伏せてもあれだからこれくらいがちょうどいいのだが。

ルーマニアが先に来て見張っていたのだが……第二段階の気配というのを持ったやつはまだ見ていないとのこと。つまりまだ校舎にいるというわけだ。

「へぇ。雨上はここの卒業生なのか。花飾もか?」

「あたしは外から。ぎりぎりこの中学の学区から外れててさ。んで高校は近場のあそこにしたのよ。」

「丸伐の卒業生があの高校に入るのは別に普通なんだけど……外から来て入るってことはすごいことなんだ。翼はこう見えて頭いいんだ。」

「こう見えてというか……少なくとも外見は頭良さそうだがな。メガネだし。」

「ああそっか。じゃあ翼は見た目通りか。性格以外は。」

「そうだな。性格以外だな。」

「失礼ねぇ……」

ちなみに。カキクケコさんはここにはいない。翼に無視されっぱなしだったのが相当のダメージでしょんぼりと引きこもっているのかと思ったのだが……どうやらルーマニアの言う「上」から呼ばれたとか。

「ねぇ晴香。前に言ってた中学の時の友達ってうちに来てるの?」

「いや、違うとこに行ったよ。中学で私が友達と呼べるのは二人だったんだけど……どっちもうちよりも賢いとこに。」

「ふぅん……気になるわね。今度詳しく教えなさいよ?その友達。」

「ああ……いやしかし……なつかしいなぁ……私は天文部だったから屋上に行くともっとなつかしいんだろうなぁ。」

「なつかしいっつってもほんの二年前だろが。オレ様がどこかの場所をなつかしいと思うには二百年はいるぜ?」

「お前と私の時間感覚をいっしょにするなよ……」

「てか晴香って天文部だったの!?」

「言ってなかったっけ?観測会はいつも晴れだったからいろんな星を見たよ。……まぁ今にして思えば私が《天候》のゴッドヘルパーだったからなんだよな。」

私が天気予報を見た時、私が「ああ……明日は雨か。なんとか晴れてくれないかなぁ……」とか思うと晴れていたわけだ。……みんなに晴れの代金とか請求できたんだな。(笑)

「!……来たぞ。」

ルーマニアの表情が変わる。どうやら第二段階が来たようだ。(ちなみにルーマニアは今フツーの格好をして私たちの横に立っている。みんなにも見える状態である。)

「……あいつだな。」

ルーマニアがそれとなくとある生徒を指差す。

一言で言えばイケメンというやつか。整った顔立ちにお洒落なメガネをしている。服はもちろん学生服だが、何を着ても似合いそうだ。ほぼ完璧なのだが……唯一の欠点というかなんというか……背が低い。長身のルーマニアと比べると頭一つ分ぐらい違うかもしれない。

ふむ、あの男子生徒が……と私が眺めているとその男子生徒と目が合う。瞬間、私の脳内でその男子生徒が色々な記憶と共に思い出された。……あれっ?

「……!?雨上先輩!」

「速水くん……」

ルーマニアと翼がびっくりして私を見る。

「いやぁ~、お久しぶりです。こんなとこで会うとは……何か用ですか?」

「ちょ……ちょっとルーマニア!ホントにこいつ!?」

「あ・・ああ。確かにこいつだが……雨上、知り合いか?」

「ああ。天文部の後輩だよ。二つ下だから……今三年か。なんだか思い出すのに時間がかかったなぁ。」

「ひどいっすよ先輩。」

 笑いながら速水くんは私の横に立つ翼とルーマニアにぺこりと頭を軽く下げる。

「ども。速水 駆です。そちらは先輩の……?」

「友達だよ。」

速水 駆。天文部の後輩。その中でもとびぬけて記憶に残っている奴だ。なぜならば……

「へぇ~……そちらのメガネの人は美人ですねぇ。ちなみに胸のサイズは?」

「……は?」

翼が突然のことに呆ける。そう……こういう奴なのだ。

「速水くんはな、出会う女子生徒はもちろん、先生にまでこういう質問をするんだ。「今日の下着は何色ですか?」とか……まともな方だと「好きな男性のタイプは?」とかもあったか。とにかくエロス一直線の健全過ぎる男子だ。」

「いやはや……雨上先輩には敵わないですね。オレのこういう所をそんな風に流すのは今んとこ先輩だけっす。つーか実際このメガネの人は美人ですよ!スタイルもいいし……気にならないわけがないですよ。」

翼は汚物を見るような目になっているが……はてさて。ルーマニアによると速水くんが《速さ》のゴッドヘルパーとのことだが……?

「速水くん……君は……」

「いやぁ、びっくりですよ。先輩が最強の晴れ女であることは知っていましたけど……まさか《天候》のゴッドヘルパーだったなんて。」

「!……それをどこで……?」

「立ち話もなんですから……あそこ行きません?」

速水くんは以前と変わらぬ笑顔でそう言った。


 ちょっとした話をする所として、私たちが行く所というと《エクスカリバー》かあの公園だが(地域の人の要望により、公園は早急に修繕され、以前と変わらぬ風景でそこにある。いやはや申し訳ない。)、丸伐からだと少し距離がある。丸伐に通う学生がそういうのに利用するのは《ハラヘッタ》という名前のファミリーレストランだ。(一応全国チェーンの店だ)チョコパフェがとてもおいしいところである。


 「オレが天文部に入ったとき……つまり一年の時ですね。天文部は毎月一回の観測会と長期休暇の合宿を主な活動としてるんですが……その一年の間は……全ての観測会、合宿は快晴の下に行われたんです。雲ひとつない最高のコンディション……素晴らしかったですよ。でも二年になってからはちょくちょく雨が降ったり、雲で見えなかったりしたんです。「こりゃぁ、去年卒業した先輩の中に晴れ男、晴れ女がいたんだな。」って話になって……オレらの代みんなで調べてみたんすよ。そしたら……その卒業した先輩たち……つまりオレらが一年の時の三年だった人たちは……その中学三年間、全ての観測会、合宿が快晴だったことに気付いたんですよ。やばいですよね。さらに調べると……三年間、全ての観測会、合宿にきちんと参加しているのは一人だったんです!それが雨上先輩ってわけです。」

こちらとしてはゴッドヘルパーの話を聞きたかったんだが……速水くんが私のことについて語るので翼が興味津津なのだ。

「さっすが晴香ねぇ……ちょっと疑問なんだけど。そのエロスの塊であるあんたは何で天文部に入ったのよ。」

「最初はスポーツ関係の部活に入って応援してくれるチアの……こう、脚をあげた瞬間のパンチラを拝もうかと思ってたんですけどねぇ……あれは所詮見せパンですから……やっぱ見るなら生のパンツだと思いましてね。いい部活はないかと探していたら……天文部に出会ったんです!部活紹介を聞いてたら「観測会はみんなで屋上に行って、シートをしいて寝っ転がって星を見ます。」ときたもんですよ!この同年代の女子が集まる学校であっても、目の前で女子が寝っ転がる光景なんて……せいぜいマット運動の時にしか見ないですからね。その場合は体操着だし。しかし!観測会の時は基本制服ですから!何かのはずみで転んだり、風が吹いたりなんかしたら……と思って天文部に入りました。」

「……晴香のとかを覗いちゃいないでしょうねぇ……?」

何故か翼が殺気を全身から吹き出す。

「実際はそんな暇は無かったんですよ。あの快晴の夜空で見た星。そんなものに興味なんかなかったオレですけど……一発でこころを奪われました。スカートの中を覗くことなんか頭からとんで行きましたよ。今じゃどこに出しても恥ずかしくない天文マニアです。……エロスの精神は健在ですけどね。」

翼から殺気が引っ込む。そして仏頂面で聞いていたルーマニアが本題に入る。

「んで?お前はどうして雨上のことを?どこまで知ってる。」

「アザゼル師匠から聞いたんです。」

アザゼル師匠!?なにをやってるんだあの人……もとい天使は!?

「まぁ……なにを隠そうオレが今世間を騒がす下着泥棒……エロウィンドウなんですけど……あの夜、いつも通りオレの内に溜まるエロスを解消するために獲物(下着)を求めて歩いてたんすが……天から師匠が舞い降りて……「現実世界に君の求めるエロスはないぞ!真の女神は己が内にあり!」というありがたいお言葉を……」

「あにそれ……」

「ああ……ヴィーナスの話だな。」

「ヴィーナス?アフロディーテのことか?あのあばずれがどうかしたのか?」

ルーマニアは本物のヴィーナスのことを言っているらしいが……違う違う。

「ミロのヴィーナスのことだよ。ルーヴルにあるやつ。あれが美しいとされるのは両腕がないからって考え方のことだ。」

「腕がないと美しいの?あにそれ?」

「えっと……ほら、理想の異性っているだろう?誰でも持ってる「こんな人がいたらなぁ」っていう奴。その人にとってはその想像の異性が最高であり、それを超えるものはないわけだ。つまり想像を超える美しさはないってこと。ヴィーナスは腕がないから、見る人はどんな腕だったんだろう?と想像するわけで……その想像の腕が付くからこそ、ヴィーナスは美しいとされてる……って話。」

「さすが雨上先輩。そうです、想像を超えるエロスはないと……アザゼル師匠から教わりまして。弟子にしてくれと頼んだら……オレの力を借りたいって……それでアザゼル師匠の仲間を聞きまして……そこで先輩の名前が。」

「ってことはお前はオレ様たちの仲間……ってことでいいのか?」

「はい!雨上先輩がやってるのならきっと大切なことなんです!オレもやりたいです!」

「私がやってると大切なことなのか?」

「本人の前で言うは恥ずかしいんですけど……オレ、雨上先輩に憧れてたんですよ?ボケっと空を眺めてると思ったらやるべきことはやっていて……というか何をするべきかをわかっているというか……想定外のことが起きても冷静で……オレらの間じゃ雨上先輩と遠藤先輩のやることには間違いがないって言ってたんですよ。」

照れながら言われると私も照れるなぁ。

「まぁそれは後でもいいんだが……とりあえずお前は何ができる?《速さ》のゴッドヘルパー、速水 駆。」

「オレができるのは……一言でいえば加速度?の制御とか音速を超えて衝撃波を出したりですね。一瞬で時速うん百キロって速さになれますからほとんど瞬間移動。」

「一瞬でって……お前、そんなことしたら慣性で潰れねぇか?」

「ああ……慣性。それなんすがね、オレは慣性って考え方がいまいちわかんないんですよ。なんですか、見えない力って。意味わかりません。まぁ……そういうものだということでテストとかはやってますけどオレは慣性っていうものを信じません!謎すぎる。止まったら止まるでしょうが。電車とかでいくら体感してもオレはそれを見えないなにかとして考えるのは嫌なんです。絶対何かある!」

「なるほど。お前のその「慣性ってなんだよ」って思考が何百キロって速度での移動を可能にしているわけか。つまりお前には慣性は働かない。お前がそう感じているんだからな。お前が「慣性とは」っていう答えを見つけない限りお前に一生慣性は働かないわけだ。」

便利なのか不便なのかわかりかねるなぁ……

「衝撃波は?どうやって起こしてんのよ。」

「どうやってって言われても……オレ、衝撃波のことはよくわかんないんですが……速く動くと発生するんですよね?こう……音速を超えるパンチとかすると離れたところを攻撃できるって感じ。」

……恐らく速水くんは衝撃波が高速で動く物体の前に働くものと考えているな。衝撃波……ソニックブームは物体の後ろに働く圧力波だ。これで攻撃するなら相手の横を通り過ぎる必要があるが……速水くんの今の考えならそうはならないみたいだな。なぜなら彼が《速さ》のゴッドヘルパーだから。

「ふむ。なかなかの戦力になりそうだな。リッドともいい勝負ができるかもしれねーな。頼もしいこった。」



 俺私拙者僕が今まさに、ラストダンジョンのボス、魔王ガルメデスを倒そうと最後の魔法を撃とうというその瞬間に、部屋にカキクケコくんとマキナちゃんが入ってきた。

「アザゼル、ちょっといい?」

「ダメなのだよ。」

「問答無用。」

マキナちゃんがゲーム機の電源を切る。

「ぎゃああああああああぁぁぁぁああ!?何するのだよ!というか問答無用なら「ちょっといい?」なんて聞くななのだよ!ああ、俺私拙者僕のセーブデータ……消えてないかな……んもう!もし消えてたら怒るのだよ!!まったく……最近ルーマニアくんが構ってくれないからって俺私拙者僕に八つ当たりは止めて欲しいのだよ……って待って!待つのだよ!その手に持ったハンマーを俺私拙者僕のゲーム機に叩きつけようとしないでなのだよぉぉ!!」

全力の防御壁を出現させてゲーム機を守る。こんな防御壁、悪魔側にいた時に天使たちが魔導兵器のフルバーストを撃ってきたのを防ぐのに使って以来なのだよ。

「で?一体何なのだよ。」

「《反応》のゴッドヘルパー、リッド・アーク……というかサマエルから手紙。」

「サマエルから?」

俺私拙者僕はマキナちゃんが持つ手紙を見せてもらう。


『本来ならルシフェル様に送るところだが……突然の手紙なんぞ失礼極まりない。だからお前に送った。久しぶりだな。』

「はい、お久しぶりなのだよ~」

『まず最初に言っておくことがある。オレはお前とルシフェル様を恨んではいない。最終的に神の側についていようとも、お前とルシフェル様がオレの怒りや憎悪を形にしてくれたのは事実だ。また、ただあるだけだった悪魔という存在に意味を与え、悪魔の止まったままだった時を動かしたのはルシフェル様だ。恨むどころか感謝と尊敬の念を抱いている。だが当時のオレにはお前やルシフェル様のような力がなく、神には届かなかった。オレが足手まといとなったのだろう。しかし、オレはルシフェル様が提案した方法を実現させることによってそれを補った。それどころか神の力さえ手に入れようとしている。ゴッドヘルパーの力は素晴らしい。この力を利用すればオレたちが全てを支配できる。』

「そうか。やっぱり君はルーマニアくんのアイデアを……」

『だがしかし、お前とルシフェル様はそちらにいるからイマイチわかっていないんだろうな。力っていうのは味方側にあるときよりも敵側にあるときの方がそのすごさを感じる事が出来る。きっとお前とルシフェル様は本当のゴッドヘルパーと戦ったことがないから……その力で神を倒せるとは思えないんだ。だから圧倒的な力を持っている神の側についているんだろう?所属するなら強い方……当たり前の考えだ。』

「ふぅむ……何か勘違いをしているのだよ……君は。」

『だからオレはお前とルシフェル様に教えようと思う。ゴッドヘルパーの真の力を。近々ルシフェル様が担当している地域でオレの同胞が騒ぎを起こす。オレの目指す世界に賛同してくれた人間たちだ。そいつらにお前とルシフェル様は全力で挑むんだ。そうだな……可能な限り全ての戦力で挑んで欲しい。そして……オレの同胞が勝利したなら、理解できるだろう。神を倒せると言える理由をな。そして……また一緒に神を殺しにかかろうじゃないか。ああ、日時は追って知らせる。それじゃな。』

「……なるほどな。」

俺は普通にサマエルが恨んでいるんじゃないかと思っていたが……あいつはそんなことよりも厄介な方向に勘違いをしているわけか。

「アザゼル……その手紙さ、あんた宛てだったからマキナは読まなかったんだけど……何が書いてあったのよ。」

「……一つの勘違いと近々大きな騒ぎを起こすってことが書いてある。たくっ……前からあいつは俺とルシフェルにものすごい尊敬のまなざしを送ってたからなぁ。」

「ぅお……アザゼル、急に口調を変えるなよ……ビビんだろうが。」

「悪い悪い。しっかしこれは正直まずいかもな。あいつ、ルシフェルの担当地域で騒ぐってよ。」

「?なにか問題があんのか?いくら強いやつでも……例えばの話、関東担当のゴッドヘルパーを終結させたりすれば余裕だろう?」

「バカ。んな簡単な話じゃない。サマエルは《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパー……力の最適化の方法を誰よりも理解できている。そんな奴が率いるゴッドヘルパーは半端じゃないぞ。」

「最適化?」

「……例えば今回の敵の《反応》……《反応》と聞いて思い浮かぶものなんか化学反応とかが関の山だろう?普通の知識だけではそれくらいしか思いつかないからそれで戦おうとする。だが、《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーであるサマエルは《反応》の可能性を知っているわけだ。俺たちが思いもつかないような応用をかましてくんだよ。最適化ってのはそういう……そのゴッドヘルパーの思考や常識の捉え方を理解した上でそいつが最も脅威となる力の応用をそいつに教えることだ……」

「最適化かぁ……それってマキナたちにはできないのかな。」

「できるとは思うが……そのゴッドヘルパーの全てを理解することが前提だからな……時間がかかる。だから……力のかけ合わせをやった方がいいだろうな……」

「かけ合わせって……ようは力を合わせることでしょう?」

「ああ……単体では十分な力がでないゴッドヘルパーも他のゴッドヘルパーの力を借りることでそれを補える。こっちにはそれなりの数のゴッドヘルパーがいるからな……組み合わせさえ的確ならすごい力を出せるだろう……」



 今、私の前には私の歴史上、もっとも難しいパズルがある。

「……なぁルーマニア。なんで私なんだ?」

速水くんと再開した翌日、学校が終わって家に帰るとルーマニアがいた。あ、いや、別に部屋の中にいたわけではない。窓の外に浮いていたのだ。そしてルーマニアはサマエルから挑戦状がきたことを教えてくれた。そして、ルーマニアの言う上の連中が関東総力戦を決定したらしい。恐らく……メリーさんの提案を天界の方々も良しとしたのだろう。最終的な目的は違えど、「ゴッドヘルパーの存在を公にする」ことには反対なのだ。時間を戻してくれるのなら乗らない手はない。唯一の心配事は総力戦=関東の天使側ゴッドヘルパー全員なので……戦っている間に騒ぎを起こされることだが……

「ああ……それはたぶん大丈夫だ。サマエルは「同時進行」っていうのが大嫌いなんだ。あいつ自身からの挑戦だからな、あいつはこの戦いに集中すると思うぜ?たぶん……姿も表すんじゃねーかな……」

なぜに同時進行が嫌いなんだ?と尋ねると、

「曰く、神みたいに傲慢だからだと。」

そうして私が今何をしているのかというと……作戦を練っているのだ。ゴッドヘルパーは他のゴッドヘルパーと力を合わせると……相性によってはすごいことになるとか。まぁ確かに……私の知るゴッドヘルパーだけでも……力石さんとホットアイスさんの組み合わせはすごいと思う。《温度》と《エネルギー》。一定の空間や物体の温度を上昇させる力はすなわち無限のエネルギーだ。つまりはそんな感じでいい組み合わせを組む仕事が私にまわってきたわけだ。何故か知らないが。

「なんでって……お前が一番いいひらめきを持っている気がするからだ。」

「気がするって……」

うーん……困ったなぁ……どうすればいいんだろう?

「……よし……とりあえず誰がいるのか書いてみよう。」

私はルーズリーフにつらつらと書いてみた。


《天候》のゴッドヘルパー・雨上晴香&ルーマニア

《金属》のゴッドヘルパー・鎧鉄心

《変》のゴッドヘルパー・花飾翼&カキクケコ

《エネルギー》のゴッドヘルパー・力石十太&ムームーム

《ルール》のゴッドヘルパー・クロア・レギュエリスト・セッテ・ロウ&アザゼル

《山》のゴッドヘルパー・山本岳たかし&ジオ

《明るさ》のゴッドヘルパー・清水灯あかり……だったはず&セイファ

《数》のゴッドヘルパー・南部なんべカズマ&ナガリ

《視力》のゴッドヘルパー・愛川透&ランドルト

《音》のゴッドヘルパー・音切勇也

《速さ》のゴッドヘルパー・速水駆


「これと……」


《時間》のゴッドヘルパー・メリーさん

《温度》のゴッドヘルパー・ホットアイス(ホっちゃん)

《重力》のゴッドヘルパー・ジュテェム

《食物連鎖》のゴッドヘルパー・チェイン

《抵抗》のゴッドヘルパー・リバース(リバじい)

《記憶》のゴッドヘルパー・安藤……鎌倉……ジョン・ジョナサン……情報屋


「……敵が今のところ……」


《反応》のゴッドヘルパー・リッド・アーク

《優しさ》のゴッドヘルパー・加藤優作

《型》のゴッドヘルパー・勝又匡介

《自我》のゴッドヘルパー・大石竜我

《太さ》のゴッドヘルパー・石部渓太


《空間》のゴッドヘルパー・鴉間空


「……こうやって見るとなんかすごいな。」

「どうだ?なんかいい作戦は思いつけそうか?」

「うーん……とりあえず……みんなができることを把握しないとなぁ……よし。」

私は文明の利器、ケータイをとりだし、片っ端から連絡をとることにした。



 あれからしばらく経ったある日。天界に一通の手紙が来た。宛先はオレ様とアザゼル。差出人はサマエル。内容は決戦の場所、時間。人のたくさんいる場所で人がたくさんいる時間帯だ。

まったく……メリーがこっちにいて良かった。ゴッドヘルパーの存在がむやみやたらに知れ渡るのは勘弁だ。

ゴッドヘルパーのリセット。《常識》のゴッドヘルパー。全てのゴッドヘルパーがリセットされる時、《常識》のシステムはその姿を現し、サマエルはその瞬間を狙っている。あいつはそれを手に入れてもう一度神に挑もうとしている。そして……残念ながらそうなると神にも「負ける可能性」が出てきてしまう。まったく……面倒なことだ。



 多くの人が行きかい、地方から出てきた人はその人の多さに「お祭りでもあるのか!?」と誤解するというかの有名な交差点……渋谷スクランブル交差点。私も来るのは初めてなのでだいぶ驚いている。お祭りでもあるんだろうか?

「ここで……?」

隣に立つルーマニアを見る。ルーマニアは初めて会ったときの格好だ。全身真っ黒の悪魔みたいないで立ちに通り過ぎる人たちは奇異の視線を送っている。

「ああ……」

みんなでどこかに集まってから来るという案もあったのだが……仮にまとまってぞろぞろと歩いているところを先制攻撃されたら……という意見があったため、私たちはサマエルが指定した時間……午後一時にここに集まるということにした。

ちなみに私たちといっしょにしぃちゃんもいる。しぃちゃんはルーマニアの協力者ということになっているし。まぁ、だから翼とカキクケコさんはいっしょではない。そういや音切さんはどうやってここに来るんだろうか?一応連絡した時は「俺も行くぞ!」と言ってくれたけど……あんな有名人がこんなとこに来たらバカみたいな騒ぎが起きる。ここにたどり着く前にファンに捕まってやしないだろうなぁ……

「……人だらけだな。サマエルはここでどうやって戦うつもりなんだ?」

「リッドの大砲の一発でみんな逃げるんじゃねーか?」

「許せんな。こんなとこで……関係の無い人を巻き込むとは……!」

私は腕時計を見る。現在午後十二時五十分。あと十分か……

……ィィイン……

「?なんの音だ?」

私がキョロキョロと周囲を見た瞬間、

ズドォオン!!

交差点へと続く道路に火柱が立った。

「っつ!来やがったな!」

続けて数回爆音が響き、全ての道路と交差点の境目から煙がもこもこと立ち込める。平たく言えば……交差点の部分がまわりの道路から独立した感じだ。

「「「きゃあああああああっ!!!」」」

何人かの女性の悲鳴を引き金に、交差点にいた人たちは一斉に逃げまどい始めた。

「う……うわ……」

「行くぞ。」

人ごみに流されそうになる私としぃちゃんの手をつかみ、宙に浮くルーマニア。何人かが目を丸くして驚いていたが皆逃げる事に忙しく、案外なにを言われることなく、私たちは人のいなくなった交差点に着地する。

「派手なこった。《時間》がいなかったらオレ様たちがこれの後始末を任されてたろうな……こわいこわい。」

ルーマニアが半目でため息をつく。まわりを見ると他のメンバーも人ごみをかき分けて私たちのいる場所に向かってくる。


「すごっ。ぼく、この交差点から人がいなくなるの初めて見た。」

「笑うしかないくらいの人の数ね。みんな何をしにここにくるのかしら?」

南部さんとナガリさんだ。南部さんは無地のシャツにパーカーでジーパンをはいている。あれでリュックとか背負ったら大学生という感じになるな。ナガリさんはカキクケコさんと初めて会った時に着てた……というかいつも着てるヴァチカンにいる教皇とかが着ているような白い服だ。もしかしたらあれが天使の基本服装なのかもしれない。


「うわぁ……なんかすごいことになってるけど……これもなかったことに出来んのか。スゲー。」

「そーだね。戦いが始まる時間と終わる時間が同じになるわけだね♪」

力石さんとムームームちゃん。力石さんはなんか英語がプリントされた半袖のシャツにだぼっとしたズボン。ムームームちゃんは……あれ?可愛らしいワンピースだ。あの白い服じゃないなぁ。……まぁムームームちゃんにはあれはあんま似合わないし。


「はぁ……私の力がまったく使えない場所ですねぇ……」

「あの作戦にかけるとしよう。」

山本さんとジオさん。山本さんは……「今から山ですか?」と聞きたくなる……なんかやたらとポッケが付いてる服だ。ジオさんは例の白い服。やっぱりあの服が基本服装なんだな。


「わぁ。渋谷なんて初めて来たよ。ねぇセイファ、終わったらいっしょに見てまわろうよ。」

「あはは。勝利は確定なのね。ま、当然だけどね。」

清水さんとセイファさん。清水さんは清水さんらしいおちついた服で……セイファさんはおしゃれな上着にロングスカート。さすが女性ペア。……あの白い服を着るのは自由なんだな。


「うお!あの女の子可愛いぜ!見ろよランドルト!」

「緊張感のねーことだなぁ……」

愛川さんとランドルトさん。愛川さんは何故かスーツだ。ネクタイもビシッとしている。メガネも合わさってなかなか似合っている。ランドルトさんは例の白い服。


「おひょー。美人な人が多いなぁ。天使ってどんな下着をはくんだろう?」

「人間と同じだ。つかそもそも天使の文化がお前らに伝わったんだから同じで当たり前だがな。」

「あんたたち最低ね。」

翼と速水くんとカキクケコさん。速水くんはおうちが翼の家の方向だったのでいっしょに来たのだ。速水くんは……丸伐中の体操着だ。半袖半ズボン。確かに動きやすいけど……そこで着てくるところがすごい。カキクケコさんはいつもの白い服で……翼はなんなんだ?ツインテール+ポニーテールの髪型。目が痛くなりそうな原色、派手派手のシャツに穴の開いたズボン(まぁズボンの方はたまに見かけるファッションだが)、左右で色の違うスニーカー。極めつけは……「1990」という形のメガネ。「9」の穴の部分から翼の目が覗いている。年越しの日にしか売られなさそうなお祭りメガネだ。


「なんなんですの、この人混みは!このアタシが来たら道をあけるのが道理ではなくて!?」

「みんな逃げるのに必死なのだよ。」

クロアさんとアザゼルさん。クロアさんは相変わらずフリフリのついたお人形さんが着るような服で……アザゼルさんは……ルーマニアが着てる黒い服と似たものを着てる。はて?この黒い服も天使の基本服装なのかな?


「ふぅ。着いた着いた。」

……音切さんがマンホールから現れた。(そうきたか。)服装はフツーである。そういえば音切さんが派手な服を着ているとこはみたことないな。歌手なのに。


「若いもんばっかりじゃのう。」

「ここは若者の街。流行の震源地ですからね。」

「ただのごちゃごちゃしたとこだろ?」

「あたくしは嫌いではないけどね。」

「あ、みんにゃいりゅよ。」

リバースさん、ジュテェムさん、ホットアイスさん、チェインさん、メリーさん。この前会ったときと同じ服だ。……みんな同じ服しか持ってないのかな?ちなみに……情報屋さんはいないみたいだ。


 交差点のど真ん中。普通なら迷惑極まりない場所に大人数が立っている。この面々で挑む相手はまだ姿を見せていない。どこからくるのか。やはり空だろうか。

『はるか。うえ。』

頭の中に声が響いた。私の中にいる空だ。私は空の言葉に促され、上を見る。

「……なんだろう?」

青い空の中にぽつんと黒い点が……というかだんだんと大きくなってる……って!?

「みんな!何か落ちてきます!」

私が大声で叫ぶとみんな上を見て驚愕する。

「なんと……ゆーふぉーなのだよ。」

アザゼルさんのすっとぼけた呟きが終わると同時にものすごい音が響いた。

ドゴォオン!

「あによこれぇ!」

地面にいくつもの亀裂を生みだした落下物は……見たところコンテナだ。


「おまたせ。」


コンテナの中からくぐもった声がし、コンテナの壁が煙をあげて開いた。

「よう。」

コンテナの中から……何人か人が出てきた。一番前に立つ人は異形であり、背中にウイング、片腕に大砲を装着している。

「リッド……アーク。」

私が呟くとリッドはにんまりと笑った。そしてリッド・アークは両手を広げる。

「記念すべき日だ!」

リッドの後ろから人が三人現れる。それぞれがそれぞれの種目のユニフォーム……種目は「空手」、「バドミントン」、「ラグビー」。……勝又さん、大石さん、石部さん。《優しさ》に操られているゴッドヘルパー……

「うむ。リベンジだな。勝又くん。」

しぃちゃんが不敵に笑う。だがしかし、話しかけられた勝又さんは無反応だ。

「……?」

しぃちゃんが不思議そうにしていると三人の背後からもう一人現れた。

「残念だけど……余分な感情は全て私が支配した。そっちにも感情系がいるからな……」

暗い男だ。鬱々とした雰囲気にマッチした黒い服。メガネの奥にあるのは非常にめんどくさそうな目……今の発言から考えて……この人が《優しさ》のゴッドヘルパー……加藤優作だ。

「……えぇっとさ、俺のセリフを言っていいか?」

両手を広げたままのリッドが背後の加藤に話しかける。

「……大げさな挙動が好きだな。」

「ものごとの始まりはそれとわかるようにしなきゃな?」

《反応》のゴッドヘルパー、リッド・アークは私たちの方を見る。

「今日!この場所から!歴史が変わり、俺たちの伝説が始まる!あの方が……いや、サマエル様が最強となり、神を殺し、世界を支配する!喜べお前ら!歴史の生き証人となれることをな!」

「イヤンッ!すてきよ、マイダーリン!」

まだ誰かいたらしい。リッド・アークの背後から人が出てきた。……ってなんだあれ。

「んもう!惚れ直しちゃったわん。」

声は……確実に女性なのだが……出てきた人はリッド・アークに負けず劣らずの……変な格好だった。ライダースーツというんだろうか?体にぴったりとフィットする服に関節とか心臓を守るようにプロテクターがついている。そして頭には……フルフェイスのヘルメットをすごくかっこよくデザインし直した感じのものをかぶっている。ようは顔が見えない。うぅん……全体的なデザインを一言で言うなら……「バーチャル世界のヒーロー!」……みたいな。

「ふふ、マイスウィートエンジェル。ここから俺たちの幸せな世界が始まるんだぜ!」

「そうねん。」

「恥ずかしい奴らだ……とっとと始めるぞリッド。」

「なんだよ、嬉しくねーのか?加藤。」

「主賓の紹介もしないで盛り上がるなって話だ。」

加藤が上を見る。つられてその場の全員が上を見た。目に映るのは空……だったが、刹那、虚空に亀裂が入った。

「……懐かしい気配だな。アザゼル。」

「そうなのだよ……久しぶりなのだよ……」

亀裂の中から出てきたのは若い男だった。音も無くリッド・アークの横に着地したその男が顔をあげた瞬間、ものすごい悪寒を感じた。体が固まる程の寒気。あの男から漏れ出るのは……怒り?憎しみ?

「お久しぶりです……ルシフェル様。」

うやうやしく一礼をする男。真っ白なスーツを着ている。汚れの一つも見当たらない眩しいくらいの白。金髪で……その瞳は左右で色が異なっている。向かって左が鮮やかな赤。右が輝いて見える黄色。

「この再会は世界を変える。オレ……いや私は確信しております。この戦いでルシフェル様に気付いてもらえると。再び神を殺すチャンスが巡ってきたのだと。」

澄んだよく通る声。その体から発せられる凶悪な気配を除けば……感じのいい青年だ。だが、わかる。誰だってこの状況を見れば理解できる。そう……この男こそが私たちの敵の……親玉。


堕天使サマエルなのだと。


 「ひとつ……言っておかねばならないことがある。」

サマエルはその口調を変え、私を睨みつけた。

「……かりそめとは言え、貴様は……ルシフェル様のパートナーとして存在している。ルシフェル様に協力するゴッドヘルパーとして横に並んでいる……」

瞬間、サマエルからものすごい殺気が発せられる。あれ?私死んだ?生きてるよな?

「貴様のような下種の種族がぁ!少し秀でていることで勘違いしおって!貴様がルシフェル様の横に並ぶなどどれだけの時を代価に支払おうとも!釣り合うことなどありえんのだ!」

明確な殺気というものを感じた。先輩が私に放っていたそれとは比べ物にならない程のプレッシャー。全身を貫く怒り。私は倒れそうになる。

「……なら私も……言わなきゃいけないことがあります……」

飛びそうになる意識を精いっぱい抑え込み、私は自分の思っていることを告げる。

「あなたは勘違いしている。……わ、私の横に立っているこいつは……!その昔!ちょっとした感情を抑えられなくて……それに任せて暴れてしまって!長い時間をかけてやっと自分の過ちに気付いて……今!全力で反省してるまぬけな天使だ!あなたが崇めるルシフェルなんかとはかけ離れたバカな天使……こいつの名前は……私が協力している天使はルーマニアだ!」

柄にもないことを言った気がする。私のキャラじゃないと思う。でもこれだけは言わないといけないと思ったのだ。ルーマニアは自分の過去を気にしている。でもそんなのはカンケーないってことを私はルーマニアと……サマエルに伝えなきゃいけないんだ。

「……はっ……」

しばらく呆けた後、サマエルは片手を額に当てる。怒り狂うかと思ったのだが……私の予想の斜め上を飛ぶ現象が起きた。

「あっはっはっはっはっはっは!!」

大爆笑だ。サマエルは大笑いしている。

「予想外だ。くっくっく、怒りも超えたバカバカしさだ。まさかそんなことを言い返されるとはな……」

さんざん笑った後、サマエルはさっきとは打って変わる……とても優しい目で私を見てきた。

「オレは……ルシフェル様を救う手段が……ゴッドヘルパーの力を見せるだけだと思ったが……違ったようだな。存在はまわりの存在に染まる。一+一=三と世界のほとんどの人間が言えば……一+一=二と言うやつも=三と言うようになるだろう。まわりが「ルーマニア」と呼ぶ故、ルシフェル様は本来の存在が「ルーマニア」という間抜けに侵食されつつあるわけか。ルシフェル様と共に行くには……それも何とかする必要がある。……感謝しよう、《天候》。いや、雨上晴香。オレがしなければならないことに気付かせてくれたな。」

驚きを隠せない。ホントにこいつはさっき私に殺気をぶつけてきた奴なのか?なんだかサマエルの性格が読めてきた気がする。つまりこいつは……狂信者なんだな。

「殲滅を命じたが……惜しいな。雨上晴香よ、こちらに来る気はないか?」

「ありません。」

即答。それを聞いてサマエルはほほ笑んだ。

「予定通りだ、リッド。よろしく頼むぞ?」

「了解です。」

リッド・アークがにやりと笑う。そうだ。私たちの今の敵はこいつだ。始まるんだ……戦いが……

「ああ……ちょっと待て。」

臨戦態勢が崩れる。サマエルはリッド・アークの肩に手をのせた。

「この作戦の目的にはゴッドヘルパーを公のものにするっていうのがあるだろう?それが……リッド、お前の砲撃で情報を伝えるべき野次馬がいなくなってるじゃないか。」

「あ……すみません。」

「だから最初は……野次馬共に飛び火しない規模の戦いをしろ。一対一形式がいいな。ちょうどそこに三つ駒があるわけだしな。」

サマエルは視線で勝又さんたちを指す。

「大ごとの前には前座がいる。その駒を一つずつぶつけてけ。」

サマエルは「どうだ?」という目で私を見る。私はルーマニアに視線を送った。

「こちらとしちゃぁありがたい話だ。実質、あの三人は人質だからな。このまま混戦に突入して、もしリッドとかがあの三人を盾に使ったら?あの三人は突き詰めりゃぁ「無関係」だからな。先にこっち側に持ってこれるならその方がいい。」

「でも……例えこちら側で保護しても……感情系で操られたままなんじゃ……」

「感情系にも弱点はある。」

最近めっきりとその存在が薄くなっているカキクケコさんが答える。

「感情ってのはそいつが起きてるとき……意識のある時に働く要素だ。だから……感情系のゴッドヘルパーはな、気絶とかした相手は操れないんだ。だからあいつらを一度気絶させれば……《優しさ》の支配下から外れる。」

「ちょうどいいじゃないか。」

しぃちゃんが一歩前に出る。

「殺すのではなく倒すのが目的だからな。わたしにはちょうどいい。一対一というのも素晴らしい。さぁ……リベンジするぞ、勝又匡介!」

第三章 その3へ続きます。

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