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今日の天気  作者: RANPO
第二章 ~管理者パレード~
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管理者パレード その1

能力バトル。大好物です。

副題はゴッドヘルパーがたくさん出て来るという意味合いだったりします。


ちなみに、若干書き方がいびつで読みにくいかと思います。(段落とか)

第一章は直したのですが、これは長くて……すみません。

これを書いたのは、まだ書き方がかたまっていない頃でした……

 男は思った。これで勝ったと。辺りには男の武器がたくさん転がっている。ちょっと意識をその武器に送れば目の前に立つ女をボロ雑巾のようにすることができる。

ここはとある所にある電車の車庫にある線路の上。電車を本線に引き入れるための線路である。

時刻は夜中。明かりは夜空で輝く月のみ。まわりには誰もいない。男と女だけ。男は余裕の表情で女に話しかける。

「へへっ。まんまと罠にかかったな!のこのこついてきやがってよう!」

だが女は会話を一切しようとはせず、ただ淡々と男へ近づいていく。男はその光景に寒気を覚えた。女は自分のできることを知っている。なのに何故近づいてくる!?

「てめっ……まわりが見えねーのか!?ここは線路の上だぜ!?石がごろごろある!」

「だから?」

女は歩みをさらに加速させる。どんどんと速度を上げて男に迫る。男は後退しながら叫ぶ。

「死ね!」

線路に敷き詰められた石がふわりと浮きあがり、女へ向かって飛んでいく。女は走りだす。華麗に石をかわしながら体勢を低くし、指先を線路に触れさせる。すると突如線路がぐにゃりと変形する。

なわとびで見たことがあるだろう。片方の端を手に持ち、上下に強く振ると波が発生してもう一方の端へと伝わっていくのを。それと同じことが線路で起きた。

波は超速で男の方へと伝わる。男はとっさに横へ跳び、その波をかわす。

「な……なんだこれは!てめぇも……」

男がセリフをいい終わるのを待たずに、ぐにゃりと曲がった線路が男を捕らえる。まるで意思を持ったかのように男の四肢を縛り、動けなくする。

「くそっ!でも甘いぜ!手なんぞ動かさなくても石は動かせるんだよぉ!」

男は女に石を飛ばそうと女の方を見る。すると女の手に長い棒が握られているのが見えた。どうやら線路を持っているらしい。長い線路の一部を切り取ったかのような、長さ一メートルほどの線路を握っているのだ。

「そんなもんでどうにかできる攻撃じゃねーんだよ!」

女を中心とした三六〇度全方向から石が飛来する。女はその手にした線路をまるで剣道の竹刀を振るうかのように構える。すると線路が変形した。より細く、長く、美しく。錆びついたその色を銀色の輝きに変え、一瞬にして線路がそれは美しい業物……刀になった。

そして女は刀を持って一回転した。少なくとも男の目にはそういう風にしか見えなかった。次の瞬間、飛来した石は全て女のまわりで真っ二つに切られて地面へと落下した。女は刀を構えなおし、再び男へと迫る。

「な……」

男は言葉を失った。今のは何なのか、能力によるもの?それともこの女の実力なのか?じわじわと近づいてくる女に恐怖を覚える。

「……《岩石》のゴッドヘルパー。お前……その力で人を殺したな?」

女は男に話しかける。淡々と、静かに、冷たく。男はびくびくしながらも力を比較的大きな石へと意識を送り、女の背後へと運ぶ。これで頭ぁかち割ってやるぜ!

「あ……ああ!殺したぜ!むかつく奴は全て殺してやった!おれの力でやるとどっかのヤンキーにぼこられたかのように見せられるからやりやすかったぜ!すかっとすんだよ!お前もやってみろって!」

時間を稼ぐための発言だったのだが女には逆効果だったようだ。

「クズめ……」

女は刀を振る。男がそれに気づいて石を女に飛ばす。だが男の目に映ったのは自分の血と女の背後で先ほどと同様に真っ二つに割れる石だった。

男に刃は触れていない。だが一振りしただけで男の体のいたる所から鮮血が吹き出した。

「あ…ああ……」

男の意識はそこで切れた。女は血だらけの男をしばらく眺めた後、指を軽く鳴らす。曲がった線路、刀へと変形した線路、その全てがもとに戻る。縛っていた線路が無くなり、男の体は地面に横たわる。

「……正義とは難しいものですね、師匠。力はあるのに自分一人では全てを解決できない。しかし、同じ志を持つ者には未だ会えない。」

女は歩き出す。ほおについた返り血をふき、帰路へつく。

「孤独なヒーローか……カッコイイがその力は仲間を持つヒーローには敵わない。」



 おかしい。そう思ったのは春休みも中盤に入ったあの日だ。高校生の春休みは長い。ほぼ一カ月間休みなのだ。だから中盤とはざっと二週間が経過したことを示す。

 私、雨上 晴香の日常はこの春休みになって少し忙しくなった。まず友人……翼だ。翼はほぼ毎日私に電話をかけてくる。それも決まって夜の十時半。毎度毎度どうでもいい会話しかしないが実に楽しい。

どうも翼は毎日どこかへ出かけているらしく、「今日はねぇ、古墳を見たのよ。」だとか「ねぇねぇ晴香、あんたお城の屋根にのぼったことある?」だとかあっちこっちで見てきたものを話してくれる。もちろん電話で会話するだけではなく、一緒に遊びに行ったりもしている。私がケータイを手にしたことで翼はいつでも私を引っ張り出せるようになったわけだ。まぁ別にそれが迷惑だとかは思っていないからいいのだが。

 次に音切さん。こちらはそう頻繁ではないが三日おきぐらいの周期でパソコンにメールをくれる。一応ケータイのも教えたのだがやはり写真を添付するならパソコンの方が見やすいとのこと。音切さんは今自分が作っているプラモデルの写真を送ってくる。

何度かメールをやり取りしている内に判明したのだがプラモデル歴は私の方が長いらしい。なので「ここはおかしくないか!」「この改造をどう思う!」といった質問をしてくる。だがしかし、私もプラモデルマスターではないので時折私にもよくわからないことも聞かれたりする。そういう時は調べてから返事をすることになるので私としてもいい勉強になっている。私も音切さんの意見を聞きながらプラモデルを作っている。ライバルとまではいかないが互いにいい刺激になりながら腕をあげて行く。

 実にすばらしい。実に充実している。かつてこんなにも楽しい春休みがあっただろうか。そんな中で気づいたのだ。

「あ……ルーマニア……」

ルーマニアは先輩の事件の後、「またすぐに解決しなきゃならん事件が出てくるからゆっくりできるのは一日二日ぐらいだ。また忙しくなる」みたいなことを言っていたが……事件が終わってからもう二週間経ってしまったのだ。腕輪をつけて連絡をしてみたりもしたのだが応答がない。

「一体どうなってるんだ?あれから一回もルーマニアは来ないし……まぁ事件がないならないでいい事なんだけど……」


 その日、私は家から少し離れたとこにある山にいた。ここには幼いころに発見し、「秘密基地」と名付けた場所がある。この山には一応登るための道があるのだがそこから脇にそれてしばらく森の中を歩くと開けたとこに出る。十分な広さがあり、子どもが遊ぶにはちょうど良い空間だ。

「秘密基地……変わらないな。」

基本的にここは知らなければたどり着けない。練習にはもってこいだ。

 先輩の事件の後、私は思った。

「天候だからその力は広範囲に広がる……だけどそう何度もその辺に異常気象を起こしてたらさすがにまずい気がする。あの公園みたいな状態を毎度起こすわけにもいかないだろうし。」

ルーマニアが来ないことに気付いたあの日から私は力の制御を練習している。手のひらに収まる程度の雲で雷とかを起こせるようになることを目指しているのだ。先輩はあの光の球体を作るのに結構練習したようだ。やはり非常識なことを自分にとっての当たり前にするのは大変なのである。

「……でも……どうして私は頑張っているんだろうなぁ。」

前回は……ほぼ成り行きのような気がする。最終的に先輩が関係していたから最後まで頑張ったけど……今はどうなんだろう?私にしかできないことだからやる。ルーマニアにはそう言ったが、実際……面倒だし怖い。でも私は強くなるための努力をしている。

「……ああだめだ。考え出したら止まらないや。」

うん、保留にしよう。ルーマニアに会った時にでも尋ねるとしようじゃないか。

「よし。今日も頑張ろう。」



 おかしい。そう思ったのは《光》のゴッドヘルパーの事件が終わってから一週間たったあの日だ。「ル……ルーマニアくん(笑)、最近、君はとても暇そうに見えるのだよ。プフーッ。」

アザゼルの言葉でオレ様は気づいた。さすがに変だ。誰からも何の御達しもないなんて。

 雨上には「この辺」の担当と言ったが、正確にはオレ様たちの担当は関東地方だ。もちろんオレ様たちだけがここの担当ではない。何人かの天使で担当しており、それぞれが関東のあちこちに散っている形だ。だから関東の中なら応援にも駆け付ける。実際オレ様たちが《光》のゴッドヘルパーの事件の解決に勤しんでるとき、近くで起きていた他の事件は他の関東担当に任せていた。つまり……基本的にひまはないはずなのだ。関東は日本でも一番被害の多い地域だし……なのにどうしたことか、一週間もひまが続いたわけだ。


 今日もオレ様はひまを持て余してアザゼルの部屋にいる。

「仕事をサボってはいかんのだよ?働くのだよ。」

アザゼルはモニターの前に座ってゲームをしている。こいつはどうも最近いろんなジャンルに手を出しているらしく、ある日は「もぅ、ばか!あんたなんか知らない!」という感じの女の子の声がするかと思えば次の日には「俺は!てめぇに勝あああぁぁぁつ!」みたいな叫び声が聞こえる。

「仕方ねーだろう、その仕事がないんだから。てかお前に言われたくないぞ。さっさと協力者を見つけて仕事しろよ。お前の担当は?」

アザゼルは懐から手帳を取り出して片手で器用にページをめくる。

「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国の真ん中あたり。」

「ぐれ……どこだよそれ。」

「またの名をゆぅないてっどきんぐだむおぶぶりてんあんどのーざんあいらんど。日本ではイギリスと呼ばれているのだよ。」

「最初っからイギリスって言えよ、ややこしいな。担当も決まってんならとっとと……」

「わかってないなー。英国だよ?気品あふれる紳士淑女の国だよ?今の俺私拙者僕がいったら恥をかいてしまうのだよ。だからまずはマナーを学んでからと思ってね。」

「……本当の理由は?」

「俺私拙者僕好みの「金髪、縦ロールのお嬢様」が見つからないのだよ。」

最近のアザゼルの思考は日本の偉大な文化の影響を色濃く受けている。部屋に入るたびに人形やらロボットやらが増えてゆく気がする。

「ル……ルーマニアくんはいいなぁ。日本だし。メッカあきゃはびゃらがあるんでござんしょ?」

「いちいち名前を言いなおすなぁ!ちゃんと呼べー!」

「だぁってさぁ、マキナちゃんから天界全体に命令が下ったんだよ。命令に従わないとマキナちゃんから情報を得られなくなっちゃうんだよ。資料室で一番の情報分析能力を持つマキナちゃんに言われちゃぁね……従わざるをえないのだよ。」

「な……マキナめ……そこまでやるとは。」

「ル……ルーマニアくんは一番敵にまわしてはいけない天使を敵に……ご愁傷様なのだよ。」

オレ様はげんなりしてアザゼルがやってるゲームの画面を見る。赤、緑、青、といった色をしたカラフルなブロックが上から下へと落ちている。……これは……何が面白いんだ?



とある場所にある深い森の中、真っ白な建物がひっそりとそびえ建っていた。西洋のお城のような外見である。その建物の二階のテラスのような所からなにやら騒ぎ声が聞こえる。一人の少女が椅子で紅茶を飲んでいる横で二人の男がわめいているのだ。

「メリーさん!助けて下さい!てか何とかして下さい!ホっちゃんがわたくしのアイスをサラッサラの液状にしちゃったんです!」

「ああっ!てめぇこらジュテェム!メリーさんに助けを求めるなんざ卑怯な!メリーさん、おお……おりゃ無実だ。何もしてない。」

ジュテェムと呼ばれた男はこれといった特徴が無く、「普通」の一言で説明できてしまう外見をしている。だが、白い液体の入ったアイスクリーム用のカップを持って目の前の少女に涙を流しながら何かを頼んでいる所を見るとその「普通」さが涙を強調し、溶けてしまったアイスがこの男の親か恋人だったのではと錯覚してしまいそうになる

少女は飲んでいた紅茶をテーブルに置いて男たちの方へと視線を移す。少女はきらびやかな服を着ているわけでもなければ美しい髪や瞳を持っているわけでもない。外見で言えばどこにでもいる小学生の女の子なのだが、少女のしぐさからは確かな気品が感じられる。少女は適当に切りそろえられた髪をゆらして男たちを見る。

「ホっちゃん?にゃにをしてるにょよ。ジュテェムいじめちゃ、めっ!」

男たちにメリーさんと呼ばれた少女は冷や汗をかきながら頑張って言い訳をしようとしているホっちゃんなる男を睨みつける。男は少し金色の交じった茶髪に皮のジャンパーという俗に言う「不良」の外見なのだが、少女に怒られてしゅんとしている。

「…………というか……何故わしのアイスを勝手に食べようとしておるのだ、ジュテェム?」

少女の前に立つ二人の男の背後からどこか気品のある声がした。

「しまった!リバじいに見つかってしまいました!」

「ああっ!そりはわしのとっておきじゃないか!お前さんはいつもチョコじゃろが、なんでバニラなんじゃぁ!?」

リバじいと呼ばれた老人は正装+立派な髭+モノクルで執事のような格好をしており、手にした杖を振りまわしている。

「いや……今日はバニラの気分だったんです。」

「なんということじゃ!さっきチェインの奴にもバニラをとられたばかりだというに!貴様ぁ!」

「えっ、チェインお姉ちゃんがいちゃの?」

少女は身を乗り出してリバじいなる老人へ訪ねる。

「ああ……さっきまでの。何でも仲間にふさわしい奴を見つけたとか言っておったぞい。」

「へぇ~、新しい仲間ってか!どんな奴だろうな!」

「じゃんねん……お話しちゃかったのに。」

少女は残念そうにして片手をジュテェムの持つカップにかざす。するとカップの中の液体が固まり、アイスと呼ばれる食べ物へとその姿を変えた。



「はぁ……力使うのって結構疲れるんだよなぁ。」

私は近くの木に寄りかかって休憩をとる。あともう少し。あとほんのちょっとで出来る気がするのだが、そのほんのちょっとの壁を越えられない感じだ。「雲は上空にある」という私の《常識》は上書きすることができ、今の私は目の前に一~二メートル程の雲を作れる。だがこれでも大きい。どうも今の私にとっては「雨を降らせたり雷を発生させたりすることのできる雲の大きさの最小サイズ」がそのサイズらしい。

「ここまでできるようになるまでは案外とすんなりいったんだけどなぁ……やっぱり手のひらサイズの雲とかあり得ないもんなぁ……」

その「あり得ない」という考えを捨てることができなければその現象は絶対に起こらない。なぜなら《天候》を支配しているのは私なのだから。


 昔々、神様がこの世界を作ったときのこと。神様は世界をよりよくするためにたくさんの理論や法則を作った。しかし……作ったはいいがその全てを神様だけで管理するのはとても大変だ。だから神様は作った理論や法則を管理するシステムを作り、神様が作った世界で生きる生き物にくっつけた。そうすることで、常に生き物からリアルタイムなニーズをシステムに送ることができ、その時その時で必要とされる理論や法則を目指して「調整」できるようになった。

 そして、そういったシステムがくっついている生き物をゴッドヘルパーと呼んだ。由来はもちろん神様の仕事を手伝っているということからきている。ゴッドヘルパー達は自分がそうであるということは知らない。逆に知られては困るのだ。システムはその生き物から情報を得るためにこころのとても深い部分で生き物と「つながって」いる。そのつながりをゴッドヘルパーが自覚してしまうとシステムはゴッドヘルパーの思うがままとなるのだ。それは一生物には大きすぎる力であり、無益な争いの種ともなり得る。故に何らかの偶然が重なって自覚してしまったゴッドヘルパーのもとには天使が派遣され、記憶の消去が行われる。そうやってずっと昔からゴッドヘルパーというものは隠され続けてきた。

しかし今、わざとゴッドヘルパーであることを自覚させて騒ぎを起こしているものがいる。そいつを捕まえる、もしくは倒すために私はルーマニアと協力して事件の解決に勤しんでいるわけだ。


 私は草の上に寝転んだ。春の陽気が私を包み、眠気を運んでくる。

「……そうか……空は季節によって色々と変化するから……その辺も勉強しておかないと力を使う時に困ることがあるかもしれないなぁ。」

空と友達になってからというもの、私は天候のことについて勉強する機会が多くなった。ゴッドヘルパーの操る《常識》は本人の《常識》の影響をすごく受ける。何が言いたいかというとつまり、そのゴッドヘルパーが知らない現象は起こしようがないということだ。ゴッドヘルパーが力を使う時に重要になってくるのはイメージであり、そのイメージがきちんとした形を持っていないとその現象は起きない。

例えば、もしも私が「雷」という現象を見たことも聞いたこともなかったとする。そんな時にある日突然「雲の中で発生した電気が流れることを雷と言うんだよ。」と聞いたとする。じゃあその「雷」とやらを起こしてみようと空にお願いしだしたところで何も起きない。「なんとなくこんな感じだろう」というようなイメージしか持てないからだ。

 当初、私はゴッドヘルパーとは無駄に《常識》という知識を持たない方が厄介だと思っていたがそうではない。その分野の現象を深く理解した上で自分好みの現象を引き起こす奴が一番面倒な相手なのだ。そのいい例が先輩、相楽 光一だった。先輩は光の分野のエキスパートである。だからこそ人の視界を操るなんていう芸当ができたのだ。中学、高校で習うような反射・屈折の理論だけではあれは起こせない。それはそれは複雑な理論があるのだ。私にはさっぱりだが。

「あ、もうこんな時間か。そろそろ届いたころだろう。」

私はケータイで時間を確認して「秘密基地」をあとにした。


 私には行きつけのプロモデル屋さんがある。名を《ファクトリー》という。そこのご主人とは最早友達であり、最新の情報なんかを聞きに行ったりする。今日は頼んでおいたプラモデルがお店に届く日なのだ。どこを探しても見つからなかったのでご主人に頼んでみたら快く引き受けてくれたのである。

 《ファクトリー》は《エクスカリバー》のある通りの一つ後ろの通りにある。その通りにはおもちゃ屋さんやお菓子屋さんなどもあり、基本的にこどもが多く行き来する通りだ。

私は《ファクトリー》に入り、お店の奥のカウンターに立つご主人に声をかける。

「こんにちは。」

「おお、晴香ちゃん。待ってたよ。例のあれ、ちゃんと手に入ったよ。」

《ファクトリー》のご主人はとてもがっしりとした体の持ち主なのでカウンターに入っているのを見ると狭くないのかなと思ってしまう。学生の時はずっとラグビーをしていたとか。日に焼けた健康そうな人である。最近ハマっているという「ちょび髭」が目立つ元気いっぱいの中年オヤジだ。

ご主人はカウンターの下に置いておいたらしい例のものを取るためにその大きな体をカウンターの中に沈めた。ガサガサという音がしばらくしてからご主人が大きな箱を抱えて立ちあがった。

「晴香ちゃんご所望の品、《タイプα・超高速戦特化型アンジェラ・スローン》だ!」

「わぁぁ!さすがですね!よくぞ見つけてくれました!やっぱりかっこいいなぁ……」

「このシリーズは知る人ぞ知る名作だからねぇ……絶対数が少ないから苦労したよ……あまりにアニメが不評だったから有名にならなかったけどメカニックのデザインは神という不思議な作品。」

「そうなんですよね。一応アニメの方も見てみましたけどストーリーがよくわかりませんでしたよ。」

「強いて言うならオープニングのアニメーションが良かったかな。こいつらがびゅんびゅん飛んでたから。」

そういってご主人は軽く箱を叩く。私は鞄からお財布を取り出す。するとご主人が言った。

「ああ、晴香ちゃん、値段のことなんだけどね。」

「?……あ、まさか手に入れるのに予想外の出費とかあって……高くなりましたか。」

私は少し不安になったので恐る恐る聞いた。ご主人は首を横に振る。

「逆だよ。これを譲ってくれたプラモ屋仲間がね、「今時これを買い求める女子高生がいるのか!そりゃあ将来有望だな!よし、安くしとくぜ!」って言って……半額になったんだよ……」

「嬉しいですけど……そんなに簡単に安くしていいんですか?」

「問題ないよ。あいつも俺も趣味でやってるようなもんだからね。晴香ちゃんみたいな存在は嬉しいんだよ。まっ、これからもよろしくの意味もこめてね。半額です。」

私はくすくす笑いながら代金を支払った。しかし半額というのは正直に嬉しい。やはりお店の人とは仲良くすべきだな。私は大きめの紙袋をもらって《スローン》を入れた。これは気合を入れて作らなきゃな。

「完成したら写真でもいいから見せてね。」

「はい。ちなみに……今は何か耳寄りな情報とかはありませんか。」

「今は……特にないかな。……あ、ニュースならあるよ。」

「ニュース?」

「《タイプΩ・対多数戦特化型アンジェラ・ヘクトべルゼルガ》って知ってるよね?」

「ええ……このシリーズ……というかアニメでのラスボスですよね。作中で一番大きいメカで、確かプラモが限定で数百個しかないとかいう。」

「そ、限定で四百個しか作られなかったやつ。でかすぎるからコストの関係とかでそうなったみたいだけど。」

「それがどうかしたんですか?」

「その《ヘクトべルゼルガ》の覚醒バージョンがこの前発売されたって話なんだよ。なんかのイベントで限定九個。」

「覚醒……ああ、なんか金ぴかになって所々変形した形態ですよね……九個って……ものすごいレアものですね。でもなんでそんな中途半端な数?」

「全部で十個なんだけど、一個だけネットのオークションに出たんだよ。たぶんイベントに行けなかった人とかのためのあれなんだろうけどね。」

「一個だけ……落札価格が半端なさそうですね……」

「さすが晴香ちゃん。それが今のニュースなんだ。……結局いくらで落とされたと思う?」

「……百万……とか?」

「五百五十万だってさ。」

「ごひゃ……すごいですね!どんな人が落としたんでしょうね……」

「ほんとに金持ちか……身の回りのものを売り払うようなやつか……ちょっと見てみたいよね。《ヘクトべルゼルガ》も買った奴も……晴香ちゃんはプラモに命を懸けるような奴にはなっちゃ駄目だよ?あくまで趣味でおさえてね……」

「あはは、了解です。」


 《ファクトリー》を出て帰路につこうかと思った私の視界におもちゃ屋さんが入る。ショウウィンドウの中にテレビが置いてあり、日曜の朝にやってる戦隊ものが流れている。

私はふらっとテレビの前に立つ。ちょうど敵が巨大化したところだ。ヒーローたちがロボットに乗り込んでいく。

「今は……確か《勇気戦隊 ブレイブレンジャー》だったな。……へぇ、最近のヒーローのロボットはなかなかカッコイイな。プラモにならないかな……」

私はブレイブレンジャーの乗るロボットが気になり、店内へと入る。変身ベルト、光線銃、ロボットのおもちゃといろいろなものが並んでいる。

「ああ、これだこれだ。これがこう変形して……右腕に……ほぉほぉ。なかなかユニークな合体だな。そうだ、ヒーローのロボットと言えばあとから登場したロボットと合体するのが基本だ。」

私は隣に置いてあるロボットを手に取る。箱の裏に「合体する!」と書いてある。全身が黒色であり、なんだか敵のような印象を受ける。肩の部分にドクロが描いてあるし。

「これと合体するのか。どういう展開でこんな真っ黒で悪役みたいなロボットと……?」


「その黒いロボットのパイロットはもともと敵だったんだ。」


横から澄んだ声が聞こえた。そちらの方を見るとそこには巫女さんがいた。少し釣り上った目、きれいな顔立ち、とてもキリリッとした巫女さんである。後ろで長い黒髪をまとめ、片手に何かを買ったのかビニール袋を持っている。おもちゃ屋さんではそんなに見れない光景……のはずである。

「君も好きなのか?こういうロボット。」

巫女さんは私が手に持つロボットを見て尋ねた。

「え……ええまあ。番組は見たことないですけど……このロボットはカッコイイなぁと。」

「そうか、惜しいな。ぜひとも本編も見るといい。悪の軍団の卑怯な戦法に苦戦しつつも己が正義を貫くヒーローの姿は我々に元気を与えてくれるのだ!」

「己が正義……」

そうか……私とルーマニアがやってるのもそれなんだろう。悪の親玉が残酷な方法で仲間を増やしていくのを阻止しつつ、親玉を倒そうとしている。ルーマニアがどうかは知らないが私は平和を守りたいという……正義?で戦っているのだろう。うん?これが私が頑張る理由なのか?

私が少し黙ったのをどうとらえたのか、突然巫女さんが私の両肩を掴む。

「君は!……何か自分の正義を持っているのだな!今、自分の信念をかけることのできる状況にいるのだな!そうであろう?」

私は困惑して何も言えなかった。巫女さんは妙に目をキラキラさせてこちらの目を覗きこんでくる。

「いい目だ……何かの目標を持って毎日毎日頑張っている人の目だ。君のような人こそ!《勇気戦隊 ブレイブレンジャー》を見るべきだ!さぁついてくるのだ!」

「え……えぇ?!ちょっと……」

私は翼に引っ張られるのと同じような感覚を覚えながら巫女さんに連れ去られた。


 「ささっ、あがってくれたまえ。」

私が巫女さんに連れてこられて到着したのは神社ではなく道場だった。漫画とかアニメでしか見たことのないバカみたいに長い塀に囲まれたお屋敷で、歴史を感じる建物だ。「日本の家!」というあおり文句がつきそうである。

「あ……いえ、でもやっぱり初対面の人の家にあがるなんて……」

「何を言うかね、それじゃあ「こども一一〇番の家」には誰も逃げ込めないではないか。」

「いやいや、それとこれとは話が別ですよ……」

「まぁまぁ遠慮するでないよ。ほれほれ。」

結局私は巫女さんに引っ張られて家にあがった。これまた長い廊下をてくてく歩いて巫女さんは私を一つの部屋に入れた。途中、鯉が泳ぐ池とかきれいに整備された草木が目に入ったが……漫画とかでの描写というのは案外と正しいものらしい。

「少し待っててくれ。茶を淹れてくるから。」

そう言って巫女さんは扉を閉めてどこかへ行ってしまう。外見が外見だけに和風の部屋を予想していたのだがそんなことはなく、部屋の床は絨毯だ。とりあえず私は所在無げに正座をした。部屋の中を見まわすとすごい違和感を感じる。

「……ここはあの巫女さんの部屋……だよな。」

棚と言う棚に飾られているのはぬいぐるみとかそういうものではなくロボットなのだ。あのおもちゃ屋さんに売っているような変形、合体するロボットが所せましと並んでいる。実は弟さんとかの部屋か……?

「鉄ぅ、入るぞー。」

そんなことを考えていると突然扉が開き、見知らぬ(あの巫女さんも十分見知らないが)男が入ってきた。そして正座をしている私を見つけて表現しようもない程に驚いた。

「なぁ!?誰だお前は!鉄の友達……あ、いやそんなわけはないか。ということは……泥棒か!」

私は弁解をしようとしたのだがその男の……気迫とも言うべきものに圧倒されて声がでなかった。ただただ口をぱくぱくさせただけ。

「ここに忍びこむとは運がなかったなぁ!ここは鬼すらも一刀のもとに切り殺す最強の流派、《雨傘流》の道場だぞ!覚悟しろ!」

そういうと男は木刀を取りだした。普通なら「きゃー」とか叫ぶのだろうが、あいにくと私はついこの間に先輩の放つビームにも似た攻撃が自分の方へ飛んでくるのを何度も見ていたので変に態勢ができていたらしく、実に冷静にその光景を眺めていた。

「こんのあほう!」

男が木刀を振りおろそうとした瞬間、横から飛んできた蹴りが男の横っ腹を直撃した。男は呻き声と共に大きく飛んでゆき、私の視界から消えた。代わりにあの巫女さんが湯飲みののったおぼんを手にして扉の前に立つ。

「何てことを!客人に対して失礼であろう!」

男の飛んでいった方へ怒鳴りつける。キリリッとした巫女さんなので怒った顔はなかなかに迫力がある。

「て……鉄!てめぇ、なにすんだこの野郎!」

巫女さんはおぼんを部屋の床に置き、私に一瞬ほほ笑む。そしてまた先ほどの顔になって男の飛んでった方へ駆けだして私の視界から消えた。

「姉に向かって……いやそれ以前に女性にたいして野郎とはなんだぁ!」

バキィッ!という音がする。人が殴られたような音だ。

「痛っ!この、マジで殴りやがっ……いやちょっと待て!落ち着けよ鉄!ぐふぅ!」

「こんのたわけが!姉を呼び捨てるとは!例え家族であっても年上には敬意を払えとなんども!」

「げぼぉ!わ……わるかっぐへぇ!す……すびばせんでした!許しがぁぁ!」

しばらく巫女さんの怒鳴り声とにぶい音が響く。私は何が起きているのか気になるのと同時に見てはいけないと思い、頑張って正座をしていた。

巫女さんが視界から消えてから数分後、ボロボロにタコ殴りにされた男がべそをかきながら私に土下座した。私が苦笑いをして気にしていないことを言うとすごすごと部屋から出て行った。

「すまなかったな。愚弟が迷惑をかけた。許してくれ。」

今度は巫女さんが頭を下げてきた。私は居たたまれなくなったので話題を変えることにした。

「そ……それにしてもすごいロボットの数ですね。」

そう言った途端に巫女さんは顔をあげてとても生き生きとした表情で話しだした。

「すごいだろう!あそこからこっちまわりで歴代の戦隊シリーズのロボットが並んでいるのだ。まぁロボットが出始めたのは五代目からだが、わたしが戦隊ものを見だしたのは十四代目からだったから集めるのには苦労した……わたし個人の意見としては最近のものよりも昔のロボットのデザインの方がシンプルで好きなんだ。特にこれ、見てくれこのスラリとしたフォルムを!七代目戦隊ヒーロー《武者戦隊 サムライジャー》のロボットでな、名を《ダイケンゴー》といって日本刀を武器に戦うんだ。刀のデザインを昔から刀を作っている本物の鍛冶屋に頼んでいてな、素晴らしく美しいデザインなんだ……必殺技、《刹那!天誅切り!》の演出もカッコイイんだ。しかもこの《ダイケンゴー》は後に登場する《シラハ》というロボットと合体して二刀流になるんだ!これを見た時は正直がっかりしたんだ。二刀流になると大抵のロボットは回転技しか使わなかったから。でも《シラハ》と合体した《ダイケンゴー》、《真・ダイケンゴー》は違った!二本の刀を使ってきれいな舞いをしたんだ!その名も《勧善懲悪!剣の舞!》!そして技が決まり、刀を鞘におさめた瞬間!敵が爆発!初めて見た時の感動は今も忘れない。あまりに感動して《勧善懲悪!剣の舞!》の動きを覚えてしまった程だよ。わたしもいつかは二刀流になりたいと思っているのだがね、まだまだ修行が足りなくてな……ふふっ、恥ずかしい話だ。」

巫女さんが自分で持ってきたお茶を飲む。一気に話したので疲れたのだろう、というかそう思いたい。私は突然のマニアックな話題の濁流に飲み込まれ、あっけにとられていた。

「二刀流になりたいということは、あなたは剣道でもやってるんですか?」

「あの剣道もやってはいるが主にやっているのはこの家の流派だ。《雨傘流》という。」

さっきの男がいっていたあれか。巫女さんが剣道か……私は気になったので訊いてみた。

「最近の巫女さんは武道もたしなむんですか。」

巫女さんは目がパチクリさせた。そして自分の格好を眺めて笑いだした。

「あっはっはっは!そうか、この格好が巫女の服に見えたか!そうかそうか、まぁ見慣れないものだから致し方ないのかもな。だがわたしの記憶が確かなら巫女の下は赤色ではないか?」

私は巫女さんの服を眺める。そういえば下が黒っぽいな、この巫女さんは。

「この服はわたしの道着みたいなもんでね、着替えるのも面倒なので普段着にしているのだ。」

「なるほど……」

私は間違いに気づいて少し恥ずかしく思い、お茶をすすった。

「そういえば君の名前を聞いてなかったな。わたしはあぶみてっしんだ。」

「あぶみ……?どう書くんです?」

「鎧という字に鉄の心と書く。」

「鎧 鉄心……確認しますけどあなたは女性ですよね……?」

「ああ。それは間違いない。なんなら脱いで見せようか?」

「い……いいです、いいです。」

私がわたわたするのを見て鐙さんは「はっはっは」と笑う。私は苦笑しながら自己紹介する。

「私は雨上 晴香。雨に上で雨上、晴れに香りで晴香です。」

「雨上くんか。うむ、よろしくな。君のようにロボットを見てカッコイイと思う女性はなかなかいなくてな、仲良くしたいものだ。」

鎧さんはにっこりと笑って私を見る。なんだか音切さんもこんなことを言っていた気がするな。その時ふっと私の視界にあったビニール袋が気になった。鎧さんがおもちゃ屋さんで会った時から持ってるものだ。

「それもロボットなんですか?」

私がビニール袋を指差すと鎧さんはまたもや生き生きとした顔になって私を見る。しまった、また長い話が……!?

「よくぞ聞いてくれた!これはな、大変貴重なものなんだ。」

そう言って鎧さんはビニール袋から箱を取り出した。

「なかなか市場に出回らないから見つけるのに苦労したよ。あのおもちゃ屋さんの主人とは気が合ってな、たびたびレアな品物を取りよせてくれたりするんだ。」

どっかで訊いた話だ。話しながら鎧さんは箱を開けて中のロボットを取り出し、いろんな角度から眺め始めた。その目は憧れの人に出会った人のような目だった。

「《武者戦隊 サムライジャー》最終話、「平和は刀のもとに」に登場した敵……つまりラスボスが操るロボット、《アンコクリュウ》!長い戦隊シリーズの中で唯一敵がのったロボットなんだ。ラスボス《ブラックコーテー》は今までに入手した《ダイケンゴー》のデータをもとにしてオリジナルのロボットを作りサムライジャーに挑んだんだ! その戦いは凄まじいものだった……刀と刀がぶつかるたびに衝撃波が発生して地面をえぐっていくんだ。互いに打ち出す必殺技もほぼ互角!そして最後がカッコイイんだ。互いが刀を鞘に納めてね、ある程度距離を置いて立つんだ。そこで一言二言会話をした後、互いが互いの方へ向かって走り出し!すれ違いざまに両方のロボットが超速の居合を繰り出すんだ!少しの間があってから……ゆっくりと《アンコクリュウ》が倒れて爆発!なぁ!すごいであろう!?」

「は……はぁ……で、それが《アンコクリュウ》ですか。」

「その通り!やっぱり敵がのるロボットは人気が出なくてね、イマイチ売れなかったんだ。だから今では超レア!わたしは《ブラックコーテー》も好きだったんだ。敵のくせにいい武士道を持っててね、どうしても欲しかったんだぁ……」

鎧さんは《ダイケンゴー》と《アンコクリュウ》のおもちゃを対峙させて何やらセリフを言いだした。私はその光景を微笑ましく思って眺めていた。この人がさっき一人の人間をボコボコにしたとは思えないな。

鎧さんが私の視線に気付いたらしく、少し顔を赤らめて言う。

「な……なんだよぅ。し……仕方なかろう……好きなのだから……弟からもよく言われる、いい歳してってな……」

「いやいや、別に私は鎧さんの趣味をどうこう言うつもりはないですよ。私の趣味もこんな感じですから。」

私はさっき購入した《スローン》を取り出して鎧さんに見せた。

「な……なんだこれは?プラモデル?」

「そうです。私の趣味はプラモデルなんです。カッコイイと思ったものはなんでも作りたくなるんです。これは《タイプα・超高速戦特化型アンジェラ・スローン》という奴でしてね、鎧さんの《アンコクリュウ》同様なかなか手に入らなかったもので……今日!やっと手に入ったんですよ!」

私はにっこり笑って鎧さんを見た。鎧さんは最初呆けていたがだんだんと笑顔になった。

「今日は……いい日だな。中身は違えど、同じ志を持つ人と出会えるとは……!」

これもつい最近聞いた気がする。

「……おっと、そう言えば雨上くんを連れてきたのは《勇気戦隊 ブレイブレンジャー》を見せるためだったな!……とは言っても時間があまりないな。まぁ第一話だけでも見ていくといい。」

「時間?この後何かご予定が?」

「ああ。私は今この《雨傘流》の師範をしているのでな。教え子たちが来るころなのだ。」

「師範だったんですか!すごいですね。」

「いやいや……よし、雨上くん。少し立ってくれないか?」

私は鎧さんの言う通りに立ち上がる。さらに一歩さがるように言われた。言われた通りに一歩下がる。すると鎧さんが床の一部を持ちあげた。

「よいしょっと!」

驚いたことに床が切り取られたかのようにはがれた。そして中には大量のビデオが入っていたのだ。各ビデオに~レンジャー・第何話と書かれている。まさか歴代のヒーローたちの活躍が全てここに……?

「ブレイブレンジャーはっと……ああ。あった。一話はこれだな。」

鎧さんはビデオを取り出して床を閉じ、部屋にあるテレビの下のビデオデッキにそのビデオをセットした。

「ささっ、座りたまえよ。」

「……すごいですね……」

その後、私と鎧さんは一緒に《勇気戦隊 ブレイブレンジャー》の記念すべき第一話を観賞した。


 「すまなかったのぅ!うちのバカがお嬢ちゃんに木刀を向けたそうでねーか。詫びと言っちゃあなんだが飯ぃでも食ってってくれや。」

ブレイブレンジャーを見終わり、帰ろうとした私を玄関で引きとめたのは鎧さんのおじいさんを名乗る人だった。

「いえいえ、そんなことをしてもらうには……お構いなく……」

「頼むでよ、お嬢ちゃん。客人に迷惑かけておいて何のお詫びもなしに帰したとあっちゃぁ鎧家の名折れなんでぇ、ここはどうか一つ。」

おじいさんが頭を下げてくるので私は困った。一日で三人の人に頭を下げられることが私の人生にあろうとは……

「で……では、お言葉に甘えて……」

「おおう!ありがとうな、お嬢ちゃん!」

おじいさんは腕まくりして家の中へと消えて行った。私は母親に連絡をする。ことの一部始終をかいつまんで説明するとお母さんは大笑いした。

「おもしろい状況になってるわね、晴香。あはは、楽しんできなさいよ。んふふ、お母さん思うに、夕食の後は泊っていきなさいって言われるわね。ふふふ。」

「お母さん……」

理解があり過ぎるお母さんだ。

 さて、どうしたものか。鎧さんは今……道場だろうし……勝手に部屋に入っているのもなんだしなぁ……道場の見学でもさせてもらうか。

私は長い廊下を歩いて外の(とは言っても敷地内だが)道場へ向かう。道場はこの家の敷地内の建物の中でもずば抜けて古いらしく、何度も壁を修繕した形跡が見られる。《雨傘流》は随分と昔からあるらしい。まぁ鬼がどうとか言ってたから……江戸とかだろうか。

「歴史は苦手だな……」

中学の頃の私の歴史の成績はひどいものだった。私が覚えてるのは「いい国作ろう」だけだ。幸い、高校では歴史は地理との選択なのでやらなくてすんだ。

私は道場の扉を開けて一礼をして中へ入る。中には二十人程の……門下生?と言うのか、そんな感じの人が一心に木刀を振っている。その奥には鎧さんがおり、私に気付いて近づいてくる。

「よく一礼を知ってたな。どうしてここに?」

「学校の授業で柔道を選択しているので……実は鎧さんのおじいさんがですね……」

私はことの経緯を話す。それを聞くと鎧さんはまたもや「はっはっは」と笑った。

「うん、おじいさまが言いそうなことだ。その辺に座っててくれても構わないし、わたしの部屋にいてもいいが……」

「見学させてもらいます。」

「そうか、では気合をいれなければな。客人に無様なものは見せられん。」

そう言うと鎧さんは元いた位置に戻り、門下生に向かって叫ぶ。

「今日はわたしの客人が見学に来てくれた!わたしとしては《雨傘流》のすごさを客人に見せてあげたい!主らの日ごろの鍛錬の成果、客人に披露してみようではないか!試合を行うぞ!」

すると門下生が十人ずつ左右に分かれた。そして左右、端に立つ人が前にでる。

「始め!」

鎧さんの掛け声とともに二人の剣士が中央でぶつかった。さっきの男……鎧さんの弟さんから感じたものと同じような迫力の気迫を感じる。

「……なんか……不思議な軌道を描くなぁ……」

別に私は剣道家ではないが、目の前で繰り出される一刀一刀の軌道が普通とは違うということは理解できる。なんというか……範囲が広い?刀の(今は木刀だが)長さを超えた範囲……間合いの外を切ろうとしているようだ。そして切ろうとして終わるのではなく、ちゃんとそこに届いている。とりあえず私には理解できない剣術なんだろうな……


 この試合は勝ったら次の奴と戦うという形式をとっていて、最終的には一人が残った。

「ふむ、今日はお主が残ったか。では……手合わせを願おうかな。」

鎧さんが前に出る。最後は師範というわけだ。勝ち残った門下生が構える。先ほどとは何か違う雰囲気だ。それほどまでに鎧さんは強いということか……

「雨上くん、悪いが合図を頼むよ。」

私はうなずき、立ち上がる。脚がだいぶ痺れていたので多少よろけたが踏ん張って立つ。

「で……では……始め!」

合図と同時に門下生が先制をしかけた。その一撃に全てをかけたかのような振りおろし。空気が切れたかのような音が響く。だが木刀は空を切る。

「いい踏み込みだ。成長したな。」

私には捉えられなかった。一体何がどうなって鎧さんは門下生の後ろにまわったんだ?門下生が振りむきざまに一刀を振るう。それを華麗にかわし、鎧さんは門下生の木刀をとばした。

「後は足の運びだな。精進しろよ。」


 「まさかよう……鉄…姉さんの趣味を理解してくれる人が現れるとはな。しかも女で。」

食卓。私と鎧さんとおじいさんと弟さんの四人で一つのテーブルを囲む。どうやら料理を作ったのはおじいさんのようだ。鎧さんの両親がいないが……いや、こんなこと詮索してはいけないな。

「美味であろう?おじいさまの料理は天下一品だからな!」

この家の外見を見てから……今私の前に並ぶ料理がこの家の食卓に出てくるのを想像できるものは果たしているのだろうか。

「だよなぁ。じいちゃんの作るピザは最高だぜ!」

「がはは!褒めてもなにも出んぞい!ピザばっか食わんでこっちのパスタにも手を出せよ。」

弟さんがミョーンとチーズを伸ばしながらピザを食べる。おじいさんはフォークをくるくるまわしてパスタを頬張る。そう、イタリアンなのだ。しかもピザを作るとは……しっかりとイタリアンを勉強したのだろうな……このおじいさんは。

私は複雑な気分でピザを食べる。実際おいしいから困る。あ、いや別に困りはしないが……

「そういえばまだ紹介していなかったな。この人がわたしのおじいさま、鎧 巌流。それでこれがわたしの愚弟の鎧 剣だ。剣士の剣と書いてつるぎと読む。」

「てめ……姉さん、愚弟はひどいだろ!」

「愚弟だろう、客人に木刀を向けるような奴は。」

鎧さんの言葉に弟さんはばつの悪い顔になってパスタを食べる。

「しかし雨上くん、よくもまぁ……愚弟の木刀が振られたというのに声一つあげずに冷静でいられたな。これでもこの愚弟は《雨傘流》を生まれてから十四年の間習ってきたんだ。それなりの迫力があったはずなんだが……」

とても話しにくい部分に触れられたので私はさり気なく話題の転換を試みる。

「十四年ということは中学二年生ですか。がっしりしてるからもっと上かと思いましたよ。」

「無駄にでかいだけさ。そういえば雨上くんは……?」

「ああ……私は高校一年ですよ。そこの高校の。まぁ春休みがあけたら二年ですけど。」

鎧さんがびっくりした顔をした。

「奇偶だな……というかすごい偶然だな!わたしもそこの一年だ。」

「ええっ!同い年だったんですか!?もっと年上かと……」

そこまで言ったところで鎧さんが表情を暗くする。

「……わたしはそんなに老けて見えるのか……・」

「ち……違いますよ!上って言っても一つ二つ上かなってくらいですよ!」

「そ……そうか……」

いかん、話題を変えなくては!

「ち……ちなみに何組だったんですか?」

「三組だった。」

「私は一組でした。二年のクラスで一緒になれるといいですね。」

「うん、そうだね。」

私たちの横で鎧さんのおじいさんがテレビをつけた。

「おじいさま、テレビを見ながらなんて……客人の前ですよ。」

「そうは言ってものう……ほれ、この事件は気になるんでよ。」

私は部屋の壁にかかっている時計に目をやる。そろそろニュースが始まる時間だ。

『こんばんは。今日のニュースをお伝えします。』

私は基本的にニュースは見ないし新聞も読まないのだが、よく考えたらゴッドヘルパーの事件が騒がれるとしたらこういうメディアの中だ。何か変な事件が起きてるかもしれないと思い、私はテレビの方を向く。

『今日も銀行の金庫に何者かが侵入し、現金一千万円を盗みました。』

「……なんですかこれ?今日もって……」

「なんだ知らないのか雨上くん。ここ最近の注目の事件なんだがな。」

「はぁ……あまりニュースは見ないもので。」

鎧さんはピザを一口ほおばってから教えてくれた。

「その名も超怪力強盗。ここらにある銀行という銀行に侵入して金を盗んでいく奴がいるんだ。金庫に入ってる金を全てとるわけではなく、ちょっとずつ奪っていくとこが賢いというか……せいぜいアタッシュケースに入るくらいの額かな。まぁそんなことはどうでもよくてな、最大の特徴は侵入の方法。」

「侵入の方法?鍵とか手に入れて扉から入っていくわけではないんですか。」

「うん。壁に穴をあけていくんだ。」

……穴?また穴か。私は先輩を思い浮かべる。いやいやそんなバカな。先輩にはもう自分がゴッドヘルパーであるという記憶がないはずだ。

「穴っていってもきれいな穴じゃないんだ。こう……無理やり壁を「裂く」感じだな。」

「壁を……裂く!?えっ、コンクリートとかですよね?金庫とかなら金属の……」

「そう、あまりにあり得なさそうな現象なんだけど一定の力があればなんとか可能っていうから大変なんだ。だから超怪力強盗。」

「それ……その、裂いてるときに音とかでないんですかね。それに警報とかも鳴るでしょうに……」

「犯行が行われていることに気付いたって人は今のところ誰もいないね。それに警報っていうのは金庫で言うなら金庫に入ることを邪魔するものであろう?だから基本的に開け閉めをする扉付近にしかない。超怪力強盗は常に外から来て金庫の扉の前は通らずに金庫の横とかに穴をあけていくのだよ。金庫の中には警報とかはついてないし。だから次の日に従業員が来て始めて事件が発覚する。」

……ゴッドヘルパーの仕業だろうか。いや、というか確実にそうだろう。一定の力があればできるっていっても人間に出せる力じゃないだろうし、機械を使うならある程度の音がする。つまり……今ある世間の《常識》では不可能なことなのだ。ゴッドヘルパーの力はそれを歪めること。

「やっぱり……わしゃぁ鬼の仕業だと思うんでよ。ここは鎧家の出番だろう!」

「鬼……?」

私が呟くと鎧さんのおじいさんが語り出す。

「お嬢ちゃんにも教えよう!鎧家の《雨傘流》の伝説を!時は……あれ、何年だったか……まぁ昔!鎧家はここら一帯の村を外敵から守っていたのだ!勝率は百パーセント!いかなるものも《雨傘流》を超えることはできんかった!そんな時、《雨傘流》のうわさを聞きつけた都のお殿様が突然村にやってきて言った!「都で暴れる鬼を退治していただきたい!」とな!当時の鎧家の当主は《雨傘流》の力が役に立てるのならと五人の達人を都に送り込んだ!そしてその日、夜の都に数多くの悪鬼を従えた鬼が現れた!!《雨傘流》の達人たちはそいつらに挑み、一人の犠牲も出すことなく鬼を打ち取ったのだ!!!!」

鎧さんのおじいさんはやりきった感を醸し出しながら伝説を語れたのを満足そうにしてピザを食べる。なるほど、鎧さんの弟さんが言っていたのはこれか。

「鬼か……結局は人の仕業なのではないかとわたしは思うな……」

鎧さんがぽつりと呟くのを私は聞いた。その目には「怒り」が見えた気がした。


 その後、ブレイブレンジャーのことで盛り上がり、楽しい食事は終わった。そしてお母さんの予想通り、私は泊っていくことになった。

「雨上くん、背中を流そうか!」

こんなノリで私は鎧さんといっしょにお風呂に入ることとなった。ここは予想した通りに大きなお風呂のようだ。よかった……あ、いや何がと聞かれると困るのだが。

脱衣所も完備されており、どこかの旅館にきた気分だ。脱いだ服を入れるかごの場所を選んでいると(まぁどこでもいいのだが)隣で鎧さんが服を脱ぎだした。翼と同じように、鎧さんも女性的な体をしており、とても色っぽい。

「あの服だとあまりわかりませんけど……鎧さんてなかなかのスタイルなんですね。」

鎧さんが私の発言に反応し、自分の体を軽く見る。

「はっはっは。確かに女性としては結構なものを持っているとは思うよ。しかし剣士としては……あまり女性的な体はいらないのだがな。時々男に生まれたかったなぁと思うことがあったりする。」

多くの女性が悔しがるセリフだな……とか思いながら私は服を脱ぐ。そのようすを眺めていた鎧さんはまたびっくりした顔になった。

「……?どうしました?」

「いや……君もなかなか……というか着やせするタイプなんだな……」

なんだかこんな感じのことを翼にも言われた気がする。

 さすがに露天風呂まではなかったが大きなヒノキのお風呂がそこにはあった。もちろん桶から椅子まで木でできている。

私は桶でお風呂のお湯をすくって体にかける。ちょうどいい温度だ。ゆっくりとお湯につかる。これは……気持ちがいいな……

「……雨上くん……君はバレンタインの日に女性からチョコをもらったりしないか?」

鎧さんがごくりと生唾を飲みながら私を見て訊いてくる。はてさて、そんなことあったかな?私は記憶をたどる……

「……たぶんもらったことないですね。何でです?」

「いや……」

鎧さんが私の横に並んでお湯につかる。ほんのりと赤くなったほほがさらに色っぽさを際立てる。しばらく互いに黙ってお風呂の気持ち良さを感じていた。

「……さっきの話の続きなんだが……」

鎧さんが声のトーンを落としてしゃべりだす。

「ブレイブレンジャーの今後のことですか?」

「いや……弟が君に木刀を向けた時の話だ。」

私は少し戸惑う。まさかその話がまた来るとは……恐らく普通の人からすればすごいねの一言ですむ話だったのだろうが、師範になるような剣士にとっては気になることらしい。

「冗談抜きでわたしは驚いているんだ。あの状況で冷静でいられた君に。あの場合、冷静でいるということは常日ごろからああいうことを経験しているか、ごく最近に命を落としかねないようなことを他人からされたか、人として壊れているかだ。雨上 晴香、君はこの内のどれなんだ?」

鎧さんの目は真剣だ。嘘をつけばすぐに見破られる気がするほど。

ルーマニアはゴッドヘルパーのことはそいつがゴッドヘルパーでないなら話しても問題はないと言ってはいた。だが鎧さんがゴッドヘルパーでないとは限らない……

「……秘密です。ご想像にお任せします。」

「雨上……」

鎧さんが一瞬怖い顔になったがすぐに普通の顔になる。

「まぁ……話したくないならいいさ。……今日はわたしの部屋で寝るといい。」

「いいんですか?」

「うん、わたしは……友達といっしょの部屋で寝るということに憧れていてな……」

私は鎧さんを見る。鎧さんは恥ずかしいのか、目を合わせようとしない。

「鎧さんって……意外と女の子なんですね……」

「し……仕方ないのだ!生まれてからずっと剣の道を歩んできたんだ。女の子らしいことなんか一つもしたことがない……最近になって、というか高校生になってからそういうことをしたくなってしまってな……だけど女友達はいなくてな……」

「女友達「は」……?」

「さっきも言ったがわたしは剣道部で二年生から部長になるんだが……わたしを慕ってくれるのはわたしに……というかわたしの強さに憧れる男子ばかりでな……今は女子部員がいないし。」

「憧れるって……それはあまり友達とは……」

「そうなのだ……だから雨上くん!私と友達になってくれないか!」

豪快そうな性格なのに意外と不器用なのかもしれない。私はにっこり笑って答える。

「いいですよ。」

「か……かたじけない!」

時折古風な口調になるのはやはり古くからある剣術を学んで武士のこころとかそういうのを得たからなのだろうか。はてさて。

「でも一つ条件があります。」

「じょ、条件……?」

鎧さんは不安そうな顔になる。……なんだかこの人おもしろいな。素直でいい人だ。こういうのがたまらない男子も多いのでは……?

「私は今友人と名前で呼び合っているのでそれに合わせてもらいましょう。私のことは晴香で。」

「う……うむ、雨……晴香。しかしわたしの名前は鉄心だからなぁ……」

言いたいことはわかる。別に鎧さんも自分の名前を嫌っているわけではない。しかし女の子同士の名前の呼び合いで「鉄心」は……何か違和感がある。

「あだ名とか……ないんですか?」

「おじいさまは鉄と呼ぶが……そういえば近所の人がてっちゃんって呼んでたな。小さいころ。」

「……あいにく……今の時代てっちゃんは別の意味を持っちゃうからなぁ……」

翼によると「てっちゃん」とは鉄道オタクのことを言うらしい。それはいかん。

「そうだ、心の方を使いましょう。「こころちゃん」とか……「しぃちゃん」とか。」

「しぃちゃん!」

鎧さんは後ずさる。顔が真っ赤なのは温まったからだけではないだろう。

「しぃちゃんでいいですか?」

鎧さんがどこか遠くを見ている。あまりの女の子女の子した呼び名に意識がとんだらしい。かわいい人だ。

「晴香。君はすばらしいな!」

「じゃあ……これからよろしく、しぃちゃん。」

私はお湯から出る。

「体、洗いますけど……背中を流してくれるんでしょう?」

「うん、まかせろ!」

椅子に座り、しぃちゃんに背を向ける。ボディソープとかボトルに入ったものはなく、石鹸が置いてある。

「……体は石鹸でいいとして……髪はどれで洗うんです?」

「石鹸だ。」

さも当たり前のように言われてしまった。逆にしぃちゃんが問う。

「晴香は何で洗うんだ?」

「いや……シャンプーで、フツーに。」

「ああ、あれか。うちも昔はそれだったんだが……最近おじいさまが髪の毛の減り具合を心配していてな、髪にいいという無駄に高いこれになったんだ。」

軽い気持ちで訊いてはいけないことだった……!これから先、しぃちゃんのおじいさんを見るたびに笑ってしまいそうだ。

「あっ、そうだ。二年になったらわたしに勉強を教えてくれないか?晴香。」

「勉強?」

「うん、恥ずかしながらわたしは勉強できないんだ。クラスメートには、ああ一年のな、「剣道バカ」と呼ばれていた。」

「……いじめられてる人みたいですね。」

「…………言っただろう……友達がいないんだ……」

しまった、暗くしてしまった。私は向きを反転させてしぃちゃんの背中を洗う。

「ま……まぁこれからは私がいますよ。……と言っても私もそんなにできるわけでは……」

「わたしは中間テストで全教科四十一点だった。」

私たちの高校では四十点から赤点となる……えぇっ!?

「ぎりぎりじゃないですか!というかその前に全部同じ点数ってすごいですね!」

「何を言うかね、世の中にはちゃんと解答を書いているのにいつも〇点の化け物がいるじゃないか。それに比べたらわたし何てまだまだ。」

「いやいや、それ以上そっち方向に成長しちゃ駄目ですよ!」

「とりあえずわたしの学力、わかってもらえたかな。」

「ええ……努力しますよ……私と翼で。」

お互いに背中を洗い、各々に体を洗い始める。

「翼?」

「私の友人です。紹介する機会もあるでしょう。一言で言うと変な奴です。」

「翼……もしかして花飾のことか?」

「へっ?知ってるんですか?」

「ああ……夏休みがあけた頃にわたしを訪ねてきたんだ。なんでも各部の部長がどんな人かというのを調べていたらしくてな。」

イケメンの次は部長か……何を知りたいんだあいつは……

「そうか、花飾と晴香が友達だったとは……すごい巡りあわせというか、世間が狭いというか。」

「……ホントですね。」

……しかしなんだろうか、私は私を俗に言う普通の女の子とは思っていない。だいぶ感性のズレた変わった人だと思う。翼は誰もが認める変な奴。しぃちゃんも普通とは言い難いし……これが「類は友を呼ぶ」ってやつか。昔の人はすごい言葉を残したものだ……


 お風呂を出て、私としぃちゃんは部屋で少ししゃべった後、ブレイブレンジャーの続きを見だしてしまった。見始めると止まらないもので、結局二時ぐらいまで起きていた。さすがに眠いとのことで(私もだが)私はしぃちゃんが敷いてくれた布団に入る。だがしぃちゃんは「あ、あれをするのを忘れていた。さきに寝ててくれ。」といって部屋を出た。私はとくに気にもせず、すぐに夢の中に落ちた。



 「感謝しなさいよ、ルーマニア!」

ここは資料室。とりあえず情報という情報はここに集まるのでオレ様はここに来た。するとマキナが関東で起きたおかしな事件をまとめた書類をくれたのだ。とりあえず今この前の通信のことを言うとその書類をやぶりそうなのでオレ様はいつも通り接する。

「どういう風の吹きまわしだこりゃ。ありがたいがよ。」

「アザゼルに頼まれたのよ。ルーマニアが来たら渡しておいてって。」

本当にそうであるなら何故こいつは感謝しろなどと言ったんだ。


「へぇ。アザゼルのやつ……自分の仕事しねぇなぁ……」

オレ様はペラペラと書類を見る。いろんな事件のことが書かれているのだが……人間たちはなかなかのネーミングセンスを持っているようだ。

「天誅切り裂き魔、エロウィンドウ、超怪力強盗と……まぁいろんな奴がいるんだなぁ。」

「中でも異質なのが天誅切り裂き魔ね。」

マキナが機械を動かしながら言う。……ああ、アザゼルの言うところのコンピューターか。

「そいつが切ってるのは全員ゴッドヘルパーなのよ。」

「……?天使がいっしょにいるんだよな?」

「いないのよ。これは切り裂き魔のみで行われてる事件なの。」

「んなあほな。人間には誰がゴッドヘルパーかはわかんねーだろう……」

「それも変だけどね。もう一つ加えると、切られた奴は全員悪いことをしてたゴッドヘルパー。そして切られて死んだ奴は今のとこいない。」

「……少なくともオレ様たちの敵ではないのか?どっちかってぇといい奴……正義の味方?」

「ええ……正直マキナたちも助かってるのよ。切られた奴らは病院に運ばれるでしょ?すると少なくとも一日はベッドの上でおとなしくしていないといけない。そこを狙って記憶を消す輪っかをかぶせれば終わりなのよ。」

「それでか。最近オレ様たちの出番がないのは。んじゃそいつが頑張ってくれてる間は暇なんだな。」

「残念ながら上から指令がきたわ。その切り裂き魔さんを捕まえろってね。」

「なんでだよ?ほっとけばオレ様たちも楽できるってもんだぜ?」

「良く考えてみなさいよ。その切り裂き魔はゴッドヘルパーを切ってるのよ?少なくとも今まで切られた奴らより強いのよ?もしそいつが何らかの形でマキナたちの敵になったら……ね?」

「……不安な芽は摘んどこうってか。まったく……そんじゃ、久々に雨上のとこに行くかね。」

「ああ、それともう一つ。」

「なんだよ?」

「やばい奴らが動いてるかもしれないよ。確信はまだないんだけどさ。」

「やばい奴ら?この騒ぎの犯人か?」

マキナは一枚の紙をこっちによこしてきた。なにやらたくさんのパーセントがかいてある。

「これは?」

「ゴッドヘルパーが自然と自分の力に自覚する確率ってとこかな。」

「……こういうのは苦手なんだが……何が言いたいんだ?」

「あなたの協力者、《天候》はさ、空に対して特別な感情を持っているでしょ?《天候》みたいに自然の力をコントロールするシステムはゴッドヘルパーに対して大きな影響を与えるからそうなる……ってことはいい?」

「ああ。」

「んじゃあもっと協力なシステムとつながってる奴はどうなるのかって話よ。」

「もっと?例えば?」

「《時間》とか。」

オレ様はマキナの言わんとすることを理解した。自然、しいては世界の理を管理するシステムはゴッドヘルパーにも多大な影響を及ぼす。影響が大きいということは……それだけ自分が他とは違うということに気付きやすいということだ。

例えばそう、《天候》のように……他とは違うということを自分の空に対する感情ととらえられるようなものはいい。だが《時間》は?時間は目に見えない。時間に対して思う自分の気持ちを、感情をどう思う?時計に対する不思議な感情?いや、時計なんていじくればいくらでも時間を変えられる。そんな不安定なものではない、確固たる自分のこころをどう処理する?答えは明白……処理できない。だから気づいてしまう……自分の力に。

「理解したみたいね。つまりはそういうこと。この騒ぎの犯人が自覚させる以前に、とっくに気づいてる確率が高いのよ。そしてそういった……昔から自分の力に気付いてる奴は今、世間で起きてる変な事件を見てどう思うか。今までは目立たないようにひっそりと暮らしてたかもしれない。人間は自分と異なる存在に対しては容赦ないからね。でも今ならどうかしら?って話。」

「……わかった……気をつけよう。」

雨上にも伝えとかねーとな……



 翌日、気付くと隣で寝ていたしぃちゃんを起こして私は朝食をいただく。朝食はごはんとお味噌汁、焼魚だった。よかったよかった。

「すまないな、晴香。今日もブレイブレンジャーの続きをと思ったのだが……今日はちょっとえらい人が来るんだ。」

「別にいいですよ。ちなみにえらい人って?」

「《雨傘流》の各道場の師範だ。《雨傘流》の道場はここだけはなくてな、全国にここを入れて七つあるんだ。その師範たちが集まって近況報告をするんだ。」

「へぇ……なんだかすごいですね……」


お昼前、私は鎧家をあとにした。今日は《スローン》を作ろう。音切さんにも伝えなくては。

……伝えると言えばルーマニアにも超怪力強盗のことを教えなきゃな。

「……強盗って……人がいないときに盗んでるからただの泥棒のような気がするけどなぁ。」

日本語は難しい。そんなことを思いながら、私は快晴の青空の下、いい気分で歩いていた。しかし、そんな私をある一つの事実が襲う。

「……あれ?……ここどこだ?」

私はなんでこんな知らないとこに?ああ、そうか。しぃちゃんに引っ張られてここまで来たから道なんてろくに覚えてないんだ。そうかそうか……

「……困ったな。」

今さら鎧家に戻るのも……というか戻れないし。まぁ、止まってても仕方ないし……適当に歩くか。いざとなったらケータイもあるし。

 知らない道、知らない建物、こんなものがあったのかと思いながら私は歩く。そうだ、折角だからためになることを考えながら歩こう。

「超怪力強盗。一体どんな力を使うのか!?」

壁を裂く。裂けるっていうのはつまり、紙の両端を強く引っ張ったときなんかに真ん中がビリっていくような……そんな現象だよな。確かに、紙みたいな柔らかいものならそれで裂けるけど……超怪力強盗が裂いてるのは壁と金庫。……硬いものが裂けるってなんだ?いまいち想像できないが……しぃちゃんも表現しにくそうだったからやっぱり日常では見ない穴のあき方だったんだろう。そんなことができる力って何だろうか。純粋に怪力なのか?だとしたらどういった《常識》を管理してるシステムだろう?

「力があがる法則なんて思いつかないなぁ……例えあがったとしても人間のスペックは確実に超えた力でないと無理だろうからな。これはないか。」

気の向くままに角を曲がり、脇道に入る。こういうのも楽しいな。

さて、自身の力をあげる力でないなら……まわりを何とかする力か。穴というとやはり先輩が頭に浮かぶ。光の球体……あれは……そう、すごい高温だった。火を使うゴッドヘルパーはどうか。……・いや、それなら先輩の技と同じようにきれいに穴をあけるか壁を溶かすかだ。溶けていたのならしぃちゃんも溶けていたと言うだろう。きっと熱が関係したものではない。なら……なんだ?

「……外から力を加えたのではないのかもしれないな。」

そう、例えば壁の中に何かを埋め込み、それを爆発なりなんなりすれば裂けたように見えないだろうか?おお、何だかいいアイデアのような気がする。中に埋め込む……というかワープさせる?《空間》のゴッドヘルパーとか?……ワープできるならわざわざ穴あけないか。いや、待てよ、わざとあけたとか。捜査を混乱させるために……!

「……おっ?ここは……・」

いつのまにか、私はあの公園に出ていた。先輩と戦った場所。今でもその傷跡が残っている。倒れた木とか散らかった砂とか葉っぱとかはもうないが、地面に走るひびとかあちこちに空いている穴とかはそのままだ。

もちろん誰にも正しい原因はわからなかった。よくわからないがとんでもない異常気象がすごく局地的に起きた……という具合である。

まぁ……あってはいるが少し違うか。異常気象は起きたのではなく私が起こしたのだから。

私は立ち止まって公園を眺める。無論、立ち入り禁止になっているので中には入れない。こういうことを起こさずに、相手だけに効果を与えられるようにならなくては。

私が決意を新たにしたその時、あまり他人からは聞かない単語が聞こえた。


「ゴッドヘルパー。」


 私は思わず声のした方を見る。そしてそこに一人の女性が立っているのに気がつく。とてもラフな格好をしているのだが……私の第一印象は「秘書」だった。短く切りそろえられた茶色の髪の下にキラッと光るメガネが見える。キリッとした顔だが目は優しい感じだ。……うむ、できる女性というのはこういう人を指すのかもしれない。ただ一つ変なのは女性が肩から虫かごをさげていることか。

私の軽く困惑した顔を見て女性は軽く笑う。

「ふふっ、やっと見つけたわ。あなたね?ここの公園をこんなにしたのは。」

女性はほほ笑みを絶やさずに私の方へと近づいてくる。

「ここをこんなにした人は必ずここに足を運ぶとふんでいたの。力に酔っている人なら自分の力の爪痕を見て満足するために、ここをこんなんにしたことを後悔している人なら自分の過ちをしかとこころに刻むために。」

確かに私は何度かこの光景を見に来た。女性が言った後者のそれがまさに理由だ。何だこの人は?

「だからずっとここで眺めてたの。この公園を見に来る人を。《情報屋》によるとここで力をふるったゴッドヘルパーは天使の協力者となっているらしいからきっと「ゴッドヘルパー」という単語に反応すると思ってね……人が来てここを眺めるたびにゴッドヘルパーって呟いてたのよ。」

私を……探していた?いや、私と言うよりはこの公園をこういう状況にしたゴッドヘルパーを。

「そしてあなたはゴッドヘルパーという単語に反応した……つまりあなたがあたくしの目当ての人物……《天候》のゴッドヘルパー!」

私は自然と身構えた。

少し前に考えたことがある。ゴッドヘルパーであることを自覚して……ただただ強い奴と戦いたいって言って来るような奴もいるんじゃないかと。もしかしたら……

「そんなに構えなくていいわよ。あたくしはあなたに危害を加える気はないですから……って言っても信じてもらえないわよね。」

私は風を起こす準備を整える。いざとなったら強風で……

「それなら……これはどうかしら。あたくしは今からあたくしの力をあなたに教えるわ。弱点も。ね?それなら話を聞いてくれるかしら?」

私は戸惑う。何のつもりなんだ?

「……話というのは?」

「そうね……まだゴッドヘルパーであることを自覚して日が浅いあなたにとって耳よりな情報ってとこかしらね。」

日が浅い私にとって耳より……?まだ私の知らないゴッドヘルパーの世界があるのか……?これはもしかしたら貴重な話なのかもしれない。だけど……やっぱり怪しいよなぁ。

「……」

「ふふっ、まっ信じられないわよね。それじゃあ……そこから見ててくれればいいわ。」

そう言うと女性は公園に近づき、草の茂みの近くでしゃがみこんだ。

「……?」

私は女性からある程度の距離を取って女性を眺める。

「ここを見て、蜘蛛がいるでしょう?見えるかしら、この辺が蜘蛛の巣なんだけど。」

普通なら見えない距離なのだが……蜘蛛がやたらでかいので見える。

「一応見えます。……それがなんなんですか?」

「あたくしの力を見せるにはちょうどいいの。ここに蜘蛛がいてよかったわ。」

すると女性は肩からさげている虫かごに手を入れる。出てきたのはチョウだった。遠目にもわかる大きなチョウだ。なんていう名前かはわからないが、女性に羽をつかまれてじたばたしている。

すると女性はあろうことか、そのチョウを蜘蛛の巣に引っかけたのだ。

「!何してるんですか!」

「まあまあ。ほら、蜘蛛が動き出したわ。」

チョウが蜘蛛の巣から離れようと暴れるのを、糸を伝わる振動でキャッチし、蜘蛛がのそのそと歩きだす。

「食べられちゃいますよ!」

「そう、それが《常識》よね?」

《常識》……!?この女性の力はそれを歪ませるのか?

「チョウの方を見ててね。」

蜘蛛が近づいてきたのに気がついたか、チョウはさらに暴れて逃げようとする……・ことはなく、逆に暴れなくなった。じっと蜘蛛の方を見ている。

信じられないことが起きた。チョウが持つ花の蜜を吸うためのくるくるまかれたストロー状の口……それがビュッと蜘蛛の方へ伸び、蜘蛛の頭へ突き刺さったのだ。

「……!?」

そしてみるみる蜘蛛が小さくなってゆく。体液を吸われている……?なんで?どうして?まったく意味がわからない。

数十秒後、蜘蛛はミイラのようになり、チョウは軽く蜘蛛の巣から脱出した。まるでわざと捕まっていたかのような余裕で。

「《常識》では蜘蛛が食べる者でチョウが食べられる者。それをあたくしが逆にしたのよ。チョウが食べる者で蜘蛛が食べられる者にしたの。それがあたくしの操るシステムが管理する《常識》。」

私は女性をまじまじと見る。ほほ笑みはくずれない。

「あたくしは《食物連鎖》のゴッドヘルパー。」

「……食物連鎖……」

「理科の教科書とかで見たことあるでしょう?あの三角形の食物連鎖ピラミッド。あたくしはあれをひっくり返したり、全部の種族を横に並べたりできるの。あたくしがアフリカの草原に行けばライオンがシマウマに食べられる現象を起こせるし、ライオンとシマウマが仲良く暮らす光景だって作れるのよ。」

私はとっさに女性から離れる。私がこの女性に食べられたりという現象が起こりかねないと思ったのだ。女性はしゃがんだまま言う。

「安心して、あたくしはあなたに何もしない。というかこの場では何もできない。《食物連鎖》は生物の本能に該当する法則。人間は本能を理性でコントロールできるから人間という種族のそれは操作できないの。仮にこの公園にいる虫とかの食物連鎖を操作してあなたを襲わせても……この公園をこんな状態にできる竜巻を起こせるあなたにはいかなる虫も近づけない。ほら、何も心配ないでしょう?」

確かに……この力の弱点は、本人には何もできないということだ。まわりの生き物を操ることしかできない……操るといっても本能を変えるだけだから意のままに操れるわけではない。だが……条件さえ揃えば……とんでもなく厄介な力だ。

「さぁて、ここで問題。あたくしが最も強くなる場所はどこでしょう?」

……《食物連鎖》が三角形なのは食べられる者が食べる者より多いから。そうでないと自然界が成り立たない。それをひっくり返せるということは……最も数の多い食べられる者を食べる者にできるということ……三角形の底辺にいる生物とは……

「水……のある所……もっと言えば海や川……ですか。」

「うんうん、何で?」

「プランクトンが……ものすごい数いるから……」

女性は立ち上がり、私の方を嬉しそうに見る。

「大正解よ。さすが、あたくしが見込んだだけあるわ。その通り。例えば敵対する人間を海に突き落としてから《食物連鎖》を操ると……最弱のプランクトンたちが絶対の捕食者となって人間を食う。一匹一匹が小さくても数が半端ないから余裕で食いつくせるの。骨すら残らないかもね。」

私は今この人の手の打ちを全て知った……と思う。ここまで明かすってことは、ホントに敵対の意思はないらしい。

「……はぁ……話を聞きましょうか……」

「ふふっ、ありがとう。立ち話もなんだし……あ、そうだ。ここに来る途中で喫茶店を見かけたわ。えく……えくす……」

「《エクスカリバー》ですね。じゃあそこで話を聞きましょう。……あなたの名前は……」

「あたくしは……そうね、仲間内からはチェインって呼ばれてるからそれで呼んでちょうだい。」

「チェイン?」

「食物連鎖って英語でフードチェインって言うでしょう?そこから。あたくしたち、本名は互いに知らないの。メリーさんが「ひみちゅそしきみいたいでかっこいいかりゃコードネームで呼びあおうよ」って言ったから。基本的にコードネームは自分の力に合ったものになるわ。」

どうやらこの人は何かの組織に所属しているらしい。それもメンバーが全員ゴッドヘルパー。

天使側ともこの騒ぎの犯人側とも違うグループか……

「そうですか……ちなみにメリーさんって……」

「そのままだとつまらないって言ってね、ちょっとひねってあるの。あなたのことは何て呼べばいいかしら?《天候》さん。」

……ウェザーじゃそのまんますぎるし……スカイ?いやいや、空の名を語るのはちょっとなぁ……空関係の何か……ないかな。

「じゃあハーシェルで。」

「ハ……ハーシェル?まったく《天候》との関係性が見えないわね。どういう意味なの?」

「だいぶマニアックですよ。天候から空に行って、空からギリシャ神話の天の神ウラノスになったんですよ。で、ウラノスって天王星の英語名なんですよ。それで天王星を惑星として発見したとされているのがウィリアム・ハーシェルっていう人なんです。天王星の別名はハーシェルですし。」

「あはは、それはだれもわからないわね!あははは!じゃあハーシェル、《エクスカリバー》にいきましょうか。ふふっ。」


 《エクスカリバー》である。今は「学生さんは春休み?だったらおいでよフェア」をやっている。なんともネーミングセンスのないフェアだが……ケーキが安いとかで人が多い。いつもなら窓際のいい席に座れるのだが今日はそうはいかず、喫煙席にまわされてしまった。

「あらあら。あたくしたばこは嫌いなのだけど……まぁ仕方ないわね。あ、そうだハーシェル。あなたの風でなんとかならないかしら。」

「私は人が風だと思うくらいの強さの風しか起こせないんです。強くするなら竜巻までできますけど弱くするのは少し限界が……」

「まぁそうよね。《風》のゴッドヘルパーではないですものね。無理を言ったわね。」

チェインさんは優雅に席に座る。軽く脚を組むので余計に秘書に見える。私はテーブルの真ん中に置いてある灰皿を端によけて座った。

「チェインさんってお仕事は誰かの秘書さんですか?」

私が聞くとどうも聞かれ慣れているようでほほ笑んで答える。

「よく言われるけど……あたくしは誰かの秘書をやったことはないわ。というかあたくし、組織に入っているから仕事はしていないの。」

仕事をしていない?じゃあお金は……?私は少し戸惑う。その組織とやらには何か大きな後ろ盾があるのだろうか。

「あたくしたちの組織は……資金を賭けごとで稼いでいるの。」

「賭けごと?競馬とかですか?」

「えぇ、それもあるし……年末とかには宝くじをやっているわね。それである程度稼いでるわ。」

稼いでいるって……まるで確実にお金を手に入れているかのような言い方だ。そういうことを操れる力を持つ人がいるのか?

 店員さんがやってきて注文を聞いてくる。私は変わらずクリームソーダ。チェインさんはコーヒーとケーキを頼んだ。

「とりあえず……あたくしたちの組織のことを教えるわね。組織の名前は……えっとねぇ。」

チェインさんがポケットからメモ帳を取り出してふせんのついているページを見る。

……何だか最近、ここに一緒に来る人はみんなメモ帳をもっているな。

「名前は……《すごいぞ強いぞ頼りになるぞスーパーハイパーアルティメットジャスティスな私たちはみんなの笑顔を守るため悪い奴らをバッタバッタとなぎ倒し平和で愉快な世界を作ろうとがんばる絶対無敵の救世主だぜいぇい》よ。」

「……新手のじゅげむですか……」

「あはは。ハーシェルはツッコミ上手ね。これはメリーさんが考えたの。」

メリーさん……先ほどから話に出てくる名前だ。互いの呼び方とか組織の名前とかを決めているということは……

「そのメリーさんがリーダーなんですか?」

「一応ね。あたくしたちの中で一番とんでもないものを操るから。まぁ、「たち」って言っても五人だけの組織だけどね。」

「五人!?少ないですね……」

「あたくしたちは……操る《常識》があまりに強大すぎて誰に何を言われなくてもゴッドヘルパーであることを自覚した人なの。それが組織に入る条件でもあるのだけれど。」

勝手に自覚する程のゴッドヘルパーがそろった組織!?恐ろしい組織だ。

「組織の目的は……ゴッドヘルパーの存在を世に教え、その力を有効に使うこと。」

「世に……教える!?そんなことしたら今みたいな事件がたくさん起きますよ!知らないわけではないでしょう!?」

私は声を荒げる。何てことを言い出すんだこの人は!もしも先輩みたいな強力な力を持った人が複数人暴れたら……

「それは今だから思うことよ。それを正すゴッドヘルパーがいないからそう思うのよ。天使が頑張っているのは知っているわ。でもそれはあまりおおっぴらに行動できないという制約がついた上での行動……無理があるとは思わない?だったら一度全てをばらしてしまってからの方がやりやすいわ。ゴッドヘルパーの力はすごいものなのよ?それを人類の進歩に使わなくてどうするの。暴れる奴はでるでしょうけどちゃんとゴッドヘルパーの警察みたいなものを作ればいいじゃないの。実際に今の人間社会もそうなっているじゃない。」

「それはみんなが基本的に同じ存在だから成り立つんです。特別な人間が出たらどうなるか……特別でない人間が思うことは想像がつきますよ。」

チェインさんが目を丸くして私を見る。

「ハーシェル……あなたは……自分が特別な人間だと感じていないの?それに優越感を感じていないの?あなたの言い方だと……自分がゴッドヘルパーであることを不満に思っているように聞こえるのだけど……」

「不満に思っているわけではないですよ……特別な力に優越感を感じていないわけでもないです……でもこの力をいつ失ってもいいと感じています。いつかこの力が私を変えてしまうのではないかと……最近思う機会がありましてね。」

先輩がおかしくなったのは呪いのせいだ……だけど呪いがなくてもああなってしまう可能性はあったのではないか?少なくとも……私にはその可能性があったと思う。もしもルーマニアに会う前に自覚していたらそうなっていたかもしれない。

 うつむく私を見てチェインさんはふぅと息を吐く。

「すごいわ……ハーシェル。やはりあなたは組織に必要な思想を持っているわね。今の組織にはそういう思想を持った人物がいない。よりよい世界を作るには相反する意見との議論も必要だから……」

……?何を言っているんだ?

「ハーシェル。あたくしたちの組織に入ってくれない?あなたが入れば今の組織が作る未来よりも良い未来を作れる……!」

「で……でもあなたはさっき一人で自覚するゴッドヘルパーであることが条件だと……」

「あなたは確実に自覚したはずよ。天使が来るのがもう少し遅ければね。《天候》よ?簡単に言えば……あなたはこの地球という星を包む、地面と宇宙との間にある空間の支配者なのよ?全ての生き物があなたの下にいるのよ?」

「……」

「あなたがあの公園で戦ったのは《光》でしょう?《光》には人間は抗えるわ。鏡を使えば向きを変えられるし部屋を作れば光が一切ない空間だって作れる。だけどあなたの力をおさえることは人間には不可能なの。雨を止ませることはできない。台風を止めることはできない。あなたが操る《常識》はそのエネルギーがけた外れなのよ。あなたは十分に合格なのよ。」

「……いやです。入りません。私はルーマニアといっしょにこの事件を終わらせるんです。ゴッドヘルパーの力は……過ぎた力なんです。」

私はチェインさんの目を見る。チェインさんは軽くため息をついた。

「決意はかたいようね……まぁ、いいわ。今後気が変わる可能性もないわけではないしね……しかし残念だわ。あたくしたちはあなたが入らないとあいつと戦えない。」

「あいつ?」

「ゴッドヘルパーにゴッドヘルパーであることを自覚させてる奴よ。」

……?それはつまり……犯人のことだ。「あいつと戦えない」!?

「ま……まさか知ってるんですか!?犯人を!」

チェインさんはニンマリと笑う。

「知っているわ。でも、知りたければ組織に入りなさいね♪」

私は戸惑う。ここで組織に入って犯人を知ることができれば……そしてルーマニアといっしょにそいつを倒すことができれば……!……あれ?ちょっとまてよ。

「その……犯人はチェインさんの言う未来には邪魔ですよね?ゴッドヘルパーの印象を下げるだけですし……強力なゴッドヘルパーが揃っているならどうしてそいつを……」

「あたくしたちの力はあいつには効かないの。すごい力であるが故にね。……そうね、犯人がどういう奴かってことは教えてあげるわ。残りは組織に入るか……《情報屋》を見つけて知ってちょうだいね?」

《情報屋》?……と疑問に思う私を置き去りにチェインさんは話を続ける。

「あいつには……ゴッドヘルパーの力そのものは効かないの。う~ん……例えるなら……雷がいいかしら。あいつの前に《電気》を操るタイプのゴッドヘルパーとあなたがいたとする。二人が同時に雷をあいつに落としたとするとあなたの雷は効くけど《電気》の雷は効かないの。」

……ここ最近、難しい話をしょっちゅう聞かされるな……私はそれほど賢くないんだがな。

昔からそうだが私のこのどこか達観した態度というか性格に騙されて多くの人が私に勉強を教わろうとした。そして彼らは人が見た目でないことを学ぶのだった。

「《電気》はその力で雷を生みだしてぶつけるわけだけどそれはあいつには効かない。だけどあなたが力で生み出すのは雲であって雷ではない。雷はあくまで雲によって生み出された……いわば自然の産物。だからそれは効くのよ……理解できたかしら?」

「……ぼんやりと。」

「んまぁこればっかりは……経験した方が早いわね。あ、そういえば今は……っと、そろそろ時間ね。」

チェインさんはポッケに入れていたのか、ケータイを取り出して時間を見て呟いた。同時に、クリームソーダとコーヒー&ケーキが来る。

「ハーシェル、もし組織に入りたくなったらここに連絡を頂戴ね。」

チェインさんがメモの切れはしを私によこす。そして席から立ち、脇においていた虫かごを肩から下げた。

「あれ?帰るんですか?ケーキきましたけど……」

「はいこれ。」

チェインさんは私にお札を一枚渡す。……なんと諭吉さんではないか!

「な……なんですかこれ!」

「あたくしは帰るからそれで代金払っておいて。ここはあたくしがおごるから。それだけあれば足りるでしょう?」

「足り過ぎておつりの方が大きくなります!それにケーキ!」

「もうすぐここにもう一人+アホがくるから……もう一人にあげて。そんでもってそのもう一人はケーキなんかじゃ足らないくらいにお腹をすかしているからそれでご飯をあげるといいわ。それじゃね。」

そう言ってチェインさんは店から出て行った。……もう一人+アホってなんだ?ご飯をあげるといいって……


「あらら、晴香じゃない!」

うしろからの声に振り向くとそこには翼が立っていた。ふちがまんまるのサングラスをつけて長い髪の毛を結んでポニーテールにしている。服は翼にしては珍しい「普通」の服……Tシャツにジーパン、そしてベレー帽のような帽子を被っている。

「翼……何でここに……」

「まぁ……ちょっとした野暮用よ……」

そう言って翼はさっきまでチェインさんがいたとこに座った。そして……

「ん~っ、隣座るよ、つ・ば・さ」

見知らぬ男が翼の隣に座った。その瞬間、翼の顔がみるみる鬼の顔となり男を睨みつける。(付き合いの長い私もこの顔は過去に一、二回しか見たことがない。ホントに怒るとこうなる)

「あんたはどっか別の席……つーか店から出てなさいよ!空気が悪くなるでしょう!」

「なんだよ、つれないなぁ。君と僕の仲じゃないごぼぉっ!」

翼の拳が深々と男の腹部に突き刺さる。みぞおちに入ったんじゃないか?悶絶する男を席から蹴り落とし、翼はいつもの顔を私に見せる。

「ごめんねぇ、晴香。このアホは忘れて。」

翼が苦笑いをしているのを見ていると視界の隅で男が起き上がる。

「そ……そうか、君が噂の晴香ちゃんか。つばさの友達なら僕の友達に同じだ。」

男は……そう、表現するなら「今時の若者」だ。ちゃらちゃらした感じの服、髪、態度。あまり関わりたくないと思うタイプだ。

「出会いの記念に……」

そう言うと男は私の手を取り、顔を……唇を近付ける。

その瞬間、翼の顔が修羅と化し、目にも止まらぬ速さの拳を男のほほへとめり込ませた。男は転がり隣の席のテーブルに頭をぶつける。幸いそこには誰も座っておらず、片付ける前のお皿とかしかなかった。

男が頭をおさえてごろごろしているのをまるで親の仇を見るかのような目で翼が睨みつける。

「殺すわよ。」

これまた幸い(?)私はその時の翼の顔を正面から見ることはなかったが、男の怯えっぷりは半端じゃなかった。男はすごすごと店から出て行った。

「……新しい彼氏か?」

翼はものすごく嫌そうな顔をして答える。

「冗談でもやめて。あんなのを彼氏にするならあたしは清水の舞台からとぶわ。あいつは……そう、バイトの……先輩……なのよ……」

「先輩に対してあんなことしていいのか?」

「……い…いいのよ。」

なんだろう……いつもの翼らしくないスッキリとしない言い方だ。

「それより晴香、あんたこれを一人で食べるつもりだったの?食いしん坊ね。」

翼がケーキを指差す。……まさかもう一人って翼のことなのか……?それでアホっていうのがあの男……?てっきり組織の人が来るのかと……

「……え……?」

私は気づいた。組織の人間じゃないなら……なんで来るのがわかったんだ?

私はおそるおそる翼に尋ねる。

「翼……今、おなかすいてるか?」

「すいてるわね!朝から何も食べてないから!」

なんてことだ……つまりチェインさんが言ったことは……未来予知なのか?あの人の力は《食物連鎖》じゃないのか?

私は困惑しながら諭吉さんを見る。……まぁ、考えてもわからないし……お言葉に甘えるとするか。

「翼、おなかすいてるなら私がおごってやろう。何でも頼むといい。」

翼が目をキラキラさせた。

「まじで!?いいの!?何の遠慮もなく頼むわよ!?」

「ああ……どんと来い。」

翼はお昼のランチセットとクリームソーダとケーキ(×二)を頼んだ。私はチェインさんの残していったケーキを食べることとなった。

「ねぇ晴香。その脇においてる大きなのは何?」

翼が《スローン》を指差す。……買ってからずいぶん経った気がするが……

「プラモだよ……あ、そうだ翼。しぃちゃ……鎧 鉄心って知ってるよな?」

「鎧?剣道部の部長でしょ?そいつがどうかしたの?」

「昨日知りあって友達になったんだ。それで何か知ってることがあったら教えて欲しいと思ってな。」

「へぇ。あの剣道バカと友達に……なかなかやるわね。ちょっと待ってね……」

翼がいつものメモ帳を取り出す。……またメモ帳か……こうしょっちゅう見てると私も買わなくちゃいけないのかと思えてくるな。

「鎧 鉄心。剣道部部長。入部した時に「自分より弱いものの下にはつきたくない。」といってその時の部長に試合を申し込んで勝利。圧倒的だったみたいよ。そんでそのまま部長になった。といっても正式になるのは来年だけど。唯一の女子部員にして最強。他の部員からは信頼されていて部内の評判はいいわね。またそのかっこよさに惚れる男子が結構いたみたいで告白されることが何度か。でもその全てを断った。実は男には興味がないんじゃないかという噂も。剣道はすごいけど勉強はからしき……クラスで勉強を教えてくれるような友達もいなかったみたいでこの前の中間は最悪だったらしいわ。……うん、基本悪い奴ではないから……付き合い始めたらそれはそれで楽しいかもね。」

「……大会とかには出てないのか?」

「出てるわ。フツーに全国大会を制覇してるわね。プロとの試合もしてるみたいね……それも勝ってるわ。」

……思った以上にすごい人だったようだ……私がしぃちゃんのすごさにびっくりしているといい匂いとともに翼の頼んだランチセットが運ばれてくる。

「待ってました!いっただきま~す。」

翼がもりもり食べているのを見ながら私はケーキを食べた。チェインさんがいっしょに頼んでいたコーヒーは完全完璧なブラックで私は苦い顔になった。



 「やっと帰ってきた。」

《エクスカリバー》で翼とは別れ、私はやっと家に着いた。家に入るとお母さんがおり、せっせと掃除をしていた。

「あらお帰り。あぶ……あぶ何とかさんのおうちはどうだった?」

「何で「あぶ」まで出て「み」が出ないのさ。うん、良くしてもらったよ。」

私は手洗いうがいの後、階段をあがり部屋に入る。そして《スローン》の箱を開けた。

「おぉ……これはこれは。さすがにパーツが多いな。作りがいがあるというものだ。」

私はケータイで写真を撮り、音切さんに報告をした後、もくもくと制作に取り掛かった。



「ただいまー。」

チェインが扉を開けるとちょうどジュテェムが玄関の掃除をしていた。靴箱の靴を外に出して中を雑巾で拭いている。

「チェイン、お帰りなさいです。」

「掃除熱心ねぇ、相も変わらず。そんなとこ年に一回でいいじゃない。」

「気づいたら掃除!それがわたくしの主義なんです。」

「そう?それでも雑巾なんかかけなくてもあなたならゴミとか汚れだけパッとどかせられるでしょうに。」

ジュテェムは「あはは。」と笑って掃除を続ける。チェインはリビングへと向かう。

「あ!チェインお姉ちゃん!」

メリーさんが走ってきてチェインに抱きつく。

「メリーさん……あなたにお姉ちゃんと呼ばれるのは複雑よ……」

「いいにょよ。あちゃしたちはゴッドヘルパーなんだかりゃ。そりぇで?あたりゃしい仲間は?」

「そうね……みんなを呼んで話しましょうか。」

数分後、組織のメンバーは全員リビングのソファーに座っていた。

「まず結果だけ言うと、仲間にはできなかったわ。」

「ちょちょちょ。まずそいつがどういう奴なのか教えろよ。」

「そうですよ。まずはそれを教えてください。」

「どれほどの力を操るのじゃ?お主が目をつけるということは相当の……」

「にゃにを操れるの?」

こうやって聞くと全員話し方が違うのでわかりやすい。個性的なメンバーがそろっているものだ。

「《天候》のゴッドヘルパーよ。」

言った瞬間、他の四人がざわめいた。

「《天候》!?んだよそのしょぼい力は。」

「ホっちゃん!何言ってるんですか!恐ろしい力ですよ!?」

「しゅごいね!いつでも晴れにできりゅんでしょ?」

「それもあるじゃろうが……《天候》か……応用がものすごく効く能力じゃな。」

「おそらく……今この組織に一番必要な力であり……かつ思想を持っているの。見つけたからには仲間にするべきだとあたくしは思っているわ。」

「思想か……お主がそう言うのだからそうなのであろう、聞こうとは思わんが……今後仲間にできる可能性はあるのか?もしわしらの敵となる可能性があるのなら……」

「リバじいは心配性ね。大丈夫、あたくしたちの敵にはならないわ。」

「……《天候》……しょうか、しょのちかりゃならあいつと戦えりゅね!」

「さすがメリーさん、ものわかりがいいわね。」

えへへぇ~と照れるメリーさん。ちんぷんかんぷんな顔のホっちゃん。あごに手をあてて何やら考えているリバじい。わくわくしているジュテェム。こう見えてこの人たちが揃って戦えば世界の如何なる軍隊であろうと蹴散らす最強の部隊となる。そこにもう一人……加われば、神でさえ倒せるかもしれない。なんとしても彼女を引き入れなくては……!



 オレ様はどうも変なタイミングで雨上のとこに来てしまったらしい。

雨上はニッパーとかやすりとか持ってにやにやしながら机の上で何かを作っていた。どこぞのマッドな人にしか見えなかった。

「ルーマニア!やっと来たか!久しぶりだな!」

「……ん……ああ……」

オレ様はいつも通りに姿を雨上以外に見えないようにして窓の傍で浮いている。雨上がごちゃごちゃしている机の上を適当に整理してオレ様を見る。

「んで……今回の相手は誰だ?超怪力強盗か?」

「ほう……ある程度の情報はもってるみたいだな。残念だが最優先はそいつじゃなくて天誅切り裂き魔だ。」

「……すまん。それは知らない。」

オレ様は天誅切り裂き魔のことを話す。話ながらオレ様は雨上の体からにじみ出るゴッドヘルパーの力を感じていた。以前より……落ち着いている気がする。こいつはこいつなりに何か訓練を積んでいたのかもしれない。

「なるほど……それは確かに最優先にするのがわかる事件だな。ゴッドヘルパー限定の切り裂き魔か。悪い奴を切ってるから天誅切り裂き魔ってわけだ……」

「いや、毎回相手の体に「天誅」と刻んでるんだ。胸から腹へかけてでかでかとな。」

「へぇ……正義の味方をやってるつもりなのかもな。」

「実際そうだからオレ様は何もしなくていいと思ったんだがな……上の連中はその力がおそろしいらしい。数々のゴッドヘルパーに勝利しているからな。今後のことを考えて……だそうだ。」

「なんかどこの世界もいっしょだな、上と下は。……あ、いや天界がそうだから私たちの世界もそうなのか。」

「まぁ……そうなるか。さて、天誅切り裂き魔だが……「切ってる」からな、かまいたちでも使うのか、あるいは別の何かで切るのか……」

「……あ……」

「どうした?」

「私の友人に……剣の達人がいるんだ。全国でもトップクラスの実力を持ってる。そんなに強いとなると……疑いたくはないんだが……前回は先輩が犯人だったからな……」

雨上が悲しい顔をする。だが大丈夫、今のオレ様は雨上に安心をあげることができる!

「剣の達人となると……使うとしたら日本刀か?」

「たぶん……そうなる。」

「ならそいつは犯人ではないと思うぞ。実はな、とある天使が天誅切り裂き魔によって切られた奴の切り口を調べたんだそうだ。そいつによると切り口は全て一定の厚さを持つ何かによって作られているらしい。日本刀は刃から峰に向かって膨らんでいく形だろう?つまり日本刀による傷ではない……というかそれ以前に全ての刃物が対象外なんだよ。」

「でも……しぃちゃんが一定の厚さの刃物を扱えるゴッドヘルパーではないとはいえないだろ。」

その友人はしぃちゃんというらしい。可愛らしい名前だな。

「仮にそうでもそうする意味がないだろう。切ることには変わりがないんだぜ?それにな……他の傷はともかくとして「天誅」という文字だけは完璧に同時につけられた傷で書かれてんだ。「天誅」って書くのに必要な画数……傷の数は十七だ。そのしぃちゃんとやらは十七刀流なのか?」

「いや……」

「なら違うだろう。……・少なくとも今のオレ様の知識じゃそういう結論になる。」

「うん、そうだな。友人を疑っちゃ駄目だよな。話を変えよう、その天誅切り裂き魔を捕まえる……もしくは倒すのが今回の仕事か?」

「そうなる。問題は天誅切り裂き魔が神出鬼没な点だな。悪いことしてるゴッドヘルパーのもとに現れるのは確かだが。」

「それなら……銀行に現れるんじゃないか?超怪力強盗が銀行を襲ってるから。」

「ん?超怪力強盗がゴッドヘルパーだと?」

「壁にあけてる穴とかを考えると……人間技じゃない。」

「なるほど……これだけ騒ぎになってる事件だしな、超怪力強盗がゴッドヘルパーなら天誅切り裂き魔がほっとかないだろう。おぉ、うまくいけば一度に捕まえられるな!よし、その線でいってみるか。」

「まだ襲われてない銀行を調べてそこに張り込むか。どうもこの辺で犯行を繰り返してるみたいだし……そろそろ襲う銀行も少なくなってるはず……」

雨上がパソコンで調べ始める。……便利なマシーンだ。オレ様も使えるようになるか……

「この近くだと……あと二つ、被害に合ってない銀行がある。」

「またもやお前の町に住む人間か……この町何かあるのか?まぁいいか、二手にわかれて見張るか……二つの銀行の距離は?」

「お前な……この辺の銀行とは言ったが……そんなに近くに銀行があっちこっちにあるわけないだろう。ここはそんなに都会じゃない。二~三キロは離れてる。二手にわかれたら駄目な距離だ。」

「はっはっは!前回の失敗を生かさないオレ様だと思ったか!今回はこれをつけろ。」

オレ様は最新の腕輪を雨上に渡す。そう!これが前回の失敗、二手に

「二手にわかれても呼べば一瞬で片方がもう片方のいるところへワープできたりするのか?」

……・

「ん?どうしたんだルーマニア。」

「……そうです……」

雨上め、覚えてろぅ!

「それじゃぁこの前と同じ、夜に迎えに来てくれ。」

そう言って雨上はまたマッドな人に戻った。



 男はマンションの屋上にいた。男の目の前にはもう一人の男。もう一人の方は屋上の隅っこへと追いやられている。

「まさか……こんな真昼間にしかけてくるとはな……つーか俺を良く見つけられたな。どんな力なんだ?お前さんは。」

隅っこにいる男は尋ねる。だが男はその質問には答えずに違う話をする。

「なぜあんなことをしているんだ。なぜ悪用する?もっと世のため人のために使おうとは思わないのか?君が得るのは犯罪者のラベルだけだぞ。」

「俺は聖人君子じゃねぇ。力を手に入れれば自分のためにしか使わねーよ。……・今もな!」

隅の男が目の前の男を睨みつける。

「……ふん……」

男は少し動き難そうに指を鳴らした。すると隅の男は何か巨大なものにぶつかられたかのように後ろにふっとび、柵に体をぶつけた。

「やるな……この攻撃はあまり意味がなさそうだな……どんなにやってもほぐされる。」

鉄製の柵にあれだけ激しくうちつけられたというのに隅の男は特に痛みも感じていないようだ。

「そういうことだ……逆に君が特技を披露すればするほどに君を粉々にできるようになる。おとなしく……」

「いやだね。俺は俺のやりたいようにやる。それがあいつとの約束でもある。……情けねーが今の俺じゃお前さんには勝てねぇようだな。とんずらさせてもらうぜ。」

隅の男はあろうことか柵を乗り越え屋上から飛び降りた。マンションは五階建てであるはずなのだが……

「逃げたか……まぁここで逃がしても……彼女が始末してくれる。心配はないか。」

男は歩き出す。口笛を吹きながら。



 「あいつ……だいぶまずい状況にいますよ?いいんすか?」


問題はあるが……これはこれでおもしろい。


「そんなんでいいんすか?まああんたがそう言うならあっしは何も言いませんけど……」


何も言わなくていいが働いてはもらうぞ?


「えぇっ!?あっしが!?何をしろと……」


あいつが存分に戦える場所を用意しろ。お前ならできるだろう?邪魔な人間を消してしまえ。


「メンドクサイなー。あれ疲れるんすよ?まったく……」


頑張れよ。



 鎧家である。鉄心は各師範との会話を終え、自分の部屋にいた。《武者戦隊 サムライジャー》の第五話。一人の少年の成長が描かれる回である。鉄心は決意を新たにする。友達ができた。いい友達が。

「わたしは……これでもっと頑張れる。今日で奴を終わらせる。今までは確率があまりに低くて……運に見放されてきたが……今となっては二分の一だ。終わらせる……必ずあの悪党を倒す。」



 「どこに行くのじゃ、ジュテェム。」

「リバじいですか。いや何、さっき見たでしょう?今夜大きな戦いが起こるんですよ?そこにはチェインが見つけた逸材が来るんですよ?わたくしとしては見にいかない手はないです。」

「いや……それは明日じゃろう?今夜は前座みたいなもんだと言っておったではないか。」

「そうです。明日を見るために今日の戦いを見るんです。リバじいはドラマの最終回を一つ前の回を見ずに見るんですか?わたくしは嫌です。それでは。」



 いろいろなところでいろいろな思いを持つものが動き出した。その舞台が銀行というのだからおもしろい。時計が、空が、人々が、夜の訪れを告げた時、それは始まった。



 「雨上はこっちを、オレ様はこっちを。んじゃ移動開始だ。」

時刻は十一時、ルーマニアが地図を広げて私に指示をくれる。私はうなずき、互いに互いの目的地へ向かって歩き出す。私は道中ひまなのでルーマニアに話しかける。

「なぁルーマニア、協力者ってのは天使一人につき一人なのか?」

「いや、んなことはないが……なんでだ?」

頭にルーマニア声が響く。

「だってこういう手わけ作業も人数がいた方がいろいろと楽だろう?」

「でもなぁ……みんながみんなお前みたいに強力な力を持ってるわけじゃねーし、ものわかりがいいわけでもない。前にも言ったがお前に出会えたのは偶然だからな。」

「そうか……例えばだけどさ、仲間にするなら何のゴッドヘルパーがいい?」

「う~ん……やっぱり《時間》とか《空間》を操っちゃうような奴がいると嬉しいな。」

「《時間》と言えば……未来予知をする《食物連鎖》のゴッドヘルパーに会ったよ。」

「はぁ!?会ったっていつ!」

「今日。何かすごいゴッドヘルパーが揃ってる組織があってそれに誘われたんだ。あ、そうだ。そいつらはこの騒ぎの犯人を知ってるんだとさ。《情報屋》って知ってるか、ルーマニア。」

「ちょっとまて!どんだけすごい出会いをしたんだお前は!つーか昼間に言えよ!」

「すまん……プラモに夢中で……ついうっかり。」

「だああぁああ!まったく……んで犯人ってのは……?」

「詳しくは教えてくれなかったけど……どうもゴッドヘルパーの力そのものが効かないんだと……言ってる意味わかるか?説明しづらいんだけど……」

「まさか!サ……」

ルーマニアがそこで黙る。何だ?この説明で理解したのか?あんな複雑な力を……それはつまり心当たりがあって既に知っていたということ……というか今何か言いかけたな。

「ルーマニア?」

「……ちょっと考えさせてくれ……」

またか。また……ルーマニアの秘密の部分に触れたらしい。いくら私でもルーマニアが偽名であることくらいわかる。本名だけでも教えてくれないだろうか……

「まぁ……それはまた聞くとして……ルーマニア、お前友達はいるか?」

「はぁ?何だいきなり。いるぜ、親友がな。」

「どんな奴なんだ?聞かせてくれよ。いい暇つぶしだ。」

「ああ……お前みたいな顔をしてるな、基本。」

「……私?」

「半目で……ボケっとしてる。最近は仕事もやらずにゲームしてるな。だがやる時はやる奴だ。実はすごい奴なんだがな……日頃の態度のせいでアホと思われてる。」

「そうか……ああ、そうだ。天使も恋愛するんだろう?ルーマニアには彼女いないのか?」

「!!!なんだ突然に!い……いねぇーよ、んなの。」

「そうなのか。てっきりモテてるものかと……そういやお前は何歳なんだ?彼女いない歴何年だ?」

「なんだなんだお前らしくない質問だな!」

「いやぁ……この前友人が見知らぬ男に声をかけられた時に聞いたことなんだがな。」

「ナンパというやつか。お前の友人はかわいいのか?それとも美人なのか?」

「……?変だ。」

「なんだそれ……まあいいか。オレ様の年齢は半端ない。老人を通り越した年齢でな、いつの頃からか歳を数えるのを止めたんだ。だからわからん。」

「彼女いない歴千年とか軽くいきそうだな。苦労してるんだなルーマニア。」

「お前の感覚で話をするなよ……そう言うお前は?彼氏は?」

「いないなぁ……好きな人もいない……」

「さみしいな、おい。好きな人の一人もいないのか。」

「ははは、残念ながらな。」

「なんならオレ様に惚れてもいいぜ?」

「銀河系の星が全部直列したら考えよう。」

「……そうかい。……そういやお前、力に落ち着きが出てたが……何かしてたのか?」

「へぇ……そういうのってわかるもんなのか。確かにちょっと山にこもって修行をば。」

「山はともかく修行か、なかなかやるな。おっと、オレ様はもう着いたが。」

「もう!?飛んでるやつは違うな。私は……まだだいぶかかる。なんせ歩きだからな。電車で行くこともできるが歩いて行けなくもないからな……思わず徒歩を選んだがかなり大変だ。」

比較的に家から近い方を私が担当することとなったのだが一~二キロはある。少し歩く速度を上げるか。


 たっぷり四十分もかかってしまったがなんとか目的地だ。さすがにこんな夜遅くに人はいないかと思っていたがそうでもなかった。ちらほらと若者が夜の町を闊歩している。……私が言うのもなんだが。

「着いたぞルーマニア。なんだかこっちは大丈夫ぞうだ……結構人がいる。」

「そうか……まぁ来るとしたら深夜だろうし……少し見張っててくれ。」

「了解。」

私は銀行の向かいに立ちまじまじと眺める。既にシャッターが下ろされており、近付く人はいない。誰か来ればすぐわかるだろう。

「そうだ、一応壁をぐるっと見とくか。もしかしたら既に犯行が行われた後かもしれないし。」

私は壁に穴があいてないか見るために銀行に近づく。道路を横切ろうと歩道から一歩踏み出した瞬間、私はめまいを覚えた。

「……!何だ?」

一瞬吐き気を覚えたがすぐにひいてゆく。そしてとんでもないことに気づいた。

「……!?あれ!?さっきまでいた人は……!?消えた!?」

そう、あたりにいた人が瞬く間に消えてしまったのだ。今、この夜の町には……私しかいない……と思った時、それを否定するかのような轟音が響いた。驚いて音のする方を見るとモウモウと砂煙が立ちこめている。

「何だあれは!?」

私は駆け出す。何かあんな光景を見たことある……映画なんかでビルが崩れる時はあんな感じに砂煙が……まさか……そんなバカな!


「この悪党め!」


澄んだ声が響く。同時に私の横にある建物に一閃、光のようなものがななめに走った。

「え……」

その建物は一拍遅れて光が走ったラインに沿って真っ二つに崩れた。私の方へ倒れなかったのが幸いだったが……何だ今のは!

「あーれー。」

頭上から間抜けな声がした。見ると人が落ちてくる。今の建物の屋上にでもいたのだろうか、かなりの高さから落ちてくる。下は道路、コンクリートだ。私は最悪の光景を予測して思わず目をつぶった。……が、いつまでたっても落ちてきた音がしない。

「ああ?何だお前?」

私は驚いて目をあける。すると目の前に男が立っていた。

……あれ?さっきの落ちてた人は?まさかこいつか?あの高さから落ちて……?

「んだよあいつ、誰もいれないんじゃなかったのか?」

男が頭をボリボリとかく。見た限り……外国人だ。金髪だし、顔の形もアジアのものとは違う。男はめんどくさそうに私の方へ手をのばす。何かされる…!?

「貴様ああああああ!!」

叫び声とともに崩れた建物の方から人が飛び出してきた。

「一対一で勝負と言ったはずだぞ!それを反故にして一般人を巻き込むとは卑怯な!」

崩れた建物がおこす砂煙の中を駆け抜けるシルエット、手には白く輝く長い棒状のものを持っている。それを見た男が器用にバックステップをして距離をとる。

「おお、おお!おっかねーなぁ、お前さんは!」

崩れた建物から出てきたシルエットが砂煙から出てちょうど私の前に止まった。

「大丈夫か!?」

その人は長い黒髪を後ろで束ね、巫女さんの服を着ていた。

私は心底驚き、声がうまくでなかったがこれだけは絞り出した。

「しぃちゃん……?」

私の一言を聞いたその人はゆっくりと私の方に顔を向けた。

「晴香……?」

その人の名は鎧 鉄心。つい先日私の友人になった人物がそこにいた。

彼女は白く輝く棒……日本刀を片手に握りしめ、私を見ていた。

「晴香……なんでここに……どうして……」

「しぃちゃん……それは……何?この騒ぎは……」

しぃちゃんは自分が手にしている日本刀を見てあわてる。

「こ……これはだな……その、あの……」

「すきありだぜ切り裂き魔ぁ!」

男が叫ぶと同時にしぃちゃんはものすごい勢いで後ろへ飛んで行った。

「しぃちゃん!」

私はしぃちゃんの方へと駆け出そうとした。

「来るな!どこかに隠れていろ!説明は後でする!」

空中でくるっと回転して華麗に着地したしぃちゃんは間髪いれずに駆け出して男へ迫る。その速さはすさまじいものだった。

「雨傘流一の型、攻の三!《扇》!!」

男の二、三歩手前で少し上に飛び、空中で一回転して日本刀で円を描いた。同時にキィンッ!というまるで金属同士がぶつかったような音がし、男の後ろにあった建物に横一線の線が入る。

「何度も言わせんな!お前さんの技は……力は俺には通用しねーんだよ!」

男が拳をしぃちゃんへ向けて放つ。それをしいちゃんは日本刀で受け止めて少し後ろへ飛んだ。

「くっ!ならばぁ!」

しぃちゃんは日本刀をなんだかかっこよく構える。気のせいか、日本刀の放つ金属光沢が五~六本になった……刀が増えた?そして何度かポーズをきめて叫ぶ。

「刹那!天誅切りぃぃ!」

あれ?なんだか聞いたことあると思うのもつかの間、またキィンッ!という音が響いた。だが今度は少し鈍いキィンッ!だった。

「ちぃ!さっきより鋭い……!?」

男は服の下からうっすらと血をにじませている。よく見ると血が「天誅」という文字を描いている。

「正義の技に貫けぬものはない!」

そういってしぃちゃんは日本刀を振りおろす。すると地面に切り込みが入り、その切り込みがすごいスピードで男に迫る。まるで見えない刀が男の方へ飛んでいくかのような……

「二度はねぇえええぇっ!」

男が手を前にかざす。すると見えない刀がこれまた見えない壁にぶつかったようだ、ガキィイン!という音が耳に響く。

「もらった!」

見るといつのまにかしぃちゃんが男の背後にまわっていた。すごい運動神経だ。

しぃちゃんはそのまま日本刀を男の首へと振りおろす。首がとぶ!?だが今度は目をそむけることなく私はその光景を見ていた。


キィンッ!


さっきから響いている音がする。……えっ……?

「直接切りかかればなんとかなるとでも……?」

「直にお前の力を感じておこうと思ってな。」

しぃちゃんはさして驚かない。日本刀は男の首に確かに触れている。だがそれ以上は進まない。遠目だがおそらく一ミリも切りこめてはいまい。そんな印象を与えるほどに異様な光景だった。

「何だ……これ……?」

私は思わず呟いてから頭を整理する。いや、整理するまでもない……しぃちゃんとあの男はゴッドヘルパーだ。なんの《常識》を操るのかはイマイチわからないが。

「お前さんの力……なかなかお前さんに合ってるんだなぁ。どうだ、こっち側に来る気はねぇか?」

男がそう言いながらしぃちゃんから華麗なステップで離れる。しぃちゃんはそれを特に追わず日本刀を構えなおす。

「誰が好んで悪の道なんぞに。断る。」

「そうかい。」

男は両腕を左右に広げ、何かを掴むしぐさをする。

「実は俺もお前さんと似たことができるんだぜ?」

すると男はしぃちゃんに向かって何かを投げる動作をした。……何をしてるんだ?

「ぐぅ!?」

何が起きたのか、しぃちゃんがお腹をおさえて膝をついた。

「ほれもいっちょ!」

しぃちゃんは何かを避けようとするが、結局何かに当たって地面に倒れこんだ。

「チャ~ンス!」

あろうことか、男は何もない空間をまるでそこに階段でもあるかのように駆け上がり、しぃちゃんの頭上五メートルほどの高さから全体重をかけてしいちゃんを潰そうと落ちてきた。

「……!」

間一髪、しぃちゃんは横に跳んでそれをよけた。だがよけた先で頭をおさえて膝をつく。頭から血が出ている。

「ちょっとかすったみてーだな!」

男はすかさず駆け出して殴る態勢になる。しぃちゃんは意識がもうろうとしているのか、ふらつきながら立とうとしている。

危ない。そう思った時、とっさに私は男の方へと手を向けて風をぶつけた。

「なにぃ!?」

男はバランスを崩してしぃちゃんにたどり着く前にごろごろと横に転がっていった。

私は次の攻撃をするため、上空に雲を作る。雲は早送りの映像のように急速に出現し、広がってゆく。これも修行の成果だろうか。

「何だ今の風は……んな!?あんだこの雲は!?」

私は雲を操り、雨の準備をする。そしてその雨を冷却、同時に男のまわりに風の渦を作る。

「風がまた!……!?急に寒くな」

瞬間、男を局地的なブリザードが襲う。まるで白い壁が突然出現したかのような光景だ。男の姿は一瞬で見えなくなる。

「がああああああああああああ!!!んだこれはああ!?こ……凍え死ぬ!あいつ、ゴッドヘルパーだったのか!くっそ、あいつ何て奴を入れてんだよ!!」

あまりやりすぎると死んでしまうので私はブリザードを解く。真っ白な雪は積もったものの、男の姿はそこにはなかった。何かしらの方法で逃げた……のか?

「……」

しばらくの間あたりに注意を払って警戒する。……どうやらホントに逃げたらしい。私はしぃちゃんの方へと駆ける。

「大丈夫ですか?しぃちゃん。」

しぃちゃんは気を失っていた。血は流れ続ける。

「……!ルーマニアに治してもらおう!」

私は連絡をとろうとしたが、いつぞやと同じ痛みを頭に感じた。

「また……妨害……!?どうすれば……」

私が瞬間的に絶望を感じているとどこからかパチパチと乾いた音がした。……拍手?

「ブーラボ―!いやーさすがさすが……《光》を倒した実力は確かということっすか!」

さっきの男とは違う奴が近づいてくる。

真っ黒なスーツに身を包み、サングラスをかけている。髪はオールバックで耳に何か光るものがついている。ピアスだろうか。

夜なのにサングラスってどうなんだろう、全身黒いから夜だとよく見えない、初めて会った時のルーマニアみたいだ、といった感想が一遍に頭をよぎる。

「あなたにはちょっと失礼っすけど、あっしは《光》を倒したって事実が信じられなくてですね。いくら天使がいっしょだったって言ってもあの《光》が負けるかなぁ?って思ってたんすよ。何せ《光》はこっち側に落ちた奴らの中じゃトップクラスに強い奴でしてなぁ、あの方もこれから先を期待してたんす。それをね、あなたがやっつけたってんですからびっくりっすよ!自覚してからそんなに経ってない、言ってしまえばひよっこがですよ!?」

男は私たちの数メートル手前で立ち止まり、拍手をやめてポッケに手を突っ込んだ。

「いやでも、この度その実力を確認しましたぜ。しかも《光》とやりあった時よりだいぶ技術もあがってるようで、すばらしい限りっすわ。その力、是非とも欲しいっすけどあなたはそっち側なんすよねぇ……残念っす。」

「……あなたはだれですか……」

「あっし?あっしは《空間》のゴッドヘルパー、鴉間 空っす。」

「《空間》!?」

「はい~、《空間》っす。」

「《空間》に法則なんてあるんですか……?」

男は目をぱちくりさせ、あっはっはと笑った。

「まさかこうも堂々と力の内容を聞かれるたぁ、驚きでさぁ!」

私はそれもそうだと思ったが男……鴉間さんは意外と……というか見た目通りに変だった。

「いやいや、そうやって聞かれちゃぁ答えたくなるってもんです。いいでしょう、お教えましょう!あっしも学があるわけではないっす、どっかの学者さんが提唱するような理論なんて一つも知りやせん。それでも知っているものが一つあったんす。「低次元に高次元は存在できない」っていうやつでさぁ、ご存じっすか?要は……二次元の世界に三次元のものは存在できないってことっすね。あっしらが住むこの世界は三次元っすから四次元や五次元のものは存在しないっす。でもあっしはその法則を捻じ曲げることができる!つまり四次元、五次元をこの世界に作りだせるんすよ。ただ……この世界が三次元であるのであっしは四次元以上の世界がどういうものなのかは知りやせん。だからイメージ……想像したんでさぁ、こういう世界をね。お気づきっすか?あなたは今あっしが作ったあっしのイメージする四次元の世界にいるんすよ?」

ここが別次元の世界……?あの時のめまいはこの空間に入ったから起きたのか……?人がいないのもそのせいか?

「あっしの力で四次元を作ることはできても本来はこの世界にあり得ないものっすから外界とは完全に隔離されるっす。だからあっしが入れようとしない限りだぁれもここには入れないんっす。だからゴッドヘルパー同士の戦いにはもってこいなんすよねぇー。だからあの方に言われてここにいるわけなんすよ。」

鴉間さんはやれやれという感じにため息をつく。

「あ、もちろんそれだけじゃないっすよ?あっしの力は。三次元であるこの世界を操って瞬間移動とかできるし、逆に遠くにあるものを引き寄せたりできるっす!すごいっしょ、あっしの力!」

男は楽しそうに笑う。さっきの発言からするとこの男と私は敵なのだがぺらぺらと自分の力を話してくれた。……・とは言っても、《空間》の力なんて知ったとこで対抗策も思いつかないが。

「!……あれま。あなたは人気者なんすねぇ……」

鴉間さんが突然後ろを向く。私もつられて見る。そこには……波紋ができていた。何もない空中にまるで空間そのものを媒質としているかのような波がそこにはあった。

「あっしの四次元に干渉できるってこたぁ……なかなかの力を使う奴っすね。こりゃぁ長居は出来んす。あっしはこれでおいとましやすわ、ではでは。」

鴉間さんがパチンと指を鳴らすとまわりの景色がゆがみ、私はいつのまにか銀行の裏の路地にいた。

「……道路にいたはずなんだけどな……」

考えるのは後にして、私はルーマニアに連絡をいれた。



 鎧家、その一室。戦隊もののロボットが並ぶ部屋に私とルーマニア、それとしぃちゃんはいた。今は朝、昨晩の出来事で負傷したしぃちゃんをとりあえず家に運んだまではよかったのだがおじいさんに引きとめられたのだ。

「鉄の奴が夜遅くに出かけてるのは知ってる……でもこんなのは初めてだ。何が……起こっとるんじゃ……?」

ある程度なら話すことはできた。だがしぃちゃんが故意に隠していたことを私が言ってはまずい、そう思ってまずはしぃちゃんが目覚めるのを待った方がいいとおじいさんに言った。おじいさんはわかってくれたらしく、何も言わずにしぃちゃんのケガを治療してベッドに寝かせた。私とルーマニアはそれからずっとベッドの横にいたわけだ。


「ルーマニア……何でしぃちゃんを治さなかったんだ。私の傷を治したみたいに……」

私が少し責めるような目で見るとルーマニアは軽くため息をついて言う。

「そいつが普通なら……そりゃ治したさ。でも違ったんだ。」

「どういうことだ?」

「そいつ……しぃちゃんだっけか?戦ってる時にものすごく速く動かなかったか?」

「そういえば……いつの間にかあっちからそっちへ移動したり……一瞬で敵との距離をつめたり……」

「やはりか……そいつはな、意識してか無意識かは知らねーが、自分の血液をバカみたいなスピードで全身を駆け廻らせていたんだ。」

「血液の……循環する速度を上げたってのか!?確かにそれなら呼吸で体に入る酸素とかはすばやく必要なとこに行くけど……いくらなんでもあれは……」

「それだけそいつがすごい運動神経を持ってるってことだな。お前と違って。」

「でも……血液の流れを速くするって一体……?」

「……本人から聞けよ。」

見るとしぃちゃんが目を開けてこっちを見ていた。少し驚いているような……戸惑っているような……そんな目だった。

「晴香……どうして君はあそこに?あの後はどうなったんだ……?その男は誰だ?」

「……順番に話すよ、しぃちゃん。」

しぃちゃんは起き上がり、壁によっかかって私と向き合う。

「まず……しぃちゃんは……ゴッドヘルパーなんですよね?」

「ゴッド……?ああ、そういえばそんなことをいつか誰かが言ってたな……」

「知らずに戦ってたんですか!?」

「そうなるかな……」

「んと、じゃあ……しぃちゃんは何の……いや、何ができるんですか?」

「え~っとな……そこのはさみを取ってくれるか?」

しぃちゃんは机の上にあるペン入れにペンといっしょにささってるはさみを指差す。私はそれをしぃちゃんに手渡した。

「わたしができるのは……こういうことだ。」

いうやいなや、はさみの刃の部分がギュインと伸びた。そして伸びた部分の形がだんだんと変形していき、ついには短い刀となった。

「これは……」

「《金属》のゴッドヘルパーだな。」

ルーマニアが呟く。

「各金属が持つ性質……とある形の時にとある力を加えるととある変形が起きる……この温度になると硬さが増す、磁性がなくなる……そういった金属の《法則》をコントロールする。それが《金属》のゴッドヘルパーだ。」

「晴香……この人は誰なんだい?」

「天使……ですけど……そうですね、最初は私たちのことを話しましょう。」

私は今起きている事件、天使、神様、システム、ゴッドヘルパーといったことをしぃちゃんに話し出した。



 ジュテェムは椅子に座ってボーっとしていた。昨日の光景が目に焼き付いている……

「どうしたんだ?ジュテェム。」

「ホっちゃん……」

ホっちゃんなる男がジュテェムの横にわざわざ椅子を持ってきて座った。

「昨日見にいったんだろ?どうだった?」

「すごかったですよ。一度にたくさんのゴッドヘルパーを見ることができました。中でもやはりびっくりなのが……《天候》でした……その瞳はまるで空のような美しさ……その声は世に名高い人魚の声かと思うほど……どんな相手にもまるで臆することなく立ち向かう姿勢……すばらしいですよ……ええ、すばらしいですとも。」

「……ん?何か聞きたかったことと違うことが聞こえるな。ジュテェム、《天候》の容姿なんかどうでもいいからその力をだな……」

「どうでもいい!!??ホっちゃんはあの姿を見ていないからそう言うんです!あれこそわたくしの求めていた理想の女性……ああ、この胸の高鳴りは……!」

「!?てめぇ……まさかそいつに惚れたのか!?」

「そいつ呼ばわりは許しませんよ!」

ジュテェムがそう叫んだと同時に、ホっちゃんなる男は椅子から浮き上がって壁に大の字に張り付いた。

「うわっ!やめろ!わかった、わかったから!」

「まったく……」

ホっちゃんなる男は壁からずりずりと落ちて床に座り込む。

「シャレにならねーぞ今の!もし壁がボロかったら……!」

「ボロくないですよ……この前メリーさんとリバじいが直したじゃないですか。」

「たっく……それで?その……《天候》さまの力は如何ほどだった?」

「……正直わたくしじゃ勝てないかもです。」

「お前の力で負けるってか!?」

「今のままならまだわたくしが優勢ですけど……話で聞いていたよりも大分力を操る技術があがっていました。あのペースで成長して……あれをやられては、わたくしは冷静に力を扱えないかもしれません。ホっちゃん、あなたは今この瞬間に突然吹雪の中に放り込まれたら……冷静でいられます?」

「……ちょっと焦るかな。」

「彼女の力は……相手を異常な世界に放り込む力です。その気になれば……雷と竜巻と雹と……大雨、大雪を同時に起こすことだってできてしまうかもしれない。そんなめちゃくちゃな世界に放り込まれたら……少なくともわたくしは頭の中がぐるぐるになります。」

「わしもそうなるだろうな。」

いつのまにか、二人の背後にはリバじいなる男が立っていた。

「リバじいの力でも……そうか、そうだよなぁ。おりゃもだめそうだぜ。」

「ふふ、ますます欲しくなるわねぇ、うふふふ♪」

リバじいの後ろからチェインが出てくる。

「チェイン、あなたも見に来ればよかったのに……というかいっしょに来てくれれば本人も交えてお話ができたかもしれないのに。」

「あたくしは今日の戦いを見るつもりよ。是非、みんなでね。」



 「……とまぁこんな感じですね……理解できました?」

「ああ。おかげでいくつかの謎が解けたよ。」

しぃちゃんは何やら合点の言った表情でうなづく。

「ゴッドヘルパーか。なるほどなるほど……よし、次はわたしの番だな。晴香、わたしが今までにやってきたことを話すよ。」

「はい。」

「まずは……《雨傘流》のことからだな。」

しぃちゃんはベッドの上であぐらをかいて話始める。しぃちゃんの物語を。

「《雨傘流》、その特徴は間合いの支配にある。剣士にとっては間合いこそが全てだ。間合いに相手が入ればこっちのものと言ってもいい。だからこそ全ての剣士は自分の間合いと相手の間合いを測って戦う。そこに目をつけたのが《雨傘流》の開祖。刀は基本両手で扱うものなんだが、《雨傘流》はどっちでもいいとなっている。刀を振るう時に……手首をひねったり、持つとこを変えたり、普通よりも一歩多く踏み込んだりと……いろんなことを使って間合いを変えながら敵に攻撃をするのだ。」

剣術か。私はそういう方面にはまったくの無知なのでとても興味深い新鮮な話だ。

「わたしは生まれてから今まで、その《雨傘流》を学んできわけなんだが……ある日、変な違和感を感じたんだ。《雨傘流》も今ではあっちこっちに道場がある。だからたまにそちらへ出かけて手合わせしたりするんだ。より実戦に近くするといって……真剣でね。中学二年の時、《雨傘流》のナンバーワンと言っても過言じゃない達人と手合わせしたんだ。そしてわたしは……勝ってしまったんだ。当時のわたしには「よかった」の一言ではすまない事態だった。自分の実力はきちんと理解していた、その達人にわたしが勝つなどあり得なかった……しかもその達人は言った「君の技はすごいね、この私でも予測できぬほどに間合いが変わる。」とね。おかしな話さ、その時のわたしはその達人の技術を学ぼうとしていたのに。だからわたしはそれから何度かいろいろな人と手合わせしたんだ。そして聞いた、わたしの技はどうでした?ってな。そしたらその達人と同じ答えが返ってくるんだ……間合いが変わるって……」

ゴッドヘルパーが自分の力に気付くっていうのはやっぱりある程度特殊な環境にいる必要があったりするんだな……私のような力はたぶん少ない方なんだろう……

「そして気付いたんだ。……刀が伸びているんじゃないかなって。試しに念じてみたら……ホントに伸びたってわけさ。どんな刀でも伸ばせた。そして刀でなくても伸ばせるってことがわかり、伸ばせるだけではないとわかった。金属なら何でもわたしの思い通りになったんだ。最初は戸惑ったけどね、きっとこれは神様が与えてくれた力なんだって思ったんだ。そしていつか、この力が必要になる時が来るんだと信じていた。だから鍛錬をした。夜にこっそり家を抜け出して誰もいない広場とか公園とかでね。……そして今になり、あっちこっちで変な事件が起き始めた。人間技じゃない現象、そう聞いてピーンときたわけさ。ついに来たかってね。そして町を走りまわり、犯人を見つける度に戦いを挑み……天誅をくだしてきたんだ。」

黙って壁に寄りかかって腕組みしていたルーマニアが口を開いた。

「その行為が……天誅切り裂き魔を生んだわけか。しかし、お前は相手を殺さないように攻撃をしていた……一時的に動けなくするだけで解決すると思っていたのか?」

「最初はどうなんだろうとは思っていたが……実際解決していったからこれでいいんだろうと思っていたんだ。だがそれは天使のおかげだったんだな、すまなかった。」

「別にいい。こっちとしては助かっていたからな。」

しぃちゃんはホッとしたようにほほ笑む。

「それで……しぃちゃんが今追っていたのが……超怪力強盗ってわけですね。」

「ああ。ここらの銀行がいくつか襲われた時点でこれは力を持つ者の仕業だと気づいてね、毎夜銀行を見張っていたんだが……全然カンが当たらなくてな、昨夜やっと見つけたんだ。」

「それがあの男ってわけですか。何のゴッドヘルパーかはわかりました?あいつ、刀が効いてませんでしたけど。」

「ああ……まるで金属に切りかかっているような感覚だったし……あいつが手をかざすと見えない壁にぶつかったかのような衝撃を受けるし……空中を歩くし……前にも言ったがわたしは頭が悪い。さっぱりさ。」

私はとりあえずルーマニアを見た。ルーマニアはあごに手を当てて何かを考えているようだった。

「ルーマニア?」

「ああ……ちょっとすぐには思いつかねーな……」

私も考える……刀が効かなくて見えない壁をとばして空中を歩く……?

「なぁルーマニア、《鉄》のゴッドヘルパーとかっているか?」

ルーマニアは私を見てうなづく。

「いるだろうな。《天候》があっても《風》があるのと同じようなもんだ。《金属》があっても《鉄》はあると思うぜ。たぶん《金属》よりも細かいコントロールができる……それがどうかしたか?」

「例えばさ、見えない鉄を持ってるとかだよ。鉄の性質に「見えない」を加えて……鎧みたいに身にまとっていたとか、その見えない鉄をとばしたり、階段にして空中を歩いたりさ。」

「なるほど……んじゃ超怪力強盗の……あの穴は?」

「細い刃物状にして壁に差し込んで壁に入った部分をゆっくり含まらせれば内側から裂けたようになったりしないか?」

「おおお!!さすが晴香だ!なるほど、それなら説明がつくな!すごいぞ!」

しぃちゃんが目をキラキラさせて私を見る。確実ではないが……私が思いつくのはこんなんだ。「次はおそらく最後の銀行を襲うはずだ!ここまで来て手を引くとは思えない。今夜が決戦だな。」

しぃちゃんはその顔に決意を宿らせて両手に拳を作る。

「そうと決まれば晴香、君の力を見せてくれ!」

私は苦笑いをしてルーマニアを見る。ルーマニアも私と同じような顔を返す。

「まぁ奴が来るかもしれないってことを知っていて何もせずにいて……もし銀行が襲われたりしたらことだからなぁ。行っておくべきだろうな。」


 とりあえず、私はお母さんに連絡を、しぃちゃんはおじいさんに今までのことを説明しに、ルーマニアは天界で情報集めに、各自別れた。

文字数がオーバーしましたので、適当に切ります。

その2で第二章は終わります。

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