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今日の天気  作者: RANPO
第五章 ~Revellion&Egotistic~
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Revellion&Egotistic その6

第五章 その5の続きです。

「これで全員なのだよ!」

 私たちはあの交差点に集合した。

「おおーっ! 悪の親玉をやっつけたんだな、晴香! すごいぞ!」

「んま、それもこのアタシと鉄心があの子供を倒したからですわ! 感謝するといいですわ!」

 しぃちゃんは《服装》のゴッドヘルパー、チョアンを倒し、その後クロアさんと一緒に《身体》のゴッドヘルパー、サリラを倒した。鴉間を倒すことができたのは、確かにしぃちゃんとクロアさんのおかげだ。


「んま、あたしは心配してなかったけどさ。それでも今、ほっとしてるわ。」

「つばさ、俺のことは心配してくれたんだろ?」

「さすが雨上先輩ですね! 遠藤先輩もありがとうです!」

「速水ほど頑張ってはいないよ? ボクは魔法をドーンってやっただけだよ?」

「はっはっは。みんなそれぞれに頑張ったさ。」

 翼と速水くんは《質量》のゴッドヘルパー、ヘイヴィアと戦った。どういう経緯なのか、カキクケコさんが大けがしているが、みんなあんまり気にしていない。音々と音切さんは《音楽》と《音》の力でみんなを回復してくれた。あれがなかったら正直色々ときつかっただろう。そして、翼、速水くん、音切さんで《物語》のゴッドヘルパー、アブトルさんを倒した。


「十太も頑張ったね。」

「鎧先輩に続いてオレが二番目に大変だったんじゃないかと思うぞ。」

 力石さんは《視線》のゴッドヘルパー、ルネットを倒し、ジュテェムさんとホっちゃんさんと共に《反復》のゴッドヘルパー、メリオレさんを倒した。ルネットを倒せたのは力石さんだけだったから一人学校に残ってもらうことになってしまったけど、ムームームちゃんと一緒に頑張ってくれた。


「おりゃたちも頑張ったなー。」

「そうじゃの。んまぁ、わしは後半何もしておらんがの。」

「いいのよ。あたくしは女でリバじいはお年寄り。事故が起きたら真っ先に避難させられるのだから。」

「あちゃしにゃんかにゃにもしてにゃいよ?」

「いや、メリーさんはこれからですから。」

 ホっちゃんさん、ジュテェムさん、リバースさん、チェインさんは《回転》のゴッドヘルパー、ディグさんと戦った。ディグさんはメリーさんと一緒に鴉間と戦って鴉間の右腕と左脚を奪った。これも、私が鴉間を倒せた要因の一つだからディグさんには感謝している。別に悪い人でもなかったし。そして、これもどういう経緯なのかわからないけれど、ディグさんは今、メリーさんの横に置いてある金庫の中に閉じ込められているのだとか。


「んで、この後は何をするんだったか?」

 ルーマニアはサマエルを倒した。ルーマニアたちみたいに人に魔法を使っても強制送還されない、ほぼ悪魔となっているサマエルと戦えるのは天使のみ。加えてかつての悪魔軍の幹部とあっては、悪魔の王が出ないわけにはいかない。余裕の勝利ではなかったみたいだが、まぁ、さすがルーマニアだ。


「記憶を消すんじゃないのか?」

「んま、そーなんだがよ。」

 私は鴉間たちに目を向けた。鴉間、チョアン、ルネット、アブトルさん、メリオレさん、サリラは光るロープみたいなので縛られ、気絶している。

 ちなみに、サマエル側のゴッドヘルパーや……超能力者を名乗った面々も魔法で動けなくされている。

 魔法……ルーマニアたちは人には魔法を使えない……だから今魔法を使っているのは……

「……しっかし、どういう風の吹き回しなんだ、サマエル。」

 所々破れている白いスーツを身にまとった両目の色が異なる堕天使、サマエルが少し離れた所に座っていた。

「ルシフェル様、私は引き際を見極められない新兵ではありませんよ。あなたが自分の身柄を神に渡すことで私たちを守ったように、トップに立つ者にはそれなりの責任と義務が生じます。敗軍の将はいさぎよく……です。ここで私の配下が暴れるようなことは私が許しません。」

 今でもルーマニアに対して敬意を払っている。サマエルにとってルーマニアという存在は本当にすごい存在なんだな……

「……お前には色々と罰が下ると思うが、んなこたぁ上の連中があとでやることだ。オレ様はまず、お前からある物を回収しなきゃならねぇ。わかるな?」

「ええ。」

 そう言うと、サマエルはゆっくりと右腕をあげ――

「ふん!」

 そのまま自分のお腹に突き刺した。

「な! ルーマニア!」

 私が叫ぶとルーマニアはいたって普通に答えた。

「……サマエルは今回の事件を引き起こした犯人。途中、鴉間の裏切りで三つ巴の戦いになりはしたが、大元は変わらない。そして、そもそもサマエルがここに来て行動を起こした理由……それはここに来てようやく、ある物を手に入れたからだ。」

 突き刺した右腕をゆっくりと引抜くサマエル。正直痛々しくて見れていないのだが、嫌な音で状況がわかってしまう。

「……天界に生きるモノはゴッドヘルパーにはなれない。だからお前は、あるゴッドヘルパーを取り込み、その力で《常識》のゴッドヘルパーを手に入れようとした……」

「ええ……これ、が……今の……《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーです。」

 サマエルの右手に握られていたのは……一輪の花だった。何の花かは知らないけど、綺麗な花だった。

「この花が……ゴッドヘルパーだったのか。」

「発見できたのは偶然でしたが……待ちに待った存在でした。しかし計画は成功しなかった……まったく、情けない限りですよ。」

 花を受け取ったルーマニアはため息をついた。

「……お前が取り込んでいたからこそ……この花は生きていられたが……普通、植物は引っこ抜かれたらそれなりの早さで死ぬ……この花、今死んだぞ。」

 花が……死んだ。それはつまり、システムが次のゴッドヘルパーに移ったということだ。次にどこに行くかはランダムだから特定は困難。《ゴッドヘルパー》のゴッドヘルパーの力が無ければ《常識》のゴッドヘルパーを手にすることはできない。

 これで、完全にサマエルの野望は潰えたのだ。

「しゃて、いいかしりゃ。」

 メリーさんが一歩前に出る。

「記憶を消しゅなりなんなり、そりぇはそっちのお仕事。あちゃしはあちゃしの仕事を終えちゃいにょだけど。」

 メリーさんの仕事……それは世界の《時間》を巻き戻すことだ。鴉間がサマエルを裏切ったことで、サマエルがゴッドヘルパーにかけていた呪いの統制がとれなくなり、急増してしまった第二段階をなかったことにする。超能力者という存在が出る前に戻すのだ。壊れた建物も元に戻るし、鴉間によって……殺された人たちも元に戻るはずだ。

「《時間》を巻き戻すのよねぇ?」

 翼が首を傾げている。

「ならいっそ、この事件が起きる前まで戻せばいいんじゃないの?」

「そりぇはそりぇでいりょいりょややこしくなるにょよ。それに、あちゃしがそこまで巻き戻すわけにゃいじゃない。」

「?」

 翼がさらに首を傾げる。その疑問に答えたのはチェインさん。

「忘れてないかしら。あたくしたちは……天使側と一時的に共闘しているだけということに。」

 私ははっとする。そう、メリーさんたちには目的があるのだ。ゴッドヘルパーという存在を公のモノとし、世間に認めたさせた上で共存するという目的が。

 今回、サマエルが呪いで第二段階を増やす分には問題なかった。サマエルがきちんと統率していたときは、その行動が秘密裏だったし、第二段階が増えることはメリーさんたちからしたらプラスなのだ。けれど鴉間が出てきたせいでゴッドヘルパーたちは暴走し、世間がゴッドヘルパーに対して『悪いイメージ』を持ってしまったのだ。共存を望む者としてはよろしくない状況だ。だから、超能力者とか、魔法使いだとかが出る前まで戻すのだ。それ以上戻すとメリーさんたちにはマイナスだ。

「鴉間とサマエルを倒すためにあたくしたちは共闘していた……覚えておいてね? 今後は敵になるかもしれないということを……」

「……わかってる。オレ様たちが望むのは超能力者だなんだっつーのが出る前までの巻き戻しだ。それ以上はいい。」

「しょれじゃ……」

 メリーさんがポケットから懐中時計を取り出す。

「《時間》を巻き戻しゅにょよ。」




 《時間》が戻っても、私たちの記憶はそのままだ。だから……中間テストを二回受けるというはめになった。

 六月。アブトルさんの攻撃が来る前まで戻った世界の《時間》。世界は平和だった。魔法使いも超能力者もいない世界だ。

 《時間》が戻っているから変な気分だが……あの戦いから一週間が経過した。

 今回の事件の首謀者、サマエルは天界に連れて行かれた。今、どうしているかはわからない。

 鴉間たちもどうしているか不明だ。《時間》が戻ったあと、その場で記憶を消すのかと思ったのだがルーマニアはそうせず、どこかへ連れて行ってしまったのだ。天界に行ったのだろうか?

 ヘイヴィアなど、サマエル側に属していたゴッドヘルパーは記憶の消去を受けたらしいから、よくわからないのは鴉間組だけ。

 まぁ……諸々の事後処理は今までのようにルーマニアが説明に来てくれるのだろうが。

「晴香ー!」

 ここは学校の教室。二時間目と三時間目の間のちょっとした休み時間。今日は中間テストが終わってすぐの授業なのでそれぞれの科目の結果が帰って来る。

「やったぞ! 七十点なんて初めてとったぞ! すごいだろう!」

「それはまぁ……二回目ですからね……」

「二回目でもだ! 嬉しいなぁ……」

「幸せな人ねぇ、鎧は。」

 翼が私の前の席に座った。

「信じられないわね。あれは夢だったのかしら。」

「そうだな。私も変な気分だ。」

「今思うと、命がけの戦いもあったわけでさ……感覚がマヒしちゃってるのかしらね。」

「もともと翼は非日常の刺激を求めて戦いの世界に来たんだろう?」

「そーだけどさ。ところで晴香……」

 翼は窓の外を指差す。

「あれは大丈夫なの?」

 窓の外……そこには『空』がいた。

 今まで『空』は夢にしか出てこない存在……私の心の中にいたのだけど、今は自分の身体をもってしっかりとした自我を持っている。けれど元々がシステムだからか、第二段階のゴッドヘルパーにしか見えないらしい。

「この学校で見える人は四人しかいないから大丈夫だ。」

「そう……授業中とか気になってしょうがないのよね……」

「がまんだ。」

「がまんするわ……」



 帰り道。翼としぃちゃんと別れた後、私はふと思い立ってあの公園に行った。相楽先輩と戦った公園で……私の戦いの始まりの場所。

「ふぅ。」

 ベンチに腰掛ける。相楽先輩との戦いの跡はもうない。

 ルーマニアに会って、ゴッドヘルパーとシステムの事を知って、相楽先輩と戦った。

 しぃちゃんに出会い、翼がゴッドヘルパーだって知り、クリスと戦った。

 仲間のゴッドヘルパーみんなと一緒に、リッド・アークと戦った。

 アブトルさんの《物語》に引き込まれて音々と戦った。

 鴉間と……戦った。

「色々あったんだなぁ。」

「しょうね。」

 突然隣から声がした。見ると、いつの間にか私の隣にメリーさんが座っていた。

「……どうしてここに……」

「勧誘にゃにょよ。」

 メリーさんはソフトクリームをなめながら独り言のように呟く。

「最初はサマエルを倒すための勧誘だった。でも今は……たぶん、こにょ世界でたった二人だけにょ第三段階として勧誘にゃにょよ。」

「……」

「《すごいぞ強いぞ頼りになるぞスーパーハイパーアルティメットジャスティスな私たちはみんなの笑顔を守るため悪い奴らをバッタバッタとなぎ倒し平和で愉快な世界を作ろうとがんばる絶対無敵の救世主だぜいぇい》に入りゃにゃい? 雨上晴香ちゃん。」

「私はそっちには行きませんよ。」

 私の即答にメリーさんは少々驚いた。

 私は深呼吸して言う。

「私が戦っていたのは翼としぃちゃんがそれぞれの考えのもと、戦いの世界にいたからです。友達を失いたくないから私は戦っていました。事件が解決した今、ルーマニアたちが私たちの記憶も消すはずです。私はそれに従うつもりです。」

「あははは。」

 メリーさんが笑った。

「決意はかたいにょね。いいよ、そりぇなりゃそりぇで。でも一つ言っておくけど……」

「なんですか?」

「今後、必ずあちゃしたちは事件を起こしゅ。このあちゃし、メリーさんが首謀者、犯人の事件をにぇ。第三段階の《時間》のゴッドヘルパーが敵になるにょよ? 天使たちが雨上ちゃんの記憶を消すとは思えにゃいにょよ。」

「……!」

「しょうかしょうか。にゃらこれでお別れにゃにょよ。」

 ソフトクリームをぺろりと飲みこみ、メリーさんがぴょんと立ち上がる。

「ちゅぎに会うときは敵……かにゃ。できればあちゃしは戦いたくにゃいけど。今や雨上ちゃんが最強だと思うかりゃね。」

 そう言うと、メリーさんの姿がパッと消えた。

「最強……か。」

『さいきょうなの?』

 メリーさんが座っていたところに『空』が座る。

「どうなのかな。でもまぁ……天気のみなさんと『空』が協力してくれるなら、負ける気はしないけどね。」

『きょうりょくならいつでもするよ。かぜもかみなりもあめもみんな!』

「うん。ありがとう。」



 休日。案の定ルーマニアがやってきた。そして毎度のことながら、しぃちゃんの家に集まって説明をするとのこと。

 パートナーの天使がいるゴッドヘルパーはその天使から聞くのだが、しぃちゃんのパートナーはルーマニアということになっている。そして私としぃちゃんが集まるなら翼も来るというものだ。結局、しぃちゃんの家に私たち三人とルーマニア、カキクケコさん……そしてついでということでクロアさんとアザゼルさん、力石さんとムームームちゃん、速水くんと音々と音切さんも集まった。んまぁ、結局全員だ。

「あれ、クロアさんはまだ日本にいたんですか。」

「せっかくですもの。ここ最近は鉄心の家にいましたわ。昨日は鉄心と一緒にナンを作りましたわ。」

 相変わらずこの家のご飯は国際的だ。

「さーさー始めるのだよ。まずはルーマニアくんの好きな女の子からどうぞなのだよ!」

「何を始める気だ。さて、何から話したもんかな。」

 ルーマニアがぽりぽりと頭をかいていると、翼が質問した。

「とりあえず、サマエルはどうなったのよ。」

「そうだな。そこから言うか。」

 ルーマニアが腕を組み仁王立ちで説明を始める。

「サマエルは今、天界の牢屋の中だ。」

「あら、即刻処刑ではないのね。」

 クロアさんがクロアさんらしいことを言った。

「オレ様とアザゼルっつー前例があるからな……悪魔側から戻って、きちんと下っ端として働いてるっつー前例が。」

「んまー一番の理由はルーマニアくんがそうやって頼んだからなのだよ。元・神さまの側近の大天使にして元・悪魔の王の頼みとあっちゃ断るのに勇気がいるのだよ。」

「んだそりゃ……オレ様が脅したみてーじゃねーか。」

「それに、今サマエルを処刑なんかしたらサマエルにつき従う大量の悪魔が暴動を起こしかねないのだよ。現状、悪魔を抑える事ができるのはサマエルだけ……そこら辺を考えつつの、とりあえず閉じ込めてお仕置き、ベシン! バシン! なのだよ。」

「…………どんだけかかるかわかんねーが……サマエルと悪魔の連中はオレ様がなんとかするさ。」

 ルーマニアは外見からはあんまりそう思えないが、しっかりとした性格だ。今回サマエルが計画したことはかつてルーマニアが提案したことらしいし……責任を感じているんだと思う。

「そうだな。それでこそ悪魔の王だな、ルーマニア。」

「雨上……ホントにお前は……」

 ルーマニアは困った笑みを浮かべて肩を落とす。

「次に……鴉間たちな。あいつらはちょっと特殊事例だ。」

「うむ。強かったしな。」

 しぃちゃんがうんうん頷く。

「いや……そういうこっちゃねーんだ。特殊になったのはサリラがいるからなんだ。」

「む。あの子供か。」

「子供っつーか……ネズミな。あいつは記憶を消せねーんだ。」

「魔法が効かないのか?」

 私がそう尋ねるとアザゼルさんが答えた。

「効くけど、記憶の消去ができないのだよ。元々はネズミ……人間に比べたら知能の低い生き物だったけど、《身体》の力でもはやネズミとは呼べない異なる生き物になってしまったのだよ。特に脳が発達し過ぎているのだよ。サリラの脳はどの生物のモノとも違う構造をしちゃってるから、魔法をかけるにも、どこにどういう魔法をかければ記憶が消えるのかわからんちんなのだよ。」

「人間の脳はわかりきってるから、あの輪っかをつけりゃあそれでオッケーなんだがな。」

 そうか……魔法と一口に言っても万能じゃないのか。そこにはしっかりとした仕組みがあるんだな。

「サリラの記憶は消せねー。となるとサリラが死ぬまで《身体》のシステムはサリラの元にあるっつーことになんだが……お前らも見た通り、あいつが本気を……いや、暴走するととんでもない生き物になっちまう。」

「うむ……最後の姿はとてつもなかった……」

「このアタシは嘔吐寸前でしたわ……思い出したくもない。」

 しぃちゃんが難しい顔を、クロアさんが気分の悪そうな顔をする。

「かといって、魔法で縛りっぱなしにするわけにもいかねー。となると方法は一つ……サリラが安心できる、暴走するよーな状況にならない環境を整えることだ。」

「……その安心できる環境というのが、サリラにとっては鴉間たちと一緒にいるという状況なのだよ。これが大問題なのだよ。」

「バカゼル。もっとわかるようにしゃべりなさい。」

「クロアちゃんは完全に俺私拙者僕の名前を忘れちゃったのだよ……」

 グスングスン言いながらアザゼルさんは話を続ける。

「始め、サマエルくんに連れて来られていきなり人間だらけの世界に放り込まれたサリラは内心ビクビクしていたと思うのだよ。でもそこで鴉間に出会ったのだよ。鴉間は自分の《空間》の力を抑えるために、サリラを『必要』としたのだよ。」

「ただの戦力としてしかサリラを見ないサマエルと、心から必要と言ってくれた鴉間。サリラにとって鴉間は最初にできた……『信頼できる人間』ってとこだろうな。」

「元々が野性の生き物だから、サリラは仲間意識がとっても強いのだよ。サリラと鴉間は互いに力の制御をしていたから、その関係は強かったのだよ。だから鴉間が裏切ったときも鴉間についていったのだよ。」

 鴉間とサリラの関係……確かに、鴉間のサリラに対する信頼は他のメンバーよりも強かった風に感じる。何せ、あの追い詰められた状況ですがった相手なのだから。

「サリラからすれば……自分と同じように鴉間についてきたメンバーっつーのは、同じ人間を信頼する仲間なわけだ。つまり、今のサリラにとって安心できる環境っつーのは、鴉間、チョアン、ルネット、メリオレ、アブトルが揃っている状態っつーことになる。」

「……正確には、そのメンバーが全員、記憶を消されない状態で揃っている状態……なんだろう?」

 私がそう言うとルーマニアは「さすがだな」と言った。

「その通りだ。その状態こそがサリラにとっての自然だ。」

「じゃーどうするのよ。全員そのままにしとくの?」

「記憶は消さずに下界で普通に暮らしてもらうんだが……全員にこれを身に着けさせた。」

 そう言ってルーマニアがポケットから指輪を取り出した。

「これをつけてると、居場所や、ゴッドヘルパーの力をどう使ったかなどの情報が天界に伝わる。んで悪いことすると、システムとゴッドヘルパーの繋がりを一時的に遮断する。」

「よーするに、悪いことをしたら能力封印プラス、居場所が丸わかりでお説教! ということなのだよ。」

「ぬるいですわ!」

 そこでクロアさんが立ちあがる。

「サマエルのように、下界の存在でない奴はそっちの法律なりなんなりで裁けばいいですわ。でもあのグラサン男はこっちの存在! 人だって殺しているのでしょう? だというのに力はそのままだなんて驚きですわ!」

「あっはっは。まークロアちゃんの言う事はもっともなのだよ。でも――」

 アザゼルさんの目つきと雰囲気が変わる。

「俺達の……天界のスタンスはな、見守ることなんだ。ゴッドヘルパーが暴走するような、人間の手に負えない事件が起きれば解決のために動く。だが、その事件を起こした存在をどうこうしようとは思わない。クロアの言葉を借りれば、下界の存在は下界で裁かれるべきだ。世界が壊れないように動きはするが、最終的な決断はそっちがつけるもの……なぜなら神は下界の成長を楽しんでいるから。」

 そう……天界は極力下界に干渉しないようにしている。暴れたゴッドヘルパーは記憶を消す。そのゴッドヘルパーが何をしようとも、天界がすることはそれだけ……つまり、人間の手に負えない力を封じるということだけだ。

 下界の存在に魔法を使うと強制送還されるという仕組みもそうだ。暴れるゴッドヘルパーを抑えるのはあくまでパートナーに選んだゴッドヘルパーだ。説明や事後処理はするけど、主に動くのは私たち。

 端的に言ってしまえば……何か事件が起きて、人間や他の生き物がどれだけ命を落とそうとも、解決さえされればそれでいいという考えなのだ。下界を眺めて楽しんでいるという神さまは、プラスもマイナスも全てひっくるめて、成長と進化を楽しんでいるんだろう。

「……! つまり、鴉間を裁きたいなら、超能力で人を殺して殺人罪をとれるような世界にしろということかしら……」

「んまぁ……そうなるのだよ。」

「はっは、まぁいいじゃないか、クロア。」

 悪を許さないしぃちゃんが意外にもそう言った。

「この事件の解決のために動いて知ったのだがな、悪にも悪の理由があるのだ。そう、彼らにとっての正義が。わたしはわたしの正義を、憧れる生き方を曲げたりはしない。悪も悪の正義を貫けば良い。わたしにとって、それが悪なら倒す。しかしだ、その悪が今は悪ではないのなら、わたしは別に何かしようとは思わないのだ。それはきっと恨みや復讐というモノなのだ。彼らが再び悪としてわたしの前に立ちはだかったなら、その時は全力でやっつける。」

「……ぶれねーなぁ、鎧は。」

「迷いがあってもすぐに立ちあがる! それが、わたしが目標とする彼らの姿なのだ。ところでルーマニア殿。」

「あん?」

「わたしたちの記憶とかはどうするのだ?」

「あ、それはオレも気になってるんだが。」

 力石さんがはいはいと手を挙げる。正直、サマエルのその後だとか、鴉間のその後だとかは私たちの手の及ぶことじゃない。だから私たちが最も関心を持つ議題はこれなのだ。

「んああ……それなんだがな……」

「あーたーしが説明するよ! まだなーんにもしゃべってないから!」

 ムームームちゃんが前に出る。

「普通なら、協力してくれたゴッドヘルパーはお礼としてちょっとしたプレゼントを渡した後に記憶を消すよ。」

「プレゼント? なんだぁ、そりゃ。」

 力石さんがそう言うとムームームちゃんは楽しそうに言った。

「幸運のお守りだよ♪ あ、言っとくけどそこらで売ってるようなモノじゃなくて、正真正銘の本物だよ? 持ってれば色々な幸運に恵まれるんだ。」

「まじか。それいいな。」

「でもね、みんなの場合はやっぱり特例なんだよ。なんと、みんなそのままなんだよ。」

「え? なんで。」

「事件がまだ終わってないからだよ♪」

「おお! 実は鴉間はゴッドヘルパー四天王の一人だったりするのか!」

 うわ、しぃちゃんが嬉しそうだ。

「違うよ。ほら、まだ残ってるでしょ? 事件を起こしそうな人達が。」

 私はついこの間会った女の子を思い出す。

「メリーさんですか。」

「雨上ちゃん正解! そう、彼女たちがまだいるんだよ。その実力は今回の事件で明らかになった。凄腕ばかりの集団で、メリーは第三段階の《時間》のゴッドヘルパー。そんなすごい連中が残っていて、今後かなりの確率で事件を起こすとわかっているんだよ? 今回の事件で仲間になったみんなを失うなんてもったいない!」

「ありゃりゃ。こうもはっきりともったいないって言われるなんてね? ずいぶんちゃっかりしてるね、天界って。」

「いいじゃないすか遠藤先輩。まだ《音楽》の魔法で遊べるんすよ? オレ、今度あっちこっちの空を走ってみようかな。」

「《音楽》の魔法か。遠藤くんは俺の曲でなら何ができるんだい?」

 自分の力が無くならないことに安心したのか、それとも別にどうでもよかったのか。ムームームちゃんの話のあとでも、私たちはいつもの雰囲気だった。

 しかし……本当にメリーさんが言った通りになった。やっぱり多少の未来はわかるんだろうなぁ。いやまぁ、これくらいはわからなくても推測できるか。

「あんな大きな事件の後ですぐに何かするとは思えないから、しばらくはゆっくりお休みだね。でもみんなにはまだまだ頑張ってもらうんだよ♪」


「おお……まだ終わらないのだな! わたしは頑張るぞ!」

《金属》のゴッドヘルパー、しぃちゃんこと鎧鉄心は立ちあがって両手を高く挙げた。


「ふぅん、しばらくは退屈しないのね。あたしの非日常はまだまだ……」

 《変》のゴッドヘルパー、花飾翼はにっこりとほほ笑んだ。


「え、オレはお守りもらって終わりでも良かったんだけど……」

 《エネルギー》のゴッドヘルパー、力石十太は少しがっかりした。


「お守りなんていりませんわ! このアタシには全てがあるのだから! これからもこのアタシの輝きを低級な方々に見せつけてやりますわ!」

 《ルール》のゴッドヘルパー、クロア・レギュエリスト・セッテ・ロウは自信に満ちた顔で高笑いした。


「よし! オレもいつか、まだ見ぬ二人の先輩のパンツを見るぞ!」

 《速さ》のゴッドヘルパー、速水駆は変なことを堂々と言った。


「ありゃりゃ。それじゃあボクはまず、スカートを覗かれない魔法を覚えるべきかな?」

 《音楽》のゴッドヘルパー、遠藤音々はいつも通りの後輩を笑った。


「うーん。今回のことを何らかの形で歌にしたいもんだな。」

 《音》のゴッドヘルパー、音切勇也はあごに手を当て、考える人になっていた。


「あはは。頼もしいパートナーたちなのだよ。」

 天使、アザゼルはニコニコ笑った。


「えぇ……それじゃあ俺はまだしばらくはこんなおっかない天使たちと一緒に動くのか……」

 天使、カキクケコ(本名はなんだったかな)は横で笑うアザゼルさんを見て少し青くなった。


「おっかいないなんて失礼だよ♪ ただの女の子と、オタクと不良だよ。」

 天使、ムームームは可愛らしく首を傾げた。


「おい、不良ってオレ様か?」

 天使、ルーマニアことルシフェルは嫌そうな顔でムームームちゃんを見た。そして軽くため息をつき、私を見る。

「は、まだまだ長い付き合いになりそうだな、雨上。」

「そうみたいだな。」

「……今さらだが……オレ様と出会ったことを後悔してねーのか?」

「してないよ。ルーマニアに会ったことで、私は『空』と出会えたんだ。ありがとうだよ。」

『るーまにあにかんしゃだね。』

「そうか。んまぁ……なんだ。オレ様も、お前に変なあだ名をつけられたおかげで……天界が少し居心地のいい場所になった……ありがとうな。」

「そうか? というか、ルーマニアって名乗ったのはそっちだけどな。」

「あん? そうだったか?」

「そうだよ。」

 私と『空』は、元悪魔の王のルーマニアを笑った。

私の名前は雨上晴香。《天候》のゴッドヘルパー。

どうやら私たちの物語はまだまだ終わらないらしい。




 遥か先のエピローグ


僕は長くて真っ白な廊下を歩いていた。ある天使に会う為、その天使の部屋に向かっているところだ。先日、神さまからある仕事を頼まれたのだが、その仕事に取りかかる前に、昔似た仕事をしたことのある先輩天使に色々とアドバイスをもらおうと思ったのだ。


 僕たちが生きるこの世界にはゴッドヘルパーと呼ばれる存在がいる。下界に生きるモノには知らされていない、世界の秘密の一つだ。

 この世界を創った神さまは、下界をよりよくするために色々な法則を創った。僕たちの間で《常識》と呼ばれるそれの数は星の数ほどあり、いくら神さまでも一人で管理しきれなかった。だから自動で《常識》を管理するシステムを創った。

 《常識》は時代によって変化するモノだ。その時々で下界に生きるモノのニーズに合わせていかなければならない。だからシステムは、下界に生きるモノから常に情報を得る必要がある。そんなわけで、システムはそれぞれランダムに、何かしらの生き物に接続される。そうやって、システムと繋がった存在をゴッドヘルパーと呼ぶのだ。


 ゴッドヘルパーには全部で四つの段階がある。

 第一段階。ゴッドヘルパー自身は何も知らず、ただシステムと繋がっている状態。要するに普通の状態だ。


 第二段階。自身がゴッドヘルパーであると理解している状態。この状態になると、システムを通して、そのシステムが管理する《常識》をある程度操ることができてしまう。《水》を管理するシステムであれば、そのゴッドヘルパーは水を操る力を得る。


 第三段階。システムとの繋がりが通常よりも強くなり、ゴッドヘルパー=システムと言えるほどになった状態。こうなったゴッドヘルパーは第二段階とは比べ物にならない力を得る。天使が総掛かりで抑えに行っても返り討ちにされる可能性すらある。


 第四段階。管理する《常識》に最も適した形態をとった状態。つまり、ゴッドヘルパー自身の身体を変化させるなどして最適化し、システムの持つ力を百パーセント引き出せるようにした状態だ。元々システムは神さまがその身の一部を使って創った代物。百パーセントの力とは即ち神さまの力に等しい。


 第三段階と第四段階はそうそうあるものではない。歴史上、第三段階は数えるほど、第四段階は一人しかいない。下界で騒ぎを起こすとすると、第二段階がほとんどだ。実際、僕が受けた仕事は、下界で暴れている第二段階のゴッドヘルパーを止めることだ。

 ただ、天使が直接倒すことは禁止されているので、下界で協力者を得る必要がある。仲間となってくれるゴッドヘルパーを。


 ゴッドヘルパー絡みの事件と言えば、あの二つの事件が有名だ。ネーミングセンスを疑うが、それらの事件は『サマエル・鴉間事件』と『メリー事件』と呼ばれている。

 『サマエル・鴉間事件』は堕天使のサマエルが引き起こした事件で、《魔法》などを管理している《常識》のゴッドヘルパーを手に入れようとした。そんな中、《空間》のゴッドヘルパーである鴉間という人間が介入し、三つ巴の戦いに発展した、歴史上最大の事件だ。

 『メリー事件』は、メリーと呼ばれる《時間》のゴッドヘルパーが起こした事件だ。とても大きく、大変な事件だったそうだが……具体的にどういう事件なのかはよくわかっていない。というのも、メリーが《時間》を巻き戻したり進めたりしたので正確な記録が残っていないのだとか。全貌を知るのは当事者のみだが、その記憶も巻き戻されたりしてゴチャゴチャなのだとか。全てをきちんと覚えているのは、今から僕が会おうとしている天使ともう一人だけだ。


 それならその二人から聞き出せばいいと誰もが言うが……誰もそれをやりたがらないのだ。

 一人の名前はアザゼル。かつて天使に反逆した堕天使の一人だ。いや、一人というか、悪魔軍の大幹部だった。今は罰を受け、下っ端天使として働いている。恐ろしい過去を持つ天使ではあるのだが、その実、とても陽気で面白い人だ。悪く言えば変人だが……

 とにかく、アザゼルはいい人だ。だが、『メリー事件』のことを尋ねるといつもと雰囲気が変わり、とんでもない魔力の圧力と共にこう尋ねるそうだ。

「本当に知りたいのか?」

 《一人でラグナロク》だとか、《ホルンいらず》とまで言われた莫大な魔力と魔法のセンスを持つ最強の大天使にそんな風に言われたら「結構です」と言わざるを得ないというものだ。


 もう一人の名前はルーマニア。何故か下界の地名で呼ばれる天使だ。ルーマニアはアザゼルと共に、『サマエル・鴉間事件』と『メリー事件』の二つを経験し、かつ両方を解決したと言われる天使だ。

 鴉間とメリー。この二人は第三段階のゴッドヘルパーだったそうだが、ルーマニアがパートナーとしたゴッドヘルパーは第四段階にまで上り詰めた伝説のゴッドヘルパーだ。本名かどうかわからないが、そのゴッドヘルパーはハーシェルと呼ばれ、今の天界でその名を知らない者はいない。

 ハーシェルは《天候》のゴッドヘルパーだった。そして第四段階となったとき、システムに自我を与えたそうだ。これにより、《天候》のシステムは一つの生き物となった。ハーシェルを境に、《天候》のゴッドヘルパーは存在していないのだ。

 ハーシェルによって誕生したその生き物は『空』と呼ばれている。下界と天界を自由に行き来し、ルーマニアやアザゼルとよく一緒にいる。

 システムそのものが自我を持ち、《常識》を管理してくれるのなら、これほどよい状態はない。現在、天界ではシステムに自我を持たせる研究が行われているが、あまりよい結果は出ていない。やはりゴッドヘルパーの力が必要なのだろうか。

 まぁ、そんなこんなで、後の世界に大きな影響を与え、大きな事件を二つとも解決したゴッドヘルパーのパートナーだったルーマニアは、英雄とさえ言われている。しかし、彼にはある噂があるのだ。

 それは彼の本名についてだ。噂によると、その本名を知った者は恐怖に脚がすくみ、二度とルーマニアの前にその身を出せなくなるという。

 誰もが怯える存在の名前となると限られる。しかもルーマニアはアザゼルと仲が良い。となると自然と一つの名前が思い浮かぶのだが……いや、まさか。あり得ない。

 あれほど凶悪で、天界を地獄に変えた最強最悪の堕天使がルーマニアであるわけがない。しかしその噂のせいで、多くの天使は彼を尊敬はしても、語り合おうとはしないのだ。

 僕がこうしてルーマニアの所に行こうとしたのを、たくさんの天使が止めた。しかしゴッドヘルパー絡みの事件を担当するのだ。ルーマニアのアドバイスを受けることは為になるはずだ。



 僕は目的の部屋に到着した。僕のような下っ端天使が住んでいる部屋と同じレベルの部屋。英雄が住む場所とは思えないのだが……やはり噂は……

 いや、なんのためにここに来たんだ!

 僕はドアをノックした。中からぶっきらぼうな返事が聞こえ、ドアが開く。

 真っ黒な天使だった。黒髪を全部上に向けた髪型と鋭い目つき……いやいや、絶対悪いことしてるよ、この天使!

「……なんだ? お前は。」

 び、びびってはいけない。アドバイスをもらうのだ!

 僕が会いに来た理由を説明するとルーマニアは意外そうな顔をし、僕を部屋の中に入れてくれた。

 部屋はいたって普通だった。ただ一つ、床に大きな窓があることを除けば。

 その窓からは下界が見えた。どこが見えているかはわからないが、とにかくこれは下界だ。

 僕が身を乗り出して窓を覗いているとルーマニアは僕の正面に座った。

「……色々変わったが、これだけは変わんねーな。」

 ルーマニアは頬杖をつき、ぽつりと呟いた。


「さて、今日の天気は……」

終わ……って無い感じですね。

サマエルと鴉間の件は片付きましたが……そうです。メリーさんがいるのです。

彼女との戦いはまたいずれという所でしょうか。


一先ず、一時的に、この物語は幕をおろします。

私が《時間》との戦いを思いつくまで

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