番外編 ジュディアス=レタリウスの憂鬱
また少し時間を遡ってからジュディアス視点です
俺はジュディアス=レタリウス。
レタウ国の第二王子だ。
普段は兄にならっていい子ちゃんしてるが、窮屈な王家のしきたりには正直うんざりしている。
ただ、運命の出会いをして考えが少し変わった。
エリフィン国のフィリアに会った時だ、6歳の時のパーティ会場で、一目惚れだった。
それからは少しでもフィリアにふさわしい人物になるべく邁進することになる。
剣術、魔術、作法、勉学、帝王学。
それまで兄の陰で惰性で学んでいたことを、兄を追い越す気迫でもって吸収していった。
ついには兄も越え、絶対の自信をもって彼女に告白したのだが……
「私より弱いおぬしではだめじゃ」
盛大に砕け散った。
言葉通りにフィリアの魔法でだ。
だが、一度の失敗でめげるやわな心根ではない。
日々の精進によりもはやレタウ国で右に出るものはいなくなってもなお、フィリアにはかなわない。
そんなある日、風の噂でエリフィン国にフィリアを超える強さを持つ男が現れたと耳にする。
居ても立っても居られなかったが、仮にも王子が気軽に国を渡るわけにはいかない。
フィリアには次の会食に、その男を連れてくるようにとだけ連絡をしておいた。
会食当日。
ユーキと名乗った我がライバルは、作法もない、気も弱い、背も小さい、が、フィリアと仲がよさそうだった。
我慢が限界に近かったが、そこは王族の矜持で抑え込んだ。
デウナスが下がったタイミングで切り出してみた。
「キリハラくん、うわさに聞いたのだが、君の多重識者の腕は、フィリア王女よりも聞いたのだけど本当かい?」
「本当じゃ」
ユーキではなくフィリアが答えてくれた。口の端がピクリと上がる。
「フィリア王女、それは君の約束を知っていて認めているのかい?」
声が震える。
「そうじゃ」
俺のなかの何かが切れる。
「そうか。……キリハラくん、いや…ユーキ! 君に決闘を申し込む!」
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王城の中庭を借りた。
ユーキに決闘のルールを教え、お互いの準備をする。
聞けば喧嘩もしたことがないだと。
よくもそれでフィリアより強いなどと……
俺はすぐに考えを改めた。
決闘前に作る媒体の枚数に制限はない。
それは魔法の発動にも魔力を消費するからだ。
自分の能力を把握し、使う魔法を厳選し、決闘に臨む。
だからこそ経験のないユーキに負ける気は全くしなかったが
「……やはり素人……!?」
あれは知っている魔法を片っ端から制作しているようだ。それに数が尋常じゃない。
制作に使用する魔力が少ないといってもあの枚数ではすでに俺やフィリアを超えている。
フィリアに途中で準備を止められていたが、媒体箱五つ分は持って立っている。
数では勝てない。
ここは先手必勝しかない。
「はじめ!」
十分に離れた俺とユーキの間に立ったフィリアが合図をするのと同時に、一枚目の言霊を発動する。
「水」
無駄なく掌大に集められた水球は十分な速度を持って、ユーキの頬すれすれを狙って飛ぶ。
腰の抜けたユーキはその場にへたりこむ。
狙い通りだ。
動けないところに追い打ちをかける。これで勝ちだ。
「火 火 火 火 火!火!火!」
「え? ちょ、まって! 水」
へたりこんだままユーキが雪崩のごとく魔法を打ってきた。
攻撃どころではない。
用意していた防御用魔法がみるみる減っていく。
魔力も媒体も尽きる。
これ以上は耐えられなくなった次の瞬間
「そこまで!」
「化け物か君は」
「だから言ったであろう。ユーキは私よりも強いのじゃ」
「それにしたって限度がある……」
俺は魔力が尽きかけて、ひざをついているのにユーキは汗一つかいていないだと。
聞けば知らずに魔法をつかっていたらしい。
化物だ。おそらく魔力消費で疲労を感じたことすらなかったのだろう。
「認めよう。君は僕より強い。もしかしたらフィリアより強いと言うのも納得した……だが諦めたわけではない!」
お互いに認め合って空気が緩むのを感じる。
思えば年の近い友達など初めてかもしれない。
そんな風に思っていたせいで一瞬気が付くのに遅れてしまった。
すさまじい殺気が迫っていた。
「ユーキ!」
「危ないのじゃ!}
体が動かなかった。
見知らぬ少女がユーキの背後から迫っていて、気づいたフィリアが入れ替わる形でユーキを突き飛ばす。
少女が持っていた刃物がフィリアに刺さる。
「貴様ー!!」
ウォーターボールを放つが魔力が乗りきらない。
くそっ。
「肉体強化」
なんだ? 聞いたことのない言霊だ。しかも四文字だと!
ユーキが消えて、少女が倒れる。すぐに元の場所にユーキが再び現れる。
どうなっている。
「ユーキ! お前がやったのか。大丈夫か?」
「だ、いじょう、ぶ。だけどまだだ……」
ユーキがそういうとさっきとは別の魔法をその場で媒体から作り上げた。
でたらめすぎる。
しかし、今はフィリアが助かればなんでもいい。
さすがにユーキでも消耗したのか、意識の回復したフィリアと入れ替わるようにユーキが倒れた。
「ユーキ!」
「フィリア、大丈夫だ。気を失っただけだ。それよりフィリアこそ大丈夫か?」
「ああ、傷どころか血も破れた服も直っておる」
「いろいろ聞きたいことがあるが、とりあえず一度城に戻ろう。そこの賊は俺が抱える」
「私がユーキを担ごう……ただそやつは知り合いじゃ。話を聞くまでは丁重にあつかってくれんか」
それはお姫様だっこというやつだろうか。
ユーキには黙っておいてやろう。
ただ知り合いというのが気になる。
賊の様子もおかしかったように思う。
一番気になるのはユーキの魔法だが。
とにかく一度戻ってからだ。
俺たちは王城へ急いだ。
番外編はあまり連続しないほうがいいでしょうか?




