虹色鉱石
息を吸うように息を吐くように、それはとても自然なことだ。
月のはじめに仲間内でするジャンケン大会で、僕は虹色の鉱石を手に入れた。ナントカカントカっていう特別な石らしいけれど、僕はあんまり興味がなくて名前を忘れてしまった。
《それを御守りにして、肌身離さず持ち歩くと良いことが起こるらしいぜ》
――だなんて、もっともらしくヤマダが言うから、僕はそれを持ち歩くことにした。出掛けるときはもちろん、風呂に入るときだってずっと。
僕は虹色を宿した鉱石を、時々出してはまじまじと見た。とっても綺麗な石だ。魅了されてしまうというか。
ある日、僕は交通事故に巻き込まれた。死が目前に迫る大怪我で、生きたいと強く願う。まだ僕は死にたくないと。
奇跡的に一命を取り留めた僕は、意識を取り戻すことができたものの、下半身に麻痺が残ってしまっていた。
不意に自分の持ち物に鉱石があったのを思い出す。慰めるために覗くと、鉱石には一つの色が消えていた。
がっかりしてしまったものの、その輝きを見ながらリハビリを頑張ることにした。歩けるようになりますようにと願って。
時間は掛かったが、僕は杖を借りながら歩けるようになった。
動けるようになったのはありがたかったが、この身体のままでは以前のように仕事はできない。それに長い入院生活とリハビリでお金がなかった。
僕は仕事を手に入れられるように、借金がなくなるくらい稼げますようにと願った。
運良く仕事を手に入れて、借金の返済もすぐに済んだ。虹色だった鉱石には、もう黄色と赤と青しか見えない。
結婚を親に急かされて、こんな僕でも愛してくれる人がいれば結婚するのに、と思った。どうせそんな奇特な人はいないだろうと考えていたが、久しぶりの同窓会で再会した女性に告白されて、気付けば籍を入れていた。
順風満帆な結婚生活。子どもができたと喜んでいたら、彼女は重い病にかかっていることが判明した。
僕は切実に願った。どうか彼女と子どもの命をお救いください、と。僕はどうなっても構わないから、と。
難しい手術になった。丸一日掛かったんじゃないかと思えるほど。
虹色だった鉱石をしっかり握り締めて、僕は手術の成功を祈り続ける――。
布団のぬくもりを感じて目が覚めると、握り締めていた鉱石には色がなかった。
「……夢?」
鉱石を手に入れたのは昨日のことだった。
僕は透明な鉱石を持ち歩いた。事故が起きるかもしれないと思って、予定をキャンセルしたら、大事故が起きたとニュースで見た。
同窓会で夢の彼女に会ったが、彼女には病院で念のため検査をするように勧めた。友人がこういう病気にかかったから気になってと説明して。
早期発見で簡単な手術で済んだと連絡を受けたのはその後のことで、今、彼女は僕の隣で赤ん坊をあやしているところだ。
そうそう。かつて虹色だった鉱石は、僕たちの指輪となって行く末を見守っている。
《了》