生きる覚悟 殺す覚悟 (2)
戦闘用の攻めるには難しそうな武骨な砦の入り口の前には使用人と思われる者達が左右にずらりと並び、こちらを見るやいなや洗練された動きで一斉に腰を折って頭を下げた。
その間で、豪奢な服に身を包んだ恰幅の良い男が満面の笑みで俺たちを迎えた。
「セレーネ様、よくぞご無事でいらっしゃいました、積もる話もございましょう、ささっ中へどうぞ。」
「うむ、出迎え痛み入る。」
砦に入ると床は磨き上げられた大理石が敷き詰められ、
壁の至るところに高級そうな壷や皿が飾られおよそ外見からは考えられない絢爛な眺めであった。
俺たちが城に入るのを確認した迎えの騎士や使用人達はここで一礼し別れ、中から現れた小物の案内で砦の中を進んだ。
「姫様、こちらでお召し物をご用意しましたので、こちらで御着替え下さい。」
「そうか、旅でだいぶ汚れていたのだ、ありがたく着替えさせて頂こう。」
そう言いセレーネが部屋に入ろうとした所、近くに来た使用人が言った。
「そこのあなた!何を立ち尽くしているのです、早く姫の御召し替えのお手伝いをなさい!」
「ああ、待てその者は私の友だ、その者にも着替えを用意して丁重に扱って貰えないか。」
「はぁ、分かりました、ご友人様こちらにどうぞ、直ちに御召し替えの準備をいたします。」
「えっ!!あっ、いや俺は‥‥‥」
着替えは結構だと言う前にあれよあれよの間に俺はヒラヒラとした身体の線を出すようなドレスに着替えさせられてしまった。
どうにか元の服は取り戻しはしたが、思わぬ女装に辟易しながら部屋を出ると既にセレーネは着替え終えてこちらを待っていた。
全身をドレスに覆ったセレーネは旅の頃には考えられない位しっかりお姫様だった。
「‥‥‥本当にお姫様だったんだな。」
「‥‥まだ言って無かったな、丁度良いここで話しておこう。」
そう言ってセレーネはスカートの裾を軽く摘み言った。
「私の名はセレーネ=ド=アステリル、アステル王国の国王バドル=ド=アステリルの娘だ。」