駆けるは黒き風 (4)
「ネリウス!ネリウスは何処だ!?」
ゲールは焦っていた。
敵軍に中庭まで侵入を許し後は城を残すのみ、本来ならば交渉に入るなり、城に火をつけるなり、何らかの対応を行うだろう、しかし今新たな国の主は本人を除く一族全員を殺されている、追い詰めて捕らえ苦しめに苦しめての死刑になるに違いない。
「誰かネリウスを呼べ!」
あの賢いネリウスならばきっと何か助かる道を教えてくれるに違い無い、そう信じていた。
「ネリウス様のお姿が何処にも見当たりません!」
「何!?」
親友であるネリウスが俺を置いて逃げるはずが無い、そう思う心が強くゲールにはあった、しかしこれはそれ以外の可能性は無いだろうな、そう思う心も確かにあった。
「見捨てられた‥‥‥か」
「見捨てるはずが無いであろう?親愛なる友よ」
ふと気が付けばネリウスはそこにいた、ゲールの閉じ籠る城の再奥であるこの部屋に部屋を守る兵に気付かれずに入ってきていたのだ。
「ああ、ネリウスいたのか!これで助かる!何か、何か助かる道は無いか!?」
だがゲールはその事を気にとめずネリウスに縋り付いた、既に部屋の外からは争う声がする、部屋に入ってくるのも時間の問題だろう。
「あるぞゲール、一つだけ‥‥‥、我が親愛なる友であるお前が助かる道が‥‥」
ネリウスは縋り付くゲールを静かに体から剥がし距離を置いた。
その瞬間、部屋にこの城を、今回の予定をぶち壊してくれた者たちが扉を蹴破り入って来た。
「ようやく見つけたぞゲール!」
「どうやら2人共揃っているようだな、両親の仇を討たせてもらう!」
「恨みは無いが胸糞悪いものを見せてくれたお礼をさせてもらおうか!」
「袋のネズミっす!」
「おとなしくするっす!」
部屋に入って来たのは結城、セレーネ、エヴァン、ザブ、ゴブの5人であった、更に部屋の外にはついてきた王国騎士団団員が警戒をしている。
「‥‥‥どうやら役者が揃ったようだな、何故此処にこんな小娘がいるか分からんがまぁいいだろう」
セレーネの隣にいる剣を構える少女を見てネリウスは首を傾げるが、気にするのを止めセレーネに視線を向けた。
「さて‥‥‥まずは邪魔を受けないようにせねばな」
言うとネリウスは右手をこちらに向けて伸ばした。
「火よ」
そう呟くとネリウスはセレーネ達と自分の間に一本の線を引くように手を振った、瞬間ネリウスの手から伸びた火がまるで撒き散らすように飛び散り瞬く間に焔の壁を作り上げた。
「魔法!?」
まさかネリウスが魔法を使えるとは‥‥‥、それにこの世界に来て魔法は生活系しか残っていないと聞いていたがまさか残っていたのか?
「流石ネリウス!此処からどうするんだ?」
「そうだな親愛なる友よ、お前の愚かさには本当にがっかりさせられたよ‥‥、だから今此処で助けてやる」
「えっ‥‥‥」
ネリウスは右腕をゲールへと伸ばし左手を添え呟いた。
「火よ」
瞬間ネリウスの右手から伸びた火がゲールの全身を包み込む。
「あっ‥がっ‥あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
全身を炎に包まれたゲールは転げまわり日を消そうとするが、まるで火が消える様子は無くゲールが動かなくなるまで一行には見ていることしかできなかった、辺りは人の焼ける嫌な臭いが広がり、更に燃え移った火が部屋を包もうとしていた。
「何故殺した、仲間ではなかったのか?」
火に囲まれた部屋の中で燃え続けるゲールを見つめるネリウスに問いかけた。
「こいつは利用したに過ぎない、仲間などとふざけられては困るな」
「何に利用しようとしたんだ!」
「‥‥‥まぁ良い目的は達成したからな」
囁くように言うとネリウスは話し出した。
「本来の目的は王城の魔法関係の書の回収と隠滅だ、ついでに国も手に入れられたら完璧だったんだが上手くはいかないものだな」
「ついででお前は私の両親を‥‥一族を殺したのか!?」
「そうだ、だが国王と王妃を死なせたのはそこの愚か者だ、私では無い」
まるで当たり前と言わんばかりに肩をすくめる姿にセレーネの心中は烈火のごとくであった。
「最後に一つだけ問おう、さっきの魔法は何だ?」
部屋は出口をセレーネ達に塞がれ更に火が燃え広がっている、この問いに答えれば後は投降してくるのを待つだけだ。
「あんな物は魔法でも何でも無いただの手品だ」
ネリウスが袖をまくるとそこにはスポイトのような筒が括り付けられていた。
「これから油を撒きそれに魔法で火をつけただけだ、本当の魔法とはこういう物だ」
胸元から魔法陣のような者が描かれた紙を取り出したネリウスは、ひらりと足元に落とした。
紙が床についた瞬間ネリウスの足下に魔法陣が広がりネリウスを包み込む。
「私はこれで失礼させて貰うよ、此処に私の軍が向かっているからそいつらの処分も頼もうか」
言いながらネリウスの身体は足元から消えていっていた、転移とかワープとかその類だろう、一行が近寄ろうにも間に引かれた炎の壁が邪魔で近寄ることはできない。
「待てネリウス!」
「すまないなこれは途中から止められないのだよ」
「そいつは良かったぜ!」
動けないと知りエヴァンはネリウスに向かいナイフを投擲する、しかしネリウスを包み込む魔法陣がナイフを弾いた。
「すまないな多少の攻撃も弾くのだよ」
既に腰元まで消えたネリウスが不敵に笑いながら言った。
「まだだ!」
炎の壁を飛び越えた結城が全体重をかけながらネリウスに斬りかかる、剣と魔法陣の間で火花が青白い火花が散り剣を弾こうとする、だが逃すわけにはいかない!
全身に力を入れ剣を一気に振り抜く、少し耐えた魔法陣は薄く切り裂かれ、結城の剣がネリウスを切り裂く!
「クッ!」
間一髪上半身をそらしたネリウスは胸元を軽く斬られるに終わり、魔法陣は斬られた箇所を閉じた。
「時間切れだ、あと少しだったな」
その言葉を最後に僅かな光の粒子を残し姿を消した。
パチッパチパチ
結局傷をつけただけで何もできなかった、その事実が一行に暗い影を落とした、だが今も部屋の中は火が燃え広がり続けている。
「火が広がる前に部屋を出るぞ!ネリウスが言っていたが敵軍に備えないと!」
結城の言葉にセレーネ達は、ハッとして素早く部屋を脱出した。
全員が脱出した頃には部屋の中は既に火の海となり、ゲールの死骸は誰に見られる事無くその中に消えていった。
「セレーネ様ご無事でしたか!?」
城の中庭に避難すると既に城を包囲していた者を除く全軍が集まり、新たな主の帰りを待っていた。
「ああ無事だ、だが別の問題が出来た、ネリウスの軍がこちらに向かっているらしい」
ネリウスの軍はカタストル兵団に並ぶ数を保有している、戦いになれば被害は甚大なものになるはずだ。
「本当ですか!?すぐに迎え討つ準備を!」
このまま戦えば横っ腹に攻撃を受けることになる、そうなれば総崩れの可能性すらあるだろう。
「全軍に至急戦列を整えるよう通達せよ!」
いつ此方にネリウスの軍が出発したか分からないが到着に一晩はかからないはずだ。
「降伏勧告の使いを出そう、城から上がる煙を見て応じるはずだ」
城からはネリウスがつけた火が燃え広がり煙をあげている、既に城は落ちたと伝えても信じるはずだ。
そして降伏勧告が伝えられるとネリウスの軍はあっさり降伏した、此処で降伏しなくても主人であるネリウスがいないのだ、どうしようもなかったのだろう。




