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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
終章
37/39

駆けるは黒き風 (閑話)

次回作のタイトルが決定しました!

近い内に詳細の部分に出しますが、それまでは非公開にしておきますm(__)m

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


これは結城渡会が増援と合流する少し前、国王を背負い脱出したザブとゴブ、そして増援を呼びに3人の後を追うエヴァンの話である。




「走れ!」

砦から脱出し、国王達に素早く合流したエヴァンは焦っていた。


「結城が時間を稼いでいるが何時までもつか分からん‥‥とにかく急げ!」

侵入者を逃がさんとばかりに砦から放たれる矢は、今は稀に当たりかける程度にしかこないが、弓兵が結城から此方に集中すれば俺とゴブだけでは捌ききれないだろう、その前に射程範囲から逃げなければならない、それに‥‥


「もうすぐ連合軍と合流出来る、それまでの辛抱だ!」

遠目にも王国騎士団とカタストル兵団の連合軍が、土煙を上げ向かい来るのが見える、あと少しなのだ。


「兄貴!国王様が!」

見れば眠っていた国王が背中に刺さる矢の痛みからか呻き声をかすかに上げている、矢の位置から見て内臓に届いているだろう。


「そう長くは持たないな‥‥、お前らもっと急げ!」

「これが全力っすよ!」

ここまで大の大人1人を背負って走り続けてきたのだ、体力にも限界がきているのだろう、だが走り続けるしかないのだ。





ドドドドドドドドドドドド


弓兵の射程範囲を抜けて連合軍の馬蹄の音がより一層聞こえ始めた頃、エヴァンは見つけた‥‥待てなかったのか先頭を突っ走るセレーネの姿を。


「父上!誰か!医師を呼べ!」

馬を止めエヴァン達の側に駆け寄ったセレーネは矢を受けて傷ついた父の姿をみてしまった、エヴァン達が通ったあとには点々と血の跡が残り、背負われ俯き足下に小さな血だまりを作るその姿は、うっすら聞こえる呻き声が無ければ死んでいると思っただろう。

セレーネは傷ついた父から目をそらし一行を見渡す、いるのはエヴァン、ザブとゴブ、背中に矢を受けた国王、‥‥‥結城と王妃様がいない。


「エヴァン‥‥結城と義母様は‥‥‥?」

「王妃は‥‥‥死んでいた、結城は‥‥俺たちを逃がすために1人残り闘っている‥‥、それに国王が‥‥‥」

エヴァンはそこから先を言うべきか迷った、セレーネに何と言えばいいのだ、ここに居る虫の息の国王ですら実は気が狂っているなんて‥‥


「ゥッ‥‥?‥‥‥その声は‥‥セレーネ‥か‥‥?」

周りを過ぎてゆく連合軍の馬蹄に掻き消されそうなその声は、ただザブのみに聞こえていた。


「姫さん!国王様が何か言っているっす!」

「何!?」「父上!」

気が狂ったはずの国王はセレーネの声に反応し、蚊の鳴くような声で何かを言っていた、それは下手をしたら呻いているのと変わらないような声であったがザブには聞こえていた。


国王に駆け寄ったセレーネは口元に耳を寄せ必死に声に耳を傾ける。


「ここは‥‥?」

「ここは城の外です!」

「‥‥‥そうか‥‥私だけ‥‥助かったか‥‥」

「父上‥‥‥クッ、医師はまだ来ないか!?」

ここは城に向かう連合軍の只中、セレーネの声が届いているか定かではない、それにこの傷では‥‥


「いいのだ‥‥セレーネ‥‥私も武人だ‥‥‥‥‥、自分のことは‥‥‥よくわかる‥‥‥」

その声はもはや口元に耳を寄せたセレーネにしか届いてはいない、国王の周囲に集まり始めたルナやベルナ、エヴァン達には何も聞こえてはいない。


「しかし!でも‥‥‥!」

「見えなくても‥‥‥お前の‥泣き顔が‥‥浮かぶようだ‥‥」

「見えない?‥‥‥これは!?」

セレーネはそこで初めて父の顔を見た、目元に残ったどす黒く焼けた後を。


「余は‥‥彼奴らのことを‥‥‥信用して‥‥いたのじゃ‥‥‥それが‥‥‥こうなって‥‥しまった‥‥‥‥済まない‥‥‥‥‥‥‥」

血泡を出しながら話す父は僅かに頭を下げた。


「何を言うのです!全ての根源はゲールとネリウスにある、父上に何の罪があると!?」

「‥‥‥‥お前は‥‥‥良い‥娘じゃ‥‥‥‥‥余のせいで‥‥‥‥全てを‥‥失いかけたのに‥‥‥‥」

「新たに手に入れた物もある、それに私はまだ失っていない!」

ここまで付いてきてくれた仲間を部下を父と母と以外の大切な者たちを新たに手に入れた大事な仲間たちをセレーネは失ってなどいない!


「‥‥‥心配は‥‥無い‥‥ようじゃな‥‥‥‥‥」

セレーネの力強い声に国王は安堵した声を漏らす。


「‥‥‥母親と同じ‥‥‥綺麗な‥‥‥目を‥‥‥しておる‥‥‥共に見た‥‥‥海の色だ‥‥‥」

「父上‥‥?」

その時確かに父は私の眼を見ていた、見えるはずの無い目で確かに私の顔を見ていたのだ。


「‥‥‥また‥‥‥‥‥‥‥共に‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

私の眼を見ていた顔は僅かに下がっていき沈黙した。


「ち‥父上‥‥返事をして下さい‥‥‥父上!」

力無く俯くその姿をセレーネは揺り動かす、しかし国王が動く事は永遠になかった。






「セレーネ様‥‥砦上からの攻撃を避ける為に先制で砦上を殲滅してはいかがでしょうか?」

国王の遺体を兵が運び終えセレーネが落ち着いてきた頃、ルナ・マルクリウスは恐る恐る提案した。


「そうだな‥‥‥‥エヴァン!」

「何だ?」

「ルナが砦上に矢を降らせたあとに王国騎士団の者を連れて城に突撃して道を開け!カタストル兵団は城周りを囲め、包囲が完了次第残りで城を落とす」

セレーネは場にいた者たちに命令を下した、その姿は新しい国の主にふさわしい威厳に満ちた姿であったが、その深海色の眼には悲しみと孤独を映していた。



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