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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
終章
36/39

駆けるは黒き風 (3)


国王を背負い階段を上がったエヴァン達を迎えたのは、満天の星空に浮かぶ淡い輝きを放つ月に照らされて立った結城だった。


「そちらも無事なようだな‥‥‥王妃はどうした?」

背負われた国王を見て低く発された声は、全身を黒一色に染めていても、今の結城が男になっている事を知らせるには充分だった。


「王妃は死んでいた‥‥、国王も拷問を受けたみたいで両目が焼かれていた上に気が狂っていたよ‥‥」

「‥‥‥そうか」

一行に暗い空気が流れた、しかしのんびりしている時間は無い。


「火薬庫に火を仕掛けてきたから、もうすぐ爆発が起きるはずだ、その騒ぎに合わせて正門から脱出する!」

国王を背負ったままでは鉤爪で城壁を降りることは出来ない、考えられる出口は後は正門だけであろう。

今は深夜だから見回りは少ないがそれでも数人と戦闘になるはずだ。


「ザブは国王を、ゴブはザブの護衛を頼む、道は俺とエヴァンで切り開く!」

地下に通じる道から正門まで最低限の巡回を倒しておいたから、後は門を開ける仕掛けを守る兵だけだ、しかしその間には中庭が広がっており、本来は外を見張るべき砦上の兵も騒ぎで中庭側に視線をやっているだろう、急いで脱出しなければ囲まれることは必至である。


「砦の外に出れば俺たちの勝ちだ、門は俺が開くからエヴァン達は先に脱出しろ」

門は両開きになっており、開ける為には正門脇の木製の歯車を回す必要がある、此れは本来5人がかりで開ける代物だが結城の怪力ならばいけるだろう。


ズンッ‥‥‥


遠くで何かが爆発したような音と共に、あたりを揺るがすような振動が響く、よく見れば城はあちこちから薄く煙が上がり騒ぎとなっていた。


「今だ!」

一行は合図と共に一斉に正門へと走り出す。

国王を背負うザブの足取りはやはり他に比べ遅く、ザブを囲むようになって中庭に突入していた。


予想どおり中庭には巡回の兵士が何事!?、と驚き城を見上げている。


そこを先頭を走る結城が近くにいた混乱していた男を一太刀に切り捨てる、男はギャッと叫ぶとその場に倒れたが他の兵達が気づいてしまった。


「侵入者だ!」

「弓を持っている者は援護を残りは中庭に急げ!」

砦上から何人もの弓兵がその弓を結城達に向けるが此処で戻るわけにはいかない。


「エヴァン行くぞ!」

「おう!」

飛び交う矢を叩き落しながら中庭を走り抜けた結城とエヴァンは、門の仕掛けを守る兵達を駆け寄りざまに斬り伏せる。


「エヴァン!門を開ける間の援護を頼む!」

「任されよう!」

結城が木製の仕掛けに走り寄り、エヴァンが結城と兵士達の間に入り矢を叩き落とす。

そこに国王を背負ったザブがゴブと共に到着し一息ついた瞬間であった。


数本の矢がゴブの頭上を越え、国王の背中へと突き立った


「クッ、ちくしょうがぁぁ!」

国王の背中に矢が突き立つ瞬間を見てしまった結城は、常人には動かせないであろう仕掛けをやりきれない叫びと共に動かす。


ギギ‥‥ギィィィィィィ

僅かに開いた隙間を通って国王を背負ったザブが砦の外に脱出しゴブも後を追った、すぐに手当てすればまだ助かるかもしれない、そんな淡い期待を持ちながら結城は門を開け切った。


「エヴァン!先に行って国王を守れ!」

「お前はどうする!?」

「時間を稼ぐ!」

このままでは国王達に砦上から弓兵の攻撃が集まってしまうだろう、誰かが時間を稼がないとならないのだ。


エヴァンの前に出て向かいくる矢を払い落とす、よく見ればエヴァンの身体は矢に切り裂かれたのであろう切り傷が多くあった。


「早く行け!」

「!‥‥‥すぐに軍が来る、それまで頑張ってくれ!」

エヴァンが門の外へと走り行くのを見届け、結城は城から数多の兵と共に姿を現した男に集中した。


他の兵と違い重い鎧に身を包んだその男は、まぎれもなくこの城の主であるゲール・ネスターゼその人であった。


「たった数人の侵入者がよく此処までやってくれたものだ、しかしこの程度では俺の城は落ちない、無駄であったな」

次期に火事は消し止められ門もすぐに閉じられるだろう、そうなればセレーネ達が城を攻め落とす事は元どおり不可能である。


「まだ終わってない!」

セレーネ達が来るまで城門を守りきれば、門から兵を投入出来る‥‥そうすれば俺たちの勝ちだ。


「小僧1人に何が出来る?ハッハッハッハッハッハ」

中庭に兵達が集まってきた事で矢は飛んでこなくなったが、砦上や城からも現れる兵の数は100人は軽くいるだろう。

はっきり言って、いくら力を持っていてもこれに闘いを挑むなんて馬鹿げている。


「でもな‥‥此処まで頑張って来たんだ、今更引き下がれるかよ!」

もう一度全身に力を入れ、気合いと共に利き脚を前に踏み込んだ。


刹那、石畳は砕け破片が飛び散り、周囲の石畳が軽く吹き飛ぶ


「‥‥成る程、こいつは化け物か」

地面を叩き割りその中央に立つ結城を見てゲールは驚きながらも納得していた、侵入者が何故ここまで我が城を撹乱できたのかを‥‥‥


「ならば化け物退治といこうじゃないか!」

中庭には100人以上の兵士、周囲を囲む砦上には弓兵が10数人、対するは化け物1匹‥‥闘いの幕開けである。





「ウオォォォォ!」

数人の兵達が剣を振り上げ迫りくる!

迫る兵達にあえて近づき剣を横に振るい、振り上げられた剣達を砕き払い吹き飛ばした。

剛力のデリウスの愛剣だけあってこの程度では傷一つつかない、安物ならば逆に折れていただろう。


「弓兵、放て!」

ゲールの号令に結城の周りの味方を気にして弓兵は動揺している。


これで更に矢まで射られれば終わりである、その前に矢を放てない敵の懐に入る!


「フッ」

兵達の囲いに走り寄り、先頭にいた者に掌底を叩き込む


ボキボキボキッ

掌底をくらった男は肋骨の折れる音と共に口から血を撒き散らし、背後にいた兵ごと吹き飛び道をつくった。


「何をやっている!早く放て!」

ゲールの怒鳴り声を聞き、ようやく弓兵達は弓をこちらに向けるが既に遅い‥‥‥


結城は兵の間にできた細い道を剣を振り回すようにして周囲を斬りつけながら走る、飛び交う矢は結城を捉えず周囲の兵に直撃し兵達を混乱させ、そこに振り回された結城の剣が道幅を広げる。

結城を狙い槍や剣が切っ先を向けるが、槍は先を切り落とし剣は砕かれ結城をかすめるばかりである。


しかしそんな無茶な闘い方が続く筈もなく、気がつけば傷だらけの身で結城は包囲されていた。

周囲を一般兵と違い鎧に身を包んだ騎士が、盾を使って壁を作り逃げ場はない。


「恐ろしい化け物だったがこれでもう袋のネズミだ、弓兵!構え!」

一斉に弓兵が矢を番え狙いを定める、周囲の騎士達も盾を構え流れ弾に警戒をしている。


「時間は‥‥稼げたか?」

こんな場所で死ぬわけにはいかないが‥‥恐らくセレーネ達はこの城を落とせるだろう、俺の役目は果たした‥‥‥

結城は自分を包囲する騎士達から視線を外し空を見上げた。


「今日も月が綺麗だな‥‥」

輝く月が雲を‥城を‥そして自分を照らしている、だがよく見れば月の一部が数多の点に覆われているのが分かった。


ウオォォォォォォォォォォォォォ

その瞬間門の外より鬨の声が轟き、砦上に幾千本の矢が降り注いだ。



「クッ、時間を取られすぎたか!?化け物を包囲しているうちに門を閉じよ!」

ゲールの命令に数人の兵達門の仕掛けに走り寄り、門を閉じようとした瞬間、門より砦内に馬を走らせ駆け入る者達がいた、それはエヴァンを先頭にした騎士達であった。


「待たせたなあとは任せろ!総員、本隊が着くまで門の仕掛けを守れ!」

何故かエヴァンの号令を受けた騎士達は、門を閉じようとする兵達を倒し、門の内側に陣を敷いた。


「チィッ!ならばまずはその化け物を殺せぇ!」

城の前まで引いたゲールの命令を受け敵の騎士達が包囲を狭めた、だがおれを狙う弓兵は先程の砦上に降り注いだ矢で掃討されている、勝ち目は‥ある!


「でやぁぁぁぁぁ!」

俺は足下に転がる敵の死体を摑み包囲の一端へと投げつけた。

敵兵の剣を受ける盾も、何十キロの物体が飛んで来ては受ける事は出来なかったようだ、吹き飛ばされた兵達によりまた逃げ道ができた。


逃げ道から味方騎士達と交戦中の敵兵を切りつけながら門前に立つエヴァンへと駆け寄る。


「遅かったな!だが無事で良かった‥‥」

「いろいろあったんだよ、それにお前こそよく無事だったな!?」

「ギリギリだったよ、それよりセレーネ達は?」

「さっきの一斉射撃があいつらの放ったやつだ、到着に時間はかからん」

エヴァンの言ったとおり、次の瞬間には門をくぐってデリウス、ベルナ、セレーネ、恐らく王国騎士団長と思われる男、と援軍が続々と姿を見せた。



「結城!無事で‥‥良かった‥‥‥‥‥」

結城の姿を見つけたセレーネが、安堵のあまり馬から飛び降り駆け寄る、その顔は迷いのうちに光を見つけた者のそれであった。


「さっきの一斉射撃に助けられたよ、本当にありがとう」

「ウフフ、思った通りでしたわね」

突然セレーネの背後から現れたのは軽装に身を包んだ女騎士であった。


「初めまして渡会さん、私はルナ・マルクリウスと言います、さっきの一斉射撃は私が狙わせましたの、上手くいって良かったわ」

「初めましてマルクリウスさん、先程はありがとうございます!」

「いいえぇ、それよりもセレーネ様、城周りを包囲しました、これで後はゲールを討ち取れば終わりです」

「そうか、これより中庭の敵を掃討後に城に突入する!ゲールは‥‥私が殺す!」

眼に力強い何かを映したセレーネが号令をかける、その姿を周りの者たちは哀れみの混じった悲しい眼で見つめていた。




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