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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
第5章
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決意 (閑話)

「皆さんこの後は大浴場で湯浴みをして旅の汚れをゆったりと落としていって下さい。」

夕餉を終えた一行が食後の一杯を各々楽しんでいる時にその報はもたらされた。


「ほぅ、大浴場か‥‥、湯浴みと言うのは俺は初めてだな。」

「俺も初めてっす!」

「俺もっす!」

男性陣は全員が一般庶民だ、水で拭う位が常であって湯浴み等と豪勢な事は初体験なのだ。

一方女性陣は‥‥。


「セレーネちゃん、私がお背中お流ししますね♡」

「むっそうか、ではお願いしようかな。」

「はーい♡」

「あっセレーネ、俺は後で入るから‥‥。」

「何を言ってるのだ一緒に入ろう!」

「あのセレーネちゃん?結城さんもこう言っているし私と2人で入りましょう?」

「いや此処まで世話になったのだ、背中ぐらい流させて貰わないと恩の返しようがない!」

「いやでも俺男だし‥‥。」

「今は女だろう?ならば私は気にしないから!」

「ちょっと待てベルナはどうするんだ?」

「ベルナは元を知らないから気にするな!」

「いやでも‥‥。」

「良いから行くぞ!」

最早抵抗は無駄だろう、そう悟って為すがままに大浴場へと連れてこられ脱衣所へと導かれた結城、連れて行かれる途中にエヴァンのサムズアップが見えたが、今はそんな事どうでも良い事だった。


「ようやく大人しくなってくれたな。」

「諦めたんだよ。」

「では早速風呂に入ろうか!」

手早く服を脱ぎだしたセレーネに驚き反射的に後ろを向くが、どうせ今から同じ風呂に入るのだ何の意味があろう?


一つため息を吐き服を脱ぎだした結城、此処で実はベルナはメイドに服を脱がせてもらっており、セレーネと結城の対応を任されたメイドもいたが、勝手に服を脱いでいるので壁際でオロオロとしていたのを知るものはいないだろう。



浴場に入るとそこは想像に見る王族の大浴場を連想させるものであった。

石造の巨大な浴槽はその壁面に技巧が施され、そのうちの獅子と思われる彫刻の口から湯船の湯がこんこんと流れている、また外から繋がると見える女神像が湯船の中央に置かれその手に持たれた壺より湯船へと湯が流れていた。


「そう言えば私達まだ自己紹介をした事がなかったわね?」

ベルナはそう言って湯船の前へと歩み出ると結城に向かい軽く膝を曲げしなを作った‥‥もちろん裸で。


「私カタストル家長女で現在家長を務めさせていただいていますベルナ・カタストルと申します、以後よしなに。」

「隠す場所は隠せ!」

「あら、此処は大浴場よ?隠す必要はないでしょう?」

城の中で蝶よ花よと育てられたのだろう、日に焼けてい無い透き通るような白い腕を組んで、セレーネ程では無いが十分なサイズの胸を強調する様に持ち上げると、ベルナは不敵にニヤリと笑った。


「うっ‥‥、確かに。」

「さぁ、貴女も名乗りなさい。」

「‥‥渡会結城と言います、よろしく。」

軽く頭を下げた後に腕を組んだ、腕に胸が乗らない事よりも同情の目で見られる事の方が苦しいなぁ‥‥。


「ではこれからは結城さんと呼びますね。」

「‥‥いつも思っていたが何でみんな俺の事を名前で呼ぶんだ?」

セレーネやエヴァン、果てはザブとゴブに至るまでいきなり名前で呼んできた、これはこの世界では当たり前の事なんだろうか?


「貴女の名前は渡会じゃ無いの?そう‥‥貴女何処の出身かしら?」

「いきなりだな?日本だよ。」

「ニホン‥‥、聞いた事の無い土地ね?」

「恐らくこの世界には無い土地だと思うんだ、帰る方法を探しているんだが何か手がかりを知らないか?」

「知らないわね、それにとても信じられる話じゃ無いわ、まぁどこか遠い国なんでしょうね、姓名の後を名前とするなんて初めて聞きますもの。」

「そうか‥‥、ありがとうなベルナ。」

「どういたしまして結城さん‥‥クシュン!」

言った直後ベルナが可愛らしくクシャミをした、忘れていたが俺たちはまだ裸であった。


「ベルナも結城も何時まで話してるんだ?さっさと湯につから無いと風邪をひくぞ。」

湯から顔を出したセレーネが呼んでいる、此方ではいきなり風呂に入るのかな?


「確かに風邪をひいてしまいそうですね、ちょっとお行儀悪いけど結城さん行きましょう。」

どうやらいきなり湯に浸かるのは此方でもタブーらしい。


「ベルナは先に行ってなよ、俺は先に身体を洗っているから。」

「そうさせていただきます。」

浴槽に歩み寄り手早くかかり湯を済ませて湯につかったベルナ、どうやらほとんど日本とマナーは同じみたいだ。


「安心したよ‥‥。」

「何に安心したんだ?」

「うわっ!いつの間に!?」

振り向けば既にセレーネが仁王立ちで立っていた、ベルナと違い少し陽に焼けた肌は健康的で、きめ細やかな肌はまるで陶器の様で湯がその肌を伝い滴っている、セレーネはそのきめ細やかな手で結城の手を掴み浴槽へと大股で歩き出した。


「ちょっ!ちょっとセレーネ!?」

「私が背中を流すと言っただろう?それなのに自分でやろうとするとは‥‥、さっそこに座って。」


見れば湯船の側に木製の低い脚の付いた板がある、どうやら湯船の湯を使って此処で身体を洗うらしい。

導かれるままに座らされ、セレーネはそばにあった緑色の粉を手にひと匙のせて水と混ぜ始めた、香りからどうやら薬草らしい。


「私のやり方は少し痛いぞ!」

「フヒャァ!?」

的確に背中のツボを押す様に背中に薬を塗り始めたセレーネ、こそばゆい様な少し痛い様な手つきに思わず声が出たがセレーネは止めない。


「フッフッフッ、なるほど結城は此処が弱いのか。」

「ちょっ!待っ!クヒュッ!」

モミモミモミモミ

スリスリスリスリ


「セレーネ!お願!待って!」

「我慢しろあと少しだ。」

ムニムニムニムニ

クニクニクニクニ


「ふー、あとは湯を流して終了だ。」

ザバー


「良し!これで汚れも綺麗に落ちただろう!どうだ結城、気持ち良かったか?」


途中でくすぐったさに呼吸困難を起こした結城は、弱々しくヒューヒューと息をするばかりであった。


「ヒュー‥セレーネ‥‥ヒュー‥お前‥‥ヒュー‥手加減しろ‥‥。」

「ふむ‥‥少しやりすぎたか?まぁ良い、何だか妹の相手をしている様だな‥‥、次は髪を洗ってやろう!」

「好きにしてくれ‥‥。」


セレーネは先程の粉とは違う薄い黄色の粉を取り水と混ぜ始めた、今度の粉は少し花の香りがするから花弁から作られたのだろうか?


「まずは頭を湯で洗わんとな‥‥、少し血がこびり付いているから強くやるぞ!」

「えっ?」

びっくりさせられる言葉とは裏腹に、手付きは優しく結城の髪をすすぎながら梳いていった。


「結城も今は女なんだから髪は大事にしないとな。」

セレーネは慈愛に満ちた様な表情で丁寧に薬を付けて髪を洗い出した、まるで結城を誰かと‥誰か達と重ねている様である、しかし目を閉じている結城はそれに気付く事はなかった。


ザバー

最後に頭から桶で湯をかけられ洗髪は終わりを迎えた、最後までセレーネは優しい手つきを変える事はなかった。


「ありがとうセレーネ、おかげでスッキリした‥よ‥‥。」

顔に流れる水を手で拭いながら結城はセレーネに礼を言おうと振り返る、しかし忘れてはいけないが結城もセレーネもまだ裸である、その事を忘れていた結城は顔を赤くし湯船に飛び込んでしまった。


「うぅ、見てしまった‥‥。」

「何を今更‥‥まぁ良いわ、次は私の番ねセレーネ!座って頂戴!」

「ああ‥‥、頼むぞベルナ。」

頑張りますわ、と意気込んでセレーネの背中を擦りだしたベルナ、しかし‥‥。


「‥‥‥ベルナもう少し強くやってはくれないか?」

「ふぅ‥ふぅ‥これが私の全力よ。」

「‥‥そうか。」

力なきベルナにしっかりと鍛え上げられたセレーネの背中は少々硬かった。



その後、セレーネの背中を洗い終えた頃には、すっかり結城はのぼせきっており、急遽脱衣場のメイド達によって運び出されたらしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これから時間がどんどん無くなっていくので書けるときにかけるだけ書いて出します!

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