決意 (3)
「あら‥‥いい感じじゃない。」
トスカの興奮が冷めやらぬ頃、セレーネが持ってきてくれた服に着替えた結城は、ようやく店の奥から戻って来た。
黒目のジーパンはそのままに灰色のAラインのシャツワンピを着て、その上から腹部でベルトを巻いたスタイルになっている。
この国の一般市民の着ている服を作り変えただけだからあまり目立つ事は無いだろう、セレーネの気遣いとセンスが伺える身なりである。
「おお!可愛く仕上がったじゃないか結城ちゃん。」
「そうかそうかエヴァンはそんなに死にたいのか?」
姿に相応しくなく指を鳴らしながらエヴァンに近づくと、おい待て冗談だ!と言いながら店の外に逃げてしまった。
「チッ、次会ったら絶対潰す。」
「見た目に似合わず男らしい性格なんだねあんた。」
一連の流れを見ていたトスカは、驚いた様に口笛を吹きながら店の鍵を閉めた。
「女の着替えを男が見るもんじゃ無いからね。」
ドアの看板をひっくり返したトスカは振り返りながら言った。
「まぁ確かに可愛く仕上がったんだ、あたいも鼻が高くなるってもんさ、さて次はそっちのお嬢さんだけど、あたしが選んでも良いかい?」
「(城に入れば)直ぐに着替える事になるだろうから、可笑しく無いようなら好きにしてくれ。」
「好きにして良いんだね!?今聞いたからね!」
「可笑しく無いようなら!だ!」
分かってる分かってると、本当に分かってるか心配になる事を言いながら、トスカはセレーネを連れて店内を歩き出した。
もしかしたらセレーネも自分の様に服を脱がされるかもしれない、結城も女の身であるが中身は男である、女性の着替えを見るのはなかなか気恥ずかしいものがあった。
「俺もちょっと外に出てるよ。」
その瞬間、ばっとこちらを向いたセレーネが、行かないでと眼で訴えかけてきたが、気づかないふりをして結城は店を出た。
「オッ、お前も締め出されたか。」
「お前と一緒にするな、俺は外で待っていた方が良いと思っただけだ。」
「せっかく姫の裸が見られただろうに、もったいない‥‥。」
「「もったいないっす。」」
「お前らと一緒にするな、俺も身体は女なんだ‥‥見たけりゃ何時でも見れる。」
「そんな貧相な身体、誰が見たがるんだ?」
「‥‥‥仏の顔も三度って知ってるか?」
素早くエヴァンに近寄り、鳩尾に一撃を加えその場でくるっと回り、静かに首筋に手刀を当てた。
ガクガクガクガク
「2人は何か言いたいことはあるか?」
「「何もないっす!」」
その場に崩れ落ちてガクガクと痙攣するエヴァンを見て、ザブとゴブは勢いよく返事をした、元気があるのは良いことだ。
「エヴァンは本当に馬鹿だねぇ、それよりお嬢さんの着替えがすんだよ!全員中に入りな!」
途中から見ていたのか、トスカは腕を組んで溜息をすると店内に戻って行った‥‥‥エヴァンを起こさないとな。
「あたいもこんなに良いモデルはなかなか会わないからね、合う服を探すのに苦労したよ。」
まだ少しふらふらしているエヴァンを連れて店に入ると、トスカが自慢気に腰に片手をやりながらセレーネの肩に手を乗せこちらを見ていた。
セレーネは脚にぴったりと合った白いズボンに、白いレースタイプのノースリーブの服を着ており、クールな雰囲気を作り出していた。
「トスカ‥‥、わたしは可笑しく無い服と言ったんだ!、ズボンは動きやすいから良いが、この服‥‥脇が丸出しじゃ無いか!」
「良いじゃないか似合ってるんだから、ほらエヴァン!あんたもなんか言いな!」
「ああ‥‥確かに脇が丸出しだな、だが確かに似合ってるな‥‥結城はどう思う?」
「えっ!?あー‥‥凄く似合ってるよ。」
「ふむ‥‥、結城がそう言うのならそうなのか‥‥、トスカ礼を言わせてくれ。」
「良いんだよ礼なんて、あたいも作った服を着てくれる人がいてくれて気分がいいよ!」
確かにこの服屋は此方の世界の人からすれば斬新なものが多いだろう、だが結城には何も日本にはあったものばかりであった、トスカの技術力の凄さが伺える様である。
「所でこの服作る材料やら何やらで結構高めなんだが‥‥、あんたら大丈夫?」
「金なら大丈夫!山賊からしっかり手に入れているから。」
「そ‥そうかい?ならいいや。」
服の返り血や先程のエヴァンを倒す所から想像したのだろう、トスカはやや引き気味に此方を見ながら言った。
「ありがとうな!また来なよーー!」
店の入り口から手を振るトスカに手を振り返しながら、俺たちはカタストル城へと歩き出した。
「さて準備も出来たしセレーネも気が紛れただろう?」
「ああ、服屋と言うのはこんなにも良い所だったのだな、またいずれ行きたいものだ。」
「そうだな、セレーネの両親を救ったらまた来れば良いさ。」
「‥‥‥そうだな、全てが終わったらまた来るとしよう。」
セレーネは少し苦しそうに言うと、その苦しみを振り払う様に勢いよく歩いた。
「全てが終わったら、必ず行こう‥‥‥。」
囁く様にそう言うとセレーネは俯いて地面をみた。
「その時は‥父上だけでも一緒に‥‥。」
綺麗に整備された道はカタストル城へと続いている、まだ最初の関門を通ろうとしているだけだが、これでようやく入口に立てるかどうかが決まる。
ベルナは私に力を貸してくれるだろう、だが代わりに何を求めるかは予想はできていた。
国の為には仕方のないことだ、そう割り切ることはセレーネにはまだ出来ていなかった。




