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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
第4章
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旅は道ずれ (7)

旅の疲れに皆が寝静まり動くものが無くなった頃、小柄な影が静かに起き上がりドアを開けて出て行った。

静かにドアを開けて出て行った影を、エヴァンは薄く目を開けて見ていた。



月明かりが辺りを照らし草花を白く染め上げるなか、渡会結城はただ当てもなく歩いていた。

辺りの民家は既に灯りを消し、次の日に備えて寝静まっている。


「こんな夜中に何をほっつき歩いてんだ?」

背後から聞こえた声に振り返ると、エヴァンが眠そうにあくびをしながら頭を掻いていた。


「あれ?人違いだったか?お前さん結城だよな?」

エヴァンの言葉にハッとした結城は、静かに胸に手をやった。


「戻ってる!?前回戻った時も夜だったな、此れは夜になると戻るということか?」

「よく分からんが要するにお前は結城なんだな、ちょっと見ない間に随分と変わったな?」

「俺もよく分からないんだ‥、でも本来の俺の姿は此れだ、エヴァンにはまだ言ってなかったな。」

身体が元に戻る事にも段々慣れてきた、と言うより本来は男の状態が普通なのだ、慣れて当然であろう。


「信じられないが実際に見せられては信じざるをえないな‥‥、あーあ可愛い女の子と旅が出来ると思ったのに実は男とか、呪われてんのかね。」

「悪かったな男で!」

思わず叫んでしまい、今が夜である事を思い出し結城は慌てて口を閉じた。


「そうそう、今は夜だよ静かにしないと、‥‥で結局こんな時間に何をやってんの?」

「うっ‥‥。」

エヴァンに言われて言葉に詰まる結城。


「どうせ明日にはカタストル城に着くからって緊張して眠れないんだろう?」

「‥‥そうだよ、だってそのベルナって奴が前のやつみたいに裏切るかもしれないだろ!」

「前に裏切られてたか‥‥、でもお姫様は信用してるんだろ?それならお前も信じてやらんとな、それにベルナに切られたらお姫様はもう頼るところは無い、‥‥信じるしか無いんだよ。」

「‥‥‥‥。」

セレーネの状況は絶望的だ、叛逆者達を恐れて貴族は新しい王に恩を売ろうとして、血眼でセレーネを捜している。

頼みの綱のベルナも叛逆者達の中心であるゲール公より戦力はある、しかし他の叛逆者達がゲール公の戦力に加わればベルナの戦力の2倍に匹敵する。

本来の王族の戦力である王国騎士団は、現在盗賊団の討伐で北部の森に出ており、王都陥落の情報も伝わっていない可能性すらある。


「分かったらさっさと帰って休みな。」

エヴァンはそう言ってポンと肩を叩いて小屋へと帰って行った。


「‥‥‥俺も寝るか。」

考えても仕方ない、その時にできる事に全力を注ごう、結城は考えるのをやめて小屋へと帰って行った、月光に照らされたその顔は小屋を出た時よりもスッキリとしていた。





?side


今晩餐が行われようとしていた。

部屋は広く中央にある長机を退かせば、その広さは一般市民の家2軒分はあるだろう。

その部屋の中央にある長机の両端に2人の対照的な男が座っていた。

片方は身長2メートルはあろう筋骨隆々とし黒い軍服に身を包んだ大男。

また片方はそれより身長は数段低く、瘦せ型の体型であるがしなやかな動きからしっかりと鍛えて有るのが伺える、青紫色に染められた煌びやかな服に身を包んだ男。


「ネリウスもっと飲めよ!お前のお陰で俺たちは勝ったんだぜ!」

筋骨隆々とした大男は、細かい細工が施されパッと見ただけでも目の飛び出るような値がしそうなグラスを傾け、これまた芳醇な香りと色合いからそこらの貴族では飲めないような値の酒を一気に飲み干して言った。


「分かってるよ親愛なる友ゲールよ、今宵は宴だ‥‥存分に飲もう。」

瘦せ型の男‥ネリウスは静かにそう言って同様に酒杯を傾けた。


「後は帰還した騎士団を潰して、小娘1人殺せばこの闘いも終わりだ!恐れる者など何も無い!」

酒が入った事で気が高ぶったのか大男‥ゲールは立ち上がりながら叫ぶ。


「そうだな、後少しだ、我々が恐れる者など何も無い。」

「流石はネリウス分かってるな!さっ、今夜は飲むぞー!」

ネリウスの言葉に気を良くしたゲールは酒を更に呷った。





「今夜はもうお開きとしよう親愛なるゲールよ。」

晩餐が始まって小一時間程経過した頃、すっかり出来上がったゲールの姿を見てネリウスは言った。


「何言ってんだネリウスまだ飲み始めたばかりだろうが、ほらもっとお前も飲めよ!」

ゲールはそう言って酒を注ごうとして手を伸ばし、そのまま長机に突っ伏して盛大ないびきをかきだした。


「全く仕方ないな‥‥、おいゲールを寝室にお連れしろ。」

ネリウスは壁際に立つメイドに声を掛けて部屋を出た。



コツコツコツコツコツコツ


廊下にネリウスだけの足音が響く、付きの者を1人もつけずネリウスはゲールの私室に来ていたのだ、それはゲールに対する親愛の印でありまた密会である事を示していた。


「フゥ、全くただの筋肉馬鹿の相手は疲れるな、フッ親愛なる?馬鹿馬鹿しい。」

先程までのゲールに対する態度を一転させてネリウスは1人吐き捨てた。


「全てが終わった時にあいつを消せば俺の時代が来る、もう少しの辛抱だ。」

ネリウスは自分にそう言い聞かせるように呟いた。


「俺も少し酔ったか?独り言が激しいな。」

ネリウスは1人呟きながら暗い廊下を客室へと歩いて行った、この暗い廊下に独り言を聞く者はなく、ただコツコツと足音が響くばかりであった。





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