旅は道連れ (6)
見渡す限り続く平原と農地、遠くにはまばらに民家が建っており、山から伸びる道がそれらの間を通っていて、ポツポツと荷物を抱えた人が歩いているのが見える。
「やっと山を抜けたな。」
最後に休憩をとってから数時間が経過していた。
俺とセレーネは慣れない山越えに疲労困憊していたが、エヴァンや馬鹿2人は慣れているのかそんなに疲れた様子は無い。
「2人とも大丈夫か?もうすぐ日も暮れるしあの村で宿を取ろう。」
エヴァンが民家がまばらに建っている場所を指して言った。
「そうさせて貰うよ、それに食料も調達しないといけないしな。」
昨日の様にまた空腹で進むことになり兼ねない、村民にセレーネの顔を知られて無いか心配だが行くしか無いだろう。
「結城、調達しようにも私はお金を持って無いぞ、どうするつもりなんだ?」
「金なら大丈夫、この前の山賊から結構貰ったからな。」
ポケットに入れておいたズシリと重い袋をセレーネの前に取り出した、この世界でどれほどの価値があるのかは分からないが重さ的に大金だろう。
「その山賊も可哀想に。」
自分と同じように返り討ちにされたであろう山賊に、エヴァンは静かに合掌した。
真っ直ぐに村へと続く平坦な道を歩く5人、既に人通りも少なく陽は暮れかけている。
「そう言えば結城ちゃんは何処の生まれグハッ!?」
「次ちゃん付けしたら‥‥殺す、で‥なんだって?」
「黒髪なんて珍しいですが結城は何処の生まれなんですか?」
腹に裏拳気味に拳を叩き込まれたエヴァンは、腹を押さえながら苦しそうに言った。
「‥‥‥日本だよ。」
此方に来て何日経っただろうか‥‥、面倒な事に巻き込まれた所為で数週間は経ったように感じる。
「ニホンか、‥‥聞いた事の無い土地だな。」
「凄く遠い場所に有るからな、いつか帰れると良いんだが‥‥。」
「‥‥帰らないのか?」
「‥‥‥‥いつか帰るよ。」
そう‥いつか必ず帰るんだ、毎日が平々凡々としたつまらない日常に‥‥。
(帰る意味は有るのだろうか‥‥‥。)
日本に比べたら危険だらけのこの世界は、その分胸が高まるような事に溢れている。
(帰る必要は無いかも知れないな。)
まだまだこの世界を楽しもう、そんな思いに駆られ歩速を上げた俺を、セレーネは悲しそうな寂しそうな眼で見ていた事を俺は知らなかった。
ドンドン
「すみません!」
村に着いた俺たちは先ずは宿を探すため、近くの民家の扉を叩いた。
ギィッ
少しだけ開けられた扉から年老いた男の顔が僅かに覗く、既に夕暮れ警戒するのも仕方ないだろう。
「こんな時間に何の用じゃ?」
「ごめんねお爺さん、私達何処か泊まる場所を探しているんだけど知らない?」
俺は女の子っぽくお爺さんに話しかけながら、扉の隙間から銀色の硬貨を覗かせた。
お爺さんは黙って手を出したから、その上に硬貨を落とすと扉は閉じられた。
「この辺りに宿は無いんじゃが裏の方にある空き家なら好きに使って構わんよ。」
「ありがとうねお爺さん。」
お爺さんの言った通り、裏にはくたびれた空き家があった、まあ野宿よりはマシだろう。
「結城、さっきの話し方は慣れて無い所為か凄く気持ち悪かったぞ。」
空き家に入るとセレーネは不気味な物を見るように結城を見ながら言った。
「確かに、素を知ってるだけに普通ならおかしく無いはずなのに、お化けでもみたようなきぶんだった。」
エヴァンまでザブとゴブ達と一緒に結城から距離を取っていた。
「仕方ないだろう、女の話し方なんてした事無いんだからな。」
「結城‥‥そんなんじゃ良い嫁にはなれないぞ。」
「何が悲しくて俺が嫁になるんだ!」
エヴァンは俺が本来は男なのを知らないから言ってくれてるんだろうが、大きなお世話だ!
「宿も決まったし俺は食料を調達してくる!」
そう言うと結城は1人で家から出て行ってしまった。
「あーらら、結城ちゃん行っちゃったね、セレーネさんは行かないのか?」
セレーネは部屋の奥にある暖炉で蒔きに火を点けていた。
「この中で魔法が使えるのは私だけだからな、帰ってくる前に火の準備位しておかないと。」
パチパチと燃えだした薪を見ながらセレーネはポツポツと話した。
「結城ちゃんがいないついでに言うんだが、あんた実は第3王女のセレーネ姫だろう?」
「!?」
「セレーネさんも大変だな‥‥、王家は国王と王妃そしてセレーネ姫以外はみんな処刑されたらしいな。」
「ッ!」
セレーネは暖炉に向いたまま唇を噛み締める、国王バドルの側妻である母ミレーユが、つまりは処刑されてしまった事を知ってしまったからだ。
「大丈夫、俺たちはあんたを売ったりはしないさ、それよりもあんたと取り引きがしたいんだ。」
「取り引き?」
「俺たちを雇わないか?これでも俺は護衛だけじゃなくて隠密にも使えるぜ?」
エヴァンはニヤリと笑いながら言った。
「何が望みなんだ?」
確かに今は1人でも戦力が欲しい、しかし裏切りにあっては目も当てられない、どうするかはエヴァンの望み次第だった。
「望みも似たようなものだ、叛逆者の討伐に成功した暁にはあんたに雇って貰いたいんだよ、王女の後ろ盾があれば俺たちも安泰だからな。」
「‥‥今の私では王都に戻れるかも分からないのに、何故私側に付く?」
わざわざ勝ち目の薄い方に付くエヴァンの考えが、セレーネにはまるでわからなかった、その真意を知るためにまたセレーネは訊く。
「むさいおっさんが上に立つより、綺麗な王女様に上に立って貰った方が嬉しいだろう?それで良いんじゃ無いか?」
「‥‥ふふっ、そうだな‥、それで良いかも知れないな‥‥。」
結局エヴァンの真意は分からなかった、でもこの男は信用出来る、そんな気がセレーネはした。
「ただいまー!野菜と鍋手に入れてきたぞー!ってセレーネ!なんで泣いてんだ!?エヴァンお前セレーネに何した!?」
「ちっ、ちょっと待つっす!」
「兄貴は何も悪い事はやって無いっすよ!」
「この状況で信じられるかー!」
更に結城がエヴァンに詰め寄る、すると何故かセレーネがそれを止めた。
「結城、本当にエヴァンは関係無い、此れは煙が目にしみただけだ、それとエヴァンに私の事を話した、エヴァンも王都奪還に手を貸すそうだ。」
「そういうわけだからよろしく。」
エヴァンはウインクしながら結城にそう言った、イケメンであるが故に似合うのが腹立つ。
「あぁ、よろしく、っていうか俺が居ない間に何があったの!?」
何が何だか分からないがエヴァンが事情を知ってちゃんとした仲間になったようだ、結局なんでセレーネが泣いているかは分からなかった。
そして結城達にまた夜が来た。




