旅は道連れ (5)
「火よ!」
掌に小さな火が収縮し掌大の火の玉を作り出す、セレーネはそれに拾ってきた蒔きをしばらく当て火が移るのを確認し、それを積み上げた砂山大の蒔きに差し込んだ。
「魔法が使えるとは珍しいな、俺の身内にも1人いたな‥‥。」
エヴァンがパチパチと音を立て出した焚き火を見ながら話す、最後の部分は小さい声で呟いたせいでセレーネには聞こえなかったようだ、エヴァンの何処か遠い所を見つめるその顔はまるで誰かを憂いているようだ。
「兄貴ー!準備出来たっすよー!」
「兄貴の分は大き目に捌いておいたっすー!」
ザブとゴブが木の枝に先程の兎と思われる肉片を刺して此方にやって来る、思いの外綺麗に裁かれている事で先程の兎の形は残ってない事に結城は安堵しながら焚き火に新たな蒔きを差し込んだ。
「それにしてもお前ら、この状況でよくそんなにテンションを上げられるな‥‥。」
エヴァンといいザブとゴブといい、一応道案内として山を降りたら解放することを伝えてはいるが、やけに此方に協力的だ、俺たちが警戒をするのも仕方ないだろう。
「お嬢ちゃん、お前名前は?」
「‥‥‥結城だ。」
突然の事に驚くがセレーネと違い俺はこの世界の人ではないから大丈夫だと思い名前を話した。
「そうか‥‥、じゃあ結城俺たちを見てどう思う?」
そう言いエヴァンはザブとゴブの肩に手をのせた。
「?‥‥‥ナンパ野郎と馬鹿共?」
「そんな風に見えてたの!?」
「馬鹿じゃないっす!」
「酷いっす!」
思わず口から出てしまったが後悔はしない。
「ま‥まぁそれは置いておくとして、うちには女がいない、こいつら2人だけだ‥むさ苦しい事この上ない。」
エヴァンの後ろで馬鹿2人が何か言っているがひとまず無視だ。
「そんな中で、縄で捕まっているとはいえ美女2人と行動ができるんだぞ!協力的になって当たり前だろうが!」
まるで凄い事でも言うように拳を握りしめてエヴァンは力説した。
「‥‥‥‥お前も大変なんだな。」
俺とセレーネの憐れむ目がエヴァンに集中した。
「お前達が協力的な理由は分かったからさっさと焼いてしまおう、私も腹ペコなんだ。」
セレーネはそう言うとザブとゴブから枝に刺さった肉を奪い火が当たらないギリギリの位置に枝を刺した。
「所で其方のお嬢さんのお名前は?」
エヴァンがさりげなくセレーネの名前を聞いてきた、話せばもしかしたら姫だと気づかれるかもしれない。
「‥セレーネだ。」
「ッ!セレーネ!なんで名前を教える!」
「こいつらも追われる身だ、わざわざ騎士のもとに行って私の事を話す事もないだろう。」
「確かにそうだが‥‥」
なんだか納得がいかない感じだが、既に言ってしまったのだどうしようもないだろう。
「そうかセレーネって言うのか、短い間だがよろしく!」
此方の会話をまるで意に介さないようにエヴァンは言った、どうやらセレーネの事には気づいていないようだ。
「で、そのセレーネさんと結城ちゃんは山を降りたら何処に向かうんだ?」
セレーネにはさん付けなのに俺に対してはちゃん付けな事に少し‥ほんの少し!イラっと来たが気にしないでおこう。
「私達はガリナに向かうつもりだ。」
ガリナはカタストル領のベルナの城が建っている街だ。
「そうかガリナに向かうのか‥‥、それなら俺たちも付いて行って良いか?」
「何故だ?」
エヴァンの突然の付いていきたい宣言にびっくりしながら俺は訊いた。
「‥‥このまま此処で山賊をやっているよりもお前らに付いて行った方が面白そうだからな。」
「‥‥‥‥本音は?」
「此処にむさ苦しい奴らといるより、美女2人といる方が良さそうだからな。」
「フフッ、そうか‥むさいからか、フッフッフッ。」
エヴァンの飄々とした言動に、セレーネはすっかり警戒を解いてしまった。
明らかに適当に言っているがそれを堂々と言った事をセレーネは気に入ったようだ。
「ふふっ結城、別に良いんじゃないか?」
「セレーネ!もし襲われたらどうするんだ。」
「その時はまた倒せば良いだろう、それに今は少しでも戦力が惜しいからな。」
セレーネは連れて行く気満々だ、此れはどうしようも無いか。
「解った‥‥、お前ら変な行動したらすぐに殺すからな!」
俺は一応脅しとして言ったが、エヴァンもセレーネと一緒になって笑っている、その気は無いだろうが心配になる光景だ。
ポンッ
「「大変っすね」」
「うるせっ。」
両肩に手を置かれた俺は、ひとまずザブとゴブの腹に一撃当てた。
腹を押さえてうずくまる2人を見てセレーネは更に笑い出したが、なんだか納得がいかない‥‥。
そんな俺たちをエヴァンは何故か懐かしむような目で見つめていた。




