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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
第3章
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変化そして慣れ (6)

翌朝、結城は縛られたまま眠っている老人をたたき起こした、文字通りたたき起こしたのだ。


「ブハァ!いきなり何すんじゃ!年寄りは労らんか!」

顔を叩かれた衝撃で、目覚めた老人が叫ぶ。


「人を売っておいてよく言う‥‥、今日は森の外に案内してもらうからな。」


「人に頼む時はもっと礼儀というものがあるじゃろうが!

全くもって正論である。


「朝から騒がしいな‥‥、どうしたんだ?」

どうやら老人の騒ぐ声で目が覚めた様だ、眠そうに目を瞬きながらセレーネが身体を起こした。


「目が覚めちゃったか、騒がしくしてすまんな、こいつを起こしてたんだ。」


「いや、もう日が上がっている気にしないでくれ。」

疲れて眠っていたのか太陽は既に登りきっている。


「朝食を食べたら出発としよう、じいさんお前も食っておけ、道案内の途中で倒れられてはかなわんからな。」

結城は爺さんの身体にロープを巻きつけて近くの木に縛り付けた後に老人を解放した。


「一瞬でも優しいかもしれないと思った儂が馬鹿じゃった‥‥。」

老人は項垂れながらされるままだった。





朝食が済んだ俺たちは支度を整えた。


「‥‥ん?結城、その斧を持っていくのか?」

セレーネが、昨日手に入れた斧を見て言った。

「ん?‥ああ、また何かに襲われた時に素手ではきついからな。」

血塗れたままにするわけにはいかないから、丁寧に血を落とし刃の部分を布で覆ってズボンに吊るしている。


「確かに、昨日も最初の1人から奪っていたからなぁ。」

セレーネが昨日の戦いを思い出したのか、遠い目をする。





「準備も出来たし、じいさん道案内頼むぜ!」

準備を終えた結城が、何も持たない老人の方に顔を向けて言った。

「‥‥森の外まで案内すれば解放してくれるんじゃな?」

老人が心配そうに此方を見ながら言う、昨日の他の仲間達の事を思い出しているのだろう。


「ちゃんと道案内するなら殺しはしない、おかしな素振りを見せれば‥‥分かるな?」

老人は何度も頷きながらも、少し安堵した表情をしていた。

斧を持った女の子に脅される老人の姿は、そばで見ていたセレーネには酷くシュールに映っていただろう。




老人は逃げる素振りも見せずに、ちゃんと森の外に案内をした。

老人が言うには位置はアステル国北部の森の南東の辺りにいる様だ、アステル国の首都でセレーネの両親が捕まっているスティラは南西方向の海の近くであるから、今はかなり遠くにいるらしい。

約束通り老人を解放すると、老人はさっさとどこかへと去っていった。


「セレーネ、今からどうする?両親を助けに行こうにも2人ではすぐに捕まって、首都にすらつけないぞ?」

このままでは常に追われ続けて、いつかは捕まってしまうだろう、結城はセレーネに何かあてがあるか尋ねる。


「‥‥‥‥仕方ない、ここから南の方にいるベルナ・カタストルの元に向かう。」

セレーネが悩んだ末に苦渋の決断をする様に言った。


「そのベルナという奴は信用出来るのか?」

下手に誰かに頼れば前回の砦の時の二の舞だ、事は慎重に運ばなくてはならない。


「‥‥ああ、信用は出来る、カタストル家は他国との際に先陣を切る我が国の最高戦力だ、だが度重なる戦で家督が変わり続けて、今はベルナが家督を継いでいる、奴は私の幼馴染でな裏切られる事はまずない。」

セレーネが言うにはカタストル家は国の戦力の三分の一程の戦力を有し、両親の救出には無くてはならない存在だそうだ、しかし。


「ベルナは私の事が好きなのかしつこく付きまとってくるのだ‥‥、あまりにうざいから頼りにはしたくはなかったがやむをえまい。」


「ベルナって名前的に女っぽいけど男なのか?」

違和感を覚えた結城が訪ねたしかし‥‥。




「‥‥いや、ベルナは女だ、だから私はあまり頼りたくはなかったのだ。」

どうやら面倒な事になりそうだと、結城は頭を押さえてそっとため息をした。

その様だけは見た目通りの女の子らしさが出ていて、セレーネはその事にそっとため息をした。


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