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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
第3章
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変化そして慣れ (5)

盗賊のアジトに戻った結城とセレーネは逃げようとした老人を縛り上げ柱に括り付けた。


「セレーネ、もう夕方だし夕食にしよう、中から何か探してくるね。」

そう言って結城はアジトの中へと入っていった。

しばらくすると中から鍋と包丁と野菜などが入ったずだ袋を抱えて戻って来た。


「ひとまずスープでも作るね。」

そう言って結城は鍋に野菜を刻んで入れ始めた。


「私も手伝おう。」


「それじゃあ‥‥、水を汲んで来て。」


「了解した。」

私は皮袋を持ってさっきの身体を洗った水場に向かった。

先ほど血を洗った後の様には見えないほど水は澄んでいる。

それを皮袋に入れて戻ると既に野菜は鍋の中に全て投入されており、石を積んで竃を作り焚き火の準備さえされていた。


「この量は私達では食べ切れんぞ‥‥。」

鍋の大きさは抱えるほどはありとても2人では食べ切れない量があった。

「その時は明日の朝食にすればいいさ。」

結城はそう楽しそうに言いながら皮袋から水を鍋の中に入れた。


「後は火を点けるだけなんだが‥‥、セレーネは点けられるか?」

困った様にそう言う結城に思わず苦笑しながら私は薪を指差して呪文を唱えた。

「火よ!」

掌から出た小さな火は薪に火を灯した。


「この世界には魔法があるのか!?」

何やら興奮した結城が問いかけて来た。


「ごく一部の者は魔力を持って生まれて、魔法を使う事が出来るが既にほとんどの呪文が失われていて、今では生活で使う様な簡単な魔法しか残ってはいないぞ。」

それを聞いた結城は酷くがっかりした様子でまだ冷たい鍋の中に視線を落としていた。


「俺にも使えるかな?」

此方を見ながら結城が問いかける。


「先ほどの私の様に唱えながら意識を集中してみろ、魔法の反応を見れば分かる。」


「分かった!やってみるよ!」

そう言うと結城は指先を薪に向けながら指が震えるほど力を入れながら唱えた。


「火よ!」

結城の指からは何も出ない、どうやら魔力は無い様だ。


「火よ!」

また結城が唱えるが辺りには鍋の煮える音だけが広がり何も起きない。


「結城は魔力が無い様だな‥‥。」


「何でだぁぁぁぁぁぁぁ!」

辺りに結城の叫ぶ声が広がるがもちろん何の変化も無かった。




程なくして鍋は出来たが俺は落ち込んでいた。

まさか魔法があるとは思わずテンションが上がりに上がったのにもかかわらず、魔力が無いから使えないという現実の所為でテンションが底まで落ちたからだ。


「気にするな結城、魔法が使える奴など1000人に1人いるかいないか位の確率だ。」

鍋が煮えるまでの間に器をアジトから取ってきたのか、鍋の中身を注いだ物を渡して来たセレーネが言った。


「なら何でセレーネは使えるんだよ。」

モヤモヤとした感情を秘めながら聞くと、

「王家の者は代々魔力を持って生まれるのだ。」

結城は現実を突きつけられ、さらに落ち込んだ。



煮えた名前もわからない野菜はほっこりとしていて心と身体を温める。

(夕食がこんなに美味く感じるなんて久しぶりだなぁ。)

そんなことを考えていた時であった。


「では結城、そろそろ話してはくれないか?何故、昨日初めて人を殺した様なお前があそこまでの立ち回りを出来たのか‥‥。」

俺は食べるのを止め器を膝の上に置いた。


「何から話したものかな‥‥‥‥‥、まずはじめに言っておくけど楽しい話じゃ無いよ。」

どうしたものかという様な感じに俺はは話し出した、弱かった頃の自分の事を。


「俺って小さい頃虐められていたんだ、家でも家の外でも‥‥。」



それは結城がまだ小学生の頃だった。

親の転勤で他の県に来た結城は新しい場所に不安を抱きながらも期待に胸を高鳴らせていた。


しかし彼を待っていたのは子供達の純粋な悪意だった。

話し方や価値観の違う人は学校では受け入れられず陰湿なイジメが続いた。

時に持ち物を隠され、時に階段から突き落とされ、時にリンチにあった。


疲れて帰った結城を更に兄弟が攻撃する。

新しい土地に馴染めず友達が出来ない鬱憤を晴らしていたのだろう。

殴る蹴るは当たり前、下僕の様に扱われミスをすれば木刀で殴られた。


結城は親にそれらの事を打ち明けるが、現実は酷いものだった。

「私も何も知らない場所で一から頑張っているの、自分の事は自分で解決しなさい。」

そう言いながらも母は教師には連絡して兄弟は軽く叱った、しかし事態は変わらず、むしろ悪化した。

そしてまた学校でリンチにあう中、いじめっ子は言った。

「1人じゃ何も出来ないんだな。」

笑いながらそう言っていじめっ子は帰っていった。


(俺に力があれば仕返しができるのに‥、心さえ無ければ苦しまなくて済むのに‥‥、1人じゃ何も出来ないだと、それなら1人でも大丈夫な様に強くなってやる!)


それから結城はただ強さを求めた。

虐められても傷つかない様に強く、心が折れない様に強く、誰にも頼らなくても生きていける様に強く。


それから数年、兄弟の攻撃を受け続けた結城は全ての攻撃を躱し、捌き、反撃し、道具を使ってきた際の対処法もマスターした。

更に強さを求めた結城は空手、合気道、太極拳など様々な格闘技を学んだ、兄弟を練習台にして道場でもやっていける強さを身につけた。

リンチなど、とうの昔に受けなくなった結城を既に多人数との戦い方も学んでいた。

しかし1人で生きる強さを求めた結城には仲間は1人もいなかった、本人も必要とは思わなかった。

ただただ生きる強さを求めた結城には強さしか残らなかった。

気が付いた時には、誰からも攻撃を受けなくなっていた。




「これが俺が昨日の様に動ける様になった理由だ、楽しい話じゃ無かっただろう?」

結城は苦笑しながら言った。


「‥‥‥そうだな、楽しい話では無かったな。」

既にスープを食べ終わり、焚き火を挟んで俯いて話を聴いていたセレーネは言った。

「1人で寂しくは無かったのか?」


「寂しいなんて言う弱い自分を俺は許せなかったから、そんなに寂しくは無かったよ。」

結城の言葉を最後に辺りを静寂が包む。


「‥‥‥たくさん食べたら眠くなってきたな、俺は先に寝るな。」

結城はそう言って腕を枕にして横になると目を瞑った。


それを見たセレーネも同じように横になった。

(結城は強さを求めていろんなものを捨ててきたんだな‥‥、私は父上と母上を救う為に何を捨てるのだろう?)

気がつけば2人共深い眠りにつき、辺りには寝息と虫の声だけが響いていた。


そんな2人に降り注ぐ月明かりだけが、この時、結城がまた男の姿に戻っていた事を知っていた。




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