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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
第3章
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変化そして慣れ (1)


走り続けて疲れた体が悲鳴をあげている。

足取りは重く、息は荒い、汗でへばり付く髪も今は気にならなかった。


(此処まで来れば追ってももう来ないだろう‥‥。)

止まって息を整えた俺は、肩越しに背中のセレーネを見るとスー、スー、と耳元で寝息を立てており、少しこそばゆく感じた。


「セレーネ!、おいセレーネ!」

身体を揺らしながら声をかけるが起きる様子は無い。


(仕方ない、ひとまず此処で休むか‥‥‥。)


ゆっくりとセレーネを近くの木に背中を当てて座らせて、その隣の木に同じように背を当てながら座った。

癖で空を見上げると、木の隙間からまた月が覗いている。


(今は綺麗な月よりも今は飲み物が欲しいな‥‥、走り過ぎて足もパンパンだし喉もカラカラだ‥‥、一休みしたら飲み水を探しに行こう‥‥。)


そう思いながら目をつぶると、考えに反して意識は一気に深く沈んでいった。





sideセレーネ


温かい‥‥。

身体に伝わる揺れが沈んでいた思考を浅いところまで引き上げる。


(誰かに‥‥背負われている?)


身体に伝わる温もりと歩いているのだろうか、ユサユサと揺れる感覚が心地よい‥‥。


「〜〜!〜〜〜!」

何か言っているようだが、今はこの心地いい世界に包まれていたい、目が覚めたらちゃんと話をしよう。


そんな事をぼんやり考えていると、ふわりと身体を抱えられ地面に座らせられる、背中やお尻から冷たさが身体を蝕んでいく感覚が嫌で身体をよじるが、既に温かい感触は無く諦めて動きを止めた。


辺りは静かで風に揺れる木の葉の音しか聞こえない、しかし寒さで目の覚めて来た私は眠れず、ゆっくりと目を開けると辺りは木々に囲まれポツポツと月明かりが所々に落ちている。


(確か私は堀に飛び込んだのだったな、追ってがいないところを見るとどうやら逃げ切れたらしいな、しかしさっきまで眠っていた私を背負っていたのは結城だったか、借りを作ってしまったな‥‥。)


そんな事を考えながら周りを見渡すと、近くに月明かりが差し込む中で、結城が同じ様に木に背を当てながら眠っている様に見えた。


見えた、と思ったのはそこには結城が着ていた服と同じものを身に纏った結城に似た顔の男がいたからだ。


疲れているのかと思い何度目を擦って見ても同じ結果であった。


(顔が似ていることから全くの他人ということは無いだろう、ならばこいつは一体誰だ?)


「おいっ、起きろ!」

身体を強く揺すりながら声をかけてみた、幸い腰には剣がある抵抗するなら消せばいい。

幾度か繰り返すうちにようやく男は目を覚ました。


「‥‥セレーネ、起きたのか‥‥、あの後お前気絶してしまったから此処まで背負って来たんだよ‥‥。」

男は眠そうに眼を擦りながらそう言った。


「‥‥お前、結城か?」


「‥?何言ってんだ、他に誰がいる。」

眠そうにしながら不思議そうに男が言った。


どうやらこの男は結城であるらしい、つまり女だった結城が男になってしまったようだ、驚きながら以前結城が言っていた事を思い出したから訊いてみた。

「驚いたな、お前は確か前は男だったと言っていたな。」


「そうだが、それがどうかしたのか?」


「自分の身体を見てみろ、元に戻っているぞ。」


それを聞いた結城は自分の胸にゆっくりと手をやった。

「‥‥無い!」

そして慌てながら今度は股間に手をやった。

「‥‥!、ある!!」

そう言いながら嬉しそうに自分の全身を触り始めた。


その姿は酷く可笑しなものだったが、表情は喜びに満ち溢れたものであった。

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