生きる覚悟 殺す覚悟 (5)
「小娘1人にどれだけ時間を‥かけて‥‥いる‥‥。」
入り口に向かうと外で待っていたと思われる騎士が中に入って来た。
俺の姿と部屋の奥に倒れている仲間を見て、現状に気づいたようだ。
「そこをっ、どけー!」
そう言いながら俺によって振るわれた剣は、燭台を持っているのもあり剣を抜くのが遅れた騎士をあっさり切り捨てた。
悲鳴もなく倒れた騎士の手から落ちた燭台は直ぐに床を燃やし始め、辺りに煙の匂いが広がってゆく。
(人を殺したとか考えている場合じゃないな、セレーナを見つけたら火事に紛れながら急いで此処を脱出しよう。)
部屋を出て向かいの部屋に入ると既にセレーネが騎士を殺した後であった。
「セレーネ無事か!?」
「こちらは問題無い、眠っていると油断していたようだったから不意をついてな‥‥‥、お前こそ血塗れだが無事なのか?」
「返り血だ、怪我は無いよ、それよりタリス公が裏切った!直ぐに脱出しよう!」
「その必要は無い、お前らに逃げ場はもう無いぞ!」
振り向けば何時ぞやに俺が吹き飛ばした騎士が、前も後ろもへこんだ鎧をつけたまま入り口に立っており、その後ろから他の騎士がぞろぞろと部屋の中に入って来ていた。
「いくらお強い姫様やそこの化け物女でもこの人数には勝てまい!姫様、そろそろ諦めてはどうです?」
「断る!私は父上達を救うと決めたのだ、こんな所で諦めるわけにはいかない!」
「そうですか仕方ないですね、お前達姫様を捕縛しろ!そこの化け物は殺しても構わん。」
それを聞いた騎士達は部屋の中を此方へとゆっくり距離を縮め始めた。
なす術もなく部屋の半分まで奴らに追い詰められた時だった。
「隊長!向かいの部屋から火が出てます!既に燃え広がって消し止められません!」
その報告を聞いて騎士達が逃げ遅れる可能性から不安が広がった瞬間だった。
部屋の中が少し明るくなった。
明かりが差し込んだ方を見るとバルコニーから月明かりが部屋の中を照らしていた。
一連の騒ぎの中で曇っていた空が晴れたようだ。
「セレーネ、こっちだ!」
一瞬の隙をついてセレーネを連れて導かれるようにバルコニーに出た。
「馬鹿め!其方は行き止まりだ!」
そんな声を聞きながらバルコニーの下を見ると砦の周りを囲む堀と水面に映る月が見えた。
「結城お前、此処から飛び降りるつもりか!?それは流石に‥無茶‥‥だ?」
セレーネはそう言いながらこちらを見ると何故か放心して固まってしまった。
「それでもやらなきゃ捕まるだけだ!飛ぶぞ!」
そう言って固まっているセレーネを引き寄せて、俺は堀の中に飛び降りた。
「しまった!お前ら直ぐに追いかけろ!」
そんな声を聞きながら着水した俺は急いでセレーネを担いだまま堀から抜け出した。
セレーネはどうやら着水の衝撃で気絶してしまったようだった。
俺はバルコニーから聞こえる騎士の罵詈雑言を聞きながら、セレーネを背負って近くの森の中へと駆け出して行った。
どの位森の中を走っただろうか、既に砦から登る煙も見えなくなり、辺りには深夜の闇と所々に木の隙間から落ちる月の光だけが広がっていた。




